木走日記

場末の時事評論

日本人とチベット人が持つ漢民族に対する宿命的な「血」のつながり

 1日付け朝日新聞記事から。

アイヌ民族と沖縄の人、遺伝的な特徴に共通点

 【波多野陽】北海道のアイヌ民族と沖縄の人たちは、遺伝的な特徴が似ていることが、国立遺伝学研究所などの解析でわかった。本州、九州などでは、縄文人と大陸から来た弥生人との混血がより進んだが、南北に離れた地域では縄文系の遺伝的特徴が多く残ったようだ。縄文人弥生人の混血が日本人の起源とする説を、遺伝子レベルで裏付ける成果という。

 遺伝研と東京大などは、DNAの中の1カ所の塩基だけが変異したSNP(スニップ)の特徴が、民族や地域などで違うことに着目。日本の本州などの人243人、アイヌ民族36人、沖縄の人35人と、中国人(北京の漢民族)などとSNP約90万カ所を比較した。アイヌ民族のDNAは約30年前に保存されていたものを分析した。

(後略)

http://www.asahi.com/culture/update/1101/TKY201210310836.html

 うむ、「北海道のアイヌ民族と沖縄の人たちは、遺伝的な特徴が似ていることが、国立遺伝学研究所などの解析」でわかったことを報じている朝日記事ですが、「縄文人弥生人の混血が日本人の起源とする説を、遺伝子レベルで裏付ける成果」なのだそうです、大変興味深いことです。

 最近ではDNAや染色体を用いた最新の科学手法で民族の起源を分析する研究が急速に普及しつつあり、日本人の起源に関しても新しい知見が生まれてきているようです。

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 そもそも我々人類・ホモサピエンスは約20万年前にアフリカで誕生し、10万年前にアフリカを出て、ユーラシア大陸に広く分布し始め、現在のように世界中に広がっていったと考えられています。

 日本列島に人が住みついたのは、確実なところでは4万年ほど前です。彼らは打製石器を主な道具とし、移動しながら狩と採集の生活を送っていました。その遺跡は日本列島のほぼ全域から5,000か所も発見されています。

 4万年前と言えば南ヨーロッパでまだ人類の亜種であるネアンデルタール人が絶滅する前で生き残っていた時代です。

 さて当時の人類が日本にたどり着くルートは北方からの定着と南方からの定着のふたつが主とした経路だったと考えられています。

 例えば日本列島でたくさん出土する細石刃という石器ですが、細石刃はバイカル湖周辺に起源を持つもので、日本列島に伝播したのはおよそ2万年前、宗谷海峡経由で北海道にもたらされたと考えられています。

 また、南方からでは、沖縄県港川遺跡で発掘された旧石器人骨(約18000年前)の特徴が、インドネシアのワジャク人との類似が指摘されております。

 いわゆる縄文人は、これらのルートを通じて日本に定着した人類が、1万年の長きに渡る縄文時代を通じて日本列島で混血していったものと思われます。

 そして今から約3000年前に弥生人が大陸・朝鮮半島から渡来してまいります。

 そして、弥生人は北九州を基点に日本本土に広く拡がっていき、土着の縄文人と混血していった、それが本土の日本人であるというわけです。

 縄文人のDNAは比較的混血が進まなかったアイヌと沖縄の人々に色濃く残っていることがDNA的に分析されたことが、この朝日記事に示されているわけです。

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 さて、興味深いのは縄文系DNAが主として地理的要因によりアイヌと沖縄の人々に色濃く残っている事実ですが、実は我々日本人全体がアジア大陸と地理的に隔絶されている島嶼部に生きてきたことにより遺伝子的にユニークな特徴を残している希少な集団であることがわかっています。

 父系をたどるY染色体は数万年にわたる追跡に適しており、1990年代後半から研究が急速に進展してきました。

 そしてそれに伴い、現代日本人は従来考えられてきたよりも色濃く古モンゴロイド縄文人の血を引き継いでいる事が判明してきたのです。

 京都大学崎谷満博士の分析では、日本人はY染色体のハプログループD2(縄文系)とO2b1(弥生系)を主体とする事が明らかになっており、ハプログループD系統はYAP型(YAPハプロタイプ)ともいわれ、現代のアジア人種よりも地中海沿岸や中東に広く分布するE系統の仲間であり、Y染色体の中でも他の集団から非常に古い時期に分かれた系統であります。

 このハプログループD2はアイヌ人・本土日本人・沖縄人の3集団に多く見られるタイプであり、朝鮮半島や中国人(漢民族)にはわずかしか見られません。

 そして、アリゾナ大学のマイケル・F・ハマー (Michael F. Hammer) のY染色体分析でもYAPハプロタイプ(D系統)が研究されて、チベット人も沖縄人同様に50%の頻度でこのYAPハプロタイプ(D系統)を持っていることが分かりました。

 現在では世界中でもD系統(古モンゴロイド)は極めて稀になっており、。日本人以外の民族では、遠く西に離れたチベット人に強頻度でD系統が存在するだけであります。

 両者を隔てる広大な中央アジアにおいては、後の時代にアジア系O系統(弥生渡来人もO系統である)集団が広く占有住居するようになり、古モンゴロイドのD系統は駆逐されて島国であった日本や山岳チベット等、外部との交流が限定された環境のみに残ったと考えられています。

 ここ数千年において漢民族を中心にしたアジア系O系統が広く占有住居を拡大していき、D系統(古モンゴロイド)はほとんど大陸では滅び、わずかに険しい山岳部(チベット)と海に隔てられた島嶼部(日本)にのみ生き残ったということです。

 

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 我々日本人のルーツを最新科学でさぐるとチベット人と共通項を持つことがわかったわけですが、悠久の歴史の中でこうして古代のロマンに想いを寄せると、昨今の中国との領土紛争などをまた別の大局的視座で思わざるを得ません。

 そもそも我々日本人の「血」が、悠久のときを越えて、膨張する漢民族への対抗心を刻み込んでいるのかも知れません。

 チベットの民の「血」と同様にです。



(木走まさみず)



<参考サイト>
■新日本人の起源―神話からDNA科学へ
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-ISBN=9784585054214
縄文人
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B8%84%E6%96%87%E4%BA%BA