木走日記

場末の時事評論

原発避難地域の町工場に対する行政府の無策

 7日に放送されたNHKのクローズアップ現代には考えさせられました。

クローズアップ現代
2011年 4月 7日(木)放送
町を失いたくない
 〜福島・浪江町 原発事故の避難者たち〜
http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/yotei/index.cgi

 福島県浪江町は、福島第一原発から20キロ以内の避難地域に指定されているため住民約二万人の殆どが今も避難生活を続けています。

【総合テレビ】20:00〜20:45
地震津波、そして、原発事故が襲った福島県浪江町。住民約二万人の殆どが福島第一原発から20キロ以内に暮らしていたため、いつ終わるともしれない避難生活が続いている。未だ行方不明の人々。放射性物質のため、救助にも、遺体確認にも行けないことを悔やむ人々。町を救うためにと、原発の復旧作業に向かう人。再び町に帰る日まで、町民たちのつながりを守ろうと試みる人々……。原発に対する立場や考えは様々だが、未曾有の苦難に直面し「故郷・浪江町を決して失いたくない」という思いで堅くつながる人々を通して、原発事故に直面した地元の町の今を追う。

 番組は、地震津波、そして、原発事故と3重の被災地である浪江町住民の過酷な状況を、原発事故以来、放射性物質のため、救助活動も遺体確認も放棄され続けていることなどを通じて丁寧に伝えています。

 ・・・

 私が考えさせられたのは番組の中で紹介されていた一人の町工場経営者の話です。

 42才のその経営者は従業員5人の小さな工場を浪江町で営んでいましたが、今は父母、妻、子ども2人、そのほかの親族と16人で避難生活を送っています。

 3月末の決算期を迎えて、操業ももちろんかないませんし、お客企業も多くが被災しておりすで納品した代金もお客から入ってきません、資金繰りも大変厳しいのが画面からひしひしと伝わってきます。

 そんな中でばらばらに避難している5人の従業員(うち何人かは家を津波で流されているとのこと)の生活を気遣う男性は、せめて従業員の生活を少しでも助成できないかと役場を夫婦で尋ねます。

 ※経済産業省は、平成23年3月11日に起きた東日本大震災によって被災した中小企業へ初動対策として同日、関係機関へ特別相談窓口を設置しています、窓口は、全国の日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、信用保証協会、商工会議所、商工会連合会、中小企業団体中央会中小企業基盤整備機構支部及び経済産業局に設置され、被災した中小企業の相談などを受けているわけです。東日本大震災は広域災害として広範囲に甚大に被害が拡大され、激甚災害法に基づく「激甚災害として指定」され、経済産業省では、3月12日、被災中小企業対策として金融支援、優遇措置などを公表しました。

 しかるに、番組ではこの夫婦は、「地震津波」ではない「放射能」での避難は対象にはなっていないと支援を断られてしまうのです。

 役場は逆に、不況対策の中小企業助成制度を活用すれば従業員の給与の6割が助成されると、そちらを申請するように夫婦に提案します。

 不況対策の中小企業助成制度ではあくまで従業員5人が対象になりこの経営者夫婦は助成対象外なのですが、夫婦は他の選択肢がないのもあってこちらを申請しようとします。

 そうすると、申請には、過去の賃金台帳や出勤簿などたくさんの提出書類が必要であると言われます。

 着の身着のままで避難してきたこの経営者はそれらの書類はすべて工場にまで取りに行かなければそろえません、放射能で避難してきたこの経営者にはあまりに事務的で酷な要請であります。

 横で奥さんが涙を流している中、男性は黙りこくります。

 避難所に戻って、男性は決死の覚悟で「書類を工場に取りに戻る」と家族に話しますが、父母などに強く止められ結果、申請を断念せざるを得ませんでした。

 ・・・

 一点目。

 激甚災害に「地震津波」は含まれているが、「放射能」避難は含まれていないとの杓子定規な対応は、とても納得ができませんでした。

 たしかにこの男性の工場は「地震津波」によって物理的に壊れてはいませんが、原発事故によって発生した「放射性物質」により政府により避難させられていること、いつまでに復帰できるかまったくめどがたっていないこと、事実上生活基盤が被災していると言う点では、地震津波による「放射性物質」の飛散も、激甚災害に指定されて当然ではないでしょうか。

 もし前例がないことから由来する法の不備ならば、政府はすぐに早急に改正するべきです。

 二点目。

 きのみきのままで放射能避難地域から避難してきた経営者に、出勤簿や賃金台帳などを平時のように事務的に要求するのは、あまりにも理不尽な役所仕事であり、納得がいきません。

 放射能に汚染されている工場に取りにいけとでも言うのでしょうか。

 激甚災害の特例措置を講じるべきです。

 津波による書類流失、地震による会社崩壊、放射能による立入禁止、このような、激甚災害により必要書類が用意不能な場合は、例えば自治体が避難者及び事業所に発行する「被災証明書」があれば、やはり特例的に限度額を設けて、書類不備に目をつむり助成すべきです。

 あまりにも杓子定規な対応に画面をみていて怒りすら覚えました。

 政府は被災地の中小企業の現状を直視すべきです。

 そして今すぐにその硬直した諸制度を改正し実効性のあるかつ迅速な支援を行うべきです。



(木走まさみず)