木走日記

場末の時事評論

南海トラフ地震で原発の安全性の再検証に触れない読売・産経・日経の報道姿勢は問題だ

 内閣府有識者検討会は31日、東海、東南海、南海地震を起こす「南海トラフ」で、これらの想定震源域が連動し、最大級の地震が起きた場合の津波高と震度分布の推計を公表いたしました。

 資料によれば関東から四国の太平洋側6都県23市町村で最大20メートル以上の津波が予想され、震度7の地域は10県153市町村に及んでいます。

 当然ながら、避難などで被害を抑える「減災」に向け、自治体や企業は防災計画の見直しを迫られます。

 資料は内閣府有識者検討会のサイトで公開されています。

南海トラフの巨大地震モデル検討会
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/nankai_trough/nankai_trough_top.html

 従来の推計に比較し震度6強以上の揺れが予想される地域が広範囲に渡っています。


http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/nankai_trough/kanmatsu_shiryou.pdf

 最近、東京直下型地震の震度分布の推計が見直され最大震度7の揺れが予測されたばかりですが、今回の有識者検討会の推計も従来の推計値から大幅に地震規模が見直されています。

 特に気になるのは浜岡原発のある静岡県辺りが震度7と予想されている点と、津波の高さが最大で21メートルと試算されていることです。

 時事通信によれば、原子力安全・保安院は早速中部電力浜岡原発について影響評価を行うよう指示を出しました。

浜岡原発の影響評価指示=津波21メートル試算で中部電に−保安院

 経済産業省原子力安全・保安院は2日、内閣府有識者検討会が南海トラフの巨大地震中部電力浜岡原発静岡県御前崎市)付近に最大で高さ21メートルの津波が来襲するとの試算を発表したことを受け、同社に対し、浜岡原発について影響評価を行うよう指示した。16日までに報告し、必要に応じて対策を取るよう求めている。
 中部電は、東京電力福島第1原発を襲った津波と同程度なら浸水を防げるよう、海抜18メートルの防波壁建設などの対策に着手している。
 指示を受け、新たに21メートルの津波に対して電源の確保や除熱機能が維持されているかなどを検討。保安院は中部電の評価が妥当かどうかを判断する。(2012/04/02-20:09)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2012040200972

 災害からの施設の安全限界をクリフヘッジと呼びますが、浜岡の場合津波のクリフヘッジは海抜18メートルであり、21メートルはクリフヘッジを完全に越えていますので、この規模の津波が来襲したら深刻な被害を巻き起こしかねません。

 当ブログでは大飯発電所ストレステスト(1次)評価のときも主張しましたが、今浜岡だけでなく全原発施設のクリフエッジ(安全限界)の科学的妥当性の検証が必要なのです。

■[科学]大飯発電所ストレステスト(1次)評価について〜クリフエッジ(安全限界)の科学的妥当性の検証が必要だ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120327

 津波だけでなく地震加速度のクリフヘッジもこの最新の推計値を元に再評価されなければならないでしょう。

 原発施設が震度7に耐えられるのか、最新の知見に基き再評価されなければなりません。

 原発推進脱原発かという次元の話ではなく、全原発施設の最新のデータと知見に基くクリフエッジ(安全限界)の科学的妥当性の再検証が必要です。

 再稼動させようが廃止しようが全国54基の原発には、原子炉があり使用済み核燃料がプールされているわけです。

 廃炉するにしろ少なくとも数十年単位の時間が必要です。

 その意味でも全原発施設のクリフエッジ(安全限界)の科学的妥当性の再検証・見直しを早急にすべきです。

 ・・・

 本件に関して日本のマスメディアの報道姿勢には大いに不満が残ります。

 今回の内閣府有識者検討会公表を受けて、全国紙5紙のうち朝日を除く読売・毎日・産経・日経の4紙が社説で取り上げています。

【読売社説】地震想定見直し 大津波対策に本気で取り組め
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20120402-OYT1T01167.htm
【毎日社説】南海トラフ津波 想定受け止め対策を
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/archive/news/20120403ddm005070141000c.html
【産経社説】南海トラフ地震 正しく恐れ防災力つけよ
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120402/dst12040203180001-n1.htm
【日経社説】「南海」巨大地震に備え広域減災戦略を
http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE6E2E3E3E6E7E1E2E2E1E2E6E0E2E3E08297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8D8D8D8D

 各紙の社説を読み比べると驚くことに原発に触れているのは毎日社説の下記の一箇所だけであり、読売・産経・日経の3紙はまったく原発の安全性には触れていないのです。

 深刻なのは、中部電力浜岡原発が最大21メートルの津波に襲われる可能性が指摘されたことだ。東京電力福島第1原発事故を受けて、中部電は緊急安全対策の一環で高さ(海抜)18メートル、長さ1・6キロの防波壁を年内完成を目指して建設中である。

 だが、想定に従えば津波は防波壁を越え、浸水は原発敷地にまで及ぶ。当然のことながら、津波対策を含めた抜本的な見直しが必要だ。

 読売・産経・日経の3紙といえば原発再稼動を強く主張展開しているわけですが、それはそれとして今回の南海トラフ巨大地震の新たな推計値に関して社説で論ずるのに原発の安全性について、まったく触れないのはメディアの姿勢としてどうなのでしょう。

 今必要なのは、原発再稼動するか、脱原発でいくのか、そのような次元の問題ではなく(なぜならどっちにしても数十年という単位で管理しなければならないのは変わりありませんので)、最新のデータや知見に基く全原発施設のクリフエッジ(安全限界)の科学的妥当性の再検証です。

 その点で、南海トラフ地震に関する社説で、原発の安全性への再検討にまったく触れない、読売・産経・日経の3紙の報道姿勢は大いに問題があると考えます。



(木走まさみず)