何度も死んで(落選して)も必ず蘇る(比例復活)ゾンビ議員問題〜ゾンビ議員のセーフティネットと化した衆議院重複立候補制度は即刻廃止すべき
総選挙も中盤戦を迎えておりますが、自民圧勝の勢いに変化はないようです。
そこで今回は、重複立候補制度いわゆる選挙区で落選した議員が惜敗率によって比例区での復活が認められている制度の是非を、読者のみなさんとともに考察してみたいのです。
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●小選挙区制の欠点、高い「死票率」を低める効果が期待される重複立候補制度
そもそも重複立候補制度の存在価値は何なのでしょうか。
前回の2012年の衆院選において、その死票率は56%に上昇しました。
16日投開票された衆院選で、小選挙区で落選候補に投じられ、有権者の投票行動が議席獲得に結びつかなかった「死票」は、全300小選挙区の合計で約3730万票に上った。小選挙区候補の全得票に占める「死票率」は56.0%で、前回の46.3%と比べ9.7ポイント増となった。
今回は「第三極」として新たに日本維新の会や日本未来の党が参戦して12党が乱立。共産党も前回までの方針を転換し、原則として全選挙区に候補者を立てた。当選者が1人の小選挙区制では、候補が多数で票が分散されれば当選ラインは下がり、落選候補の合計得票数が増える傾向があることから、前回より死票率が上がったとみられる。
死票率を政党別にみると、小選挙区で237議席を獲得した自民党は12.9%で、大敗した前回の74.0%から大きく低下。一方、惨敗した民主党は前回の13.2%から82.5%に大幅上昇した。第三極同士で共倒れが目立った維新も81.9%。小選挙区全勝の公明党は0%だったhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121217-00000160-jij-pol(リンク切れしています)
いわゆる「死に票」とは、単純に有権者の投票行動が議席獲得に結びつかなかった票のことですが、「当選者が1人の小選挙区制では、候補が多数で票が分散されれば当選ラインは下がり、落選候補の合計得票数が増える傾向がある」ことから、小選挙区制では、中選挙区制や大選挙区制に比べて「死に票」が当然増えるわけです。
そこで考え出されたのが惜敗率(小選挙区における当選者の得票数に対する落選候補者の得票数の割合のこと)が高い落選者から比例区で復活」させるという、重複立候補制度であります。
そもそも公職選挙法では「一の選挙において公職の候補者となつた者は、同時に、他の選挙における公職の候補者となることができない」と明記されています。
(重複立候補等の禁止)
第八十七条 一の選挙において公職の候補者となつた者は、同時に、他の選挙における公職の候補者となることができない。
2 衆議院(小選挙区選出)議員の選挙において、一の政党その他の政治団体の届出に係る候補者は、当該選挙において、同時に、他の政党その他の政治団体の届出に係る候補者であることができない。
3 衆議院(小選挙区選出)議員の選挙において、候補者届出政党は、一の選挙区においては、重ねて候補者の届出をすることができない。
4 一の衆議院名簿の公職の候補者たる衆議院名簿登載者は、当該選挙において、同時に、他の衆議院名簿の公職の候補者たる衆議院名簿登載者であることができない。
5 衆議院(比例代表選出)議員の選挙において、衆議院名簿届出政党等は、一の選挙区においては、重ねて衆議院名簿を届け出ることができない。
6 前二項の規定は、参議院(比例代表選出)議員の選挙について準用する。この場合において、第四項中「衆議院名簿」とあるのは「参議院名簿」と、「衆議院名簿登載者」とあるのは「参議院名簿登載者」と、前項中「衆議院名簿届出政党等」とあるのは「参議院名簿届出政党等」と、「一の選挙区においては、重ねて」とあるのは「重ねて」と、「衆議院名簿」とあるのは「参議院名簿」と読み替えるものとする。
そこで1994年の法改正により、公職選挙法第86条の2第4項より、立候補する際に所属政党の許可が得られれば、立候補者が「小選挙区選挙」と「比例代表選挙」に重複して立候補できると改正いたしました。
