木走日記

場末の時事評論

代々木ゼミナールが凋落した理由について検証する

 少し前まで、予備校といえば、駿台予備学校河合塾代々木ゼミナールの3つが三大予備校と呼ばれていました。

三大予備校

三大予備校(さんだいよびこう)とは、日本国内の大学受験界において駿台予備学校河合塾代々木ゼミナールの3つの予備校を指す言葉である。河合塾が全国に台頭してから使われた用語であり、この3校の頭文字を取ってSKYとも表記する。生徒数や事業展開の規模(模擬試験や受験関連書籍、受験情報提供等)で他の中小予備校を圧倒している。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%A4%A7%E4%BA%88%E5%82%99%E6%A0%A1

 私事で恐縮ですが東京の某男子進学校に通っていた当ブログは、高校三年生のとき国立理科系コースに在籍していましたが、友人の多くは「駿台」でした、当時「駿台」が有名大学合格率ではダントツであったからです。

 親友のO君は当時東京に進出してきた名古屋の名門予備校「河合塾」に通っていましたが、見事東京大学理科一類に現役合格したのであります。

 当時の「駿台」はとにかく200人300人定員の大教室に学生を詰め込むだけ詰め込んで夏季補習授業など学生の熱気で暑くてたまらんわけです、駿台は学生は優秀だけど設備ボロボロとの評価でしたが、進出してきた河合塾は高校のように一人一人机と椅子が別々で快適な学習が可能であったのであります。

 当ブログはというと、多くの友人とは別に「代々木ゼミナール」に通いました、「駿台」「河合塾」に比較すると有名大学の合格率は悪かったのですが、駿台のような大教室でも一部人気講師の講義以外は空いていて(定員割れもあったでしょうが、さぼる学生が多かったのでしょう)、なんというか、授業も管理がユルユルで悪友たちと近所の喫茶店でさぼってインベーダーゲーム(年がばれますな(苦笑))などしていても、問題ないわけです。

 当時の代々木ゼミナールは実に開放的な予備校だったのでございます。

 さて我が母校である「代ゼミ」が危機なのであります。

 23日付け読売新聞記事から。

代ゼミ、20拠点閉鎖へ…少子化で7拠点に集約
2014年08月23日 09時03分

 大手予備校「代々木ゼミナール」(本部・東京都渋谷区)が、全国の27拠点を本部など7拠点に集約する方針を講師らに通告したことがわかった。

 仙台や横浜、京都など20拠点を来年3月末に閉鎖するとみられる。代ゼミ大学入試センター試験の成績分析や全国模試を行っており、業務が縮小された場合、受験業界への影響が大きい。

 代ゼミ関係者によると、8月20日付で、講師らに対して事業展開の見直しが通知された。高宮英郎理事長名の通知によると、来年4月以降も存続するのは、本部のほかに、札幌、新潟、名古屋、大阪南、福岡、造形学校(東京)。「昨今の少子化に伴う受験人口の減少と現役志向の強まりの中で、これまでのサービスを維持することが困難となり、全国一律の校舎運営、事業展開を根本より見直さざるを得ない状況」としている。

http://www.yomiuri.co.jp/national/20140822-OYT1T50174.html

 うむ、27拠点中20拠点閉鎖とは危機的状況です、代ゼミ関係者によると、「昨今の少子化に伴う受験人口の減少と現役志向の強まりの中で、これまでのサービスを維持することが困難となり、全国一律の校舎運営、事業展開を根本より見直さざるを得ない状況」ということだそうです。

 さらに、24日付け読売新聞記事から。

代ゼミセンター試験の自己採点集計も中止へ
2014年08月24日 08時44分

 全国の拠点の大幅な閉鎖方針を打ち出した大手予備校「代々木ゼミナール」(本部・東京都渋谷区)が全国模擬試験を来年度から廃止することが23日、わかった。

 来年1月の大学入試センター試験の自己採点結果集計・分析は実施しない。模試の分析データは受験生や高校の進路指導などでも参考にされており、影響は大きい。

 代ゼミ広報企画室によると、全国27校のうち、来年3月末で閉鎖するのは、仙台や横浜、京都、熊本など20校。本部校と、札幌、新潟、名古屋、大阪南、福岡の各校、造形学校(東京)の計7校に集約するという。

