木走日記

場末の時事評論

担当者が「音声録音の設定を失念した」(東電)のは本当なのか?

 私はIT技術者として小さなソフトウエア開発会社を経営しつつ、通信工学などを工学系の大学や専門学校で長年、講師をしております。

 その関係である学校法人の遠隔講義のシステム構築をアドバイザーとしてお手伝いしたことがあります。

 簡単にシステムの概要を説明いたしますと、某メーカーのテレビ会議システムをカスタマイズして、東京の教室で講義している授業の動画を20人ほどの学生が受講する地方の教室に配信、双方にカメラとマイクを設置し90分の授業を双方向のコミニュケーションが取れる形でネットの利用して「遠隔講義」を実現したものです。

 いうまでもなく東京の講師には地方の教室の様子が動画と音声でリアルタイムに確認でき、一方通行の講義の垂れ流しではなく、個別に学生にクイズを出して回答させたり、あるいは学生からの質問があればそれを受けて東京で講師が答えるということが可能です。

 でこのような遠隔講義システムを実現し学校側はそれまで不可能だったサービスを手にします。

 講義録として授業内容をハードディスクに保存することで、

 1.授業を欠席した学生など補講用に再生・再利用

 2.講師の学生管理に再生・再利用(出欠管理・レポート管理など、また自身の講義内容のチェックなど)

 3.アーカイブス・ライブラリーとして学校側が長期保存、多様な用途で再生・再利用

 等に利用可能となったのです。

 よくできたシステムで、講義内容の動画のほかマルチディスプレイで講師のPC上の例えばエクセルのグラフなど資料が並んで表示可能なものでした。

 一般にコンビニの防犯カメラや施設の監視カメラなどは集音マイクはありませんからアーカイブとして残しておく情報は画像情報だけで音声はありませんが、テレビ会議システムのアーカイブは画像・音声ともに録画・録音することが普通です、デフォルトです。

 テレビ会議システムにおいて音声だけ残すとか画像だけ残すことのメリットはほとんどないからです(もちろん、記録していたデータから音声だけを消音するとか、音声データだけを取り出すことは当然可能です)。

 今回の東京電力テレビ会議動画の開示情報について、私はIT技術者として非常に違和感を感じています。

 以下の産経記事の東電関係者の説明が比較的くわしいので取り上げます。

東電、テレビ会議の録画映像 「プライバシー」盾に公開拒否 記録消失恐れ (1/3ページ)
2012.7.8 07:47
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/120708/cpb1207080749000-n1.htm
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/120708/cpb1207080749000-n2.htm
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/120708/cpb1207080749000-n3.htm

 記事から。

 そもそも、東電のテレビ会議システムはどういうものなのか。東電によると、テレビ会議システムは東電本店と第1原発のほか、第2原発やオフサイトセンター、柏崎刈羽原発などに設置されている。画面は分割され、発言があるとその部分が強調されて情報共有できる仕組みという。

 ただ、映像は自動的には記録されない。東電本店での録画が始まったのは、事故翌日の昨年3月12日午後11時ごろから。東電は「担当者が機転を利かせて録画を始めた」としており、「非常時にテレビ会議を録画するルールを定めていなかった」と釈明する。

 さらに、15日午前0時ごろ、本店の録画装置のハードディスクの容量がいっぱいになり、16日午前3時半ごろまで録画は中断した。

 一方、第2原発では11日午後6時半ごろから録画を開始。だが、担当者が「音声録音の設定を失念した」(東電)ため、音声なしの録画が17日午前まで続いたという。このため15日早朝の菅氏の映像は、第2原発の録画で音声はないと東電は説明しており、「本店と第2原発以外の録画は存在しない」としている。

 東電が事故前の通常時、このテレビ会議システムをどのように運用していたのかまったく情報が無いので一概に決め付けれませんが、普通の民間会社ではTV会議の内容によっては議事録を起こす必要がある場合は内容を記録することが一般的です。

 東電の説明では本店側では「非常時にテレビ会議を録画するルールを定めていなかった」が「担当者が機転を利かせて録画を始めた」としています、また第2原発側では担当者が「音声録音の設定を失念した」(東電)ため、音声なしの録画が続いたと説明しています。

 ここの説明に非常に違和感を感じるのです。

 上述しましたが、一般にテレビ会議システムの内容を記録するのに音声のみ、あるいは画像のみを記録しても記録する意味はありません、会議の記録としては録画・録音を合わせて「録画」機能と呼称しているのが普通であり、「音声録音の設定を失念した」という説明ではあたかも録画するときのデフォルトが音声録音を「設定」しないと無音で記録されると受け取られる記述ですが、利便性を考えると非常に疑わしいことです。

 東電のテレビ会議システムの技術的詳細は一切明らかになっていませんが、担当者が「音声録音の設定を失念した」ような操作性が本当だとすればかなり杜撰なシステムであり、私は是非メーカー名を公開してもらいたいと思うのです。

 断定はできませんが、テレビ会議システムのある側の録画記録に一切音声がないということは、少なくともTV会議を行って音声データも画像データとともに通信されていたことから、有り得ないとは決め付けませんが、かなりかなりレアなケースであり、IT技術の常識的にはとてもそんな運用は考えづらいことです。

 いずれにせよ担当者が「音声録音の設定を失念した」のがもしウソだとしたら東電の隠ぺい体質もここに極まれりです、信頼できない会社に原発の管理など託せません。

 逆にもし本当だとすれば、こんな単純な機械操作にすらロウスキルで使いこなせない会社に、高度な原発システムなど任されない、なによりの証左になります。

 真実を知るために、東電のテレビ会議システムの技術情報の開示を強く求めたいです。



(木走まさみず)