木走日記

場末の時事評論

代ゼミの「予備校から不動産会社に華麗な転身」を賞賛してはいけない〜不動産取得税・固定資産税が非課税の学校法人が不動産運用って「脱法行為」そのもの

 前回のエントリーでは「代ゼミの凋落した理由」について考察いたしました、

2014-08-25 代々木ゼミナールが凋落した理由について検証する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20140825

 長年「私学」教育現場に関わってきたものの一人として、当ブログの見立ては「代ゼミ」に代表される数百人定員のマス教育は時代遅れとなっていたという単純な分析でありました。

 なぜ代ゼミは凋落したのか、いろいろな細かい分析は可能でしょうが、当ブログの分析は単純明快です。

 帝国データバンクの収入上位20社の予備校・学習塾を見渡せば、第一位の「河合塾」を筆頭に、小クラス・個別指導重視の予備校・塾ばかりです。

 「代ゼミ」に代表される数百人定員のマス教育は三重の意味で時代遅れとなっていたんです。

 このエントリーは、ネット上で賛否両論少なからずの話題をいただきました。

 で、ネット上では代ゼミの今回の27校中20校閉鎖という「荒業」を、肯定的に捉えて「恐るべき先見性。予備校から不動産会社に華麗な転身」、「戦略ミスではなく戦略的成功」と賞賛する意見が一部にあります。

2014年08月24日
【驚愕】代ゼミの恐るべき先見性。予備校から不動産会社に華麗な転身か。既に実績多数。
http://otonanomatome.blog.jp/archives/1008110693.html

代ゼミの一件は戦略ミスではなく戦略的成功ではないか
大関暁夫
http://blogos.com/article/93208/

 あまりこの問題に拘泥しても、現役の「私学」当事者である当ブログとしては一利も得ることはないのですが、「私学」経営の内情をある程度知る者として、補足的にエントリーをしておきたいです。

 確かに代ゼミは数十年前から少子化を睨んで不動産運用へと経営戦略をシフトしてきたと言えましょう。

 上記まとめサイトより失礼して当該説明箇所を引用。

(前略)

このように約30年前より最近のものは「最初からオフィスやホテルへの転換を見越している」という噂の通り、実際に建物が用途転換されていることが分かった。


出生率ピーク時に少子化を予測?代ゼミの先見性

こうした用途転換がスムーズに進んでいる理由としては、以下の3つが考えられる。

・不動産は基本、自社グループで保有高宮学園、JECなど)
・立地は基本、駅前の一等地(土地を隣り合わせに取得し、一体再開発に備えている?ケースも)
・更にオフィス、ホテル用途に転換しやすい形状で床面積も確保できる大型ビルとして建設


こうした方針に沿って、代ゼミでは多くの校舎が約30年前に土地取得・建設されており、それより古いものは2000年代後半からより大きな建物に建て替えている。

(後略)

【驚愕】代ゼミの恐るべき先見性。予備校から不動産会社に華麗な転身か。既に実績多数。
http://otonanomatome.blog.jp/archives/1008110693.html

 代々木ゼミナール(よよぎゼミナール)の多くの校舎は地区の一等地にあり、そして自社グループで保有しております、その経営母体は学校法人高宮学園であります。

 創業者である故高宮行男氏が一代にして築き上げた巨大予備校グループであります。

高宮行男

高宮 行男(たかみや ゆきお、1917年1月26日 - 2009年6月30日)は北海道出身の実業家、予備校経営者。学校法人高宮学園代々木ゼミナール理事長。

経歴[編集]

滝川市生まれ。生家は御嶽山神社であり、高宮家は出雲の神官の家系である。
1938年、國學院大學神道学部卒業。太平洋戦争中は札幌歩兵第二十五連隊で連隊旗手を務めた。1943年、増田商事社長増田亀吉の娘と結婚。増田商事は、戦後、東京都内にキャバレーや質屋やパチンコ屋チェーンを経営していた会社である。
亀吉に見込まれた高宮は質屋やパチンコ屋やキャバレーの経営に関与していたが、やがて亀吉の予備校経営進出(1953年)に伴って、予備校「不二学院」の会計を担当するに至る。やがて高宮は亀吉と離反し、不二学院の支配権を掌握。1959年には学校法人高宮学園を設立し、1961年、代々木ゼミナールと改称し理事長に就任。この名称は、不二学院の隣に1937年創立の老舗予備校「代々木学院」が存在したことから、この代々木学院の生徒を吸収する意図で命名したものであるといわれる[1]。
ダミー会社「三鳩社」を利用した税金対策[2]や、ダミー法人「学校法人東朋学園」を利用した強行開校[3]など法的規制を掻い潜った強引な手法によって日本全国に事業を展開。宝石のコレクターでもあり、そのことを1981年の『週刊文春』に報じられたこともある。1998年には12億円の法人所得の申告漏れが発覚し、加算税を含めて3億5000万円の追徴金を課される。「予備校が儲からなくなれば、さっさと転業して結婚式場でもホテルでもはじめる」と発言したとも言われた[4]。その一方で、母校國學院大學の創設100周年にあたっては、私財を寄附して故郷に國學院女子短期大學を開学している。
2009年6月30日、心不全のため東京都千代田区の病院で死去。92歳没[5][6]。
高宮学園元副理事長、元日本入試センター社長の竹村保昭は実弟
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E5%AE%AE%E8%A1%8C%E7%94%B7

