木走日記

場末の時事評論

消費税増税にアドバンテージを有する「経団連」のみなさんは黙っていてほしい

 16日付け読売新聞記事から。

経団連会長、消費税上げ支持
首相、経済3団体と懇談

 菅首相は18日午前、首相官邸で、日本経団連日本商工会議所経済同友会の経済3団体の会長らと懇談した。政府の新成長戦略の推進とともに、17日に表明した消費税率を「当面10%」に引き上げる案について理解を求めたものと見られる。

 経団連米倉弘昌会長は懇談後、消費税増税について記者団に「社会保障と財政の現状を考えれば、実行すべきだ」と述べ、支持を表明した。また、「首相は就任早々、『強い経済、強い財政、強い社会保障』を打ち出し、経済界は本当に勇気づけられた」と、首相の経済政策を支持する考えを伝えたことを明らかにした。

 首相は就任11日目で経済団体トップと会い、初懇談が約3週間後だった鳩山前首相からの変化を印象づけた。首相は米倉氏らに今後も経済団体と懇談を続けたいと要望したという。首相が経済界トップとの早期対話に臨んだ背景には、経済・財政課題の解決のため、前政権時代にぎくしゃくした経済界との関係修復が不可欠との考えがあるようだ。

(2010年6月18日 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20100618-OYT8T00765.htm

 経団連米倉弘昌会長は菅首相の消費税10%上げ案支持を表明したそうです。

 私はかねがね中小零細企業主の一人として、大企業の代表たる経団連が安易に消費税増税を表明することに強い憤りを感じてきました、それは少しばかりアンフェアではないかと強い不満があるからです。

 現実の人の世は建前はともかく公平でも公正でもなんでもない、人の作ったルールは限界性を持っておりその点で、ルールを作り運用する立場の為政者や経営者など責任ある地位の者は、絶えず自らの振る舞いや行いに対して謙虚でなければなりません、自分たちの作ったルールは万能ではないんだという当然の理(ことわり)の前では特にです。

 私も零細企業の経営者の端くれですし、永年多くの中小企業の経営コンサルをさせていただいてきましたし、経営はきれい事ではないことは承知しているつもりです、青臭い議論を持ち出すつもりはさらさらありません、ないのですが、どうも最近の経団連の消費税増税案支持表明と、菅首相の安直とも言える趣旨返し、さらにそれに便乗するようなマスメディアの性急な消費税論議にはちょっとまってほしい、実体経済の参加者の一人として、少し議論がアンフェアではないのかと、首を傾げたくなります。

 最初に申しておきますが私・個人は消費税論議そのものに反対ではありません、日本国の財政状況は深刻でありますし、最終的究極的には消費税増税しかないと判断しています、その意味でいつどのくらい上げるべきか、また社会保障費などにどう恒久的な用途制度化をするのか、国民的議論を深めることには大賛成です。

 しかしながら、議論はフェアに行い、広く国民に理解できうるように隠し立てなく行うことが大前提となると考えます。

 ・・・

 ネット上でも論客達が消費税の逆進性について議論していますが、増税論肯定派の中には、そもそも増税するならば消費税が一番トレーサビリティ(履歴管理)の点でも公正・公平であるという論があります。

 これはどうでしょうか、消費税が制度としてトレース(履歴)が取りやすいことは認めるものの、そもそも日本の消費税が特定業種が恣意的に対象外であり公平でもなんでもないことは、そのような議論からはすっぽり抜け落ちておるようであります。

 事実をふまえて議論を進めましょう、国税庁のサイトから、消費税が「非課税となる取引」について。

No.6201 非課税となる取引

[平成21年4月1日現在法令等]

1 概要

 消費税は、原則として、国内において「事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡や貸付け及び役務の提供」並びに「輸入取引」を課税の対象としています。
 しかし、これらの取引であっても消費に負担を求める税としての性格から課税の対象としてなじまないものや社会政策的配慮から、課税しない非課税取引が定められています。

http://www.nta.go.jp/taxanswer/shohi/6201.htm

 ここに明確に示されているとおり、消費税は原則として「国内取引」と「輸入取引」を課税対象にしています。

 例外としての「課税の対象としてなじまないものや社会政策的配慮から、課税しない非課税取引」は次のとおり。

2 主な非課税取引

(1) 土地の譲渡及び貸付け
 土地には、借地権などの土地の上に存する権利を含みます。
 ただし、1か月未満の土地の貸付け及び駐車場などの施設の利用に伴って土地が使用される場合は、非課税取引には当たりません。

(2) 有価証券等の譲渡
 国債や株券などの有価証券、登録国債、合名会社などの社員の持分、抵当証券、金銭債権などの譲渡
 ただし、株式・出資・預託の形態によるゴルフ会員権などの譲渡は非課税取引には当たりません。

