木走日記

場末の時事評論

史上空前のインバウンドツーリズムについてその実態を検証する〜過度の中国依存は危険だ、日本の観光業に警鐘を鳴らしておく

 今回は外国人の訪日旅行、インバウンドツーリズム【inbound tourism】について取り上げたいと思います。

 最近は東京の街を歩いていますと、外国人観光客の姿が非常に多いわけです、当ブログがよく行く池袋など、場所によってはここはどこの国かと思えるぐらい外国人観光客の数が目につくわけです。

 政府も鼻息が荒いようです。

 9日付け読売新聞記事から。

来日客、さらに増加へ首相「思い切った知恵を」
2015年11月09日 12時14分

 政府は9日、訪日外国人観光客をさらに増やすための戦略を考える「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」(議長・安倍首相)の初会合を開いた。


 中国などからの観光客が急増する中、年間の訪日客数の新たな目標について、「年3000万人超にするべきだ」といった声が相次ぎ、今年度中に数値目標を含めた新構想をまとめることになった。

 会合には、菅官房長官や石井国土交通相ら関係閣僚のほか、JR九州の唐池恒二会長、石川県の老舗旅館「加賀屋」女将おかみの小田真弓さんら有識者も参加した。

 今年の訪日客数は、「2020年までに2000万人」としている政府目標に迫る勢いだ。有識者からは、「今後10年の目標として訪日客を年3700万人にするべきだ」との意見も出た。政府はこれまで、30年の目標として「年3000万人」を掲げてきたが、前倒しや上積みを検討する。

 安倍首相は会合で「年間2000万人は通過点。思い切った知恵を出してもらいたい」と指示した。

http://www.yomiuri.co.jp/economy/20151109-OYT1T50024.html

 「2020年までに2000万人」、「2030年までに3000万人」の政府目標が早くも今年2015年で2000万人に届かんとする年間の訪日客数なのであります。

 日本政府観光局の公式サイトでは、毎月の訪日外客数の速報値が発表されていますが、直近の2015年9月の訪日外客数は161万2300人(推計値)と、九月としては過去最高の人数を記録しました。


http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/151021_monthly.pdf

 今年の1−9月までの累計で1448万7633人と、昨年一年間の1341万3567人をすでに9ヶ月で上回っています。

 このペースでいけば、今年の年間訪日外客数は2000万人に届かんとする勢いであります。

 日本政府観光局の公式資料で過去5年間の訪日外客数の月別推移の数字を押さえておきましょう。

■表1:訪日外客数月別推移(2011/1-2015/9)

年月 人数
2011/1 714,999
2011/2 679,398
2011/3 352,666
2011/4 295,826
2011/5 357,783
2011/6 432,883
2011/7 561,489
2011/8 546,503
2011/9 538,727
2011/10 615,701
2011/11 551,900
2011/12 572,300
2012/1 684,819
2012/2 547,948
2012/3 678,748
2012/4 781,501
2012/5 669,061
2012/6 683,096
2012/7 846,967
2012/8 774,014
2012/9 658,011
2012/10 705,641
2012/11 648,600
2012/12 689,700
2013/1 668,610
2013/2 729,460
2013/3 857,024
2013/4 923,017
2013/5 875,408
2013/6 901,066
2013/7 1,003,032
2013/8 906,379
2013/9 866,966
2013/10 928,560
2013/11 839,800
2013/12 864,600
2014/1 944,009
2014/2 880,020
2014/3 1,050,559
2014/4 1,231,471
2014/5 1,097,211
2014/6 1,055,273
2014/7 1,270,048
2014/8 1,109,569
2014/9 1,099,102
2014/10 1,271,705
2014/11 1,168,500
2014/12 1,236,100
2015/1 1,218,393
2015/2 1,386,982
2015/3 1,525,879
2015/4 1,764,691
2015/5 1,641,734
2015/6 1,602,198
2015/7 1,918,356
2015/8 1,817,100
2015/9 1,612,300

※情報ソース 日本政府観光局 発表資料
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/index.html

 グラフにすればここ5年間でほぼ右肩上がりに訪日外客数が増えているわけですが、初めて月別で100万人を超えたのが、2013年7月の1,003,032人でしたのが、今年の3月以降は常に150万人を越えています。

 五年間の推移を年別でまとめてみます。

■表2:訪日外客数年別推移(2011(平成23)-2015(平成27))

年月 人数
2011 6,220,175
2012 8,368,106
2013 10,363,922
2014 13,413,567
2015 14,487,633


※情報ソース 日本政府観光局 発表資料
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/index.html

 うむ、2011年の622万人から、今年は2000万人(推計値)と、わずか5年間で3倍以上の伸びを示しています。

 驚異的な伸びと言ってよろしいでしょう。

 要因は日本政府と自治体の積極的な取り組みやアベノミクスに伴う円安傾向の定着など色々挙げられますが、やはり経済発展を遂げた中国本土を中心とした中華系訪日外客数が驚異的に伸びていることも大きな一因でありましょう。

