木走日記

場末の時事評論

昨日の産経新聞の紙面構成をメディアリテラシーしてみる〜複数の記事を組み合わせて並べることにより、読者をある考え方に誘導しようとする試み

●中国人団体観光のビザ発給拡大、瀋陽・大連でも…外務省〜読売新聞記事から。

 今日(22日)の読売新聞紙面記事から。

中国人団体観光のビザ発給拡大、瀋陽・大連でも…外務省

 外務省は31日から、中国人への団体観光査証(ビザ)の発給を、瀋陽総領事館と大連の駐在官事務所でも始める。

 日中間の人的交流促進のためで、北京の大使館と広州、上海、重慶総領事館と合わせ、発給場所が中国全土に広がったことになる。

 中国からの団体観光旅行(一団体5〜40人程度)は、2000年から北京、上海両市、広東省の住民を対象に始まった。05年からは中国全土に対象が拡大し、外務省は15日以内の短期滞在ビザを発給している。

 中国向けのビザ発給件数は、団体観光旅行の拡大などで増え続けている。04年まで国・地域別の発給件数で1、2位だった韓国と台湾に対し、05年3月に短期滞在ビザが免除されたことで、同年には中国がトップになった。06年も約51万2000件と前年より約10万件増え、過去最多だった。

(2007年5月21日20時15分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070521i212.htm?from=main2

 いよいよ今月の31日から中国人への団体観光査証(ビザ)の発給を「日中間の人的交流促進のため」に、発給場所を中国全土に拡大することを決めた外務省なのであります。

 「日中間の人的交流促進のため」に、中国人への団体観光査証(ビザ)の発給を中国全土に拡大したですか、いや、おおいにけっこう。

 急速な経済発展を遂げた中国にも沿岸部を中心に富裕層というか成金層というか、豪邸を建て運転手付きベンツを乗り回し海外豪遊しまくっている階級が誕生しており、もはや日本以上に資本主義国になっちゃった共産国家(苦笑)中国の所得格差の深刻さはしゃれにならないのでありますが、それはおいといて、そのようなお金持ち中国人が日本に来ていっぱいお金を落としてもらうことは、おおいにけっこうなことであります。

 ただ、中国全土となると、警戒すべきはこのビザを悪用した不法残留者の増大でありますね。

 まだまだ経済的に発展していない地域の人々にとって日本は「観光地」というよりも「お金稼ぎ」の場所ととらえられているのであります。

 このことをとっても懸念しているメディアも日本にはあることは押さえておきたいのであります。

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 今日はこの「中国人団体観光のビザ発給拡大」に関しての興味深い昨日の産経新聞のあるページの紙面構成(東京14版3ページ目総合面)をリテラシーしてみましょう。



●団体旅行ビザ発給 在中国全公館に拡大 見切り発車懸念 不法残留温床に?〜産経新聞記事から。

 昨日(21日)産経新聞紙面記事(東京14版3ページ目総合面、右上段記事)から。

団体旅行ビザ発給 在中国全公館に拡大 見切り発車懸念 不法残留温床に?

2007年5月21日(月)02:54

 外務省は中国人に対する団体観光査証(ビザ)について、今月末から在瀋陽総領事館と在大連出張駐在官事務所でも取り扱いを始め、ビザ発給拠点を中国本土の全6公館に拡大する。ただ、この決定の背景には冬柴鉄三国土交通相から外務省への「強い働きかけ」(同省関係者)があったといい、ビザ発給事務にかかわる公館の態勢整備や不法残留対策などはなおざりにされたまま。「見切り発車」的な決定に政府部内から懸念の声が漏れている。

 政府は平成12年、日中両国の交流拡大を目的に、両政府が指定する旅行会社が日本への団体旅行を組織する場合、日本側に身元保証人を立てることなく、15日以内の短期滞在ビザを発給する制度を導入した。