 4月以降は、「センター試験プレテスト」や「国公立2次・私大全国総合模試」などの全国模試を廃止。大学入試センター試験の自己採点結果を集計・分析し、志望大学の合格判定などを示す「センターリサーチ」は2013年度、全国で約42万人が参加したが、とりやめる。「東大入試プレ」など個別大学志願者向け模試は、存続の方向で検討している。

http://www.yomiuri.co.jp/national/20140824-OYT1T50008.html

 うーん、約42万人が参加していた全国模擬試験も来年度から廃止することが決定されたようです。

 全国27拠点中20拠点閉鎖したら物理的にも約42万人が参加する「全国」模擬試験など実施不可能なのでしょうか、継続するにはコスト的にも合わないのでしょう。

 このニュースを耳にして一年前の日刊ゲンダイのセンセーショナルな記事を思い出しました。

予備校 「大倒産時代」が始まった
2013年7月12日 掲載

河合塾」は中高一貫校経営に進出

予備校大手の河合塾が「中高一貫校」の経営に進出する。東京学園という中堅の私立高校と業務提携したうえで中学校を新設、4年後から新入生を迎える計画だ。少数の生徒を鍛え、東大はもちろん、米ハーバードなど海外の名門大を進学先に狙う進学校に育てるという。

果たしてうまくいくのか。

河合塾には培った大学受験のノウハウとネットワークがある。全国から優秀な教師をヘッドハンティングできます。いきなりハーバードは難しいとしても、10年あればコンスタントに六大学の合格者を出すことができるでしょう。急成長校として注目を集めると思います」(教育問題に詳しいジャーナリストの島野清志氏)

もっとも、河合塾のプランは予備校業界が行き詰まっている裏返しだという。ピークの1992年に29万4000人いた浪人生は3分の1以下に減った。

しかも、予備校業界の危機は、浪人生の減少だけではないらしい。

「予備校を脅かしているのは“中高一貫校”が次々に誕生していることです。最近は、公立でも中高一貫校が増えている。必須の学習プログラムは5年間で終わらせ、残り1年は予備校的な受験指導に充てる。

今年、私立の渋谷教育学園幕張、豊島岡女子などが過去30年で最高の東大合格者を出しました。予備校が不要になりつつあるのです」(島野清志氏)

だからどこも生き残りに必死だ。「東進ハイスクール」を運営するナガセは中学受験の四谷大塚を買収し、代ゼミを運営する高宮学園もSAPIXを買収した。「市進学院」の市進ホールディングスは老人ホーム事業に乗り出している。

河合塾は存在を脅かす中高一貫校とタッグを組む道を選択した。吉と出るか凶と出るか。 .

http://gendai.net/articles/view/life/143409(リンク切れしています)

 うむこの記事によれば、少子化の中、「ピークの1992年に29万4000人いた浪人生は3分の1以下に減った」わけで、そのうえ「予備校が不要になりつつある」というのです。

「予備校を脅かしているのは“中高一貫校”が次々に誕生していることです。最近は、公立でも中高一貫校が増えている。必須の学習プログラムは5年間で終わらせ、残り1年は予備校的な受験指導に充てる。

今年、私立の渋谷教育学園幕張、豊島岡女子などが過去30年で最高の東大合格者を出しました。予備校が不要になりつつあるのです」(島野清志氏)

 学習塾・予備校の経営について、具体的数値で押さえておきましょう。

 ここに帝国データバンクの2012年の『特別企画: 学習塾・予備校 主要 110 社の経営実態調査』と題する調査レポートがPDFファイルで公開されています。

特別企画: 学習塾・予備校 主要 110 社の経営実態調査
2010 年度年収入高合計は 5644 億 2900 万円、
前年度比 2.6%増で 2 期連続増収、増収幅も拡大
〜 上位 20 社の収入高合計が全体の半分以上を占め寡占化が顕著 〜
http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p120306.pdf

 うむ、帝国データバンクが学習塾・予備校主要110社の経営実態調査を行ったわけですが、「上位 20 社の収入高合計が全体の半分以上を占め寡占化が顕著」となっているそうです。

 完全に二極化、「勝ち組」と「負け組」に別れつつあるとの分析です。

 で「勝ち組」ベスト5の顔ぶれはこんな感じ。

4. 収入高上位 20 社 ― 収入高合計の半分以上を占める

収入高上位 20 社の 2010 年度収入高合計は 3330 億 2300 万円で、主要 110 社の収入高合計の半
分以上を占め、寡占化が顕著となっている。また、2010 年度増収企業数(10 社)が 2009 年度(7
社)よりも増加し業績回復が目立つ一方、2 期連続減収企業(7 社)もあり、難関校向けカリキュ
ラムの拡大や個別指導への積極的な取り組みなどにより明暗が別れた。

2010 年度の収入高(単体)1 位は、「河合塾」の(学)河合塾で 471 億 2000 万円。
2 位は、公文式で知られる「KUMON」の(株)日本公文教育研究会で 420 億 8900 万円。
3 位は、東証 2 部上場で「栄光ゼミナール」の(株)栄光で 299 億 7200 万円。
4 位は、JASDAQ 上場で「東進ハイスクール」の(株)ナガセで 210 億 2500 万円。
5 位は、「市進学院」の(株)市進で 160 億 9100 万円。

