木走日記

場末の時事評論

実に不愉快な朝日新聞の詭弁〜維新の会広告不掲載で「『選挙広告』となる恐れ」などと意味不明の屁理屈

 大阪維新の会朝日新聞紙面に掲載を申し込んだ大阪都構想の広告掲載を朝日側が説明なく見合わせたことを理由に、取材を拒否すると朝日新聞社に通告いたしました。

 この問題、瑣末な細かい話ではありますが、言論・表現の自由と新聞の公共性・公平性に関わるたいへん重要なテーマが含まれていると思われますので、少し掘り下げてみましょう。

 まずは当事者である朝日新聞の記事から。

維新、朝日新聞の取材拒否 都構想の広告掲載見合わせで

 大阪維新の会は28、29両日の朝日新聞紙面に掲載を申し込んだ大阪都構想の広告掲載を認められなかったことについて、担当者から直接説明がなかったことなどを理由に、29日、取材を拒否すると朝日新聞社に通告した。

 広告は「大阪都の設計図を一緒に創りませんか」としたうえで、「大阪都は最終的に住民投票で決定」とし、大阪都が実現しても(1)自治のまちはなくなりません(2)地域のお金は吸い取られません(3)大阪府大阪市の借金が押し付けられることはありません(4)増税されることはありません――と訴える内容になっている。

 大阪維新の会からは26日、27日分と28、29両日分について、それぞれ別の広告会社を通じて申し込みがあった。朝日新聞社は27日分については政党の政治活動を伝える広告として府南部向けの紙面に掲載した。28、29両日については扱いを保留。「堺市長選の投票日が差し迫った時期に、今回の選挙の最大の争点を記載している内容の広告を複数回掲載することは、投票を読者に呼びかける『選挙広告』となる恐れがある」と判断して掲載を見合わせることにし、27日、広告会社を通じて維新側に伝えた。

     ◇

 《大阪維新の会の話》 広告が掲載されなかった理由について、朝日新聞の広告の担当者から直接説明を受けることを求めたが、説明を受けられていない。そういう状況の中では取材は受けられない。
http://www.asahi.com/national/update/0929/OSK201309290063.html?ref=com_rnavi_arank

 広告内容を整理します。

大阪都の設計図を一緒に創りませんか」
大阪都は最終的に住民投票で決定」
(1)自治のまちはなくなりません
(2)地域のお金は吸い取られません
(3)大阪府大阪市の借金が押し付けられることはありません
(4)増税されることはありません

 うむ、都構想反対派が「堺市が埋没してしまう」とネガティブキャンペーンを展開していることを意識しての「(1)自治のまちはなくなりません」を柱とした大阪都構想の広告であります。

 で、大阪維新の会からは26日、27日、28日、29日の4日分の広告申し込みが朝日にありましたが、朝日新聞は27日の大阪府南部向けの紙面にのみ掲載、残りの日の掲載は説明無く見送ったわけです。

 で、朝日新聞側の言い分。

堺市長選の投票日が差し迫った時期に、今回の選挙の最大の争点を記載している内容の広告を複数回掲載することは、投票を読者に呼びかける『選挙広告』となる恐れがある」

 なんとも分かりにくいのですが、「投票日が差し迫った時期に」、「選挙の最大の争点を記載している内容の広告を複数回掲載することは」、「投票を読者に呼びかける『選挙広告』となる恐れがある」という理由から掲載を見送ったとするのが朝日新聞の言い分なわけです。

 この朝日新聞の記事だけを読むと、いくつかの重要な事実が触れられておらず、本件を極めて朝日新聞に都合のいい無難な内容にまとめているのですが、朝日新聞以外のメディアの報道から地味に事実関係を拾い出していきましょう。

 読売記事。

橋下氏、また朝日の取材拒否…政策広告掲載巡り
http://www.yomiuri.co.jp/election/local/news/20130929-OYT1T00777.htm?from=ylist

 読売記事では朝日記事ではまったく触れられていない本件に関わる法律、すなわち公職選挙法の説明があります。

 堺市選管によると、公職選挙法では、選挙期間中に候補者が掲載する新聞広告については、大きさ、回数などに厳格な定めがあるが、政党・政治団体の政策広告については定めがなく、選挙運動に当たらなければ掲載できるとしている。