(3) 支払手段の譲渡
 銀行券、政府紙幣、小額紙幣、硬貨、小切手、約束手形などの譲渡
 ただし、これらを収集品として譲渡する場合は非課税取引には当たりません。

(4) 預貯金の利子及び保険料を対価とする役務の提供等
 預貯金や貸付金の利子、信用保証料、合同運用信託や公社債投資信託の信託報酬、保険料、保険料に類する共済掛金など

(5) 郵便事業株式会社、郵便局株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡し場所における印紙の譲渡及び地方公共団体などが行う証紙の譲渡

(6) 商品券、プリペイドカードなどの物品切手等の譲渡

(7) 国等が行う一定の事務に係る役務の提供
 国、地方公共団体、公共法人、公益法人等が法令に基づいて行う一定の事務に係る役務の提供で、法令に基づいて徴収される手数料
 なお、この一定の事務とは、例えば、登記、登録、特許、免許、許可、検査、検定、試験、証明、公文書の交付などです。

(8) 外国為替業務に係る役務の提供

(9) 社会保険医療の給付等
 健康保険法、国民健康保険法などによる医療、労災保険自賠責保険の対象となる医療など
 ただし、美容整形や差額ベッドの料金及び市販されている医薬品を購入した場合は非課税取引に当たりません。

(10) 介護保険サービスの提供
 介護保険法に基づく保険給付の対象となる居宅サービス、施設サービスなど
 ただし、サービス利用者の選択による特別な居室の提供や送迎などの対価は非課税取引には当たりません。

(11) 社会福祉事業等によるサービスの提供
 社会福祉法に規定する第一種社会福祉事業、第二種社会福祉事業、更生保護事業法に規定する更生保護事業などの社会福祉事業等によるサービスの提供

(12) 助産
 医師、助産師などによる助産に関するサービスの提供

(13) 火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供

(14) 一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け
 義肢、盲人用安全つえ、義眼、点字器、人工喉頭車いす、改造自動車などの身体障害者用物品の譲渡、貸付け、製作の請負及びこれら一定の身体障害者用物品の修理

(15) 学校教育
 学校教育法に規定する学校、専修学校、修業年限が1年以上などの一定の要件を満たす各種学校等の授業料、入学検定料、入学金、施設設備費、在学証明手数料など

(16) 教科用図書の譲渡

(17) 住宅の貸付け
 契約において人の居住の用に供することが明らかなものに限られます。
 ただし、1か月未満の貸付けなどは非課税取引には当たりません。

(消法4、6、消法別表第一、消令8〜16の2、消基通6−1−1〜6−13−9)

 医療・教育・住居費など、国民の基本的生活権に直接影響のある「取引」は当然ながら「課税の対象としてなじまない」もしくは「社会政策的配慮」から課税対象外となっているのです。

 問題は実はこれらの例外取引ではなく、「消費税は原則として「国内取引」と「輸入取引」を課税対象」とするという大前提にあります。

 つまりこの国の主要産業である「輸出取引」は対象外なのです。

 「輸出取引」が消費税対象外であることにより「戻り税」なる税の還付が発生します。

 ここにこの国の消費税の大きな税収対象の落とし穴があります。

 具体的に例を示します。

 まず国内取引だけで考えて見ましょう。

 高級家具で考えます。

 今材料屋Aから材木など原料40万円を仕入れて100万円の高級家具を作り売っている家具屋Bがあるとします。

 この場合、まず材料屋Aは消費税5%を含めて42万円で家具屋Bに材料を売ります。そのうち2万円を消費税として納税します。次に家具屋Bはその材料で家具を作り、消費税5%を含めて105万円で消費者に高級家具を売ります。その消費税5万円のうち2万はすでに仕入れ時に納税していますから、5万ー2万=3万円を消費税として納税します。

 表にすれば次のとおりです。

        売上      内消費税    納税
 材料屋A  42.0万円  2.0万円   2.0万円
 家具屋B 105.0万円  5.0万円   3.0万円

 消費者が払った5万円の消費税は、結果的に材料屋Aが2万円、家具屋Bが3万円、立て替えるように正しく納税したことになります。

 きれいに履歴が残ります。

 次にこの家具屋が商品を海外に輸出したとすると話が変わります。

 まず材料屋Aは消費税5%を含めて42万円で家具屋Bに材料を売ります、そのうち2万円を消費税として納税します。ここまでは国内取引ですから変化はありません。

 次に家具屋Bはその材料で家具を作り、100万円で海外に輸出します。日本の消費税は海外には及びませんから、家具屋Bは当然ながら消費税を納税する義務はありません。

 それだけではありません、仕入れ費42万円に掛かった消費税分2万円を還付、国から戻してもらえます。

 「輸出取引」が消費税対象外であることを理由に「戻し税」なる税の還付が発生します。

 表にすれば次のとおりです。

        売上      内消費税    納税
 材料屋A  42.0万円  2.0万円   2.0万円
 家具屋B 100.0万円  0.0万円  ▲2.0万円(戻ってくる)

