木走日記

場末の時事評論

国産養殖エビの挑戦〜妙高雪エビの事例

 食品のトレーサビリティ(traceability)すなわち追跡可能性(ついせきかのうせい)をキーワードに「日本の食の安全」について考察するシリーズの第三回です。

■「日本の食の安全」について考察するシリーズ

第一回 食の安全が守られていない重大な事実を報道できないこの国のマスメディアのチキン(臆病)な体質
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20130723

第二回 輸入養殖エビが「薬付け」と揶揄される理由〜化学物質や抗生物質まみれで育てられ最後に合成添加物で着飾って日本に輸出される養殖エビ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20130731

 お時間が許す読者は上記記事をお読みいただきたいですが、当記事だけでも読み物としてお楽しみいただけます。

 さて、日本の食の安心・安全を考える上で、特に重要と思われるものに食品のトレーサビリティ(traceability)がしっかり担保されているのかという問題があります。

 トレーサビリティとは日本語では追跡可能性(ついせきかのうせい)ともいいます、つまり特に食品分野で物品の流通経路を生産段階から最終消費段階までしっかり追跡が可能なことです。

 原料や産地が明確になっており、どこでどのような加工がほどこされてどのような添加物が含まれているのか、すべてが消費者に明確になっているか、またその情報の信頼度も高いか、偽装表示、産地偽装問題などがないかも含まれます。

 日本の場合、食料品や食料加工品の原料の大半が輸入に頼っていますので、食品によっては原産国の栽培現場や養殖現場にまで遡ってしっかりトレーサビリティを担保しなければ、安全は守ることができないわけです。

 さて第一回では、「日本の食の安心・安全」の目を覆いたくなる悲惨な現状を、それをまったく報道することが出来ない、この国のマスメディアのチキン(臆病)な体質について、ファストフードの雄「日本マクドナルド」の中国産鶏肉問題と某100円寿司の寿司ネタ問題のふたつの事例を示して取り上げてみました。

 第二回では、寿司ネタの中で日本が世界最大の輸入国となっている日本人の大好きなエビについて、そのほとんどが東南アジアを主とする輸入養殖エビですが、その食の安全・安心、トレーサビリティはまったく担保されていないこと、多くの養殖エビが高度集約養殖という過度のストレス環境の中で、大量の化学飼料や抗生物質を投与され続けて生産、そして日本に輸出するさいに、長期の輸送でも黒付くことなく色があせないために合成添加物にたっぷり付けられている事実、つまり、化学物質や抗生物質まみれで育てられた養殖エビが最後に合成添加物で着飾って日本に輸出されていることを取り上げて来ました。

 さて今回は「日本の食の安心・安全」についてさらに一歩踏み込みたいと思います。

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■「都市に住む消費者」ができるふたつのこと

 8月9日付け読売新聞紙面にて、「日本の食の安心・安全」に関する記事が掲載されています、環境・農業・衛生工学が専門の松井三郎京都大学名誉教授のたいへん興味深い論考です、ネット上リンクがないので、論考の後半部分を抜粋してご紹介します。

 (前略)

 安全管理には、もっと自信を持って良い。汚染された水や土壌、農薬のずさんな管理など中国の食品問題は常に指摘されている。中国食品の安全性に関しては、当の中国人ですら疑っている。安全対策は、輸入時の食品検査の徹底などで対応すべきだが、産業政策的には、これを活用して日本の競争力を高められる。
 高付加価値を実現する一つの方策として、安全性を高めた高品質な農産物作りがある。農薬と化学肥料を徹底して減らし、安全な有機肥料を活用する。つまり「プロバイオティクス環境農法(人体に良い影響を与える乳酸菌、納豆菌など微生物を利用する農法)」の開発をもっと進めることだ。畜産や魚の養殖では微生物を使って、抗生物質の使用を中止すべきだ。欧州やシンガポールではすでに中止している。
 農産物や加工食品を高度に安全管理してブランド力を高めることが、競争力強化に必要だ。ところで都市に住む消費者は日本農業強化に何ができるだろう?
 安全な農産物を生産している農家を確認して、商品を購入することだ。安い輸入商品の品質をもう一度確認する習慣を持つことである。日本の食と農業、環境は国民が一体となって守らなければならない。

