木走日記

場末の時事評論

「ハシシタ 奴の本性」記事を生んだ週刊朝日編集長の業界出自〜ゴシップジャーナリズムすら筋を通せない存在価値のまったくないチキンな「週刊朝日」

●親子(?)揃って詫びいれが早い朝日新聞朝日新聞出版

 朝日新聞出版ホームページより。

週刊朝日10月26日号の橋下徹大阪市長に関する記事についての「おわび」

おわびします
編集長 河畠大四

 本誌10月26日号の緊急連載「ハシシタ 奴の本性」で、同和地区を特定するなど極めて不適切な記述を複数掲載してしまいました。タイトルも適切ではありませんでした。このため、18日におわびのコメントを発表し、19日に連載の中止を決めました。橋下徹大阪市長をはじめ、多くのみなさまにご不快な思いをさせ、ご迷惑をおかけしたことを心よりおわびします。
 編集部にも電話やメール、ファクスなどで、「差別を助長するのか」「チェック態勢はどうなっているのか」といったご批判の声が多く寄せられました。ご意見を重く受け止めています。
 この連載は、編集部がノンフィクション作家・佐野眞一氏に執筆を依頼しました。今年9月に「日本維新の会」を結成してその代表になり、次の衆院選では、第三極として台風の目になるとも言われる政治家・橋下氏の人物像に迫ることが狙いでした。差別を是認したり助長したりする意図はありませんでしたが、不適切な表現があり、ジャーナリズムにとって最も重視すべき人権に著しく配慮を欠くものになりました。
 この記事を掲載した全責任は編集部にあります。記事の作成にあたっては、表現方法や内容などについて、編集部での検討だけではなく、社内の関係部署のチェック、指摘も受けながら進めました。しかし、最終的に、私の判断で第1回の記事を決定しました。
 多くの関係者を傷つける事態をまねいたことについて、深く反省しています。読者のみなさまにもご迷惑をおかけしたことをおわびします。  今回の反省を踏まえ、編集部として、記事チェックのあり方を見直します。さらに、社として、今回の企画立案や記事作成の経緯などについて、徹底的に検証を進めます。 

http://publications.asahi.com/news/276.shtml

 親会社である朝日新聞も「深刻に受け止め」記事を掲載しました。

週刊朝日の連載中止 橋下氏巡る不適切な記述で

(前略)

朝日新聞社、深刻に受け止め

 《朝日新聞社広報部の話》 当社は、差別や偏見などの人権侵害をなくす報道姿勢を貫いています。当社から2008年に分社化した朝日新聞出版が編集・発行する「週刊朝日」が今回、連載記事の同和地区などに関する不適切な記述で橋下徹大阪市長をはじめ、多くの方々にご迷惑をおかけしたことを深刻に受け止めています。

http://www.asahi.com/national/update/1019/TKY201210190469.html

 うむ、親子(?)揃って詫びいれが早くて驚きましたが、河畠大四(かわばただいし)週刊朝日編集長は「おわび」で「差別を是認したり助長したりする意図はありませんでしたが、不適切な表現があり、ジャーナリズムにとって最も重視すべき人権に著しく配慮を欠くものになり」と反省していますが、彼の本音はおそらく「トホホ、なんでほぼ同様の内容を記事にした『文春』や『新潮』は謝罪してないのに『朝日』は謝罪しなければならないのん?」あたりではないでしょうか?

 週刊朝日の下品極まる記事内容はネット上でも多くの論客が論じていますのでここでは取り上げず、当ブログとしては例によって少し目線を変えて、今回の騒動を凋落一方の新聞社系週刊誌の最後の悪あがきとして、「ハシシタ 奴の本性」記事を生んだ週刊朝日編集長の業界出自などを分析してみたいです。

 ・・・



●凋落一方の新聞社系週刊誌

 さて、社団法人日本雑誌協会のサイトから日本の総合週刊誌の最近の発行部数データを見てみましょう。

総合週刊誌 印刷証明付発行部数(2012年4月〜2012年6月)

順位 名称 発行部数 新聞社系
1 週刊文春(文藝春秋) 698,834  
2 週刊新潮(新潮社) 577,718  
3 週刊現代(講談社) 551,012  
4 週刊ポスト(小学館) 457,667  
5 週刊大衆(双葉社) 279,000  
6 週刊朝日(朝日新聞出版) 215,350
7 週刊プレイボーイ(集英社) 213,334  
8 週刊アサヒ芸能(徳間書店) 198,972  
9 AERA(アエラ)(朝日新聞出版) 135,925
10 サンデー毎日(毎日新聞社出版局) 125,459
11 SPA!(扶桑社) 113,890
12 ニューズウィーク日本版(阪急コミュニケーションズ) 63,492  

総合週刊誌 印刷証明付発行部数(2012年4月〜2012年6月)

・データソース
社団法人 日本雑誌協会 総合週刊誌 印刷証明付発行部数(2012年4月〜2012年6月) 
http://www.j-magazine.or.jp/magadata/index.php?module=list&action=list&cat1cd=1&cat3cd=2&period_cd=17

 うむ、ご覧のとおり「週刊朝日」は発行部数215,350の第六位に位置していますが、トップの「週刊文春」の発行部数698,834部の3分の一にも届いていない、厳しい売上状況であることがわかります。

 こうしてみると、上位はすべて出版社系週刊誌で占められており、新聞社系は上位12誌中4誌にすぎずしかも、朝日・AERA(朝日新聞社系)、サンデー毎日(毎日新聞社系)、SPA!(産経新聞社系)すべて発行部数は低迷しています。

 すでに「週刊読売」「週刊サンケイ」が部数低迷で廃刊に追い込まれている現在、新聞社系週刊誌の次の廃刊は発行部数125,459部と喘いでいる「サンデー毎日」では?と業界では囁かれていますが、それはともかくなぜかくも新聞社系週刊紙は売れないのでしょうか?