(衆議院比例代表選出議員の選挙における名簿による立候補の届出等)
第八十六条の二
4 第一項第一号又は第二号に該当する政党その他の政治団体は、第八十七条第一項の規定にかかわらず、当該衆議院(比例代表選出)議員の選挙と同時に行われる衆議院(小選挙区選出)議員の選挙における当該政党その他の政治団体の届出に係る当該衆議院(比例代表選出)議員の選挙区の区域内にある衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区における候補者(候補者となるべき者を含む。次項及び第六項において同じ。)を、当該衆議院(比例代表選出)議員の選挙において、当該政党その他の政治団体の届出に係る衆議院名簿の衆議院名簿登載者とすることができる。
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●2012年東京民主党のケース〜小選挙区で落選し比例復活をした海江田氏および菅氏
さて小選挙区制の欠点、高い「死票率」を低める効果が期待されるこの重複立候補制度なのでありますが、結果有権者にとって多くの弊害が出ていることも事実でして、東京都の具体的事例で検証しておきましょう。
前回2012年総選挙において東京一区では自民党の山田美樹氏が当選、現民主党代表は海江田万里氏は次点で落選しています。
【東京一区】
得票数(得票率) 氏名 年齢 党派 重複 当 82,013(29.3%) 山田 美樹(やまだ みき) 38 自 民 80,879(28.9%) 海江田 万里(かいえだ ばんり) 63 民 主 比例復活
しかしながら重複立候補制度により惜敗率から海江田万里氏は比例復活いたしています。
また同様に東京十八区では民主党の菅直人元首相が小選挙区では落選したものの、比例復活を果たしています。
【東京十八区】
得票数(得票率) 氏名 年齢 党派 重複 当 84,078(32.2%) 土屋 正忠(つちや まさただ) 70 自 民 73,942(28.3%) 菅 直人(かん なおと) 66 民 主 比例復活
この選挙で比例代表東京ブロックでは民主党は三議席を辛うじて確保いたしますが、その三議席すべてが重複立候補制度により比例復活した民主党大物議員が割り込みます、菅氏はその中でも最下位でギリギリの復活を遂げたわけです。
【比例代表・東京】
名簿順位 | 氏名 | 年齢 | 肩書・経歴 | 重複 | 惜敗率 |
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1 | 海江田 万里(かいえだ ばんり) | 63 | (元)経済産業相 | 東京1区 | 98.6 |
1 | 松原 仁(まつばら じん) | 56 | (元)国家公安委長 | 東京3区 | 98.3 |
1 | 菅 直人(かん なおと) | 66 | (元)首相 | 東京18区 | 87.9 |
なぜこのような現象が起こるかと言えば、民主党は名簿順位一位にずらりと重複立候補者を並べていたからです。
さて今回も、海江田氏および菅氏は小選挙区において苦戦を強いられています。
東京都の選挙予測では定評のある東京新聞が両者の苦戦ぶりを報じています。
<衆院選>激戦区、支持求め奔走 13選挙区の序盤情勢
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/20141204/CK2014120402000117.html
記事より抜粋。
◆1区
渡辺徹 36 次新 《比》
冨田直樹 38 共新
又吉光雄 70 諸新
海江田万里 65 民<前><6>《比》
山田美樹 40 自前<1>《比》 公
野崎孝信 27 無新
山田は地元都議や区議、与謝野馨元財務相らの応援を得て選挙戦を展開し、自民支持層の六割、公明支持層の四割をおさえ、やや先行する。海江田は応援のため選挙区を離れることが多いが、党代表としての高い知名度を生かして民主支持層の六割を固め追い上げる。冨田は消費税増税批判などで支持拡大を図る。渡辺は街頭活動に力を入れ、又吉、野崎は独自の戦い。
◆18区
土屋正忠 72 自前<2>《比》 公
菅直人 68 民<前><11>《比》
結城亮 44 共新