 13年8月9日付け読売新聞紙面13面記事 農業競争力の強化策「減反やめ品質で勝負」より 抜粋

※松井三郎氏
京都大学名誉教授。北海道大学大学院客員教授芝浦工業大学客員教授。専門は環境・農業・衛生工学。69歳

 「日本の食の安心・安全」に関する松井教授のたいへんに示唆に富む論考でありますが、「都市に住む消費者」ができること、トレーサビリティをキーワードに読み解けば教授は主に2つのことを指摘しています。

 1.「安全な農産物を生産している農家を確認して、商品を購入することだ」

 トレーサビリテイがしっかりと担保されている、つまり生産者や生産方法(農薬使用の有無など)や加工方法を消費者がさかのぼって知ることができる食品を選ぶべきと述べています。

 2.「安い輸入商品の品質をもう一度確認する習慣を持つことである」

 輸入商品がなぜ安いのか、その品質をしっかり確認する習慣を消費者は持つべきである、という指摘です。

 例えば前回取り上げた輸入養殖エビに関すれば、教授は「畜産や魚の養殖では微生物を使って、抗生物質の使用を中止すべきだ。欧州やシンガポールではすでに中止している」と、できれば欧州やシンガポールのように「抗生物質の使用を中止すべき」と指摘しています。



■「安い輸入商品の品質をもう一度確認する習慣を持つこと」は不可能な業者の隠ぺい体質
 さて「安い輸入商品の品質をもう一度確認する」、これはすなわち消費者への情報開示なのでありますが、食の安心・安全の観点で言えばこれは消費者が商品を選択する上で必要な情報です。

 輸入養殖エビであっても良心的で安全な生産を行っているところもたくさんあります。

 しかし例えば回転寿司チェーンの寿司ネタには、このトレーサビリテイが消費者に全く担保されていません。

 ここが問題なのです。

 前回も指摘しましたが、「その食品が安い理由を理解した上で、それでもその食品を消費者が選択するとなれば、それは消費者の自由」なのですが、回転寿司の寿司ネタがどこでどのような抗生物質が投与される養殖技術で育てられ、どのような加工が施され残留食品添加物は何種類どのようなものがあるのか、これらの情報が消費者にはまったく与えられていないのです。

 これでは「安い輸入商品の品質をもう一度確認する習慣を持つこと」は不可能です。

 食の安全を守る食品衛生法の精神を尊べば、すくなくとも業者はこれらの情報を消費者側が求めるのならば、積極的に情報を開示すべきです。

 ここに週刊文春の記事があります。

実名調査!

スシロー、かっぱ寿司くら寿司、元気寿司、銚子丸…
「激安ニセモノ食品」が危ない
(2)回転寿司チェーン編

▼サーモンは人工着色剤できれいなオレンジに ▼ウニは身崩れ防止のため添加物 ▼甘えびは保水剤でプリプリに ▼穴子は中国産や南米産のウミヘビが代用魚
http://shukan.bunshun.jp/articles/-/2924

 記事の内容はともかく、週刊文春取材班は主な回転寿司チェーン12社にアンケート調査を実施しているのです。

 代用魚の使用や寿司ネタの原産地、カット加工されている寿司ネタの種類、残留添加物の内訳など、食のトレーサビリテイの開示を求めたのです。

 だが、アンケートに回答したのは、「海鮮三崎港」、「元気寿司・すしおんど」、「すし銚子丸」の3社のみでした。

 回転寿司市場の約6割を占めるトップスリーの「スシロー」、「かっぱ寿司」、「くら寿司」は、揃って回答を拒否しています。

 食材のトレーサービリティが消費者側に隠ぺいされてしまう、ここにこの問題の本質があります。

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■国産養殖エビの挑戦〜妙高雪エビの事例 

 最後に健全な取り組みの一例を取り上げておきます。

 ここに日本初の屋内型生産システムとしてエビの国内養殖にチャレンジしている試みがあります。

妙高ゆきエビ
http://yukiebi.sakura.ne.jp/

 うたい文句は「妙高の雪解け水と富山の海洋深層水が生むエビ」だそうです。

 「世界初の養殖施設」にて「日本初の屋内型生産システム」で農林水産大臣賞受賞の実績を誇っています。

日本初の屋内型生産システム
養殖施設は農林水産大臣賞受賞の実績を誇る「屋内型エビ生産システム」を採用。 特定病原菌を持たない稚エビを屋内で外部からの病原体侵入を防ぎながら大切に育てます。育成に必要な水はミネラル分豊富な海洋深層水妙高山の清涼な雪解け水を使用。
妙高ゆきエビは最先端の技術を導入し、徹底管理のもと育成しています。

