木走日記

場末の時事評論

どうにもパスポートに対して力の入れ方が間違っている中国政府

●中国新版パスポートで領土主張が新たな火種に

 パスポートに掲載された中国地図が近隣諸国と領有権の問題がある領土・領海がことごとく中国領土と記されていることが判明、ベトナム、フィリピン、台湾、インドらが猛抗議していることを報じているレコードチャイナ記事をふたつ。

新版パスポートで領土主張、中国のやり口にベトナム、フィリピン、台湾が抗議―中国紙
配信日時:2012年11月24日 12時25分

2012年11月23日、環球時報によると、中国の新版パスポート問題が波紋を呼んでいる。

今年5月、中国は新版パスポートを導入したが、フィナンシャル・タイムズの報道により思わぬ問題を抱えていることが明らかになった。パスポートに掲載された中国地図には南シナ海に中国側の主張に沿った領海線を描いており、フィリピンやベトナムなど周辺国が領有権を主張する海域をも中国領海として明示している。ベトナムは水面下で訂正を求めて交渉を続けていたが、報道を受けてフィリピン政府も抗議に加わった。

さらに問題は台湾にまで飛び火した。パスポートには天安門万里の長城など有名観光地の図案が掲載されているが、その中に台湾の日月潭、清水断崖も描かれている。中国関連業務を統括する台湾行政院大陸委員会は、中華民国の存在という客観的事実を無視する行為だと抗議。一方的な現状変更と受け取られるような行為はやめるべきであり、ようやく手にした中台関係改善という成果を後退させる結果にもなりかねないと警告した。(翻訳・編集/KT)

http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=66769

<続報>新版パスポート問題が拡大=インドは特殊ビザで対抗か―中国メディア
配信日時:2012年11月25日 10時33分

2012年11月、中国の新版パスポートが自国の領有権主張に沿った地図を掲載している問題が拡大している。

今年5月、中国はパスポートを改定。ICタグを採用した新版パスポートを導入した。しかしパスポートに掲載されていた地図が南シナ海のほぼ全域を中国の領海として表示していることが判明、ベトナムがひそかに改善を申し入れていた。この事実が報じられ、フィリピンも抗議するなど、騒ぎは拡大している。

23日、環球網はインドも抗議の列に加わったと報じた。パスポート掲載の地図には中印の係争地が中国領土として明示されている。インドは対抗処置として中国人向けに「特殊ビザ」を作成したという。ビザにはインド側の主張による国境線が明示されたインド地図が掲載されている。

また23日付北京青年報によると、ネットにはベトナム当局が新版パスポート所持者に対して入国ビザ発行を拒んだケースがあるとの情報が書き込まれた。交渉の末、ベトナム当局はビザを発行したが、パスポートにビザを貼ることを拒否。別紙にビザを貼ることで「新版パスポートを認めていない」との意思表示をしている。(翻訳・編集/KT)

http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=66799&type=

 うーん、パスポートで領土拡張ですか、中国政府がやりそうなことといえばそれまでですが、どうして国際的に顰蹙(ひんしゅく)を買うことが解かっているのにこのような低レベルの騒動を巻き起こすのでしょうか、領土問題解決には何も足しになりませんどころか、相手国の心象を単に害しているだけなのに、理解できません。




●南米エクアドルの失敗を思い出す

 中国政府が本当に力を入れるべきなのは新しいパスポートの中国国土を広げて描くなどの上っ面なことではないでしょう。

 そうではなく中国および中国人民の国際的信用を高め各国からの中国への信任を厚くし中国のパスポートの利便性を高めるべく努力することでしょう。

 10月5日付けレコードチャイナ記事から。

台湾住民は米入国ビザ免除、「差がありすぎる!」と嘆く中国本土のユーザーたち―台湾メディア
配信日時:2012年10月5日 16時35分

2012年10月2日、台湾住民を米国査証(ビザ)免除プログラムの対象に加えるとした米政府の発表に対し、中国本土のネットユーザーからは嫉妬や嘆きの声が噴出しているという。台湾の中央通訊社(CNA)が伝えた。

ナポリターノ米国土安全保障長官は2日、米国の査証免除プログラムに台湾を加えるとの声明を出した。11月1日より、中華民国のパスポートを所持している者に対し、90日以内の滞在ならばビザなしで米国への入国が可能となる。この報道を知った中国本土のあるネットユーザーが、マイクロブログの微博(ウエイボー)上に複雑な心情を書き込んだ。