 「河合塾」、「KUMON」、「栄光ゼミナール」、「東進ハイスクール」、「市進学院」と続くのです。

 参考までにベスト20をご紹介。

■表1:学習塾・予備校収入高上位20社(2010年度)

順位 称号・ブランド名 上場 所在地 収入高(百万円) 前年度比(%)
1 (学)河合塾 河合塾 未上場 愛知県 47120 4.7
2 (株)日本公文教育研究会 KUMON 未上場 大阪府 42089 4.5
3 (株)栄光 栄光ゼミナール 東証2部 埼玉県 29972 3.3
4 (株)ナガセ 東進ハイスクール東進衛星予備校 JASDAQ 東京都 21025 4.6
5 (株)市進 市進学院、市進予備校 未上場 東京都 16091 -
6 (株)早稲田アカデミー 早稲田アカデミー 東証2部 東京都 15976 0.5
7 (株)ワオ・コーポレーション 能開センター、個別指導Axis JASDAQ 大阪府 15620 0.01
8 (株)東京個別指導学院 東京個別指導学院、関西個別指導学院 東証1部 東京都 13732 ▲7.4
9 (株)ウィザス 第一ゼミナール、第一ゼミ予備校 JASDAQ 大阪府 12600 7.4
10 (株)秀英予備校 秀英予備校 東証1部 静岡県 12484 ▲4.3
11 (株)明光ネットワークジャパン 明光義塾 東証1部 東京都 12222 3.4
12 (株)リソー教育 TOMAS 東証1部 東京都 12200 4.0
13 (株)臨海セミナー 臨海セミナー 未上場 神奈川県 11629 10.2
14 (株)日能研 日能研 未上場 神奈川県 11032 ▲4.1
15 ブレーンバンク(株) 四谷学院 未上場 東京都 11000 ▲8.3
16 (株)さなる 佐鳴予備校 未上場 東京都 10792 ▲1.9
17 (株)京進 京進京進スクール・ワン 大証2部 京都府 9886 4.3
18 (株)学研エデュケーショナル 学研教室 未上場 東京都 9649 -
19 (株)拓人 スクールIE 未上場 千葉県 8975 20.6
20 英進館(株) 英進館 未上場 福岡県 8929 7.8

 うむ、予想通り「代々木ゼミナール」の名前はありません。

 旧予備校御三家の中で「河合塾」は堂々収入額全国1位と健全経営ですが、大学・大学院経営まで乗り出した「駿台予備校」はまあ、別として我らが「代々木ゼミナール」の名前は、これら「勝ち組」にはないわけです。

 ・・・

 さて、「ピークの1992年に29万4000人いた浪人生は3分の1以下に減った」「予備校冬の時代」を数字で抑えておきましょう。

 ここにリクルート進学総研が今年6月に作成した『18歳人口・進学率・残留率の推移』と題するレポートがPDFファイルで公開されています。

2014年6月18日

リクルート進学総研
18歳人口・進学率・残留率の推移(エリア別分析)
http://souken.shingakunet.com/research/201406_souken_report.pdf

 レポートによれば18歳人口は今後も確実に減少していくことが予測されています。

■図1、2、3:18歳人口 人数・減少率予測


18歳人口 人数・減少率予測(全国:2013→2024)
・2017年までほぼ横ばい、2018年以降、大きく減少
・2014年に減少(2013年:123万人→2014年:118万人)
・2017年まではほぼ横ばい傾向(119万人前後)
・2018年以降減少に転じ、2024年には106万人
http://souken.shingakunet.com/research/201406_souken_report.pdf

 にもかかわらず大学進学率は高止まりしています。

■図4:大学進学率の推移

大学進学率の推移(各エリア:2004→2013)

・2009〜2010年まで上昇傾向、以後減少傾向。
・2013年では、大学進学率が高いエリアは南関東、東海、近畿の三大都市圏。
・経年では、2009〜2010年まで上昇傾向、以後減少傾向となっている。
・大学進学率が最も増加したのは南関東。2004年には近畿や東海とほぼ変わらず42%であっ
たが、2013年には56%まで上昇(2004年の約1.3倍)。次いで東北、甲信越が増加している。

http://souken.shingakunet.com/research/201406_souken_report.pdf

 18歳人口が減少傾向にも関わらず、4年制大学の定員は高止まりしており、結果定員割れ大学が4割を越し大量の中国人留学生を受け入れないと経営が成り立たない大学まで現出しています。

 結果、学生獲得のため有名大学ですらA0入試や推薦枠を拡大します、誰もが4年生大学に進学できる事態を招き、そのしわ寄せは、当然ながら短大、専門学校、予備校へと向かいます。