 当初は北京市など2市1省に発給対象地域を限定していたが、17年には中国全土に拡大。瀋陽、大連両地域の在住者は16年9月からビザ発給を受けられるようになったが、北京の日本大使館に出向かなければならなかった。今年が日中国交正常化35周年の節目にあたることもあり、与党幹部らからは、両地域をカバーする公館での発給を求める「圧力」が強まっていた。

 複数の政府関係者によると、冬柴氏は昨年12月に中国国家観光局の招きで訪中した際、北京の日本大使館に「訪日観光客を増やすためにビザ発給の事務を瀋陽、大連でもできるよう検討してほしい」と要請。しかし、大使館サイドは「ビザ発給事務のためには両公館の人員増が必要」と難色を示し、冬柴氏は帰国直後、麻生太郎外相に直談判。外務省の担当部局にも電話し、増員の状況を確認していた。冬柴氏側は産経新聞の取材に対し、こうした事実を認めている。

 外務省が在瀋陽、大連の両公館でビザ発給を行っていなかったのは「人員不足が原因」(幹部)だったが、冬柴氏の働きかけを「与党有力政治家からの強い要請と受け止めた」(同省筋)として、両公館でのビザ発給取り扱いに踏み切る方向に傾いた。同省では方針決定を受けて急遽(きゅうきょ)、「関連機械の導入や人員強化を準備する」ことになった。

 18年の中国人の出身地域別のビザ申請件数は北京、上海、広東省に続き、瀋陽が4位、大連が5位を占める。一方で、両地域については「経済的に豊かな地域の旅行者に比べ、不法残留発生率が高い」(外務省筋)とされ、同省幹部は「解禁後の不法残留の統計を慎重にみる必要がある」としている。

                   ◇

【用語解説】中国人の査証発給と不法残留者

 中国での査証(ビザ)の発給件数は平成18年、前年比25.1%増の約51万件で、韓国を抜いて各国・地域中最多となった。団体観光を含む短期滞在ビザは17年の対象地域拡大後に急増し、このうち約39万件に上っている。

 一方、法務省によると、19年1月現在の中国人の不法残留者数は2万7698人で、韓国人、フィリピン人に次ぐ。中国人の不法残留者の約2割は、短期滞在資格での入国者で、団体観光ビザの発給拡大が新たな温床となる恐れも否定できない。不法残留者が日本国内で犯罪に関与するケースも少なくなく、政府は在外公館でのビザ発給審査の強化などにより、16年から不法滞在者を半減させる5カ年計画を実施している。

http://news.goo.ne.jp/article/sankei/politics/m20070521004.html

 この記事の構成は、今回の団体旅行ビザ発給決定に関して、大きく2つの問題を取り上げているのであります。

 ひとつは、冬柴鉄三国土交通相から外務省への「強い働きかけ」(同省関係者)があった事実であります。

 「冬柴氏の働きかけを「与党有力政治家からの強い要請と受け止めた」(同省筋)として、両公館でのビザ発給取り扱いに踏み切る方向に傾いた。」とし、「同省では方針決定を受けて急遽(きゅうきょ)、「関連機械の導入や人員強化を準備する」ことになった。」ために、「ビザ発給事務にかかわる公館の態勢整備や不法残留対策などはなおざりにされた」というのです。

 もう一点は、今回の団体旅行ビザ発給拡大により、「経済的に豊かな地域の旅行者に比べ、不法残留発生率が高い」(外務省筋)地域からも旅行客が増大することが予想され、「同省幹部は「解禁後の不法残留の統計を慎重にみる必要がある」としている」と懸念している点であります。

 つまりこの産経記事によれば、ばたばたと決定した今回の団体旅行ビザ発給拡大の裏には、公明党冬柴鉄三国土交通相から外務省への「強い働きかけ」があったのであり、このような準備不足(ビザ発給事務にかかわる公館の態勢整備や不法残留対策などはなおざりにされたまま)で、「不法残留発生率が高い」(外務省筋)貧乏な地域からの中国人旅行者を大量に受け入れるのは、いたずらに中国人不法残留者を増やしてしまう懸念があるというわけです。