「世界で最も遠く離れた距離とは、中国と台湾。深紅のパスポートを持った我々はビザを取るのに苦労するが、濃い緑のパスポートを持ったあなたたちは世界120カ国以上の国に簡単に行ける。世界で最も遠く離れた距離とは、同じ言葉を話すのに違う表情を持ち、違った感情を持ち、違った運命を持つこと」。

この書き込みは瞬く間に1万3000回以上転載され、コメントも殺到している。「いいじゃん。私も中華民国が好きだし」「なんてこった。台湾はノービザで米国に行けるんだ!移民したい!」というものや、「世界で最も遠く離れた距離は、1949年に島に行く船に乗った人と、解放を祝いに行ったがためにその船の乗船券をもらい損ねた人の差だよ」というものも。

あるユーザーは「中国のパスポートは世界で最もくず同然のパスポート。ノービザで行ける国はわずか20カ国足らず。しかもビジネスや観光、親戚訪問にふさわしい国ではなく、探検にふさわしい国ばかり。コレラがなかったら戦争があるというような国ばかりなんだ」と嘆いている。(翻訳・編集/本郷)

http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=65212

 新たに台湾が米入国ビザ免除されたことに「深紅のパスポートを持った我々はビザを取るのに苦労するが、濃い緑のパスポートを持ったあなたたちは世界120カ国以上の国に簡単に行ける」(中国人ネットユーザー)と嘆いているのであります。

 うむ、記事の結びの「中国のパスポートは世界で最もくず同然のパスポート。ノービザで行ける国はわずか20カ国足らず。しかもビジネスや観光、親戚訪問にふさわしい国ではなく、探検にふさわしい国ばかり。コレラがなかったら戦争があるというような国ばかりなんだ」(中国人ネットユーザー)の発言がすべてであります。

 中国人がノービザで行ける国が、アフリカ諸国に多いことを嘆いているわけです。

 ちなみに、2011年11月現在、日本のパスポートを所持した日本国民は、アメリカも含めて世界182地域(内、ビザ免除の国は149)の国と地域にビザなしもしくは到着時のビザ取得(アライバルビザ)で入国することが可能であります。

 南米エクアドルの失敗を思い出します。

 4年前、エクアドルは国を問わず観光ビザを免除する制度を開始したところ、米国への密航目的などで入国してくる中国人が急増、慌てて中国人のみ入国制限施策を実施したのでした。

◆中国人の入国を制限、密航目的の入国者急増で―エクアドル

 2008年12月12日、英BBCテレビの報道によると、エクアドル共和国政府が今年6月から観光ビザを免除する制度を開始したところ、米国への密航目的などで入国してくる中国人が急増。このため同国ではこのほど中国人の入国制限施策を実施したという。人民網が伝えた。 

 同国政府は今年6月20日から全ての入国者を対象に観光ビザを免除する制度を実施。当日だけで40〜50人の中国人が入国したという。制度実施以前の中国人の入国者数は毎月20人程度だったが、実施後は毎日20〜50人まで増加、6〜11月までの入国者は1万1000人に膨れ上がった。入国者の急増に対し、同国警察当局が「違法に米国やカナダへ渡る目的での入国」との疑いを強め捜査に着手したところ、数件の密航事件を摘発した。 

 また、同国移民事務室でも「エクアドルを経由して他国へ密航するための入国」との見方をしており、12月1日から「中国人の観光ビザ免除はエクアドル政府が認めた旅行業者のパック旅行のみに適用」としたところ、これまでのところ利用がないだけでなく、個人の入国も10日あまりでわずか3人にまで激減した。 

 現在同国政府では、11月までに入国してまだ国内に滞在している中国人約7000人の動向に注目しているという。

http://www.recordchina.co.jp/group/g26694.html

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 パスポートの地図で領土拡大するよりも、国民の民度を高め国家としての信用力を国際的に得るように努力すべきです、そして中国パスポートの価値を高めるよう努力すべきです。

 どうにもパスポートに対して力の入れ方が間違っている中国政府なのでありました。

 やれやれ、国の指導層がこのような発想しか持ち合わせていない、こういう国と付き合っていくのは本当にやっかいなことだとあらためて考えさせられました。



(木走まさみず)