地方選挙において義務投票制度を導入してはいかが〜ひとごとな朝日社説に成り代わり地方議会選挙改革について具体的に提言してみる
●「号泣県議 ひとごとではないです」〜具体策が明示されていないひとごとな朝日社説
14日付けの朝日新聞社説が地方議員の問題を取り上げています。
(社説)号泣県議 ひとごとではないです
2014年7月14日05時00分
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11241473.html
社説は冒頭、「住民の身近な代表であるはずの地方議会が、なぜこれほど世間とずれているのか」と問題提起いたします。
地方議員が全国的な注目を集めている。
兵庫県では、公金で不明朗な出張を繰り返したと指摘された県議が筋道の通らぬ釈明を繰り返して号泣。会見映像はネットで瞬時に拡散した。東京都議会では少子化対策を質問した女性議員にセクハラヤジがとび、やはりネットで批判が集中。議場の出来事なのに「犯人」の全容はいまだ闇の中だ。
これほど話題になったのは、いずれも常識からかけ離れた行為だったからだろう。目的の説明できない出張で領収書もなく経費を請求する会社員がいるだろうか。都議会のセクハラも、いまどき公の場でこんな発言をする社会人はいない。
だが地方議会では珍しくないことだ。兵庫県議が使った政務調査費は、議員活動と関係あるとは思えぬ小説や備品を買う悪弊が後を絶たない。セクハラも、各地の女性議員が同様の侮辱を受けたと声を上げている。
住民の身近な代表であるはずの地方議会が、なぜこれほど世間とずれているのか。
「地方議会の役割は重みを増す一方」なのに、「だが地方選の投票率は下がる一方だ」と現状を嘆いています。
地方議会の役割は重みを増す一方だ。今後は都市、地方にかかわらず人口も税収も減る。身近な行政サービスも削らねばならない。介護も全国一律のサービスが受けられる時代から、自治体で差がつく時代になる。
予算をどこに使い、どこを削るのか。決定権を持っているのは、地方議会である。
だが地方選の投票率は下がる一方だ。国の調査では、多くの人が「活動の内容が伝わらない」と不満を訴えた。わからないから無関心になる。関心を持たれないからサボったり不正を働いたりする議員が現れる。ますます住民の不信が募る。この悪循環を絶たねばならない。
社説は「人口急減時代、議会を使いこなせぬ地域からは人が逃げていくかもしれない。他議会の惨状を笑っている場合ではない。」と結ばれています。
改革に取り組む議会もある。議会をネットで公開する。議案ごとに個々の議員の賛否を明確にする。首長が反問したり議員同士が議論したりして会議を活性化する。請願した住民が議会で意見を言えるようにする。
「住民の意見を反映する」という原点に返れば、いずれも当然の取り組みだ。議会が機能しなくても皆がパイの配分にあずかれた右肩上がりの時代が続き、当たり前が当たり前でない状態が放置されてきただけだ。
厳しい財政事情を反映し、議員の数は減り続けている。今後は、地域で活動するNPOなどのアイデアをもっと組み入れる仕組みも重要になろう。
人口急減時代、議会を使いこなせぬ地域からは人が逃げていくかもしれない。他議会の惨状を笑っている場合ではない。
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うーん、確かに「地方議会の役割は重みを増す一方」でしょう、「今後は都市、地方にかかわらず人口も税収も減る」わけで「身近な行政サービスも削らねばならない」し、「介護も全国一律のサービスが受けられる時代から、自治体で差がつく時代になる」ことでしょう。
しかしこの社説には、残念ながら「住民の身近な代表であるはずの地方議会が、なぜこれほど世間とずれているのか」という問題提起にも、「地方選の投票率は下がる一方」な深刻な問題にも、具体的対策はなく、ただ「改革に取り組む議会もある」とのいくつかの例示と、「今後は、地域で活動するNPOなどのアイデアをもっと組み入れる仕組みも重要になろう」とのあいまいな意見のみで、最後は「他議会の惨状を笑っている場合ではない」との有権者への説教で終わっています。
これではただ話題の時事問題を安直に取り上げているだけで責任ある対案などを示すことができていません、有権者に説教をするだけの自己満足社説と申せましょう。
読者を考えさせるような、あるいは啓蒙するような具体策が明示されていないのです。
今回は当ブログとして、この地方議会の問題について具体的改善策を読者とともに考えてみたいです。
