木走日記

場末の時事評論

「一票の格差」問題徹底検証〜「0増5減」政府案が誕生した理由

 全国の各地裁判所で衆院選無効判決が出たことを受け、主要紙社説は一斉に衆院選一票の格差」問題を取り上げています。

【朝日社説】一票の格差―異様な政治が裁かれた
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_gnavi
【読売社説】衆院選違憲判決 国会は司法の警告に即応せよ
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130326-OYT1T01567.htm
【毎日社説】衆院選無効判決 警告を超えた重い判断
http://mainichi.jp/opinion/news/20130326k0000m070082000c.html
【産経社説】衆院選無効判決 国会の「怠慢」への断罪だ
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130326/plc13032603140006-n1.htm
【日経社説】無効判決まで出た1票の格差是正を急げ
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO53306390Y3A320C1EA1000/

 いずれの社説も国会の怠慢を批判していますが、朝日社説は「政治の側の認識の浅さ、危機感の薄さは驚くばかり」、「この当たり前のことが、なぜわからないのか」と、国会及び国会議員を痛罵しています。

 裁判をとおして根源的な問いが突きつけられているというのに、政治の側の認識の浅さ、危機感の薄さは驚くばかりだ。

 あいもかわらず、どんな仕組みにすれば自党に有利か、政局の主導権をにぎれるかといった観点からの発言がなされ、「裁判所はやりすぎだ」と見当違いの批判をくり出す。

 「国権の最高機関」であるためには、民意をただしく反映した選挙が実施されなければならない。この当たり前のことが、なぜわからないのか。

 そして、「これは緊急避難策でしかない」との認識のもと、「0増5減に基づく新区割り法を、まず成立させ」よ、と論じています。

 うむ、各紙社説の論説もこの朝日社説と大差ないのですが、当ブログとしてはこの報道の状態を情けなく少なからずの憤りを感じております。

 「国権の最高機関」たる国会の怠慢は無論指弾されるべきですが、当ブログとしては、この衆院の「1票の格差」問題へのマスメディアの深堀りしないおざなりの報道姿勢の方を批判したいのです。

 この国のマスメディアは、二言目にはまず緊急避難策でしかないが「0増5減に基づく新区割り法」を成立させ、その上で抜本的改革に着手すべき、と論じるのですが、でははたして、政府の「0増5減案」とはどのような背景から考案されたものなのか、そもそも衆議院の300小選挙区全てにおける「一票の格差」は現状どのような分布になっているのか、この国のマスメディアはそのような「一票の格差」問題の、定量的解析および具体的数値による説明はいっさい、できていません。

 物理的制約のある新聞紙面や時間的制約があるTV報道において、「一票の格差」問題をとことん深く解析することは難しいとするならば、バーチャルな空間を活用できるネットメディアならばそのような制約はないのですが、この国のマスメディアはネット媒体においても、定量的な分析は試みていません、もしかすると能力的な問題かも知れません。

 そこで今回は、「一票の格差」問題と政府が提案している「0増5減に基づく新区割り法」について定量的に掘り下げて、読者に対しできうるかぎり解かり易く解説を試みたいと思います。

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●STEP1:小選挙区300の「一票の格差」の現状を徹底検証

 現在の登録有権者数の最も少ない選挙区は高知県第3区の20万5461名であり、逆に最も多い選挙区である千葉県第四区の49万7350名とは、2.42倍の格差が存在します。

 ここで全300選挙区すべての有権者数と最小選挙区である高知県第3区との一票の格差を、いっきに表でまとめてみます。

 なお、便宜上、格差が1.5倍未満を合法(白色)、1.5〜1.99倍を準違法(黄色)、2.0倍以上を違法(ピンク)で色分けいたしました。

■図1:衆議院小選挙区一票の格差」分布(北海道地区・東北地区)

■図2:衆議院小選挙区一票の格差」分布(関東地区1)

■図3:衆議院小選挙区一票の格差」分布(関東地区2)

■図4:衆議院小選挙区一票の格差」分布(中部地区1)

■図5:衆議院小選挙区一票の格差」分布(中部地区2・関西地区1)

■図6:衆議院小選挙区一票の格差」分布(関西地区1・中国地区)

■図7:衆議院小選挙区一票の格差」分布(四国地区・九州地区1)

■図8:衆議院小選挙区一票の格差」分布(九州地区2)

 読者の皆さんのお住まいの地区の格差はいかがでしたでしょうか。

 ごらん頂いたとおりかなりの地域差がありますが、都市部を中心に黄色の格差1.5倍以上と、ピンク色の格差2倍以上が広く分布していることが見て取れます。

 全300選挙区でまとめますと、98(32.7%)選挙区が格差1.5倍未満、130(43.3%)選挙区が格差1.5倍〜1.99倍、72(24.0%)選挙区が格差2倍以上となっております。

■図9:全小選挙区300における「一票の格差」分布


 参考までに有権者の多い選挙区30を示しておきます。
■図10:有権者の多い小選挙区30

 次に有権者の少ない選挙区30を示しておきます。
■図11:有権者の少ない小選挙区30

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●STEP2:「0増5減」政府案が誕生した理由を理解する

 さて、いま現状から「一票の格差」を2倍未満に下げることを試みます。

 今一度、有権者の少ない選挙区30に注目します。

■図11:有権者の少ない小選挙区30

 この30の選挙区ですが、表で確認できますように最大の選挙区である千葉県第4区の有権者数の半分をも有していません(表には載せませんでしたが31番目の選挙区は半分を超えています)。

 逆に言えば、これら30の選挙区の有権者数をすべて、どうにか区分けし直して最大選挙区(千葉県第4区)の有権者数の半分を超えるようにすれば、「一票の格差」は2倍未満に抑えることができるのです。

 ところが、表の上から1番目の高知県第3区のように同一県内では余裕が無くて再区分けが出来ない選挙区と、2番目の長崎県第3区のように、同一県内に余裕があり再区分け可能の選挙区があります。

■図12:有権者数を再区分け可能な県と可能でない県がある

 表の30の選挙区のうち、過半数の選挙区は同一県内で調整可能ですが、残念ながら、福井、高知、徳島、佐賀、山梨、鳥取各県に属する14選挙区が同一県内では有権者の余裕が無く細工分けが不可能なのです。

■図13:有権者数を再区分け可能でない県(6県)

 そこで、これら6県の中で、鳥取を除く福井、高知、徳島、佐賀、山梨の選挙区数3の5県は選挙区数を2に減じて有権者数を増やす調整をする、いわゆる「0増5減」策が生まれたわけです。

 鳥取県だけはすでに2選挙区しかないので、第1区と第2区の間の調整作業となります。

■図14:有権者数を再区分け可能でない県(6県)

 こうして、各県2選挙区にこだわりかつ「一票の格差」を2倍未満にするために、「0増5減」政府案の骨子が誕生したのです。

 もちろんこの案でも骨子だけでは細部の微調整をしないと実現しません、最終的には、有権者の多い都県の選挙区も含めて17都県42選挙区で区分け調整することになります。

 ただ考え方の骨子はここで説明したとおりです。

 各都道府県2選挙区にこだわること自体に限界がありまた司法からも批判されてきた「0増5減」政府案ですが、緊急避難的ではありながらも一応格差を2倍未満におさめることを実現しているのであります。

 今回は全300の選挙区の「一票の格差」分布を徹底的に洗い出し、かつマスメディアがほとんど解説をしない「0増5減」政府案が誕生した理由の説明を試みてみました。

 本エントリーがこの問題に対する読者のみまさまの論考の一助になれば幸いです。

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(木走まさみず)