輸入養殖エビが「薬付け」と揶揄されている理由〜化学物質や抗生物質まみれで育てられ最後に合成添加物で着飾って日本に輸出される養殖エビ
食品のトレーサビリティ(traceability)すなわち追跡可能性(ついせきかのうせい)をキーワードに「日本の食の安全」について考察するシリーズの第二回です。
■「日本の食の安全」について考察するシリーズ
第一回 食の安全が守られていない重大な事実を報道できないこの国のマスメディアのチキン(臆病)な体質
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20130723
お時間が許す読者は上記記事をお読みいただきたいですが、当記事だけでも読み物としてお楽しみいただけます。
さて、日本の食の安心・安全を考える上で、特に重要と思われるものに食品のトレーサビリティ(traceability)がしっかり担保されているのかという問題があります。
トレーサビリティとは日本語では追跡可能性(ついせきかのうせい)ともいいます、つまり特に食品分野で物品の流通経路を生産段階から最終消費段階までしっかり追跡が可能なことです。
原料や産地が明確になっており、どこでどのような加工がほどこされてどのような添加物が含まれているのか、すべてが消費者に明確になっているか、またその情報の信頼度も高いか、偽装表示、産地偽装問題などがないかも含まれます。
日本の場合、食料品や食料加工品の原料の大半が輸入に頼っていますので、食品によっては原産国の栽培現場や養殖現場にまで遡ってしっかりトレーサビリティを担保しなければ、安全は守ることができないわけです。
さて前回では、「日本の食の安心・安全」の目を覆いたくなる悲惨な現状を、それをまったく報道することが出来ない、この国のマスメディアのチキン(臆病)な体質について、ファストフードの雄「日本マクドナルド」の中国産鶏肉問題と某100円寿司の寿司ネタ問題のふたつの事例を示して取り上げてみました。
今回はその中で日本が世界最大の輸入国となっている日本人の大好きなエビについて、その食の安全について集中的に検証していきたいと思います、どうか最後までお付き合いください。
■養殖エビの世界最大の輸入国ニッポン
お寿司やてんぷらなどの和食料理に、エビチリやエビ塩そばなど中華料理に、ピザやグラタンやパスタなどイタリアンなど西洋料理にと、日本人は本当にエビ料理が大好きなわけですが、その大きな需要を満たすために消費の92%を輸入に頼っています。
統計地図 食料品
エビの漁獲量トップ10と日本の輸入先 より作図
http://www.teikokushoin.co.jp/statistics/map/index06.html
ご存知の通り日本は世界最大の水産物輸入国ですが、年間1兆3700億の総輸入額の中でエビおよびエビ調製品が17%を占め輸入品目のトップとなっています。
水産庁資料より 作図
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h22_h/trend/1/t1_2_1_2.html
ご覧のとおり毎年2300億円ものエビを輸入している日本なのですが、さてそのエビの輸入国の内訳ですが、東南アジアと南アジアに集中しています、特にベトナム、インドネシア、タイ、インド、中国の5カ国からの輸入で七割を占めています。
水産庁資料より 作図
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h22_h/trend/1/t1_2_1_2.html
天然物も中国などからはわずかに含まれますが、この輸入エビの大半は養殖エビであります、そしてご覧のとおり近年ではベトナム産、インドネシア産のおされて三番目に落ちましたが、かつては養殖エビといえばタイ産でありました。
タイにおけるエビ養殖を歴史的にしっかり検証すれば、東南アジアにおけるエビ養殖の実態とその問題点が理解できることでしょう。
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■タイにおけるエビ養殖を歴史的に検証しておく
70年代までのタイのエビ養殖は、他のアジア各国と同様、ほとんどがトロール漁による天然物の漁獲でありました。