 驚くことに数々の試行錯誤のうえで、「薬品、抗生物質、保存剤、保水剤等は一切使用しておりません」と言い切ってくれています。

美味しさの追求

抜群の鮮度

活〆されたエビは隣接する加工場で迅速に滅菌洗浄・真空包装・瞬間凍結の工程を経て商品化されます。
品質重視の妙高ゆきエビは冷凍品でも一度の解凍であれば生食も可能です。

豊富な旨味成分と良質な食感

エビを泳がせながら栄養価の高い餌を与えることで、豊富な旨味成分を形成すると同時に食感を良質にします。
また、育成環境をより自然に近い形にすることで、エビに与えるストレスを軽減させ、旨味の損失を防ぎます。

殻まで食べられる

加熱することにより頭から尻尾まで殻ごと全て食べることができます。 理由は淡水での養殖とこのエビのサイズならではによるもの。
厚すぎず、薄すぎないエビの殻は調理した時、絶妙な食感と旨味を演出します。

独自のエサ開発

独自に開発した栄養価の高い国産の餌を使用しています。
エビが泳いで育つという特徴を踏まえ開発された餌は、エビの旨味成分を高める大きな理由となります。

エビ本来の味

妙高ゆきエビは水産物特有の「臭み」がありません。これは、育成水槽内を毎日清掃し、常に良質な環境を保つ為です。
これにより、雑味の無いエビ本来の味を楽しんでいただけます。

薬品の不使用

薬品、抗生物質、保存剤、保水剤等は一切使用しておりませんので、安心してお召し上がりいただけます。
また、これら薬品が与える「味」への影響も一切ございません。

http://yukiebi.sakura.ne.jp/about_us/index.html

 すばらしい試みです、「日本の食の安全・安心」対する日本の高い技術をもって実に建設的にチャレンジしている、これは好事例でありましょう。

 山国である新潟の妙高の地で世界初の技術で「薬品の不使用」の安心のエビを養殖する、トレーサービリティが完全に担保された純国産養殖エビなのであります。

 当然ながら単価は輸入養殖エビよりも高価ですので、ビジネスとしては苦戦しているようです、私が取材して教えていただいた情報によれば、高級食材として一部から評価いただいているが知名度がまだまだで黒字化にはいたってないようです。

 このような有益な取り組みは応援したいですね、以下でネット販売されています、、興味のある読者は是非ご試食あれ。
(別に当ブログは「妙高ゆきエビ」さんからお金をいただいてはいません(苦笑)ので、念のため誤解のなきよう)。

寿産業
http://item.rakuten.co.jp/kotobukis/c/0000000173/

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 今回のまとめです。

 この国の食の安心・安全を保つために私達消費者ができること、それは松井三郎京都大学名誉教授が指摘するように、ひとつには、トレーサビリティをしっかり担保してくれる良心的な国内の生産者を応援すること、だと思います。

 そしてもちろん、日本は多くの食品を輸入に頼っていますから、安い輸入品を食さないことは不可能です、そこで「安い輸入商品の品質をもう一度確認する習慣を持つこと」が、生活文化として今後必要になるわけです。

 そのためにはしっかりとした情報開示に努める、そのような食品業者の積極的な協力が必要になることでしょう。

■「日本の食の安全」について考察するシリーズ

第一回 食の安全が守られていない重大な事実を報道できないこの国のマスメディアのチキン(臆病)な体質
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20130723

第二回 輸入養殖エビが「薬付け」と揶揄される理由〜化学物質や抗生物質まみれで育てられ最後に合成添加物で着飾って日本に輸出される養殖エビ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20130731

第三回 国産養殖エビの挑戦〜妙高雪エビの事例
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20130809

(了)



(木走まさみず)