木走日記

場末の時事評論

原発事故で崩壊する日本の食品の安全神話〜正確な情報公開に努めて少しでも風評被害を抑制することは東京電力・日本政府の責任

 5日付け読売新聞記事から。

汚染水1万トン超、海に放出…やむを得ない措置

 東京電力は4日午後7時過ぎ、福島第一原子力発電所で高い濃度の放射性物質を含む汚染水の貯蔵先を確保するため、低濃度の汚染水約1万1500トンの海への放出を始めた。

 5日間かけて流す。原子炉等規制法第64条にもとづく緊急措置で、経済産業省原子力安全・保安院は「危険を回避するためのやむを得ない措置」として了承した。東電は「健康への影響は小さい」としている。今回の事故で汚染水を意図的に海へ放出するのは初めて。

 放出するのは、4号機南側にある集中廃棄物処理施設内にたまった水約1万トンと、現在は冷温停止している5、6号機のタービン建屋周辺の地下水約1500トン。50メートルプール6〜7個分に相当する。

(後略)

(2011年4月5日01時28分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110404-OYT1T00923.htm

 うむ、東京電力は策に窮してついに低濃度の汚染水約1万1500トンの海への放出を始めました。

 同じく読売新聞記事から。

汚染水封じ込め難航、海中に鉄板の囲い設置へ

 東京電力福島第一原子力発電所2号機の取水口近くにある電源ケーブル用トンネルの立て坑付近から、高濃度の放射性物質を含む汚染水が海に流出している問題で、東電は4日、汚染水の拡散を防ぐため、流出場所のすぐ近くの柵に鉄板を立てかけて海中に囲いを作る作業を5日から始める方針を明らかにした。

 その外側に水中カーテン「シルトフェンス」を設置する工事も、早ければ今週中に始める。汚染水の流出は4日も止まらず、止水作業は難航している。

 東電は3日、水を吸うと膨らむ高分子吸水材などを電源用トンネルに投入したが、流出量に変化が確認されなかった。

(後略)

(2011年4月5日08時47分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110405-OYT1T00145.htm

 福島第一原子力発電所2号機からの高濃度の放射性物質を含む汚染水が海に流出している問題では汚染水封じ込めに難航しています。

 東京電力は高濃度の放射性物質を含む汚染水流出を阻止できずにいる中で、計1万1500トンの低濃度の汚染水を海に放出し始めたわけですが、これは事実上、海に放射能汚染を垂れ流しているわけで東京電力の施策に対する内外の批判は強まることが予想されます。

 5日付け読売新聞記事から。

ロシア懸念「海水汚染、我が国にも影響」

 【ニューヨーク=柳沢亨之】ロシアのイワノフ副首相は4日、米外交問題評議会で講演し、福島第一原発からの放射性物質流出について「海水が汚染されれば、我が国に影響するのは間違いない」と懸念を示した。

 副首相は、ロシア当局のこれまでの調査では同国上空や海域の放射能汚染はないとした上で、「海水の汚染により、我々が福島の100マイル(約160キロ・メートル)沖で取る魚は非常に危険になる」と語った。

 副首相はまた、「(露米の)専門家は日本側の協力態勢に不満だった」などと述べ、事故状況を海外の原子力専門家に開示すべきだったとの見解を示した。

(2011年4月5日10時40分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110405-OYT1T00296.htm

 ロシアのイワノフ副首相は「海水の汚染により、我々が福島の100マイル(約160キロ・メートル)沖で取る魚は非常に危険になる」と発言、また事故状況を海外の原子力専門家に開示すべきだったと日本側の情報公開の遅れに不満を表明しています。

 東電の放射能漏れ拡大を受けて5日の東京株式市場で東京電力の株価が急落、60年ぶりに上場来安値を更新します。

東電、上場来安値を更新 放射能漏れ拡大懸念で

 5日の東京株式市場で東京電力の株価が急落、一時前日比66円安(15%安)の376円まで下げ、1951年に付けた上場来安値393円を下回った。福島第1原子力発電所放射能漏れの拡大に対する懸念から売りが集中した。

 東電は4日、福島第1原発から低濃度の放射性物質を含む汚染水の海への放出を開始。被害の拡大で将来の賠償負担が一段と重くなるとの見方が強まり、個人などの売りが膨らんだ。

(後略)

http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819596E2E7E2E2E48DE2E7E2E6E0E2E3E39F9FE2E2E2E2

 海産物の汚染も広がりを見せ始めています、朝日新聞記事から。

茨城沖コウナゴに放射性ヨウ素 野菜の基準の2倍

茨城県北茨城市の平潟漁協は4日、市の沖で採ったイカナゴ(コウナゴ)から1キロあたり4080ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたと発表した。食品衛生法では、魚や肉には、放射性ヨウ素の暫定基準を定めておらず、厚生労働省は基準づくりを検討する方針。