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●中国新幹線、備品盗難はじめ「非文明的行動」相次ぐ〜産経新聞記事から。

 さて、上記記事が右上段に掲載されている昨日(21日)の産経新聞東京14版3ページ目総合面でありますが、この記事の下段には北京特派員発の興味深い記事が並んでいます。

 昨日(21日)産経新聞紙面記事から。

中国新幹線、備品盗難はじめ「非文明的行動」相次ぐ

 【北京=野口東秀】日本やフランスなど各国の技術を導入したのに「国産」と宣伝している中国版新幹線が早くもピンチだ。4月18日から各地で時速200キロ以上の高速運転が始まったが、乗客による車内の備品持ち去りが後を絶たない。来年の北京五輪に向け、どうすればマナーが向上するのか中国指導部も頭が痛い。

 「社会公民の恥。中国人のイメージに悪影響を与える。五輪に向けこうした非文明的行動は注意しなくてはならない」。国営新華社通信(電子版)は乗客のマナーに疑問を投げかけ、処罰が有効策と指摘している。

 新華社によると、河南省鄭州市の検査場で検査員約100人は車内を点検して嘆いた。手洗い場のセンサー式蛇口、手洗いや排水の備品が消え、飲みかけのジュースが座席に放置されていた。

 中国各紙によると、信じられないほど備品が持ち去られている。トイレットペーパーに緊急脱出用のハンマー、便座の温度調節用つまみ、トイレットペーパーホルダーの軸など。センサー式蛇口のように持ち去っても何に使うのか想像もつかないものも含まれている。

 座席の物入れ網が破かれたり、トイレで喫煙したり、通風孔へのごみ投入、緊急用ボタンへのいたずら、トイレの水を流さない−など悪質なマナー違反も目につく。さらには大声を出したり床にたんを吐くなど傍若無人に振る舞う、足を前の座席に投げ出して足のにおいを発散させるなど周囲の迷惑を省みない行動もあるという。

 日本の新幹線車両をベースにしたCRH2など高速列車の愛称は「和諧(わかい)(調和)」号。名前は立派だが、車内の様子は公共精神の欠如を物語っている。

(2007/05/20 22:17)
http://www.sankei.co.jp/kokusai/china/070520/chn070520002.htm

 「社会公民の恥。中国人のイメージに悪影響を与える。五輪に向けこうした非文明的行動は注意しなくてはならない」。国営新華社通信(電子版)

 うーん、「日本やフランスなど各国の技術を導入したのに「国産」と宣伝している」(苦笑)中国新幹線のマナーがぼろぼろなんだそうです。

 乗客による車内の備品持ち去りが後を絶たなくて、中国各紙によると、信じられないほど備品が持ち去られているのだそうです。

 トイレットペーパー

 緊急脱出用のハンマー

 便座の温度調節用つまみ

 トイレットペーパーホルダーの軸

 センサー式蛇口

 備品持ち去り以外にもマナー違反が目立つのだそうです。

 座席の物入れ網が破かれたり、トイレで喫煙したり、通風孔へのごみ投入、緊急用ボタンへのいたずら、トイレの水を流さない−など悪質なマナー違反も目につく。さらには大声を出したり床にたんを吐くなど傍若無人に振る舞う、足を前の座席に投げ出して足のにおいを発散させるなど周囲の迷惑を省みない行動もあるという。

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 やれやれです。

 中国人の、ところかまわず痰を吐く、バスや電車など乗り降りのときに並ばない、など公共マナーの悪さについては、まあいまさらな話題ではありますが、私も何度か中国出張しておりますが、この産経記事にある「足を前の座席に投げ出して足のにおいを発散させる」行為を1回だけですが、大連から郊外に向かう汽車の中で経験したことがあります。
 そのときは、私は通訳の中国人の方と同行していて車内でも私たちは日本語で会話していたので、もしかして私が日本人だとわかって嫌がらせをされたのかと勘ぐったりしましたが、この記事を読んでどうもそれは勘違いだったことに気づかされました(苦笑