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●財政力指数で確認する地方自治体の現状
確かに少子高齢化による人口減少時代に突入した日本において、朝日社説が指摘するとおり地方議会の役割は重みを増す一方でしょう。
地方議会の役割は重みを増す一方だ。今後は都市、地方にかかわらず人口も税収も減る。身近な行政サービスも削らねばならない。介護も全国一律のサービスが受けられる時代から、自治体で差がつく時代になる。
まず地方自治体の財政の現状を数字的に裏付ける資料を押えておきます。
ここに「財政力指数」という自治体の財政力を示すひとつの指標があります。
財政力指数
財政力指数(ざいせいりょくしすう)とは地方公共団体の財政力を示す指標として用いられるもので、基準財政収入額を基準財政需要額で除した数値の、通常は過去3カ年の平均値を指す。
財政力指数が1.0を上回れば地方交付税交付金が支給されない不交付団体となり、下回れば地方交付税交付金が支給される交付団体となる。したがって、地方交付税交付金が地方公共団体間の財政力の格差を調整するために支給されるものであることからすると、その性質上必ずしも全ての地方公共団体に地方交付税交付金が支給されるわけではないことになる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%A1%E6%94%BF%E5%8A%9B%E6%8C%87%E6%95%B0
つまり、財政力指数とは財政収入額を財政支出額で除した数値でありますから、1以上ならば黒字、1未満ならば赤字自治体という単純な指標なのであります。
そして1未満ならば赤字自治体として、地方交付税交付金が支給される交付団体となるのです。
各都道府県の決算内容は総務省のサイトを調べれば「財政力指数」も含めて詳細を押さえることができます。
47都道府県の2010年の財政力指数をランキングしてみましょう。
■表1:都道府県別財政力指数(2010年)
順位 都道府県 財政力指数 1 東京都 1.16 2 愛知県 1.00 3 神奈川県 0.94 4 千葉県 0.77 5 大阪府 0.76 6 埼玉県 0.76 7 静岡県 0.71 8 茨城県 0.64 9 京都府 0.61 10 兵庫県 0.61 11 福岡県 0.60 12 栃木県 0.59 13 広島県 0.58 14 群馬県 0.58 15 滋賀県 0.58 16 三重県 0.57 17 宮城県 0.52 18 岐阜県 0.52 19 岡山県 0.51 20 石川県 0.47 21 香川県 0.47 22 長野県 0.46 23 富山県 0.46 24 福島県 0.45 25 山口県 0.44 26 奈良県 0.42 27 福井県 0.41 28 愛媛県 0.41 29 新潟県 0.40 30 山梨県 0.40 31 北海道 0.39 32 熊本県 0.37 33 大分県 0.35 34 和歌山県 0.33 35 佐賀県 0.32 36 山形県 0.32 37 青森県 0.32 38 岩手県 0.31 39 宮崎県 0.31 40 徳島県 0.30 41 長崎県 0.30 42 鹿児島県 0.29 43 沖縄県 0.29 44 秋田県 0.29 45 鳥取県 0.26 46 高知県 0.24 47 島根県 0.24 データソース:総務省 平成24年度都道府県財政指数表
http://www.soumu.go.jp/iken/ruiji/todohuken24.html
ご覧のとおり東京都と愛知県を除く45道府県が財政力指数が1.0未満、つまり赤字自治体として、地方交付税交付金が支給される交付団体に成り下がっています。
話題の野々村元議員が県会議員だった兵庫県を見れば10位と健闘していますが、それでも財政力指数は0.61です、この数字の持つ意味は深刻です。
単純に言えば100万円の自治体サービスを実現するのに、61万円しか自主財源は用意されていない、39万円は赤字という厳しい状況を意味しているのです。
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●下げ止まらない地方選挙の投票率
次に「地方選の投票率は下がる一方」について現状を確認しましょう。
まず、野々村氏が兵庫県で県会議員に当選した2011年の統一地方選の結果を確認しましょう。
■表2:西宮市 定数7 - 候補10(選管確定)
