1票の格差「違憲状態」を脱却する思考実験をしてみる(参議院選挙区)
17日付けNHKニュース記事から。
1票の格差 衆参ともに「違憲状態」
10月17日 18時23分おととしの参議院選挙で、選挙区ごとの1票の価値に最大で5倍の格差があったことについて最高裁判所大法廷は判決で、憲法違反の状態だと判断するとともに、選挙制度そのものの速やかな見直しを求めました。
違憲状態の判断は、衆議院選挙でも示されていて、衆参両院の1票の格差がともに憲法に違反した状態だと指摘される異例の事態となりました。(後略)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121017/t10015816261000.html
うむ、「衆参両院の1票の格差がともに憲法に違反した状態だと指摘される異例の事態」となったわけですが、格差の大きさでは最大で5倍の格差が生じている参議院の選挙区のほうが大きいわけです。
今回は参議院選挙区をどう区割りすれば「違憲状態」を脱することができるか、できるだけ単純明快な手順で思考実験をしてみたいと思います。
だいたい格差が何倍以内なら「合憲」なのかよくわかりませんが、ここはハードルを高めて全選挙区で格差1.5倍以内を目指してみます。
まず基礎データとして前回の 第22回参議院議員通常選挙の都道府県別有権者数、議員一人当たりの有権者数、各選挙区ごとの一票の格差を正確な数値で計算いたします。
データソースは総務省サイトで公開されています。
(2)-1 都道府県別有権者数、投票者数、投票率(選挙区)
http://www.soumu.go.jp/news/pdf/040711_2-2.pdf
■表1:第22回参議院議員通常選挙の都道府県別の一票の格差
都道府県 有権者総数 議席数 議員一人当たり有権者数 一票の格差(倍) 北海道 4604561 2 2302280.5 4.738060595 青森県 1159140 1 1159140 2.38549367 岩手県 1109235 1 1109235 2.282789888 宮城県 1908319 2 954159.5 1.96364671 秋田県 927048 1 927048 1.907851627 山形県 966232 1 966232 1.988491743 福島県 1659432 2 829716 1.707543753 茨城県 2425880 2 1212940 2.496213306 栃木県 1630549 1 1630549 3.355646701 群馬県 1627796 1 1627796 3.349981067 埼玉県 5814689 3 1938229.667 3.988849147 千葉県 5045486 3 1681828.667 3.461179528 東京都 10620508 5 2124101.6 4.371370948 神奈川県 7294561 3 2431520.333 5.004034338 新潟県 1968798 2 984399 2.025879172 富山県 903328 1 903328 1.859036204 石川県 944297 1 944297 1.943349825 福井県 653503 1 653503 1.3448999 山梨県 702067 1 702067 1.444843922 長野県 1758294 2 879147 1.809272049 岐阜県 1688224 2 844112 1.737170516 静岡県 3076711 2 1538355.5 3.165913787 愛知県 5829921 3 1943307 3.999298227 三重県 1503886 1 1503886 3.094976045 滋賀県 1106114 1 1106114 2.276366914 京都府 2098897 2 1049448.5 2.159750119 大阪府 7089288 3 2363096 4.863218031 兵庫県 4542923 2 2271461.5 4.674635531 奈良県 1154020 1 1154020 2.374956782 和歌山県 848458 1 848458 1.746114523 鳥取県 485912 1 485912 1 島根県 593860 1 593860 1.222155452 岡山県 1577416 1 1577416 3.246299742 広島県 2326269 2 1163134.5 2.393714294 山口県 1208999 1 1208999 2.488102784 徳島県 658828 1 658828 1.355858674 香川県 829698 1 829698 1.707506709 愛媛県 1197915 1 1197915 2.465292069 高知県 640959 1 640959 1.319084526 福岡県 4094102 2 4094102 4.1212801907 佐賀県 688271 1 688271 1.41645195 長崎県 1177396 1 1177396 2.423064259 熊本県 1488495 1 1488495 3.063301585 大分県 990648 1 990648 2.038739525 宮崎県 933881 1 933881 1.921913844 鹿児島県 1400358 1 1400358 2.88191689 沖縄県 1073963 1 1073963 2.210200612 計 104029135 73 1425056.644 2.932746349
うむ、ご覧のとおり議員一人当たり有権者数が最小の鳥取県485912人に対して最大の神奈川県2431520人であり、その格差は5.004倍になっています。
言うまでもなく都道府県で最低1議席づつ割り振る現在の区分けでは鳥取県に一議席を与えている限り都市部においてかなりの議席数を増やさないと格差1.5倍以内には調整が付きませんが、国会議員の議席数増は時勢に合致しません。
そこで、ここでは選挙区の議席総数73を変えないで、選挙区の区割りを都道府県を越えて拡大することにより格差縮小を目指してみます。
シンプルで単純な手順を繰り返すことにします。
手順1・議員当り有権者数が最小の選挙区から議席数を−1する。
手順2・その選挙区の議席数がゼロになったら隣接する県と選挙区を合併する。
手順3・議員当り有権者数が最大の選挙区の議席数を+1する。
表1において、議員当り有権者数が最小の鳥取県は隣接する島根県と選挙区を合併して2県で一議席の定員といたします。(1減)
そして議員当り有権者数が最大の神奈川県の定員を3議席から4議席にいたします。(1増)
■表2:第22回参議院議員通常選挙の都道府県別の一票の格差(調整1回目)
