電力会社に公安・警察OBが必要な2つの理由
11日付け朝日新聞記事から。
関電系列会社に天下り69人 本社では役員も
関西電力は10日、子会社や関連会社17社に計69人の天下りを受け入れていることを明らかにした。昨年3月末の時点の集計で、大阪府市からの質問に答えて開示した。一方、関電本社では現時点で計25人の天下り組がいることが朝日新聞の取材で判明。官と電力業界の癒着構造が改めて明らかになり、批判が高まりそうだ。
子会社や関連会社については、同日開かれた大阪府市の専門家会議「エネルギー戦略会議」で、関電が明らかにした。
回答書によると、天下っていたのは、国家公務員が計25人。出身省庁は国土交通省13人、経済産業省3人、環境省2人など。「主に土木関係技術業務や環境関係業務などに従事している」と説明している。地方公務員は計44人で、内訳は警察関係16人、土木関係13人、消防関係10人など。「主に渉外対応、土木関係技術業務、原子力発電所の自衛消防隊業務などに従事している」とした。
(後略)
http://www.asahi.com/national/update/0410/OSK201204100075.html
関西電力が69人の天下りを受け入れているとする記事なのですが、まあ電力会社に大量の天下りがいることなどいまさら驚くようなことではないわけで、昨年の秋には東京電力へも天下りがいっぱいいた事実が報道されていましたしね、当時の読売新聞記事から。
東電への天下りは51人…「癒着」批判も
東京電力は26日、中央省庁や地方自治体など役人OBの天下りを51人受け入れていると明らかにした。
内訳は嘱託が48人、顧問3人。警察OBが32人と最も多く、海上保安庁出身も7人いるという。経済産業省OBは含まれていないとしている。
山崎雅男副社長は同日の衆院予算委員会に参考人として出席し、「電気事業には色々な仕事がある。(在籍しているOBは)国家公務員だけではない」と述べた。行政と電力業界の「癒着」として批判が出そうだ。
枝野経産相は「事実関係を調べた上で、適切に対処したい」と述べた。
(2011年9月26日23時58分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20110926-OYT1T00961.htm
電力会社が大量の天下りを受け入れて所轄の監督省庁とズブズブの関係にあること自体ダメダメであり大問題だと思うのですが、その当りはまじめな他のサイトなり論客なりにゆだねまして、例によって当ブログとしては穿った視点で別の角度からこの記事を注目したいのです。
朝日の記事から、関電に天下っている公務員OBで一番多いのが「警察関係16人」という点です。
東電にいたっては、51人中警察OBが32人という突出さです。
なぜ電力会社に警察OBが大量に天下っているのでしょうか。
朝日記事によれば警察OB16名は「主に渉外対応」に従事していると読めるのですが、なるほど「渉外」か。
その昔、私は企業研修セミナーに関わったことがありますが、そのとき渉外研修を担当された講師が元警察署長の企業顧問の人だったことを思い出しました。
民間企業の「渉外対応」の仕事って、実は守備範囲がとても広いのですが、はっきりいってその大半がトラブルシューティングなのでありまして、警察OBの人が重宝がられるのは、彼らの情報網(暴力団関係含みます)と経験ノウハウが生きるからであります。
古いですが昨年の週刊ポスト記事はズバリ、「蛇の道は蛇。闇社会に顔が利く組織や人物に頼らざるを得ない」(東電の元幹部)と、かなり本質的な部分をえぐっています。
東電に警察・公安から天下り多い理由 暴力団からの「用心棒」
2011.03.30 16:00
http://www.news-postseven.com/archives/20110330_16119.html
記事冒頭部分を引用。
原子力発電所の用地買収や反対派の説得交渉は暴力団や悪徳ブローカーの格好の金づるとなるため、一民間企業の東電社員にそれを抑え込むことは困難だ。そのため、「蛇の道は蛇。闇社会に顔が利く組織や人物に頼らざるを得ない」(東電の元幹部)となる。
東電の用地買収に関わった土地ブローカーが語る。
「電力会社はどれほど反対があっても発電所を作らなくてはならない。工作に注ぎ込むカネも潤沢だ。だから、ゴネる側も交渉を代行する側も要求が膨れあがる。(後略)
用地買収や反対派の説得交渉、このあたりの交渉も「渉外」なのですが、これに暴力団などが絡むケースがあるので、「彼らを受け入れるのは、暴力団やブローカーの要求がエスカレートするのを防ぐため。いわば用心棒役です」(前出の元幹部)という訳です。
なるほど、警察OBを大量に受け入れている一つの理由が用地買収などの「用心棒役」なのであります。
で、もうひとつの「反対派の説得交渉」ですが、これは民間企業でも同じですが、クレーム対応という受動的な業務から、能動的な広範囲な情報収集(クレーマーブラックリスト作成)から広範囲な世論操作(商品への好感度向上活動や商品への批判記事への反論)など、防御と攻撃の2面性を持ったちょっとスパイ的なお仕事なんであります。
ときに評論家にお金を差し上げて自社商品を肯定的に取り上げてもらったり、きわどいこともしなければならなかったり、渉外担当者は大変なのであります。
で、電力会社が大量に警察OBを「渉外」担当で採用しているもうひとつの理由を赤裸々に取り上げているのが、今週発売の週刊現代の記事であります。
●後藤政志×志村嘉一郎
■「原発を動かしたい」のは誰だ?
http://online.wgen.jp/
記事はネットでは閲覧できませんが、ジャーナリストの志村嘉一郎氏(元朝日新聞経済部記者)の発言の当該部分を抜粋。
(前略)
東電は広告会社を使って、新聞、テレビ、雑誌などメディアをすべてチェックしています。それだけではありません。東電へ天下りした官僚たち合計51人のうち、32人が警察OBなんです。このうちひとりは警察庁出身の高級官僚で、あとは地方県警OBです。彼らは何をしているのか。
恐らく彼らがやっているのは、原発反対派運動の人とか、東電に批判的な人の動向や身元をチェックすること。そうでなければ31人、しかも地方県警のOBなんて雇わない。彼らは東電の”CIA”です。
私の場合、『東電帝国 その失敗の本質』という著書を出版した後、エネルギー関連の研究所を主宰している知人から「実情は本の通りだけど、身辺に気をつけろ」と言われました。彼はわざわざ妻にも連絡してきて、「まず、本人が困るよう奥さんからやられるから気をつけたほうがいい」と。(後略)
週刊現代4月21日号 52頁より抜粋引用
うむ、彼らが反対派の動向をチェックしていることは当然でありましょうね、それが「渉外」担当、彼らの仕事のひとつですもの。
・・・
まあなんといいますか、そういうことであります。
くわばら、くわばら。
(木走まさみず)