 日本の場合、代ゼミだけではなく多くの「私学」は創業者一族の寄付金で設立され、そのまま創業者が理事長として理事会を牛耳り学園運営はトップダウンでワンマン経営が常態化しております。

 代々木ゼミナールは学校法人であります、すなわち私立学校法の定める法律に従わなければなりません。

 文科省公式サイトより「私立学校法」の概略を抑えておきましょう。

私立学校法

 私立学校法はその目的を「私立学校の特性にかんがみ、この自主性を重んじ、公共性を高めることによって、私立学校の健全な発達を図ること」(同法第1条)と定めています。この「私立学校の特性」とは国公立の学校と異なり、私立学校が私人の寄附財産等によって設立・運営されることを原則とするものであることに伴う特徴的な性格です。私立学校において、建学の精神や独自の校風が強調されたり、所轄庁による規制ができるだけ制限されているのもこの特性に根ざすものです。
 「私立学校の自主性」とは、上記のとおり、私立学校が私人の寄附財産等により設立されたものであることに伴い、その運営を自律的に行うという性格をいいます。私立学校法は私立学校の自主性を尊重するため、所轄庁の権限を国公立の学校の場合に比べて限定する(同法第5条)とともに、所轄庁がその権限を行使する際にも、大学設置・学校法人審議会又は私立学校審議会の意見を聴かなければならないこととし、私立学校関係者の意見が反映されるような制度上の措置がなされています(同法第8条、第31条、第60条、第61条、第62条)。
 一方、私立学校といえども公教育の一翼を担っている点においては国公立の学校とかわりなく、「公の性質」(教育基本法第6条第1項)を有するものとされています。この観点から私立学校にも「公共性」が求められており、私立学校法は私立学校の「公共性」を高めるため、私立学校の設置者として旧来の民法の財団法人にかわって学校法人という特別の法人制度を創設し、その組織・運営等について次に述べるように民法法人と異なる法的規制を加えています。その第一は、学校法人が解散した場合の残余財産の帰属者は学校法人その他教育の事業を行う者のうちから選定しなければならないこととし、残余財産の恣意的処分の防止を図っていることです(同法第30条第3項)。第二は、学校法人の運営の公正を期するため、役員の最低必要人数を法定するとともに、役員が特定の親族によってのみ占められることを禁止していることです(同法第35条第1項、第38条第7項)。第三は、学校法人の業務執行の諮問機関として評議員会の設置を義務づけ、学校法人の運営について意見を反映させることとしていることです(同法第41条〜第44条、第46条)。
 このほかにも、私立学校法は私立学校の公共性を高めるためにいくつかの規定を置いています。
 私立学校はその自主性を尊重するとともに、公共性にも十分配慮することにより、その健全な発達が期待されているものです。

http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/001/001.htm

 この法律のキモはここです。

「その第一は、学校法人が解散した場合の残余財産の帰属者は学校法人その他教育の事業を行う者のうちから選定しなければならないこととし、残余財産の恣意的処分の防止を図っていることです(同法第30条第3項)。」

 学校法人は「公共性」を高めるため、不動産を含めその資産は解散時「残余財産の恣意的処分の防止を図っている」のです。

 だからこそ、学校法人は「学校法人が直接保育又は教育の用に供する不動産に関しては不動産取得税・固定資産税が非課税」とされているのです。

学校法人に対する税制上の優遇措置について

 私立学校を設置する学校法人については、その公共性・公益性を考慮して、種々の税制上の優遇措置が講じられています。例えば、法人税・事業税は収益事業から生じた所得に対してのみ課税され、収益事業から生じた所得に対しても、法人税の税率は軽減税率が適用されています。また、学校法人が直接保育又は教育の用に供する不動産に関しては不動産取得税・固定資産税が非課税とされています。
 概要は以下の通りです。

学校法人
普通法人
法人税
非課税(収益事業を除く。)
【収益事業】
税率 19パーセント
みなし寄附金の繰り入れ率50パーセント(当該金額が年200万円未満の場合は200万円)
課税
税率 25.5パーセント
その他非課税となる税目
【その他の国税
所得税、登録免許税
地方税
住民税、事業税、事業所税(収益事業に係るものを除く。)
不動産取得税、固定資産税、特別土地保有税都市計画税(目的外不動産を除く。)

http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/003.htm

 日本の法律は、学校法人が解散もせず「不動産運用」で収益を上げることを想定などしていないのです。
 だからこそ「不動産取得税・固定資産税が非課税」という特権が学校法人には与えられているのです。
 学校法人がホテル営業などや土地開発などの不動産活用で利益をむさぼるなど、法的規制を掻い潜った強引な手法、はっきりいって「脱法行為」そのものです。
 「予備校から不動産会社に華麗な転身」ですが、教育機関、学校法人としては、代々木ゼミナールは凋落したと表現するしか、私には思い浮かびません。


(木走まさみず)