都道府県 有権者総数 議席数 議員一人当たり有権者数 一票の格差(倍) 北海道 4604561 2 2302280.5 3.591930997 青森県 1159140 1 1159140 1.808446406 岩手県 1109235 1 1109235 1.730586512 宮城県 1908319 2 954159.5 1.488643579 秋田県 927048 1 927048 1.446345242 山形県 966232 1 966232 1.507478637 福島県 1659432 2 829716 1.294491535 茨城県 2425880 2 1212940 1.892383132 栃木県 1630549 1 1630549 2.543920906 群馬県 1627796 1 1627796 2.539625779 埼玉県 5814689 3 1938229.667 3.02395265 千葉県 5045486 3 1681828.667 2.623925503 東京都 10620508 5 2124101.6 3.313943014 神奈川県 7294561 4 1823640.25 2.845174574 新潟県 1968798 2 984399 1.535822104 富山県 903328 1 903328 1.409338195 石川県 944297 1 944297 1.47325648 福井県 653503 1 653503 1.019570675 山梨県 702067 1 702067 1.095338391 長野県 1758294 2 879147 1.371611913 岐阜県 1688224 2 844112 1.31695163 静岡県 3076711 2 1538355.5 2.400084093 愛知県 5829921 3 1943307 3.031874114 三重県 1503886 1 1503886 2.346306082 滋賀県 1106114 1 1106114 1.725717246 京都府 2098897 2 1049448.5 1.637309875 大阪府 7089288 3 2363096 3.686813041 兵庫県 4542923 2 2271461.5 3.543848358 奈良県 1154020 1 1154020 1.800458376 和歌山県 848458 1 848458 1.323732095 鳥取県・島根県 1079472 1 1079472 1.684151404 岡山県 1577416 1 1577416 2.461024808 広島県 2326269 2 1163134.5 1.814678474 山口県 1208999 1 1208999 1.886234533 徳島県 658828 1 658828 1.027878538 香川県 829698 1 829698 1.294463452 愛媛県 1197915 1 1197915 1.868941695 高知県 640959 1 640959 1 福岡県 4094102 2 2047051 3.19373158 佐賀県 688271 1 688271 1.073814394 長崎県 1177396 1 1177396 1.836928727 熊本県 1488495 1 1488495 2.322293626 大分県 990648 1 990648 1.545571558 宮崎県 933881 1 933881 1.45700583 鹿児島県 1400358 1 1400358 2.18478561 沖縄県 1073963 1 1073963 1.675556471 計 104029135 73 1425056.644 2.223319501
この調整により、ご覧のとおり議員一人当たり有権者数が最小の件は高知県に移り、最大は大阪府となり、その格差は3.69倍に縮小されました。
全選挙区で格差が1.5倍以内なるまでこの単純な作業を繰り返していくよう、エクセルマクロプログラムを作成してみました。
ただし繰り返すにあたり現実的な制約を設けました。
・一つの都道府県を分割はしない。
・現状の最大面積選挙区(北海道)の面積を越える選挙区は作らない。
・現状の最大人口選挙区(東京)を越える選挙区は作らない。
・5都道府県以上にまたがる選挙区は作らない。
・海をまたがる選挙区は作らない。
・歴史的地方区分(中国地方、北陸地方など)をできる限り守る。
・1人区は最終的になくす。
さて、選挙区が21ブロックになったときに全ての選挙区の一票の格差が1.5倍以内に収まりました。
■表3:第22回参議院議員通常選挙の都道府県別の一票の格差(最終調整結果)
都道府県 有権者総数 議席数 議員一人当たり有権者数 一票の格差(倍) 北海道 4604561 3 1534853.667 1.302464112 青森県・岩手県・宮城県 4176694 3 1392231.333 1.181435981 秋田県・山形県・福島県 3552712 3 1184237.333 1.004933995 茨城県・栃木県・群馬県 5684225 4 1421056.25 1.205896567 埼玉県 5814689 4 1453672.25 1.233574234 千葉県 5045486 4 1261371.5 1.07038941 東京都 10620508 7 1517215.429 1.28749645 神奈川県 7294561 5 1458912.2 1.238020813 新潟県・富山県・石川県・福井県 4469926 3 1489975.333 1.26438073 長野県・山梨県 2460361 2 1230180.5 1.043920986 静岡県 3076711 2 1538355.5 1.305435739 岐阜県・愛知県・三重県 9022031 6 1503671.833 1.276003467 大阪府 7089288 5 1417857.6 1.203182219 京都府・兵庫県 6641820 5 1328364 1.127238691 和歌山県・奈良県・滋賀県 3108592 2 1554296 1.318962715 鳥取県・島根県・岡山県 2656888 2 1328444 1.127306578 広島県・山口県 3535268 3 1178422.667 1 高知県・徳島県・愛媛県・香川県 3327400 2 1663700 1.411802044 福岡県 4094102 3 1364700.667 1.158073685 長崎県・佐賀県・熊本県 3354162 2 1677081 1.42315705 宮崎県・大分県・鹿児島県・沖縄県 4398850 3 1466283.333 1.244275895 計 104029135 73 1425056.644 1.209291268
この調整により、その格差は1.42倍に縮小されました。
■図1:第22回参議院議員通常選挙の都道府県別の一票の格差(最終調整結果)
■図2:参議院議員選挙区(最終調整結果)
・・・
まとめです。
今回は単純な手順で参議院選挙区の一票の格差を1.5倍以内にする思考実験を行ってみました。
アルゴリズムにより如何様にも選挙区の分け方は変わりますし、この実験結果にはまったくこだわりはありません。
この実験はひとつの方法を試してみただけであり他にもいくらでも違憲状態を解決する考え方はあることでしょう。
ただ、ここで示したかったことは、おそらく参議院の違憲状態を脱するには1都道府県最低1議席の現在の縛りを解かなければ不可能であろう点であり、その縛りを取れば簡単な計算で1票の格差を1.5倍以内に縮小することは可能である、ということです。
あとは日本の政治家達が覚悟して決断すればよいのです。
本エントリーが読者のみなさまの参考になれば幸いです。
(木走まさみず)