木走日記

場末の時事評論

メディアが報じない内閣府の南海トラフ巨大地震の非科学的想定〜原発事故リスクは一切想定しない中央防災会議作業部会

 内閣府の中央防災会議作業部会が南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告)をまとめました。

 経済的被害は最悪の場合、約220兆円に上るという数字を受けて、各紙の社説は一斉にこの「南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告)」を取り上げています。

【朝日社説】南海トラフ巨大地震―まず、3日間をしのぐ
【朝日社説】南海トラフ巨大地震―使える事業継続計画を
http://www.asahi.com/paper/editorial20130319.html
【読売社説】南海トラフ地震 最大級の危機にどう備えるか
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130318-OYT1T01376.htm
【毎日社説】南海トラフ地震 最悪防ぐ減災策を急げ
http://mainichi.jp/opinion/news/20130321k0000m070113000c.html
【産経社説】南海トラフ地震 被害を最小にする対策を
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130319/dst13031903180003-n1.htm
【日経社説】想定にひるまず巨大地震の減災目標を
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO52976020Z10C13A3EA1000/

 毎日社説は冒頭から「国家予算の2倍を超え」る甚大な被害が想定されているが、「最悪の数字におののいたり悲観的になったり」してはいけないと警告を発します。

 最悪の数字におののいたり悲観的になったりすることなく、官民が協力して減災のための対策を着実に重ねていくべきだろう。

 国の中央防災会議の作業部会が、南海トラフ巨大地震に伴う経済被害の想定を公表した。最悪の場合、被害額は約220兆円に上る。住宅や工場などの直接的な被害と、生産の低下や物流が途切れることによる間接的な被害を合わせた額だ。

 国家予算の2倍を超え、特に中・西日本の太平洋側の被害が甚大だと想定されている。

 毎日社説は、巨大地震の発生頻度は「1000年に1度、あるいはそれよりもっと低い頻度」であり、「正しく恐れ、油断することなく減災に取り組む」、こうした意識を「国民が胸に刻むことが、数字から得るべき最大の教訓ではないか」と論を進めています。

 ただし、巨大地震の発生頻度は「1000年に1度、あるいはそれよりもっと低い頻度」である。さらに、建物の耐震化率を高めるなど適切な防災対策が取られれば、経済的被害は半分に減らせるという。

 昨年、やはり国の有識者会議が南海トラフ巨大地震による人的被害をまとめた際も、同じ指摘があった。

 死者は最大32万人に上り、うち7割は津波によるものと想定された。だが、適切な避難によってこの数字は6万人余りにまで減らせるとの試算が示されたのだ。

 正しく恐れ、油断することなく減災に取り組む。こうした意識を国、地方自治体、地域の自治組織、さらに国民が胸に刻むことが、数字から得るべき最大の教訓ではないか。

 うむ、いたずらに不安を煽ったり逆に確率の低さから災害対策を怠り慢心することなく、まさに「正しく恐れ、油断することなく減災に取り組む」ことが求められていることでありましょう。

 ・・・

 内閣府の中央防災会議防災対策推進検討会議の下、今回「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」によって報告されたレポートは下記に公開されています。

南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告)について

 中央防災会議防災対策推進検討会議の下に平成24年4月に設置された「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」(主査:河田惠昭関西大学教授、以下「対策検討WG」という。)において、南海トラフ巨大地震を対象として具体的な対策を進め、特に津波対策を中心として実行できる対策を速やかに強化していくことが重要との認識の下、当面取り組むべき対策等をとりまとめた中間報告が平成24年7月19日に策定された。
 また、並行して被害想定手法等について検討が進められ、被害想定の第一次報告として、建物被害・人的被害等の推計結果が平成24年8月29日にとりまとめられた。
 今回、被害想定の第二次報告として、施設等の被害及び経済的な被害がとりまとめられた。

報道発表資料一式(平成25年3月18日発表)

