木走日記

場末の時事評論

国民の命を軽んじ下らない閉鎖主義を貫き国際救助隊を拒んだ中国政府の重罪

kibashiri2008-05-16




四川大地震の死者、5万人超える…中国政府推計

 一昨日(14日)の読売新聞紙面記事の写真より。

【写真】小学校が倒壊し、生き埋めとなっている児童の手を取る救急隊員(13日、四川省綿竹市で)=新華社・AP (2008年5月14日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/graph/chinashisen/36.htm

 小学校倒壊現場にて、おそらく生き埋めとなっている児童の手を取り話しかけて児童を励ましているのでしょう、救急隊員の姿を写したこの写真はなんとも痛ましく、衝撃的でありました。

 その後のこの児童の安否が気遣われますが、今回の中国大地震、多くの公共機関の建物、中でも病院や学校の倒壊による生き埋めが何万人という単位で多数発生したのが特徴のようです。

 地震発生時刻が午後2時過ぎで多くの学校で授業中であったこと、中国の公共機関の建物がろくに耐震設計がなされていなかったこと、いくつかの要因が重なった結果なのでしょうが、それにしても数万という生き埋め人数の異常さはどうでしょう。

 今日(16日)の読売新聞記事によれば、中国政府は今回の大地震のによる死者数は5万人を超えると推計したそうです。

四川大地震の死者、5万人超える…中国政府推計

甚大な被害を受けた震源地の四川省ブン川(14日、新華社・AP) 【北京=佐伯聡士】中国四川省当局者は15日、四川大地震の死者が省内だけで1万9500人を超え、負傷者が約10万2100人に達したことを明らかにした。

 甘粛省陝西省などを含めれば、死者は2万人に迫っており、国営新華社通信は同日、政府の地震対策本部の話として、死者が推計で5万人以上に上ると伝えた。

 政府は軍・武装警察など13万人余りを被災地に投入し、救援活動を加速しているが、確認されただけで約1万2300人が生き埋めになっている。

 新華社電によると、被災した四川省の6市・自治州のうち、被害が深刻な58の町に軍と武装警察が同日夜までに入り、救助活動を展開したほか、伝染病予防の専門家を含む医療チームも被災地に入った。救援に当たるヘリと輸送機は300回近い出動を行った。

 また、震源地のアバチベット族・チャン族自治州ブン川(せん)県(人口11万人)にも15日、救援部隊がヘリなどで続々と入り始めた。大きな被害が出た綿陽市の北川チャン族自治県では絶望とみられていた600人が救出された。(ブンはサンズイに「文」)

 四川省政府によると、15日午後までに、建物のがれきの下に埋まっていた約1万3400人が救出されたという。だが、成都市に属する彭州市で同日、新たに3000人が行方不明と伝えられるなど、連絡がつかない町や村の状況は不明だ。

 一方、地震の影響で、震源地に近い都江堰市のダムなど複数のダムで決壊の恐れが出ているという。

(2008年5月16日00時00分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20080515-OYT1T00623.htm?from=main1

 なんという悲惨な数字が並んでいることでしょう、四川省政府によれば「建物のがれきの下に埋まっていた約1万3400人が救出された」とのことですが、「確認されただけで約1万2300人が生き埋めになっている」ほか、彭州市で「新たに3000人が行方不明と伝えられるなど、連絡がつかない町や村の状況は不明」なのだそうであります。



●災害救助の世界では常識になっている命のデッドライン「72時間」

 救援活動は時間との戦いでもあります。

 地震発生から今日(16日)で5日目、96時間を迎えています。

 残念ながら命の期限とされている「72時間」を超えると生存率は急激に下がるのであります。

 消防庁研究センターによると、阪神大震災の際は、地震発生初日は生き埋めとなっていた人の生存救出率は80%を超え、2日目は28.5%、3日目も21.8%でありますが、4日目は5.9%と「72時間」を超えると、生存率は急激に下がるのであります。

 災害救助の世界では常識になっている命のデッドライン「72時間」をとうに過ぎてしまっているわけで、もはや一刻の猶予も許さない状況なのであります。

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 日本レスキュー協会地震発生直後から、救助犬や隊員の派遣を予定していましたが、残念ながら中国政府は被災現地の交通寸断などを理由に断り続け、すべての外国救助隊の渡航許可はおりず、72時間以内の外国救助隊の現地入りはひとつも実現せず不可能になってしまいました。

 まったくもって残念なことであります。

 東京消防庁ハイパーレスキュー隊員や海上保安庁の特殊救難隊員などは、世界に誇るレベルの救助スキルを要しており、がれきの下で被災者を捜すファイバースコープなどの最新機材を擁し、必ずや被災者救出の役にたっていたことでしょう。

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●人命・被災国民の命を軽んじ、下らない閉鎖主義を貫き、国際救助隊の受け入れを拒否してきた、民政省を中心とした中国政府の愚策振り

 今日(16日)の産経新聞電子版速報記事から。

日本の緊急援助隊、被災地に1番乗り
2008.5.16 08:13

四川省成都に到着した国際緊急援助隊=16日未明(共同) 中国・四川大地震で、被災地に向かった日本政府の国際緊急援助隊第1陣31人が16日未明、四川省成都の空港に到着した。被害が深刻な同省の青川県関荘鎮で救出活動を行う。今回の地震で中国が受け入れる外国の援助隊の第1号となる。

