「南海トラフ巨大地震」政府公開資料徹底検証〜災害死亡率で阪神・東日本大震災と比較してみる
29日付け読売新聞紙面記事から。
東海、東南海、南海地震などが同時発生するマグニチュード(M)9級の「南海トラフ巨大地震」について、国の二つの有識者会議は29日、被害想定などを公表した。
死者数は最大で32万3000人。そのうち津波による死者は全体の7割の23万人に達する。有識者会議では、迅速な避難により津波の死者は8割減らせるとして、国や自治体に対し避難施設や避難路の確保を図るよう求めている。
有識者会議は3月に震度分布や津波の高さを公表したが、今回はより精度良く計算し、浸水域も求めた。津波や地震の揺れのパターンを組み合わせ、季節・時間別の被害を想定した。
死者32万3000人となるのは、在宅者の多い冬の深夜に発生し、東海地方の被害が大きいケース。死者数は東日本大震災の死者・行方不明者(約1万8800人)の17倍で、国の中央防災会議による2003年の三連動地震想定の死者2万5000人の13倍。負傷者は62万3000人、救助が必要になる人は31万1000人と推定された。
(後略)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20120829-OYT1T01028.htm
うむ、マグニチュード(M)9級の「南海トラフ巨大地震」について最悪の場合、死者32万3000人となることを内閣府の有識者検討会と中央防災会議が公表しました。
南海トラフの巨大地震モデル検討会
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/nankai_trough/nankai_trough_top.html
従来の推計に比較し震度6強以上の揺れが予想される地域が広範囲に渡っています。
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/nankai_trough/kanmatsu_shiryou.pdf
死者32万3000人とはショッキングな数字ですが、内閣府では「正しく恐れてもらう為に公表した」としています、数値を絶望視して何も対策をしないことなく、逆に1000年に一度規模と言う発生確率の小ささから楽観することなく、正しく自治体や企業や国民が地震に備え、必要な対策を施すことを政府として求めているわけです。
今回は公表された数値資料を「災害死亡率」というインデクス・指標で冷静に検証してみたいと思います。
まず死者32万3000人を都府県別に推定人口を付けて内訳を表にいたします。
都府県 | 想定死者数 | 推定人口(2012年) |
---|---|---|
静岡県 | 109,000 | 3,737,796 |
和歌山県 | 80,000 | 988,618 |
高知県 | 49,000 | 752,987 |
三重県 | 43,000 | 1,841,482 |
宮崎県 | 42,000 | 1,126,283 |
徳島県 | 31,000 | 776,790 |
愛知県 | 23,000 | 7,414,863 |
大分県 | 17,000 | 1,186,270 |
愛媛県 | 12,000 | 1,416,086 |
大阪府 | 7,700 | 8,864,959 |
兵庫県 | 5,800 | 5,573,718 |
香川県 | 3,500 | 989,548 |
神奈川県 | 2,900 | 9,072,471 |
奈良県 | 1,700 | 1,390,729 |
千葉県 | 1,600 | 6,199,274 |
東京都 | 1,500 | 13,227,730 |
岡山県 | 1,200 | 1,937,836 |
鹿児島県 | 1,200 | 1,690,503 |
京都府 | 900 | 2,628,532 |
広島県 | 800 | 2,850,234 |
滋賀県 | 500 | 1,415,623 |
山梨県 | 400 | 853,303 |
山口県 | 200 | 1,433,928 |
岐阜県 | 200 | 2,066,959 |
長崎県 | 80 | 1,409,132 |
長野県 | 50 | 2,135,744 |
茨城県 | 20 | 2,946,161 |
熊本県 | 20 | 1,807,260 |
福岡県 | 10 | 5,083,050 |
沖縄県 | 10 | 1,407,531 |
全国計 | 323,000 | 128,057,352 |
静岡県、和歌山県、高知県、三重県、宮崎県、徳島県、愛知県、大分県、愛媛県で死者数がそれぞれ1万を越えています、また、大阪府、兵庫県、香川県、神奈川県、奈良県、千葉県、東京都、岡山県、鹿児島県の9都府県でも1千を越える死者が想定されていることがわかります。
これは最悪のケースではありますが、正直、私は過去の阪神大震災や東日本大震災の死亡人数と比較しても、想像を超える死者数が想定されたことに驚きを隠せません。
そこでどのぐらい驚愕の規模の被害が今回想定されたか、冷静に数値で解析してみたいと思います。
その都府県の死者数(行方不明者数含む)をその都府県の人口で割れば災害時の死亡率が計算されます。
阪神・淡路大震災時の兵庫県の場合、死者(6,402人)+行方不明者数(3人)を当時(1990年)の兵庫県の国調人口(5,405,040人)で割ると、災害死亡率0.12%でありました。
一方、東日本大震災の現在の死者数、行方不明者数は以下の警察庁緊急災害警備本部広報資料で確認できます。
平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の被害状況と警察措置
http://www.npa.go.jp/archive/keibi/biki/higaijokyo.pdf