南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告)のポイント 〜施設等の被害及び経済的な被害〜(PDF:307KB)
http://www.bousai.go.jp/nankaitrough_info/20130318_kisha.pdf
資料1 南海トラフ巨大地震の被害想定について(第二次報告) 〜被害想定(第二次報告)の趣旨等について〜(PDF:170KB)
http://www.bousai.go.jp/nankaitrough_info/20130318_shiryo1.pdf
資料2−1 南海トラフ巨大地震の被害想定について(第二次報告) 〜施設等の被害 【被害の様相】〜(PDF:2.1MB)
http://www.bousai.go.jp/nankaitrough_info/20130318_shiryo2_1.pdf
資料2−2 南海トラフ巨大地震の被害想定について(第二次報告) 〜施設等の被害 【定量的な被害量】〜(PDF:5.9MB)
http://www.bousai.go.jp/nankaitrough_info/20130318_shiryo2_2.pdf
資料2−3 南海トラフ巨大地震の被害想定について(第二次報告) 〜施設等の被害 【定量的な被害量(都府県別の被害)】〜(PDF:3.4MB)
http://www.bousai.go.jp/nankaitrough_info/20130318_shiryo2_3.pdf
資料3 南海トラフ巨大地震の被害想定について(第二次報告) 〜経済的な被害〜(PDF:703KB)
http://www.bousai.go.jp/nankaitrough_info/20130318_shiryo3.pdf
資料4 被害想定項目及び手法の概要(PDF:2.9MB)
http://www.bousai.go.jp/nankaitrough_info/20130318_shiryo4.pdf

南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告) 追加資料
1. 大臣記者会見資料(PDF:154KB)
http://www.bousai.go.jp/nankaitrough_info/20130318_minister.pdf

http://www.bousai.go.jp/nankaitrough_info.html

 昨年の(第一次報告)は主に人的被害が中心にシミュレートされていましたが、今回は経済的被害が中心に被害想定算出がなされています。

 上記レポートより、都道府県別の被害額を図表にしてみます。
■図表1:南海トラフ巨大地震の都府県別被害額想定


 うむ、ご覧のとおり西日本を中心に被害は36都府県に及んでいますが、愛知県の30.7兆円を筆頭に6の府県で被害額が10兆円を越えています。

 参考までに、昨年の(第一次報告)より都道府県別の人的被害を図表にしてみます。
■図表2:南海トラフ巨大地震の都府県別犠牲者想定

 さて、これら内閣府WGが試算した『南海トラフ巨大地震の被害想定』でありますが、このレポート自体は今後の防災対策に生かされるべき科学的な価値のある報告書であることを認めるものの、我が国のマスメディアの本レポートに対する報道姿勢には、大いに問題があると言わざるを得ません。

 なぜならば、本レポートの被害推計は、昨年示された想定震度・津波高に基づき、東日本大震災の被災・復旧状況などを考慮していますが、原子力発電所については「別に安全対策が検討されている」(内閣府)とし、原発の施設の被災や原発事故は一切織り込まれていないのです。

 M9.0級の巨大地震の被害想定をしつつ、原発についてはすべて「地震発生後速やかに停止」するものとして、被害がゼロという前提になっています。

 原発施設が一定の確率で被災することは当然想定されるべきですし、さらに一定の確率で各レベルの原発事故が発生する可能性を織り込まなければ、本当の意味での科学的な被害想定は不可能なのですが、本レポートでは一切の原発関連の被災は無視されているのです。

 現在日本には50基の原子炉が存在します。
■図表4:日本の原子炉一覧


 この中で半数以上の2640万kwの出力の原子炉が今回の被災エリアに存在しています。
■図表3:南海トラフ巨大地震の都府県別被害エリアと原発立地

 想定される南海トラフ巨大地震において、これらの原子炉がすべて無事に安全に停止でき施設も無傷で事故も発生しないという前提になっています、これは科学的にはまったくありえない前提です、極めて重要なリスク評価項目が欠落しているのです、このレポートを報道する時には、十分にこの特異な前提を説明すべきなのです。

 少なくとも、メディアはこの点について正確に国民に指摘すべきなのです。

 南海トラフ巨大地震が起きても原発事故リスクは一切想定しない中央防災会議作業部会のレポートなのであります。

 内閣府のレポートのこの非科学的想定を、残念ながらこの国のメディアはまったく報じないのであります。



(木走まさみず)