当落 得票数(得票率) 氏名 年齢 党派(推薦・支持) 新旧 当選回数 代表的肩書 当選 21,207(15.3%) 野口 裕 60 公 明 現 6 党県幹事長 当選 20,109(14.5%) 大前 春代 27 無所属 現 2 (元)衆議員秘書 当選 16,652(12.0%) 礒見 恵子 54 共 産 元 3 党地区役員 当選 16,601(11.9%) 北川 泰寿 41 自 民 現 4 党県役員 当選 13,445(9.7%) 栗山 雅史 36 民 主 新 1 (元)市議 当選 11,491(8.3%) 掛水 須美枝 65 民 主(社) 現 6 労務協会長 当選 11,291(8.1%) 野々村 竜太郎 44 諸 派 新 1 西宮維新役員 □ 10,882(7.8%) 筒井 信雄 45 自 民 現 党県役員 □ 9,503(6.8%) 田中 章博 74 自 民 現 党西宮支部長 □ 7,832(5.6%) 岩崎 龍夫 47 民 主 新 電力会社員 読売新聞
統一地方選2011
http://www.yomiuri.co.jp/election/local/2011/kaihyou/yh28.htm
定数7の7位当選得票数10,882得票率(7.8%)であります。
総務省資料より戦後の地方選挙の投票率推移を確認しておきます。
■図1:統一地方選挙の投票率推移
目で見る投票率(平成24年3月) - 総務省
http://www.soumu.go.jp/main_content/000153570.pdf
ご確認いただけますように、統一地方選において都道府県議会選挙の投票率は、昭和26年82.99%から平成23年48.15%と、知事選などの他の地方選挙と同様ほぼ右肩下がりで落ち込んでおります。
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●まとめ〜地方選挙において義務投票制度を導入してはいかが
当ブログでは6年前より地方選挙において義務投票制度を導入すべきと提言しております。
2008-01-24 日本人の地方参政権の行使の惨状も議論すべきでしょ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20080124
50%を割りつつある下げ止まらない地方選挙の投票率を劇的に上げて、もって有権者の地方議会への関心を高め、結果として有権者の選択能力があがることにより当選議員の質が向上する、合わせて結果的に地方の赤字財政にもささやかに貢献する、それには「義務投票制度を導入」こそ具体的に検討すべきときだと考えます。
義務投票制
義務投票制(ぎむとうひょうせい)は、選挙において投票すること(または投票所へ行くこと)を有権者に対して法律上義務付ける制度。義務投票制度または強制投票制(度)ともよばれる。対義語は任意投票制(にんいとうひょうせい)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%A9%E5%8B%99%E6%8A%95%E7%A5%A8%E5%88%B6
義務投票制度は世界30カ国以上で導入されている決して珍しくはない制度なのです。
例えばルクセンブルグでは、選挙を投票しないと、その罰則は、罰金(99-991ユーロ。初回の棄権から6年以内に再度棄権すると、重い罰金が課せられる。)という重い罰金です、日本円で1万円〜10万円の罰金です、交通違反と同程度と申して良いでしょうか。
ただし、71歳以上の者と投票日に海外にいる者との投票は任意です。
罰則適用は、極めて厳格(初回の棄権に対しては通常は警告文書が送られるだけだが、棄権が重なると裁判所での判決を受けることになる可能性がある)でして、これも日本の道路交通法の罰則適用とほぼ同等でありましょう。
もちろん、「義務投票制」には賛否両論あるわけですが、日本の地方議会の問題を改善する実現可能な具体策としてすくなくとも検討に値するのではないでしょうか。
日本も地方参政権を行使しない選挙民に罰金を施し、それを厳しい地方行政の貴重な財源とするのはどうでしょうか。
罰金が用意されれば自と投票率は高くなるでしょう、それは結果的に地方議会の活性化に繋がり、しいては議員の質の向上に結びつくことでしょう。
棄権が今より減ればそれもよし、今同様大量の棄権者が出れば地方自治体の財源が潤いそれもまたけっこうなことじゃないでしょうか。
国民の義務を果たさなければ、権利を享受できないというシステムは、民主主義の維持の上では良いシステムだと考えます。
(木走まさみず)