土屋と元首相の菅が競り合う。土屋は元武蔵野市長としての基盤を生かし、自民支持層の八割を固めた。前回選挙区で敗れ、危機感を募らせる菅は、脱原発などの訴えを通じ、安倍政権に対する批判票の取り込みを図る。結城は共産支持層に上積みを狙う。
前回小選挙で競り負けて落選した海江田氏および菅氏ですが、今回も相当の苦戦を強いられており、小選挙区で当選することは極めて難しい状況のようです。
しかし、今回も海江田氏および菅氏は民主党の比例区候補者の名簿順位一位に指名されており、仮に小選挙区で落選しても比例復活される可能性が高いとされています。
名簿順 名前 年齢 略歴 重複 1 海江田 万里 65 党代表 東京1区 1 中山 義活 69 〈元〉首相補佐官 東京2区 1 松原 仁 58 〈元〉拉致問題相 東京3区 1 藤田 憲彦 41 不動産会社長 東京4区 1 手塚 仁雄 48 〈元〉首相補佐官 東京5区 1 長妻 昭 54 〈元〉厚労相 東京7区 1 円 より子 67 〈元〉党副代表 東京8区 1 江端 貴子 54 製薬会社役員 東京10区 1 熊木 美奈子 53 〈元〉都議 東京11区 1 長谷川 貴子 41 〈元〉足立区議 東京13区 1 木村 剛司 43 〈元〉墨田区議 東京14区 1 菅 直人 68 〈元〉首相 東京18区 1 末松 義規 58 〈元〉復興副大臣 東京19区 1 竹田 光明 59 社福法人理事 東京20区 1 長島 昭久 52 〈元〉防衛副大臣 東京21区 1 山花 郁夫 47 〈元〉法務副大臣 東京22区 1 櫛渕 万里 47 〈元〉NGO代表 東京23区 1 阿久津 幸彦 58 〈元〉内閣府政務官 東京24区 1 山下 容子 56 〈元〉都議 東京25区 20 石毛 ?子 76 政策NPO理事 21 福村 隆 51 〈元〉融資会社長 22 早川 周作 37 行政書士
ご覧のとおり、比例区候補者:東京ブロック(民主党)の22名のうち、19名が名簿順位一位であり、そのすべてが重複立候補者が占めているわけです。
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●何度も死んで(落選して)も必ず蘇る(比例復活)ゾンビ議員問題
まとめです。
さて本来惜敗率の高い落選者を復活させる、小選挙区制の欠点である高い「死票率」を低める効果が期待される重複立候補制度なのですが、今検証した通りその目的意義は理解できるのですが実際の運用は、党利優先の小選挙落選議員のセーフティネットと化しています。
そもそもこの日本が採用している国際的にも特異な重複立候補制度なのですが、本当の意味で「死に票」を「生きた票」にしているのか、根本的なしかし重大な問題を抱え込んでいます。
復活当選した候補者への票は基本的に死票に該当しないとされるわけですが、これはその候補者およびそれに投票した支持者に限って成立する極めて限定的な「定義」であります。
少し広義に解釈すれば、例えばその所属政党・所属政党の支持者の視点から見れば、これらの票は政党議席増加に使われない点で「死に票」そのものだからです。
重複立候補制度は所属政党にしてみれば、小選挙区で政党議席の増加に失敗して落選した者が、比例のみで立候補した者の当選枠を奪っているにすぎないのであり、政党にとって単に獲得した議席の奪い合い、いうなれば「共食い」をしているだけなわけです。
この制度により議席が増えない点で「死に票」なのであります。
さらに広義な視点、国民視点で考えれば、もっとおかしな制度であります。
少なくとも小選挙区において有権者(投票者)の大半がその議員の当選にNOを突き付けて落選させたはずの議員が、その「死に票」によってこのセイフティーネット制度・重複立候補制度により「復活」をするわけです。
これは文字通り本来死んだ人間が蘇るという点でゾンビ議員の誕生を意味します。
ゾンビ議員によっては何度も死んで(落選して)も必ず蘇る(比例復活)を繰り返すことになります。
国民視点で見れば民意に背く結果になってしまいかねません。
これでは逆に有権者の投票意欲をそぐ結果になりましょう。
当ブログとしては、この問題の多い重複立候補制度の即刻廃止を強く訴えるものであります。
(木走まさみず)
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