ここから都県別で死者数(行方不明者数含む)と各都県における死亡率を計算して表にしました。
■表2:東日本大震災都県別死者数と災害死亡率
都県 | 死者数 | 行方不明者数 | 合計 | 人口 | 災害死亡率 |
---|---|---|---|---|---|
宮城県 | 9,512 | 1,754 | 11,266 | 2,347,975 | 0.48% |
岩手県 | 4,670 | 1,313 | 5,983 | 1,330,530 | 0.45% |
福島県 | 1,605 | 215 | 1,820 | 2,028,752 | 0.09% |
茨城県 | 24 | 1 | 25 | 2,968,865 | 0.00% |
千葉県 | 20 | 2 | 22 | 6,217,119 | 0.00% |
東京都 | 7 | 0 | 7 | 13,161,751 | 0.00% |
青森県 | 3 | 1 | 4 | 1,373,164 | 0.00% |
栃木県 | 4 | 0 | 4 | 2,007,014 | 0.00% |
神奈川県 | 4 | 0 | 4 | 9,049,500 | 0.00% |
山形県 | 2 | 0 | 2 | 1,168,789 | 0.00% |
北海道 | 1 | 0 | 1 | 5,507,456 | 0.00% |
群馬県 | 1 | 0 | 1 | 2,008,170 | 0.00% |
合 計 | 15,853 | 3,286 | 19,139 | − | − |
被害の大きかった3県の災害死亡率はそれぞれ宮城県0.48%、岩手県0.45%、福島県0.09%であることがわかります。
さて今回の南海トラフ大地震の政府想定死者数において各都府県の死亡率を計算して図表にしてみます。
都府県 | 想定死者数 | 推定人口(2012年) | 災害死亡率 |
---|---|---|---|
和歌山県 | 80,000 | 988,618 | 8.09 |
高知県 | 49,000 | 752,987 | 6.51 |
徳島県 | 31,000 | 776,790 | 3.99 |
宮崎県 | 42,000 | 1,126,283 | 3.73 |
静岡県 | 109,000 | 3,737,796 | 2.92 |
三重県 | 43,000 | 1,841,482 | 2.34 |
大分県 | 17,000 | 1,186,270 | 1.43 |
愛媛県 | 12,000 | 1,416,086 | 0.85 |
香川県 | 3,500 | 989,548 | 0.35 |
愛知県 | 23,000 | 7,414,863 | 0.31 |
全国計 | 323,000 | 128,057,352 | 0.25 |
奈良県 | 1,700 | 1,390,729 | 0.12 |
兵庫県 | 5,800 | 5,573,718 | 0.10 |
大阪府 | 7,700 | 8,864,959 | 0.09 |
鹿児島県 | 1,200 | 1,690,503 | 0.07 |
岡山県 | 1,200 | 1,937,836 | 0.06 |
山梨県 | 400 | 853,303 | 0.05 |
滋賀県 | 500 | 1,415,623 | 0.04 |
京都府 | 900 | 2,628,532 | 0.03 |
神奈川県 | 2,900 | 9,072,471 | 0.03 |
広島県 | 800 | 2,850,234 | 0.03 |
千葉県 | 1,600 | 6,199,274 | 0.03 |
山口県 | 200 | 1,433,928 | 0.01 |
東京都 | 1,500 | 13,227,730 | 0.01 |
岐阜県 | 200 | 2,066,959 | 0.01 |
長崎県 | 80 | 1,409,132 | 0.01 |
長野県 | 50 | 2,135,744 | 0.00 |
熊本県 | 20 | 1,807,260 | 0.00 |
沖縄県 | 10 | 1,407,531 | 0.00 |
茨城県 | 20 | 2,946,161 | 0.00 |
福岡県 | 10 | 5,083,050 | 0.00 |
まとめです。
すごい数値が上位に並んでいることが見て取れます。
阪神・淡路大震災時の兵庫県の災害死亡率は0.12%、昨年の東日本大震災の宮城県0.48%、岩手県0.45%、福島県0.09%だったのに比較し、今回の政府公表の南海トラフ大地震では、上位の県では、和歌山県8.09%、高知県6.51%、徳島県3.99%、宮崎県3.73%、静岡県2.92%、三重県2.34%、大分県1.43%、愛媛県0.85%という数値が並んでいます。
内閣府の説明によればこれらの想定値は最悪のケースの場合であり、あくまでも国民の防災意識を高めるために公表したのであり、「正しく恐れてほしい」とあります。
また、今回は津波発生時に沿岸部住民の20%しか避難できない想定を用いていますので想定死者数の約7割が津波による死者数となっている模様ですが、これも国民の意識変化や地域の防災の取り組みによって今後大幅に死者数を減少可能であるとも説明しています。
それにしても和歌山県の災害死亡率8.06%とは驚愕の数値であることには変わりません。
人口の8%が一つの災害で死亡するということは過去2回の震災を大きく上回る壊滅的な被害が政府により想定されているということを意味します。
政府、各自治体、企業、そして住民は、この「南海トラフ大地震」の内閣府による被害予測を冷静に読み解き、今後の防災対策に臨むべきでしょう。
今回は「災害死亡率」という指標を用いて、今回の「南海トラフ巨大地震」政府公開資料を阪神・東日本大震災と比較してみました。
このエントリーが読者の参考になれば幸いです。
(木走まさみず)