しかし、過度の漁獲の結果漁獲量は激減し、タイだけではないのですが、いくつかの海域でエビのトロール漁は全面的に禁止されてしまいます。
その後、80年代において、円高をきっかけとした日本のエビ需要の急増とエビ養殖技術の進歩によって、日本への供給は増大に転じます。
タイにおけるエビ養殖業の発展は、日本の技術が台湾のエビ養殖業者を経由してタイに伝播しました。
というのも台湾は一時日本にとって最大のエビの輸入国となるほどの生産力を持っていたのですが、後で詳細を触れますが高濃度養殖による養殖池の汚染が原因となり、廃れてしまったのです(これも後で触れますが現在ではタイがまさに養殖地汚染により生産高を急落させています)。
台湾から養殖技術と資本がタイに持ち込まれたその結果、多くの農民がエビ養殖業に転じ、96年には養殖エビはタイにおける全生産量の69%を占めるまでの急成長を遂げました。
最初はバンコク市内とその周辺から起こったエビ養殖業ですが、その後、南部の沿岸地域を中心に大きな発達を見せます。
エビの養殖には淡水と海水が混在した汽水域が適しているために、養殖池の建設のために多くのマングローブ林が伐採された結果、南部沿岸地域では、様々な問題が深刻化しました。マングローブ林は養殖池を作ることになるとその場所は鉄条網で囲いこまれ、自給のための魚介類を採っていた住民や、そこから漁に出る漁民は海岸に出られなくなるという経済的問題が生じました。
同時に自然環境問題が発生しました、マングローブは防風林・土留めとしての働きを担っていたため、それが失われることで熱帯の台風がもたらす高潮や海岸侵食の進行による洪水など、地域住民は大きな自然の脅威にさらされることとなりました。また、養殖池から塩分と化学肥料や抗生物質が混ざった排水が輩出されることから、周辺の水田や果樹園で深刻な被害(塩害)が発生し、海水の水質汚染も深刻化しました。さらに、マングローブ林が急激に減少することにより、海洋生物の生息地の減少や産卵地の減少など、漁業資源を含む沿岸生態系にも大きな影響が出るようになりました。
こうした被害を憂慮したタイ政府は、ついに91年以降、マングローブ林内でのエビ養殖の規制を強化することになります。
この動きに加え、実はひとつの養殖池は生産寿命が平均5年と短いので、沿岸部において適切な場所が残り少なくなったこともあり、90年代半ばより、養殖池は沿岸から内陸へと移って行くことになります。
しかし、やがて内陸部でも同様に周辺の水田や果樹園の土壌がくみ上げた海水による塩や化学物質・抗生物質で汚染され、大きな被害をもたらす結果となってしまいます。
エビの養殖は粗放養殖と集約養殖の2種類があります。
伝統的な粗放養殖はほとんど環境負荷が掛からない原始的な養殖手法です、養殖するエビの単位面積当たりの密度は自然に近く、したがって合成飼料なども与える必要なく、ストレスも無くエビは育ちますので抗生物質も投与されません、ほとんど放置されている状態でエビは成長します。
しかし粗放養殖では生産量は一定せずビジネスとしては成立しにくいということから、タイのエビ養殖は主に集約養殖が行われています。
これは単位面積当たり高密度のエビを大量に養殖しますので、成長を促すために大量の合成飼料を投与します、またエビのストレスを緩和し病気の発生を食い止めるためにやはり大量の抗生物質をエサにまぜて投与します。
これらのエサや化学物質や抗生物質は大量に食べ残されて池の底にエビの糞とともに蓄積されて有害なヘドロとなって蓄積されていきます。
先ほどタイではひとつの養殖池の生産寿命が平均5年と短いと述べましたが、その理由がこれら有害物質の蓄積と拡散にあります。
5年ほどで養殖池は放置されます、しかもその汚染された跡地では農作も不可能です、文字通り半永久的に放置されているのです。
ここに実際にタイでエビ養殖事業に関わった日本人のブログサイトがあります。
彼は養殖エビの安全性について「人体に悪影響を及ぼさないはずがない」と言い切っています。
失礼して該当箇所を抜粋してご紹介。
(前略)
最後に、実際にこの事業に携わった経験者として、輸入エビの安全性について話したい。
