木走日記

場末の時事評論

残念な菅元首相の事故当事者としての言動〜「あのおっさんがそんなのを発言する権利があるのか」(吉田調書)は正論

 今年5月20日、朝日新聞は政府の事故調が行った吉田昌郎福島第1原発所長(当時)の聴取内容をスクープして、その中で、「600人以上の職員が所長の指示に反して原発から退避した」と報じました。

朝日新聞
http://www.asahi.com/special/yoshida_report/

 このニュースはすぐに「無責任な職員が恐怖で現場から逃げ出した」という趣旨で世界中に伝わっていきました。この時点で吉田調書を入手していたのは朝日新聞だけでしたが、今月に入って産経新聞が同じ調書を全文入手し、「朝日の報道は間違いで、職員は吉田所長の指示で退避しただけだ」と報じました。生前の吉田氏と親しかった作家の門田隆将氏は産経新聞紙上で、「朝日はどこまで日本人をおとしめるのか」と激怒しています。

産経新聞
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140818/plc14081811160010-n1.htm

「日本を貶める朝日新聞」は生き残れない
門田隆将
http://blogos.com/article/93508/

 さらに他のメディアも次々に全文入手、特集を組み、「無責任な職員が恐怖で現場から逃げ出した」という朝日新聞の「解釈」に強い疑義を提示しています。

【読売新聞】
http://www.yomiuri.co.jp/feature/chosho/20140901-OYT8T50235.html
毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20140831k0000m040125000c.html
共同通信
http://www.47news.jp/CN/201408/CN2014083001001605.html

 この流れを受け政府は、政府の事故調査・検証委員会が同原発吉田昌郎元所長=昨年7月死去=から当時の状況を聞いた「聴取結果書(吉田調書)」について、非公開としていたこれまでの方針を転換し、9月のできるだけ早い時期に公開すると発表いたしました。

「吉田調書」9月公開を発表 政府、非公開方針を転換
http://www.47news.jp/CN/201408/CN2014082501001505.html

 ・・・

 そもそも原則論として、航空事故や海難事故など、事故の調査・検証委員会というものは、当事者の責任を問う審判ではありません。

 そのような審判とは別に未来の事故を防ぐための知恵と教訓を得るためのプロセスです。

 従って、事故調査・検証委員会の検証結果は開示されますが、そのプロセスは大原則として絶対非公開であります。

 発言に責任は問われず絶対非公開であるから関係者は本当の事を発言することが可能なのであり、事故調査・検証委員会の聴取は免責かつ非開示は、世界標準の普偏的な原則なのです。

 事故調査・検証委員会の検証結果は開示されなければなりませんが、その調査プロセスは絶対に公開すべきでないのです。

 調査プロセスがメディアにて大々的に報道される先例を作ってしまえば、今後の事故調査・検証委員会の真実追及に確実に支障が出るからです。

 その意味で政府が当初「聴取結果書(吉田調書)」を非公開としていたことは当然なのであります、調査プロセスを公開する方が国際的には非常識です。

 付け加えるに、今回も政府は何十人の当事者に聴取して調書を作成していますが、各人の聴取内容が必ずしも「真実」を伝えていると過信することは絶対してはいけません。

 人間の発言は誤謬を含みます、本人の現状判断がそもそも勘違いしていたかも知れない可能性、当時の記憶を後付けで補強しそれを「真実」として語っている可能性、恣意的にあるいは無意識に自己保身を図り「真実」を歪めている可能性、一人の人間だけの「聴取結果書(吉田調書)」をもって「真実」を断定することは危険です、いや不可能です。

 今回も政府の事故調査・検証委員会の検証結果は、当然ながら複数の個人の聴取結果から科学的・総合的に判断して起こったことを慎重にまとめたものを公開したはずです。

 つまり一人の証言内容が「真実」としてひとり歩きする今回の事態は、とてもアブノーマルな危ない事態であるという認識を当ブログは有しています。

 従って朝日新聞の今回のスクープは、二重の意味で報道機関として「真実」を歪めている可能性があります。

 まず国際的には絶対の禁じ手である事故調査・検証委員会の個人に対する調査プロセスを公開してしまい、その内容をあたかも「真実」のように報道していること、さらに「無責任な職員が恐怖で現場から逃げ出した」という朝日新聞の恣意的「解釈」を付けて報じている可能性があることです。

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 今回はしかし、既に複数のメディアが全文入手し、しかもその報道内容に関して国益を揺るがすほどの疑義が生じています。

 政府は非公開方針を転換して「吉田調書」を9月の早い時期に公開すると発表しましたが、こと此処に至ってはすでに公開されたも同然です、異例のケースですがやむを得ない判断だと評価致します。

