木走日記

場末の時事評論

「現状の責任」を取らぬ者が「あすへの責任」を果たせるはずはない〜「あすへの責任」20回の野田首相所信表明を聞いて憂える

 私は、地方自治体などで中小零細企業経営者対象のセミナーの講師などをさせていただいているのですが、昨今の長引くデフレで元気のない日本経済ですが、それでも中小零細企業のみなさんは歯を食いしばってがんばってらっしゃいます。

 日本の場合、多くの中小零細企業が金融機関からお金を融資してもらう場合、代表取締役が連帯保証人にならないと融資を受けれませんから、セミナーに参加している経営者のみなさんの多くも会社の借金の連帯保証人になっております。

 ですから万が一会社が倒産などとなった場合、これもまた多くの経営者の皆さんが連帯保証人として個人的に多額の借金を背負うことになります、個人資産が足らなければ「自己破産」の道を選ぶしかありません、まさに「戸板一枚下は地獄」、今日の日本の中小零細企業の経営者のみなさんは荒ぶる海で小舟で漁をする漁師のような心境でありましょう。


 私も零細ながら会社を経営していますので不況の中で会社を維持していく経営者の苦しい心情は痛いほど理解できます。

 中小零細企業にとって経営者の判断ミスは命取りになりかねませんから、日々の毎日の経営がそれこそ命がけの決断の連続です。

 小さいとはいえ、全社員ならびにその家族の生活を支えることがすべて経営者一人の肩に圧し掛かってきます。

 経営者の責任です。

 まず会社を存続させる、経営者は会社の「現状の責任」を一身に背負います。

 会社がつぶれたらもとも子もありませんから、まず今この瞬間に集中して責任感を持って経営をしていくのです。

 会社の将来、つまり「あすへの責任」はその次の課題です。

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 野田佳彦首相が29日の所信表明演説で、「あすへの責任」を20回繰り返しました、それを伝える時事通信記事から。

「あすへの責任」20回も=法相辞任に触れず−野田首相所信表明

 「『あすへの責任』を果たすため、道半ばの仕事を投げ出すわけにはいかない」。野田佳彦首相は29日の所信表明演説で、「あすへの責任」を20回繰り返し、政権維持に強い意欲を示した。一方で、3度目の内閣改造に関する説明は一切せず、在任3週間余りで辞任した田中慶秋前法相の任命責任にも、先の通常国会で問責決議を可決されたことにも触れなかった。
 演説は約9000字で、昨年9月の就任直後の演説(約9100字)とほぼ同じ分量。「『あしたの安心』を生み出したい」と訴え、経済再生、震災復興、エネルギー政策、周辺諸国との信頼関係構築などを課題に掲げた。
 首相は「誰しも10代さかのぼれば1024人の祖先がいる」として、明治の変革期や戦後の焼け野原でも「未来の世代」のために努力した先人に敬意を表明。「あすへの責任を果たす道は、中庸を旨として、意見や利害の対立を乗り越えていく先にしか見いだせない」と、重要法案処理を念頭に野党に改めて協力を呼び掛けた。
 ノーベル賞受賞が決まった山中伸弥京都大教授にも言及し、「挫折を繰り返しながらも挑戦を続け、感謝と責任感を胸に、知のフロンティアを切り開いた」と称賛した。(2012/10/29-14:45)

http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2012102900479

 「『あすへの責任』を果たすため、道半ばの仕事を投げ出すわけにはいかない」、「『あしたの安心』を生み出したい」、「あすへの責任を果たす道は、中庸を旨として、意見や利害の対立を乗り越えていく先にしか見いだせない」、うむ、『あすへの責任』をこれでもかと20回連呼した野田首相なのであります。

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 民主党政権は『あすへの責任』の表現を使うのはやめたほうがいいでしょう。

 この3年間に渡る民主党政権3代の見事な失政の数々はどうでしょう、現状の『今の責任』を取ることができないで、なぜ『あすへの責任』を果たすことが可能なのでしょうか。

 もちろん国民だって政府が「未来の世代」のために努力することを否定する者などいないでしょう。

 そのような「正論」はしかし、今の課題を克服してその解決のめどが立った後で初めて果たすべきでしょう。


 例えれば、3年間ゴミを巻き散らかしてきたご近所迷惑な「ゴミ屋敷」の3代目ご主人が、町内会で将来の町内美化を訴え『あすへの責任』を20回も連呼したとします。

 今現在正反対のことをしている者が「将来の美化」を語るな、その前に「どうかこの町から引っ越してくれませんか」と心狭い批判も渦巻くことでしょう。

 最近の野田首相の発言を聞いていると、大変失礼ながらまるで「将来の町内美化運動に目覚めた現状ゴミ屋敷の住人」の発言のような「無責任さ」を、多くの国民が想起してしまうのではないでしょうか。

 野田民主党政権に繰り返し訴えたい。

 「現状の責任」を取らぬ者が「あすへの責任」を果たせるはずはないのです。

 そのような無責任な経営者の企業ならば確実に倒産します。



(木走まさみず)