 つまり選挙期間中でも政党・政治団体の政策広告については選挙運動に当たらなければ本来規制はないのです。

 で、朝日の「広告を複数回掲載することは、投票を読者に呼びかける『選挙広告』となる恐れ」という非常にあいまいな言い分ですが、これはもう詭弁(きべん)に近いことが他のメディアの動向を確認すれば理解できます。

 毎日記事。

堺市長選:橋下代表、朝日新聞の会見出席拒否
毎日新聞 2013年09月29日 21時59分(最終更新 09月30日 02時36分)
http://mainichi.jp/select/news/20130930k0000m010092000c.html

 この毎日記事では、毎日新聞社は直前の複数日に広告掲載したことを報じています。

 一方、毎日新聞社は本社の広告掲載基準に基づき、同様の広告を28、29両日付朝刊の大阪府南部向け紙面に掲載した。【重石岳史】

 当たり前ですが、政策の「広告を複数回掲載することは、投票を読者に呼びかける『選挙広告』となる恐れ」などの朝日の言い分は詭弁です、そのような曖昧模糊(あいまいもこ)の論理が成り立つならば選挙期間中は政策広告を連続で掲載することが不可能になります。

 最後に産経記事。

橋下氏、朝日記者の会見出席拒否
2013.9.29 23:44 [日本維新の会
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130929/elc13092921540005-n1.htm

 うむ、何のことは無い、橋下徹氏には朝日新聞の内部リーク「橋下嫌いの幹部が強引にキャンセルしたと聞いた」がもたらされていたのであります。

 橋下氏は内部告発の情報として、「橋下嫌いの幹部が強引にキャンセルしたと聞いた」と述べた。橋下氏と松井一郎氏は朝日新聞から説明がない限り、首長として取材は受けるが政務の取材は拒否するという。

 ・・・

 まとめです。

 日本新聞協会によれば、「新聞広告倫理綱領」に基き、新聞各紙はそれぞれ「新聞広告掲載基準」を持っています。

新聞広告倫理綱領

1958(昭和33)年10月7日制定
1976(昭和51)年5月19日改正

制定の趣旨

 言論・表現の自由を守り、広告の信用をたかめるために広告に関する規制は、法規制や行政介入をさけ広告関係者の協力、合意にもとづき自主的に行うことが望ましい。
 本来、広告内容に関する責任はいっさい広告主(署名者)にある。しかし、その掲載にあたって、新聞社は新聞広告の及ぼす社会的影響を考え、不当な広告を排除し、読者の利益を守り、新聞広告の信用を維持、高揚するための原則を持つ必要がある。
  ここに、日本新聞協会は会員新聞社の合意にもとづいて「新聞広告倫理綱領」を定め、広告掲載にあたっての基本原則を宣言し、その姿勢を明らかにした。もとより本綱領は会員新聞社の広告掲載における判断を拘束したり、法的規制力をもつものではない。
 日本新聞協会の会員新聞社は新聞広告の社会的使命を認識して、常に倫理の向上に努め、読者の信頼にこたえなければならない。
1. 新聞広告は、真実を伝えるものでなければならない。
1. 新聞広告は、紙面の品位を損なうものであってはならない。
1. 新聞広告は、関係諸法規に違反するものであってはならない。

http://www.pressnet.or.jp/outline/advertisement/

 で、このページに「新聞広告掲載基準」が21項目掲載されているのですが、注目は最終項:21番です。

21.以上のほか、日本新聞協会の会員新聞社がそれぞれ不適当と認めたもの。

 つまりです、どの広告を掲載するかしないか、その裁量は会員新聞社が完全に握っているわけです。

 従って本件での結論から言えば、朝日新聞が維新の会の政策広告を説明無しに掲載見送りにしたことは朝日新聞が「不適当と認めた」わけでその限り正当行為であると言えましょう。

 理由も単純明快、「橋下が嫌いだから広告はキャンセルした」で、いいではないですか。

 朝日新聞社というメディアの最もみっともない体質のひとつは、自らの報道姿勢がどんなに間違っていたとしても、後付の屁理屈を付けて必ず美化することです。

 今回もそうです、広告不掲載の理由を「広告を複数回掲載することは、投票を読者に呼びかける『選挙広告』となる恐れ」などと意味の通らない詭弁を弄して、かっこをつけています。

 実に不愉快なかっこつけです、いかにも朝日新聞らしいです。



(木走まさみず)