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 しかし、この産経記事ですが、冒頭の「日本やフランスなど各国の技術を導入したのに「国産」と宣伝している中国版新幹線」という書き出しから、結びの「名前は立派だが、車内の様子は公共精神の欠如を物語っている」まで、実に辛辣な内容で中国嫌いの産経新聞らしいですな、私はこういう記事文体は嫌いじゃないです(苦笑

 だいたい、この記事ですがネットでは、「中国新幹線、備品盗難はじめ「非文明的行動」相次ぐ」というタイトルですが、昨日の紙面(東京14版3ページ目下段)では、「「中国新幹線、マナーぼろぼろ」です。

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●複数の記事を組み合わせて並べることにより、読者をある考え方に誘導しようとする試み

 ここで、私たちがメディア・リテラシーというか味わいたいのは、この産経新聞の二つの記事の絶妙な組み合わせですよね。

 昨日の産経新聞3面を読んだ読者は、まず上段の「団体旅行ビザ発給 在中国全公館に拡大 見切り発車懸念 不法残留温床に?」を読み、中国人団体旅行が全土で拡大したのは、公明党の冬柴さんから外務省への「強い働きかけ」があったのを知り、このような準備不足では中国人不法残留者を増やしてしまう懸念があることを知ります。

 そして下段に目を転じればこの「中国新幹線、備品盗難はじめ「非文明的行動」相次ぐ」記事で中国人旅行者のマナーがぼろぼろなことを知るのです。

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 この二つの記事をあわせて読めば誰しもが、おいおい、こんな悪質なマナーを守れない連中が日本にやってきていいのかい、と不安に思うに違いありません。

 お見事です。

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 別にこのエントリーは、産経新聞を批判しようという意図はありません。

 日本の新聞では、ときに産経新聞だけでなく朝日にしろ毎日にしろ、このような複数の記事を組み合わせて並べることにより、読者をある考え方に誘導しようとする試み(一種の印象操作)は、どこでも見られることです。

 そしてこの産経の紙面構成はメディアリテラシーとして「複数の記事を組み合わせて並べることにより、読者をある考え方に誘導しようとする試み」のかっこうの教材になりうるのであります。

 私たち読者はこのような試みも味わいつつ、メディアが意図して取り上げていない事実も押さえておく必要があります。

 たとえばこの産経新聞の記事構成からは、今回の中国人団体旅行ビザ発給決定の背景には、伸び悩む国内旅行需要に頭を抱えていた日本の旅行業者や衰退する地方観光地を抱える地方自治体からの猛烈な政府への働きかけがあった事実は記されていません。

 これからますます経済的にも発展し増大するであろう中国人観光客に何とか日本に来てもらいたいと熱く期待していた旅行業者や地方自治体の動きもあわせて押さえておきましょう。

 例えば 地方公共団体の共同組織である、財団法人自治体国際化協会(Council of Local Authorities for International Relations: CLAIR)などは、地方都市への中国人観光客の誘致について長年研究し、あわせて政府に熱心に働きかけてきたわけです。

 ネットでも以下に、とっても興味深い研究レポートが掲載されています。

財団法人自治体国際化協会

地方都市への中国人観光客の誘致可能性について
http://www.clair.or.jp/j/forum/c_report/cr270m.html

 産経紙面を読めば中国人旅行者を招くデメリットは良く理解できますが、私たちは長年彼らを招こうと努力してきた日本の地方自治体の動きもあわせて押さえておかなければ、この問題の本質が見えてきません。

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 ネットの発達により、私たち読者は幅広い情報を並列に読み比べることが可能になってきました。

 そして、このような情報過多の状況の中で私たち読者にますます求められるのは、氾濫する情報をいかに整理し自分なりに読み解くことができるのか、メディアをリテラシー・検証する能力なのだと思います。



(木走まさみず)