 このコウナゴからは放射性ヨウ素のほか、同セシウムが暫定基準の500ベクレルに近い447ベクレルを検出した。

 同漁協は漁の再開にあたり、1日までにコウナゴなど5種類を試験的に採取。厚労省はうちコウナゴについては野菜類(根菜、芋類を除く)の2千ベクレルと比べて高いことなどから食べないよう助言した。県によると、県沖ではコウナゴ漁をしておらず、市場に出回ることはないとしている。

 厚労省大塚耕平副大臣は4日の会見で「想定しがたい検査結果だ。速やかに対応したい」と述べた。

(後略)

http://www.asahi.com/national/update/0404/TKY201104040370.html

 食品衛生法では、魚や肉には、放射性ヨウ素の暫定基準を定めておらないとのことですが、茨城沖コウナゴに放射性ヨウ素が野菜の基準の2倍に達した以上、政府は魚や肉にも安全基準を早急に設定し、あわせて今後も徹底した監視と即時の情報公開をする必要があります。

 ここ数日で状況は明らかに変わりました。

 世界は日本国民への同情とは別に、放射性物質を垂れ流し続ける東京電力および日本政府に対し大いなる不信感を隠さなくなりました。

 現実の海産物や農産物の放射能汚染も報告され始め、「日本の食品は高級で安全である」といった日本の食品の安全神話が音を立てて崩れ始めています。

 読売新聞記事から。 

「あえて今選ばない」日本食、アジアで敬遠

 日本食の人気が高いアジアで、福島第一原子力発電所の事故が波紋を広げている。

 放射性物質に対する心配が強く、日本食レストランからは客足が遠のいている。

 アジアの日本食は当面、苦戦を強いられそうだ。

 農林水産省によると、2010年に日本から輸出された農林水産物のうち、アジア向けが73・6%だった。

 国・地域別でトップの香港では、地震発生直後、日本食材の買いだめが起こった。百貨店「香港そごう」では、乳児用粉ミルクから生鮮食品に至るまで、日本製の食品が普段の約2倍売れたという。イオンストアーズ香港の店舗でもコメなどの売り上げが一時的に増えた。

 その後、原発事故がなかなか収束せず、香港市民は日本食や食材を敬遠する動きを強めている。

 外食店の業界団体「餐飲聯業協会」の黄家和会長によると、地震発生後、約600店の日本食店の売上高は、平均して2割減少した。日本居酒屋の店員は「お客さんは普段の3分の2くらい。特に香港人が減っている」と浮かない表情だ。

 日本食への風当たりは、東南アジアでも強い。シンガポールで40店の日本食レストランを運営するRE&Sエンタープライゼスによると、日本で放射性物質の検出が報道されて以降、全体の売り上げが前年同期に比べ20%程度落ち込んでいる。日本から空輸する鮮魚や野菜などは大阪を中心とする西日本産だが、「利用者の間に『あえて今、日本食を選ばなくてもいい』という雰囲気が出ている」(購買担当者)という。

(2011年4月5日09時14分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110405-OYT1T00179.htm?from=top

 この日本食や日本の食材を敬遠する動きは、東電が汚染阻止に成功するまでは広まり続けることでしょうし、たとえ阻止に成功しても、一度失った信頼は長い間回復することは難しいことでしょう。

 ことがここに至った以上、日本政府、東京電力は一日も早く汚染漏れを食い止めることに全力を尽くすとともに、長期化を覚悟して放射性物質の情報の精度と内容を充実させ広く日本国民と世界に公開することが極めて重要であります。

 たとえば、もはやその時々の外部被ばくを考えるだけでは不十分であり、これまでに累計でどれほど放射線にさらされたと考えられるか積分した値が必要になるでしょうし、それは今後、どれほどさらされる可能性があるか、将来の予測値も考える必要がでてくるでしょう。

 また食物や呼吸などによって取り込む内部被ばくももはや計算に入れるべきであります。

 海外では大気中の放射性物質の分布予測シミュレーションが話題になっています。

 下のシミュレーションはドイツの気象機関が作成したものです。

http://www.dwd.de/bvbw/generator/DWDWWW/Content/Oeffentlichkeit/KU/KUPK/Homepage/Aktuelles/Sonderbericht__Bild5,templateId=poster,property=poster.gif

 これらのシミュレーションの基礎データは日本の気象庁が情報提供しているものです。

 政府は今日(5日)になって気象庁に対し日本でも予測シミュレーションを公開するように指示を出しました。

 これ以上、情報公開で後手を踏んではいけません。

 もはや日本産品への風評被害は避けることはできないし、このネット社会、情報化社会では正確な情報開示こそが根拠の無い憶測や風評の拡散を抑制する、地味ですがただひとつの施策であることを日本政府・東京電力は真摯に考えるべきです。

 今回の原発事故で残念ながら日本の食品の安全神話は崩れ始めました。

 また外国人の海外脱出もとどまるところがなく、日本への外国人観光客も激減しています。

 信頼の回復には長き時間が掛かることでしょう。

 正確な情報公開に努めて少しでも風評被害を抑制することは東京電力・日本政府の責任です。

 それが日本国民と世界の国々に対する最低限の責任だと考えます。



(木走まさみず)