■図5:短期大学進学率の推移

短大進学率の推移(各エリア:2004→2013)


・全国的に減少傾向。
・2013年では、短大進学率が高いエリアは北陸、甲信越、近畿。
・経年では、全国的に減少傾向となっている。
・短大進学率が最も減少したのは北関東。次いで南関東
これらの短大進学率は、ともに2004年の約6割弱まで落ち込んでいる。

http://souken.shingakunet.com/research/201406_souken_report.pdf

 短期大学進学率は40%強も減じています。

■図6:専門学校進学率の推移

専門学校進学率の推移(各エリア:2004→2013)

・2009年まで減少傾向であったが、以後増加傾向。
・2013年では、専門学校進学率が高いエリアは甲信越と北海道。
・経年では、全国的に2009年まで減少傾向であったが、以後増加傾向となっている。
しかし、全国的に2004年と2013年を比較すると進学率は減少している。
・専門学校進学率が最も減少したのは東海で、2004年の約8割に落ち込んでいる。
一方、北海道および九州・沖縄は2004年の94%まで回復している。

http://souken.shingakunet.com/research/201406_souken_report.pdf

 専門学校はリーマンショック以来短期に技術を習得し就職する傾向が強まり、減少傾向は短大より改善されつつあります、医療・福祉系を中心に短大よりは進学率が回復傾向にあることが見て取れます。

 ・・・

 まとめです。

 当ブログは本業の他に主に工学系の大学・短大などで外来講師を長年続けてきました。

 教育現場に関わる者の一人として、今日の代ゼミの凋落ぶりは、一人のOBとしても考えさせられるものであります。

 背景には今検証したとおり、日本の長期に渡る少子化の中で18歳人口が減り続ける中で、4年制大学が定員を増やし続け、今持って定員が高止まりしていることで、「ピークの1992年に29万4000人いた浪人生は3分の1以下に減った」ことが挙げられるでしょう。
 しかし帝国データバンクのレポートを見ても、同じ予備校御三家であった「河合塾」は健闘している中で、「上位20 社の収入高合計が全体の半分以上を占め寡占化が顕著」となっている、「勝ち組」と「負け組」に完全に二極化した予備校・学習塾市場において、代ゼミは「負け組」筆頭となったしまったわけです。
 なぜ代ゼミは凋落したのか、いろいろな細かい分析は可能でしょうが、当ブログの分析は単純明快です。
 帝国データバンクの収入上位20社の予備校・学習塾を見渡せば、第一位の「河合塾」を筆頭に、小クラス・個別指導重視の予備校・塾ばかりです。
 「代ゼミ」に代表される数百人定員のマス教育は三重の意味で時代遅れとなっていたんです。
 第一に個別指導に比べてマス教育による教育サービスの劣化が顕著になったことです、今の親御さんはマス教育を嫌う傾向が顕著です。
 第二に講義を受ける生徒側の問題です。彼らは幼い頃・小学生のころから少ない定員のクラスの授業の経験しかありません、マス教育で集中力を維持することを訓練されていません。
 そして第三に、この少子化の時代、数百人規模のマスクラスの定員を維持することが経営的にも困難でありながら、放置し続けてきたことです。
 予備校の大教室に学生が数百人も溢れんばかりに授業をするような時代はすでに時代遅れになっていたことを「代々木ゼミナール」は気づくのが遅すぎたのではないでしょうか。
 東京、代々木の代ゼミ本部には実に象徴的な建物が建っています。

代ゼミタワー

http://www.yozemi.ac.jp/yozemi_tower/

 地上26F、地下3Fの「代ゼミタワー」には、各教室、自習室、学生寮空中庭園、スカイレストラン、エグゼプラザから日日是決戦神社まで完備されています。

本部校代ゼミタワー(地上26F、地下3F)
18F〜25F
学生寮(男女)
16F
空中庭園 日日是決戦神社
15F
スカイレストラン「ベルヴュラウンジ」
14F
自習室
11F〜13F
教室
9F
教材研究センター
8F
講師室⁄教務事務センター
7F
教室⁄現役生サポート室⁄現役生専用自習室
5F・6F
教室
4F
フレックス・サテラインブース教室
2F・3F
個別指導教室
1F
総合案内センター⁄申込手続 窓口
進学相談室⁄医学部情報室

アネックス
2F
代ゼミエグゼプラザ
1F
代々木ライブラリー

 ・・・

 私にはこの予備校としてはゴージャスの極みである「代ゼミタワー」が、代ゼミ的マス教育の象徴の建物のように見えてなりません。

 今回は当ブログとして「なぜ代ゼミは凋落したのか」を検証いたしました。

 このエントリーが読者の参考になれば幸いです。



(木走まさみず)



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