 中国の通信社、中国新聞社によると、日本政府の隊が中国で救助活動に当たるのも初めて。中国側も援助隊に期待感を示しており、日中関係の改善が進む中で、活動が注目される。

 中国外務省当局者によると、援助隊が向かう青川県は人口約25万人のうち、少なくとも1500人が死亡、1万人が負傷した。

 援助隊は総勢約60人。東京消防庁ハイパーレスキュー隊員や警視庁機動隊員、海上保安庁の特殊救難隊員らで構成。警察犬3匹のほか、がれきの下で被災者を捜すファイバースコープなどの機材を使い救助活動に当たる。(共同)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/disaster/080516/dst0805160816001-n1.htm

 なにが「1番乗り」なのか・・・

 遅きに失するとはまさにこのことでしょうが、「今回の地震で中国が受け入れる外国の援助隊の第1号」としてようやく日本政府の国際緊急援助隊第1陣31人が中国入りしたそうであります。

 中国政府の愚かな閉鎖主義により96時間という絶望的な「72時間」の壁を経過してしまっているわけですが、残された時間はわずかであります、日本の緊急援助隊には全力を尽くし一人でも多くの生存者の救出に当たってほしいと心より願います。

 しかし、それにしてもこの中国政府の閉鎖主義と災害対応処理能力の無能さは、刻一刻と幼い無垢の命らが建物の下で失われつつあることをおもうと、怒りすらこみ上げてきます。

 なぜ地震直後に世界各国から名乗り出た精鋭の救助隊の受け入れを認めなかったのか。

 今回の地震の被災規模から見てたとえ国際救助隊を受け入れていたとしても救われた命は限定的であったことでしょうが、それでも少なからずの命が助かったであろう可能性は大きいのです。

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 あきれたことに、中国政府がこの段階で日本にだけ救助隊受け入れを表明したのは、たぶんに政治的決断だというのです。

 今日(16日)の産経新聞紙面記事から。

国際救助隊受け入れ対日重視の姿勢表れ 四川大地震
2008.5.15 20:59

中国・四川省の被災地へ向け出発する国際緊急援助隊員ら=15日午後、成田空港 【北京=伊藤正】中国政府が四川大地震救援で日本の国際緊急援助隊を受け入れたことについて、中国外務省の秦剛報道官は15日午後の記者会見で「わが国が非常な困難にあるとき、日本政府と国民が力強い支援を与えてくれることに感激し、感謝する」と述べた。中国が外国の災害救援隊を受け入れるのは初めてで、救助活動への助力以上に対日関係や国際協調を重視した決定とみられている。

 中国は日本などからの救助隊派遣申し入れについて被災現地の交通寸断などを理由に断り物資、金銭の支援のみ受け入れてきた。今回の決定は震災から3日以上たち、なお2万人以上が生き埋めのままで国民の批判も出ている事態を指導部が憂慮した結果といえる。

 中国指導部は14日夜、地震発生後、2度目の政治局常務委員会を招集、人命救助に全力を挙げる決定をした。外交筋は日本の援助隊受け入れは、この会議で承認されたとみている。

 同筋によると、救助隊受け入れには中国外務省は積極的だったが、民政省が難色を示していた。この問題で14日、主管が外務省に移り、胡錦濤国家主席の訪日で対日関係に改善の兆しが出ているときに、日本の積極的な支援を断るのは得策でないとされたようだ。

 救助隊派遣は欧米からも申し出があったが、当面、日本の申し出にだけ応じることになった。それについて秦剛報道官は「日本が近隣で(到着が)早いことを考慮した」と述べる一方、他の国からの派遣申し入れにも各種の状況に基づき検討すると表明した。

 実際に日本の救助隊が現地入りするのは16日になるため、人命救助に貢献できる可能性は極めて小さいが、国際協力の象徴になるのは間違いない。

 中国は今春来、チベット問題や五輪聖火リレーのトラブルなどで、国際社会との摩擦をひき起こす一方、国内では偏狭な民族主義が台頭、胡錦濤政権の国際協調路線だけでなく、8月の北京五輪の円満な開催にも陰が差していた。

 外交筋によると、先の胡主席の訪日は、国際協調路線を内外に示す狙いがあったとされる。大地震への国際的な支援の広がりは国際協調路線をアピールする絶好のチャンスであり、再びその先陣役を担う日本には、被災者救助を超えた期待が寄せられている。

http://sankei.jp.msn.com/world/china/080515/chn0805152106013-n1.htm

 救助隊受け入れに民政省が難色を示していたが、ここにきて外務省が「胡錦濤国家主席の訪日で対日関係に改善の兆しが出ているときに、日本の積極的な支援を断るのは得策でない」と判断したのだそうです。

 貴重な「72時間」を無駄に見過ごし多くの犠牲者を出してしまった後に、儀礼的に日本だけ受け入れるとは、これが「対日重視の姿勢」を示すことが得策とは、なんという愚かな「政治的判断」なのでしょう。

 ここまで人命・被災国民の命を軽んじ、下らない閉鎖主義を貫き、国際救助隊の受け入れを拒否してきた、民政省を中心とした中国政府の愚策振りはどうでしょう。

 この重罪は断固糾弾されるべきでしょう。



(木走まさみず)