 吉田調書の内容が公開されれば、朝日新聞の報道内容が恣意的だったかどうかは明らかになることでしょう。

 従軍慰安婦捏造報道につづき、この「吉田調書」報道でも恣意的捏造があったとすれば、このニュースはすでに「無責任な職員が恐怖で現場から逃げ出した」という趣旨で世界中に伝わっているわけですから、朝日新聞の国家に対する大罪捏造報道がまたひとつ明らかになるということです。

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 すでに各紙で報道されていることですが、「吉田調書」において、吉田氏は菅元首相を「おっさん」呼ばわりし、「混乱の張本人」、「あのおっさんだって事故調の調査対象でしょう。自分だけの考えをテレビで言うのはアンフェアも限りない」と罵倒しています。

菅元首相を「おっさん」、混乱の張本人と指弾
2014年08月30日 08時48分
特集 福島原発

 当時首相だった菅直人氏についての吉田昌郎氏の言及には、混乱の張本人として指弾する強い憤りがにじむ。

 「(菅氏が)こんな大人数で話をするために来たんじゃないとかいうことで、場所変えろとか何かわめいているうちに、この事象(水素爆発)になった」

 福島第一原発4号機の原子炉建屋の水素爆発より30分ほど前の2011年3月15日午前5時30分頃。菅氏は東京電力本店に乗り込み、東電幹部らを前に「日本が潰れるかもしれないときに撤退などあり得ない。命がけでやれ。撤退したときは東電は100%潰れる」などと激高しながら話した。左手を激しく振ったり、拳を大きく振り上げたりする菅氏の姿は、テレビ会議の画面を通じて、吉田氏の目にも映っていた。

 「使いません、『撤退』なんて。菅(氏)が言ったのか誰が言ったのか知らないが、そんな言葉、使うわけがない。誰が撤退なんていう話をしているんだと逆にこちらが言いたい」

 水素爆発は、菅氏の話が終わって間もなくの同6時過ぎに起きた。

 「吉田調書」の中で、吉田氏は、菅氏が事故調の調査などに対し、「(首相)官邸の反発を受けて、東電側が全面撤退の主張を撤回した」との認識を示していたことについても批判。

 「あのおっさんがそんなのを発言する権利があるのか。あのおっさんだって事故調の調査対象でしょう。自分だけの考えをテレビで言うのはアンフェアも限りない」と述べ、菅氏のことを「おっさん」と呼ぶほどの憤りを示していた。

http://www.yomiuri.co.jp/national/20140830-OYT1T50010.html

 先ほども触れましたように吉田調書の内容を全て「真実」と受け止めることはできませんが、彼が吐露している個人的「感情」は信じてよいでしょう、そして「あのおっさんがそんなのを発言する権利があるのか。あのおっさんだって事故調の調査対象でしょう」は、当ブログには正論と思えます。

 事故の主要当事者であり従って重要な「事故調の調査対象」者である元内閣総理大臣が、己の責任追及を回避し自己保身に走る言動を繰り返し、挙げ句の果てに自分の都合に合わせて国際的には絶対の禁じ手である事故調査・検証委員会の個人に対する調査プロセスを公開せよと要求するとは、言語道断であります。

 26日付け産経記事から。

全て公開し再検証を 豪で菅直人元首相
2014.8.26 17:06 [安倍首相]

 民主党菅直人元首相は26日、東京電力福島第1原発事故で政府の事故調査・検証委員会が同原発吉田昌郎元所長=死去=から聞き取った「聴取結果書」の公開について「事故原因や経緯を知る上でもっとも重要な資料だ」と歓迎、「もう一回あらゆる事実関係を検証することが必要だ」と述べ、東電関係者の調書は全て公開されるべきだとの認識を示した。

 訪問中のオーストラリアの首都キャンベラで取材に答えた。

 日本政府は吉田氏以外の調書も、本人の同意が得られたものから公開する準備を進めているが、菅氏は「東電の中で起きたことは重要。事故の検証は極めて公益性が高く、当時の東電会長や社長ら幹部の調書のほか、東電のテレビ会議の記録も(完全に)公開すべきだ」と語った。

 また、自身に対する政府事故調の調書も公開することで既に政府側と基本的に合意し、調整を進めているとした。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140826/stt14082617060004-n1.htm

 それにしてもです。

 当事者たる元内閣総理大臣が、自分が何を発言しているのか、理解できているのか?

 故吉田氏の「あのおっさんがそんなのを発言する権利があるのか。あのおっさんだって事故調の調査対象でしょう」との言葉を、今一度噛み締めたいです。

 事故当時国の最高責任者であった己の責任は回避する発言に終始し、自己保身に走り、国際的には禁じ手である事故調査・検証委員会の個人に対する調査プロセスを公開せよと堂々と要求するとは・・・

 菅元首相の事故当事者としての言動は、誠に残念至極なことであります。



(木走まさみず)