木走日記

場末の時事評論

田母神氏の台頭は「日本の右傾化」が理由でないと思う

 さて都知事選の結果ですが田母神俊雄氏が得た61万票余りが注目されています。

 特にマスメディアの出口調査によれば、投票した20代の4分の1近くが彼に投票したことやネット上の支持率が彼が群を抜いて突出していたことなどから、主に左派・リベラル派の論客が「ネットの保守化」や「日本の右傾化」について論じています。

 今回は左派・リベラル派の論を三題取り上げて「田母神俊雄氏が得た61万票」について考えてみたいです。

 BLOGOSから2題。

 まずは小串聡彦氏のエントリー。

田母神氏の台頭は「大雪のせいだ」
小串 聡彦
http://blogos.com/article/80233/

 うむ、田母神氏が「極右」候補かどうかは議論のあるところでしょうが、小串氏は大雪のために投票率が下がり相対的に田母神氏の得票率が上がったとの見立てで論を進め結論として、「現実路線の中道左派政党が作れるかどうかが今後のカギである」としています。

 失礼してエントリーの結びの箇所を引用。

 日本の極左および極右の台頭の動きは、ただでさえ不安定な政治システムをさらに不安定にする、危険な兆候といえよう。欧州の事例からは投票率の上昇が極右勢力の台頭を抑える可能性があると示したが、それは確固とした中道政党の存在を前提としている。中道政党が受け皿として存在しなければ、投票率の上昇はそのまま急進的な政治勢力に飲み込まれる。特に欧州の極右政党は、経済的弱者に訴求力を持っているといわれるが、これは日本でも同様である。本来は中道左派政党が解決策を提示して貧困層を取り込むのだが、日本ではそこに訴求する勢力は共産党しかない。中間層がどんどん浸食される中で、現実的な対抗策を打ち出せる中道左派がいない。現実路線の中道左派政党が作れるかどうかが今後のカギである。

 続いて五十嵐仁氏のエントリー。 

日本は右傾化したのか
五十嵐仁
http://blogos.com/article/80142/

 うむ、日本は右傾化しているのかという問いかけに安倍晋三首相が高い支持率を得ていることが社会全体の右傾化を示している」とし、「民族を理由に差別の言葉を投げつけるヘイトスピーチ(憎悪表現)やネット右翼の活動など拝外主義的なナショナリズムの高まりもある」ネット右翼の活動」などを具体例として示しています。

 さらに「右よりの世論は一部とはいえ、ネットなどで発信力を持っている。中国や韓国との緊張に危機感を強めている人もいるだろう」と分析します。

 五十嵐氏は「右翼的な人とは」との問いかけに以下のように答えています。

 ―右翼的な人とは。
 「自分の状況が厳しく将来に対する展望や希望を持てない人が、憎しみを他の人に向けており、現実逃避の面がある。政治に異議申し立てや抵抗するのではなく、権力に擦り寄ったり、弱者を攻撃したり、憎んだりすることで自らに対する癒し、慰めを得ようとしているのではないか」

 エントリーは日本の右傾化により「平和・民主国家としての在り方が、大きく変わらないか心配だ」と案じて結ばれています。

 「安倍首相までの自民党総裁改憲を口にしても、実際にそのための法的な整備に着手しなかった。安倍首相は1次内閣の07年に憲法改正の是非を問う手続きを定める国民投票法を制定した。自民党憲法改正草案、特定秘密保護法や教育改革も、国家の力、国権を強化する方向を明確に示している。平和・民主国家としての在り方が、大きく変わらないか心配だ」

 続いて12日付け朝日新聞の記事から一題。

若者に届かぬリベラル 宇野常寛さん、都知事選読み解く
2014年2月12日09時30分
http://www.asahi.com/articles/ASG2C3WMQG2CUCVL005.html

 宇野常寛氏はリベラルの立場から「「ネット保守」と呼ばれる層に人気が高いとされる田母神俊雄氏の票数は衝撃的」としています。

 「ネット保守」と呼ばれる層に人気が高いとされる田母神俊雄氏の票数は衝撃的でした。マスメディアの出口調査によれば、投票した20代の4分の1近くが彼に投票しました。かなりの割合が「ネット保守」と考えると、リベラル勢力は自分たちの言葉が届かない若い層がこれだけいるということを軽視してはいけないと思う。マスメディアだけの問題ではないと思います。僕を含めた30〜40代のインターネットに足場を持つ若いジャーナリストや言論人の言葉が、ネット保守の動員力に対抗出来ていない。