 ここで重要なことは、家具屋Bは戻り税で得をしているわけではありません、すでに仕入れ費として払った42万円のうち消費税分の2万円が戻ってくるだけですから、損得は無しです。

 ネット上の多くの議論は日刊ゲンダイの記事のようにここを誤解している議論が多いですので、はっきり繰り返しておきますが、「戻し税」自体は今明示しましたように別にそれで益が生まれることはありません。

 しかしこの「戻し税」、輸出業全体では年間で3兆近くにもなり年度消費税歳入額の20%前後の金額になりますので、無視できません。

 暴論すれば戻り税など廃止すればそれだけで数%程度の消費税増税効果と同規模の増収となると試算すらできます。

 私がここで指摘したいのは、経団連に代表される大企業・日本の輸出産業は例外なく、消費税の「輸出戻り税」を受けており、どんなに消費税が増税されても「還付」されるポジションにいることを棚に上げ、平気で「社会保障と財政の現状を考えれば、実行すべきだ」と増税表明する、そのアンフェアな態度です。

 彼らの議論を見ると「消費税は国内税である、海外で消費者に還元できない以上「0%還付」は当然である。別にそれで益を得ているわけではない」と一見正論もどきを唱えますが、冗談ではありません。

 彼らの暴論はいろいろ反論できるのですが、ここでは2つの事実だけ指摘しておきます。

 まずEUやアメリカ、中国など国際的に見ても、「輸出戻し税」が「0%還付」は当然であるなどとはまったく成り立ちません。 

 事実として政策によりアメリカは戻し税を採用していませんし、中国などは「輸出戻し税」などはポコポコ変更しています、絶対不可侵のルールでも何でもありません。

中国政府、輸出戻し税引き下げを検討

【市況・株式】 2007/06/13(水) 07:16
  中国政府が、7月1日より鋼鉄製品や金属製品などを含む製品の輸出戻し税を撤廃または引き下げる意向を示していることがわかった。

  報道によると、油田用鋼管の輸出戻し税率を引き続き13%に設定するほか、その他鋼鉄製品については税率を現在の13%から一律5%に引き下げ、金属とアルミ製品は輸出戻し税を撤廃する考え。

  また、化学品、セメント、化学肥料についても輸出戻し税を撤廃し、紡績製品は税率を13%から11%に引き下げ、ディーゼルエンジン、オーブン、オートバイ、腕時計、玩具、家具などの製品については税率を9%に引き下げるという。(聨合亜洲網訊有限公司
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0613&f=stockname_0613_009.shtml

 この記事にもありますが、あれほど輸出が盛んな中国でもレアメタルなどの輸出に危惧感を持てば「金属とアルミ製品は輸出戻し税を撤廃する」など政策により輸出抑制策の道具としてうまく使っている税率に過ぎません。

 日本の場合例外なく「輸出戻り税」により消費税還付が実現していることは、これは一種の政府による「輸出振興策」、国策であるとさえ考えている欧米の識者も多いわけです。

 ふたつめに指摘できる事実は、「経団連」に代表される彼ら輸出業者がいかに優遇されているかは、同じように消費者に消費税の支払いを求めることができない、医療・学校法人などにはこんな還付制度が認められてはいない点が挙げられます。

 医療現場では社会保険診療等には患者は消費税を支払うことはありません。

 しかし、医療に対する消費税は非課税とされているにも係らず、国には消費税が納税されるという現象が生じています。

 患者は消費税を負担する必要はないが、医療機関が診療材料購入時に消費税を支払っているからであります。

 医療に対する消費税を本当に非課税とするのであれば、国への納税も生じないような仕組み、つまり輸出業者に認めている還付制度を医療機関に完全導入すべきですが、厚生労働省は医療法人制度改革を進めてはいますが、消費税のこの損税問題は、いまだ解決策を見い出されてはいません。

 これは医療現場だけの問題ではない、学校法人など多くの「非課税対象取引」業界に共通の消費税損税問題となっております。

 ・・・

 消費税は幅広くフェアに国民の前で深い議論を重ねていただきたいです。

 消費税に関して日本は事実として現在「輸出戻し税」の形で大企業・輸出産業を優遇している事実も含めてであります。

 ただ、私は経団連が安易に消費税増税を表明することには強い憤りを感じます。

 それは少しばかりアンフェアではないか。

 消費税増税にアドバンテージを有する「経団連」のみなさんは、黙っていてほしいのです。



(木走まさみず)