 一言で言えばスクープが少なく記事構成がおとなし過ぎて「おもしろくない」からであります。

 この国では、日本記者クラブに属する大新聞はじめ地方新聞は自らを「クオリティペーパー」(私から言わせれば完全な勘違いとしかいえないのですが(苦笑)) と自認していますので、下半身関連の記事やゴシップネタを取り上げることはまずありません。

 そこを補っているのが「週刊文春」や「週刊新潮」の記事に代表されるゴシップジャーナリズムであります。

 出版社系のこれらの週刊誌はご存知のとおり、ガセネタを飛ばして多くの裁判沙汰を起こして敗訴したりしていますが、中には政治家の政治生命に止めをさすスクープも、このゴシップジャーナリズムである週刊誌から生まれているのもまた事実なのであります。

 「文春」(文芸春秋社)、「新潮」(新潮社)、「ポスト」(小学館)、「現代」(講談社)はそもそも日本新聞協会中心の日本記者クラブには参加していませんから、彼らは何の遠慮もなく新聞では決して載せれない政治家に関わるゴシップジャーナリズムに突き進めます。

 一方の新聞社系週刊誌は親会社が日本記者クラブの会員ですから、出版社系のような奔放な記事を飛ばすことはできません。

 そのようなことをすれば「仲良しクラブ」の調和を乱しかねないのです。

 ですから、閉鎖的な記者クラブを通じて政治権力と密な関係を築いている新聞社を親会社とする週刊誌は、ゴシップジャーナリズムを極めることは不可能で、紙面構成が地味でつまらないから、発行部数は凋落する一方なのです。

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●「ハシシタ 奴の本性」記事を生んだ週刊朝日編集長の業界出自

 今回の騒動のキーマンは河畠大四(かわばただいし)週刊朝日編集長であると私は考えています。

河畠大四

河畠 大四(かわばた だいし、1960年 - )は日本のジャーナリスト。『週刊朝日』第42代編集長。
東京都出身。慶應義塾大学法学部卒業。小学館に入社、『ビッグコミック』で手塚治虫、『女性セブン』、『SAPIO』を担当。
1989年に朝日新聞社入社。『週刊朝日』で鴻上尚史ナンシー関などを担当。『朝日新聞』経済部、『論座』などを経て、2011年4月より週刊朝日編集長。[1]

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%B3%E7%95%A0%E5%A4%A7%E5%9B%9B

 彼は朝日新聞グループでは珍しいといっていいでしょう、小学館からの中途入社つまり外様(とざま)組で編集長にまで出世した人物です。

 彼は小学館時代、『ビッグコミック』、『女性セブン』、『SAPIO』を担当と、まさに出版社系週刊誌のゴシップ文化にドップリつかったジャーナリストと言っていいでしょう。

 朝日新聞入社後も経歴で見る限り、朝日新聞本社本流ではなく週刊誌中心の傍流を歩いてきたのがわかります。

 今回の「週刊朝日」記事は、私も内容を確認しましたが、同和地区を特定する記述箇所も含めてすでに知られている「文春」記事や「新潮」記事とほぼ同様な内容であり、小学館出身の河畠大四編集長はこの内容でも「いける」と判断したのでしょう。

 彼からすればゴシップジャーナリズムとしては問題がない、部数低迷を打破するために渾身の連載記事をはなったはずなのです。

 彼からすれば小学館時代の『女性セブン』、『SAPIO』担当当時のスクープゴシップ記事への想いも当然よぎったことでしょう。

 彼の誤算は、彼の編集権を有する週刊誌「週刊朝日」の親会社朝日新聞社が日本記者クラブ加盟メディアの中心的存在であり、政治家からの圧力に極めて脆弱でチキン(臆病)な体質であることを失念していたことです。

 橋下氏の「朝日新聞も含めた取材拒否」で震え上がった親会社朝日新聞社が、100%子会社の出版社上がりの「外様」編集長に対して圧力を掛けたであろうことは想像に難くありません。

 朝日新聞本社からしてみれば、今回の騒動は功を焦った出版社上がりの「外様」編集長の勇み足、といったところでしょうか。

 「橋下氏の出自を問題にした週刊朝日」でしたが、朝日新聞社にしてみれば「編集長の業界出自が問題だった」というお粗末な結末で、朝日新聞朝日新聞出版、親子(?)揃って異常に早い「おわび」と相成ったのであります。

 まったく、お粗末な話ではあります。

 ゴシップジャーナリズムすら筋を通せない、存在価値のまったくないチキンな「週刊朝日」など、廃刊したほうがいいでしょう。



(木走まさみず)