 宇野氏は「ネット保守層はこうした「かわいそうな若者」にとどまらないのではないか」と分析、「リベラル勢力はこうして相手をバカにするだけで自分たちは具体的な、現実的な処方箋(せん)を出せていない。」「その背景にあるのは、リベラル勢力のある種の大衆蔑視だと僕は考えています。」と続けます。

 しかし、ネット保守層はこうした「かわいそうな若者」にとどまらないのではないか。現実に東アジア情勢は緊迫し、北朝鮮の状況も混迷している。この状況下で、防衛、外交方針を具体的に打ち出す保守派に対して、リベラル勢力は数十年前から更新されない言葉で教条的かつ精神論的な憲法9条擁護論を繰り返すだけで、現実に存在する国民の不安に対応しようとしない。

(中略)

 しかし、リベラル勢力はこうして相手をバカにするだけで自分たちは具体的な、現実的な処方箋(せん)を出せていない。これでは、実際に国防に不安を抱いている人々を安心させるどころか、「この人たちは自分たちの話を聞いてくれない」と心を離れさせるだけです。

 私見では、国家に軍事力が必要であることも、近隣諸国の反日ナショナリズムの問題も一通り認めた上で、保守派の掲げる「重武装化」や「強気外交」以外の現実的な選択肢を提示することが、リベラルの側にもっと必要だと思う。性急な改憲や重武装化以外の手段を講じた方が、国防に結びつくというアピールが足りていない。その背景にあるのは、リベラル勢力のある種の大衆蔑視だと僕は考えています。

 3氏の論説の詳細はそれぞれ直接お読みいただくとして、たいへん興味深いそれぞれの分析でしたです。

 ・・・

 さて当ブログとしてまとめです。

 「ネット右翼」か「ネット保守」か呼称はともかく、ネット上の支持率が田母神氏が群を抜いて突出していたことは事実です。

 この層を含め五十嵐氏は「自分の状況が厳しく将来に対する展望や希望を持てない人が、憎しみを他の人に向けており、現実逃避の面がある」と分析していますが、私としては宇野氏の「ネット保守層はこうした「かわいそうな若者」にとどまらない」との分析により近い考えであります。

 ここ数年の中国や韓国による一連の反日的行動、これらに対して「防衛、外交方針を具体的に打ち出す保守派に対して、リベラル勢力は数十年前から更新されない言葉で教条的かつ精神論的な憲法9条擁護論を繰り返すだけで、現実に存在する国民の不安に対応しようとしない。」との宇野氏の分析は正鵠を射ていると思います。

 実は私を含めてネット上で論じる論者の多くは「かわいそうな若者」というより「普通の中年」たちが少なくないのであり、「右傾化」というより単に理不尽な中国・韓国の反日的活動に対して「憤り」を持って、日本としてしっかりと対抗手段を講じるべきと考える国民が増えているのだと考えます。

 そして時事問題をネットで収集したり意見するネットユーザー層は「従軍慰安婦問題」しかり「南京大虐殺問題」しかり、ネットでの情報収集能力が高いため、これらの「問題」がいかに中国や韓国や日本の一部メディアにより事実を湾曲して「拡大」していったのか、よく知っている層なのであります。

 当然ながら、今回の都知事選では田母神氏の考えに一番親和性を見出したのでしょう。

 これがネット上の支持率が田母神氏が群を抜いて突出していたことの真の理由であり、結果61万票を越える票が彼を支持したのであると考えます。

 リベラル派の論客は「日本の右傾化」を憂いていますが、私は国民は「右傾化」などしていない、そうではなくネットの発達などにより、一部の国民のメディアリテラシー能力が高まったことでマスメディアの論じる「戦後平和体制」や慰安婦などの「歴史問題」に疑問を持てるようになった、そして自己が信じるところの主張を始めただけなのだと思います。

 田母神氏の台頭は、「大雪のせい」ではなく、そして「日本は右傾化した」のではなく、今まで情報量が少なくマスメディアの報道などを鵜呑みにし「沈黙」を余儀なくされていた有権者の一部が、ネットなどのツールの発達により情報収集能力を高め、本当の「事実」に気づいた層が着実に増えている証左なのだと云えましょう。




(木走まさみず)