 直近の2015年9月の訪日外客数161万2300人(推計値)の、国別内訳を押さえておきましょう。

■表3:訪日外客数国別人数(2015(平成27)年9月)

年月 人数
中国 491,200
台湾 302,900
韓国 301,700
香港 115,200
米国 76,300
豪州 34,700
タイ 34,400
英国 22,700
マレーシア 21,300
シンガポール 18,700
カナダ 17,700
フィリピン 15,800
ベトナム 15,600
フランス 15,300
ドイツ 14,500
インドネシア 12,900
インド 9,100
イタリア 8,400
スペイン 7,600
ロシア 4,200
その他 72,100

※情報ソース 日本政府観光局 発表資料
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/151021_monthly.pdf

 グラフで確認すれば一目瞭然ですが、中国本土(49万1200人30%)、台湾(30万2900人19%)、香港(11万5200人7%)と、2015年9月の訪日外客数161万2300人(推計値)の六割近く(90万9300人56%)が中国本土を中心とした中華系が占めているわけです。

 中でも中国本土からは対前年度実績で246,105人から491,200人へと、99.6%増、この一年で倍増しているわけです。

 では中国本土からの訪日外客数は日本のどの地域に宿泊しているのでしょうか、日本政府観光局の資料から押さえておきましょう。

※情報ソース 日本政府観光局 発表資料
https://www.jnto.go.jp/jpn/reference/tourism_data/jnto_databook_2015.pdf

 ご覧のとおり、東京など関東圏に45.1%、大阪などの関西圏に24.8%とに大都市圏にその七割が集中していることがわかります。

 ・・・

 まとめです。

 さて史上初めて年間来訪者が2000万人に届かんとする外国人の訪日旅行、インバウンドツーリズム【inbound tourism】についてでありますが、いま検証したとおり、その実態は多くの偏りをもたらしていることがわかります。

 日本政府観光局のデータによれば対象20各国中18カ国からの来訪者が過去最高を記録していますので、別に中華圏からの来訪者だけが伸びているわけではありませんが、中華圏の伸び率は突出しております。

 まず来訪者の極端な偏りです、その6割近くが中華系であり特に昨年から中国本土からの来訪者が倍増しています。

 さらに、その中国本土からの来訪者の宿泊先が東京県と関西圏にその七割が集中しているのです。

 これら中国人観光客のいわゆる”爆買”効果により、首都圏・関西県のデパートは特需で潤っているわけです。

 九日付NHKニュースから

大手デパート2社 業績予想を上方修正
11月9日 21時31分

大手デパートの「三越伊勢丹ホールディングス」と「エイチ・ツー・オーリテイリング」のことし9月の中間決算は、外国人旅行者向けの販売が好調で、両社ともに営業利益が過去最高となり、今年度1年間の業績予想も上向きに修正しました。
3月を決算期としている大手デパートのうち、「三越伊勢丹ホールディングス」が9日発表した9月までの中間決算では、グループ全体の売り上げが6138億円と去年の同じ時期を5%上回りました。また、本業のもうけを示す営業利益は48%増えて144億円と、中間決算としては過去最高となりました。また、すでに中間決算を発表した、阪急阪神百貨店を傘下に持つ「エイチ・ツー・オーリテイリング」は、売り上げが26%増えて4414億円、営業利益も29%増えて75億円となり、売り上げと営業利益ともに過去最高でした。
これは、外国人旅行者向けの販売が好調だったほか、腕時計や美術品など高額商品の売り上げも伸びたことが主な要因です。
このため、両社は、来年3月まで1年間の業績予想について、売り上げと営業利益の見通しを上向きに修正しました。会見で「三越伊勢丹ホールディングス」の大西洋社長は「業績は伸びているが、国内のいわゆる中間層の消費は落ちこんでいると感じており、特に婦人服の販売減少を抑える対策をとりたい」と述べました。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151109/k10010299671000.html

 中華系観光客の特需が都市部に集中しており地方に還流できていないことは問題です。

 よりシビアな問題としては、これほど中華系の観光客に偏りを見せていること自体、これを前提に特需に浮かれることは中国人観光客に依存体質になっていしまうという点で、我が国の観光業にはひとつの将来におけるリスク要因となることでしょう。

 中国経済に過度に依存する産業は、これから将来中国経済の動向に振り回されることになりかねません。

 何らかの理由で中国経済が変調になれば中国人観光客は激減することでしょう。

 過度の中国依存は危険です。

 それは現在の韓国経済の低迷をみれば明らかです。

 当ブログとしては日本の観光業に警鐘を鳴らしておきたいと考えます。



(木走まさみず)