事業者の誰もが大きく育て、高く売りたいと考えており、水揚げする時というのは、ウイルス汚染や病気でエビが死にかけ始めた時である場合が多い。また、詳しいことはよく分からないが、エサ小屋を覗いてみると、いかにも怪しげな除草剤、抗生物質、栄養剤、抗菌剤などの化学薬品の袋が置かれ、状況に応じ投与されているということであった。これが人体に悪影響を及ぼさないはずがない。
今、ブラックタイガーはインドとインドネシアからの輸入が大半となっているが、昔日の勢いはなく、?ウイルスの蔓延?ホワイトスポット病?エビのストレスなどの理由により、ブラックタイガーの養殖自体が崩壊危機に直面しているらしい。代わりに、小型だが病気に強いバナメイ(白えび)がエビ養殖の主役に躍り出たらしい。地元民がマングローブを伐採しエビ養殖事業に転用したことによる水害、土砂流出、海洋資源枯渇などの自然環境破壊の問題を含め、エビ最大輸入国の日本はそろそろ飽食の文化を見直す時期が来ていると思う。
(後略)
東南アジアのおもしろ話12-ブラックタイガー-
http://www.daiichi-fk.co.jp/jinji/entry/42586.html
かつて台湾のエビ養殖が環境汚染により衰退したように、今タイのエビ養殖がおもに環境汚染等の理由から衰退して、ベトナムにとってかわっています。
私達日本人が輸入しまくっている養殖エビは、今検証したように生産地の環境に致命的な汚染を残しています。
そして一つの国のエビ養殖が衰退したら違う国から輸入するという、何の継続性も担保されていないやがて破綻するであろう愚かな経済効率だけ優先の消費国日本の商社主導のでたらめな輸入が繰り返されているのです。
食のトレーサビリティの観点で言えば、生産国の養殖池で、化学飼料と抗生物質によりすでに「薬品付け」の状態である、これが輸入養殖エビの実態です。
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■その食品が安い理由を理解した上で、それでもその食品を消費者が選択するとなれば、それは消費者の自由
私達が安い100円寿司で食べている寿司ネタのエビは、そのほとんどが東南アジアを主とする輸入養殖エビですが、その食の安全・安心、トレーサビリティはまったく担保されていません。
前回、このエビのことを「溶液に浸ってる期間が長いというか添加物の巣窟」と表現しましたが、これは決して過言ではないのです。
多くの養殖エビが高度集約養殖という過度のストレス環境の中で、大量の化学飼料や抗生物質を投与され続けて生産されています。
そして日本に輸出するさいに、長期の輸送でも黒付くことなく色があせないために、今度は合成漂白剤である次亜硫酸Naや合成発色剤である亜硝酸Naなどの合成添加物にたっぷり付けられます。
つまり、化学物質や抗生物質まみれで育てられた養殖エビが最後に合成添加物で着飾って日本に輸出されるわけです。
食の安全・安心を考える上で、食のトレーサビリティが担保されることは極めて重要なことです。
100円寿司のエビがなぜ安いのか、それには安全・安心を犠牲にしている、というしっかりとした理由があります。
どこで生産されどのように育てられ、またどこでどのように加工され、どのような添加物が付加されているのか、それらがしっかりと消費者に開示される、食のトレーサビリティをしっかり担保すること、この国の食の安心・安全にとり、今後トレーサビリティを担保することは、極めて重要な事項になるであろうと私は確信しています。
その食品が安い理由を理解した上で、それでもその食品を消費者が選択するとなれば、それは消費者の自由です。
■「日本の食の安全」について考察するシリーズ
第一回 食の安全が守られていない重大な事実を報道できないこの国のマスメディアのチキン(臆病)な体質
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20130723
第二回 輸入養殖エビが「薬付け」と揶揄される理由〜化学物質や抗生物質まみれで育てられ最後に合成添加物で着飾って日本に輸出される養殖エビ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20130731
(了)
(木走まさみず)