木走日記

場末の時事評論

TPPで「ジャイアン化」、密かに顰蹙(ひんしゅく)を買っている日本

 安倍内閣の支持率が各マスメディアの世論調査ですごいことになっております、18日付け読売新聞記事から。

TPP「評価」60%、内閣支持72%…読売調査

 読売新聞社は15〜17日に全国世論調査(電話方式)を実施した。安倍首相が表明した環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加を「評価する」と答えた人は60%に上り、首相の決断を支持する人が多数を占めた。

 TPPに参加する場合、コメなど農産物の一部を自由化の「例外とすべきだ」との回答は62%となり、今後の交渉によって関税撤廃の例外扱いとすることを望む人が多かった。

 安倍内閣の支持率は72%で、前回(2月8〜10日)の71%に続いて高水準を維持している。今回はわずかの上昇だが、内閣発足直後の調査から3回連続の上昇は異例で、本社世論調査では海部内閣(1989年発足)だけだった。

 日本銀行との連携を強化して、成長を重視した経済政策を進めていることを「評価する」は69%に上った。日銀総裁黒田東彦はるひこアジア開発銀行総裁が決まったことを評価する人は56%だった。高支持率が続く背景には、こうした経済政策「アベノミクス」が評価されていることがあるようだ。

(2013年3月18日00時34分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20080116-907457/news/20130317-OYT1T00760.htm?from=blist

 うむ、ここのところ調査するたびに鰻登りといってよいでしょう、支持率がアップしている安倍政権なのでありますが、さらに、「安倍首相が表明した環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加を「評価する」と答えた人は60%に上り、首相の決断を支持する人が多数を占めた」のであります。

 ただし、TPPに参加する場合、コメなど農産物の一部を自由化の「例外とすべきだ」との回答は62%となり、今後の交渉によって関税撤廃の例外扱いとすることを望む人が多いとのことであります。

 どうやら自民党執行部は世論の多数も味方にした模様です。

 自民党石破茂幹事長は16日、TPP交渉参加に備え、コメや麦など農林水産分野の重要5品目の聖域化を7月の参院選公約に盛り込む考えを記者団に表明、「聖域が確保できない場合は脱退も辞さない」と決議し党内を収めたのに続き、公約に掲げることで農協などに理解を求める方針です。

 うむ、昨年の衆院選で掲げた自民党の公約、「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対」、ここから一貫して続いている「関税聖域化路線」であります。

 自民党内ではTPP賛成派においても一部で「TPPの交渉自体否定する必要はない、交渉に参加してその上でこのままでは国益に失すると結論付けるならば脱退すればいいだけだ」という論もあります。

 安倍政権には是非高支持率を維持しつつアベノミクスで放つ「3本の矢」政策でデフレ脱却を目指していただきたいですが、このTPP勇み足参加だけは、まったくいただけません。

 ここへ来てTPP参加を急ぐ日本が、国際的に大顰蹙(ひんしゅく)を買っていることをご存知でしょうか。

 13日付けフジニュースネットワーク記事から。

TPP拡大交渉会議 首席交渉官から日本の参加意識した発言相次ぐ

シンガポールで10日間の日程で開かれていたTPP(環太平洋経済連携協定)の16回目の拡大交渉会合は、13日に閉幕し、アメリカなど11の参加国の首席交渉官の会見では、日本の参加を意識した発言が相次いだ。
日本政府は、今週中にも参加表明する意向だが、早くも、交渉参加国からは厳しい意見が相次いだ。
アメリカのワイゼル首席交渉官は「われわれが新しい交渉参加国に求めるのは、最終合意は、高い水準でなければならないということだ」と述べた。
シンガポールのウン首席交渉官も、「交渉はまとまってきていて、よい勢いできている。新しく交渉に参加する国は、交渉には前向きに貢献してほしい」と、遅れて交渉に参加することになる日本を意識した発言をした。
今回の会合では、いくつかの分野で「合意に近づいた」としつつも、焦点となっている農産品などの関税撤廃の例外扱いについては、5月中旬にペルーで行われる、17回目の交渉会合に持ち越されたという。 

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00242146.html

 「われわれが新しい交渉参加国に求めるのは、最終合意は、高い水準でなければならないということだ」(アメリカのワイゼル首席交渉官)

 「交渉はまとまってきていて、よい勢いできている。新しく交渉に参加する国は、交渉には前向きに貢献してほしい」(シンガポールのウン首席交渉官)

 彼らの発言は外交上のマナーをしっかり守っており国名こそ名指ししていませんが、日本に対する苛立ちを隠していません。

 彼らは、ここへきて「聖域が確保できない場合は脱退も辞さない」という外交交渉上まったく意味不明のジャイアンのような我侭(わがまま)な主張を振りかざしつつ、もう交渉も終焉に近づいている今になって参加表明を突如した経済大国日本に、警告を発しているのであります。

 考えても見てみましょう。

 今回シンガポールで10日間の日程で開かれたTPP拡大交渉会合は16回目です。

 ここ1年に絞ってもほぼ2ヶ月に1回のペースで6回拡大交渉会合は開かれています。

 ここ1年では毎回、分野ごとの20前後のグループに分化して10日間ほどの時間を費やして、つめて来たわけです。

 もちろん、現在も妥結できていない項目も少なからず有りますが、彼らが過去2年間、時間と人員・労力を惜しみなくかけてTPP交渉は今日の「交渉はまとまってきていて、よい勢いできている」(シンガポールのウン首席交渉官)状態にまでようやくたどり着いたわけです。

 年内の妥結を目指すTPPラウンドは今までのペースから、あと4回ほどの交渉で完了する予定です、そうするとおそらく日本が参加できるのは全20回の交渉のうち、最後の2〜3回ということになります。

 世界第三位の経済大国日本のTPP参加は11カ国すべてが歓迎していますが、とうぜんですが「外交マナー」として途中の交渉にほとんど時間的・人的・資金的貢献がゼロだった国・日本が、どのつら下げて「聖域が確保できない場合は脱退も辞さない」などと俺様ルールを振り回すのかと、実は密かにですが大顰蹙(ひんしゅく)を買っているわけです。

 ことTPPに関しては、国際的に見て愚かにもジャイアン化している日本なのであります。

 他国への配慮はまったくなし、あるのは偏狭な自分の国の事情だけなのであります。



(木走まさみず)