木走日記

場末の時事評論

平成時代の日本の税収入がここまで落ち込んだ理由〜デフレ下で間接税増税する愚策をなぜ繰り返すのか?

 いよいよ26日、社会保障と税の一体改革法案が採決されます。

 この歴史的トピックとなるだろう日に、マスメディアは小沢Gの離反など政局の動きの報道に終始しています。

 26日付け社説にても、読売・産経などでは、「小沢氏の言動は、国難を招く権力闘争」(読売社説)、「造反者への厳しい処分も辞さず、消費税増税を柱とする一体改革を成し遂げる覚悟をいかに貫けるか」(産経社説)と、法案の中身を問うのではなく政局のみを取り上げて、首相に覚悟を求めています。

【読売社説】一体法案採決へ 首相は造反の抑制に全力を(6月26日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20120625-OYT1T01490.htm
【産経社説】きょう衆院採決 首相は「処分」で覚悟示せ
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120626/plc12062603060002-n1.htm

 またTVの報道番組に出演している消費税増税支持の論客達は、1000兆にのぼる国家財政累積赤字を減らさなければ国が立ち行かなくなるとか、少子高齢化の中でこのままでは破綻確実の社会保障の制度を維持していくための財源を消費税増税で確保しなければならないなどと、消費税増税を今すぐ断行しないと日本が破綻すると言わんばかりに危機感を煽っております。

 メディアの論説やTVの評論家達の論説と同レベルで議論してもこの問題の本質は見えてきません。

 この国の税制はどうあるべきなのか、その答えを導くために、徹底した数値データで過去と現在の税制を検証していきましょう。

 当ブログでは2ヶ月前、統計データを駆使して平成24年間の日本の税収の推移を検証しその問題点を探ってまいりました、このエントリーはネットで少なからずの反響をいただきました。

2012-04-06■[経済]日本のプライマリーバランスはなぜ赤字になったのか〜平成時代の税収徹底検証
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120406/1333699453

 平成24年間でこの国の税収で起こったことは、大きく3点です、それは経団連の主張をほぼなぞるように「法人税の減税」「所得税累進課税)の累進率の緩和」、「間接税(消費税)の導入(増税)」を断行してきました。

 消費税は平成元年4月1日に3%で導入され平成9年9月1日に5%に増税されました。

 結果、この国の税収はどう推移したのか。

■表:平成時代の税収推移

年度 所得税 法人税 消費税 その他 合計
平成元年 213,815 189,933 32,699 112,770 549,218
平成2年 259,955 183,836 46,227 111,040 601,059
平成3年 267,494 165,951 49,763 115,047 598,204
平成4年 232,313 137,186 52,409 122,594 544,453
平成5年 236,865 121,379 55,865 127,155 541,262
平成6年 204,176 123,631 56,315 126,179 510,300
平成7年 195,060 137,354 57,901 128,903 519,308
平成8年 189,650 144,833 60,568 125,550 520,601
平成9年 191,827 134,754 93,047 119,787 539,415
平成10年 169,962 114,232 100,744 109,382 494,319
平成11年 169,038 107,951 104,471 105,455 472,345
平成12年 187,889 117,472 98,221 103,542 507,125
平成13年 178,065 102,578 97,671 101,168 479,481
平成14年 148,123 95,234 98,115 96,860 438,332
平成15年 139,146 101,152 97,128 95,398 432,824
平成16年 146,705 114,437 99,743 95,005 455,890
平成17年 155,859 132,736 105,834 96,226 490,654
平成18年 140,541 149,633 104,633 96,308 490,691
平成19年 160,800 147,444 102,719 99,219 510,182
平成20年 149,851 100,106 99,689 93,027 442,673
平成21年 129,139 63,564 98,075 96,553 387,331
平成22年 129,844 89,677 100,333 95,014 414,868
平成23年 134,900 77,920 101,990 94,460 409,270
平成24年 134,910 88,080 104,230 96,240 423,460

 グラフ化すると税収の落ち込みが顕著に現れます。

 グラフの「税収計」の推移に注目してみれば、この平成時代、消費税を平成元年に3%で新設し、平成9年に5%に増税したにもかかわらず、この23年間ほぼ一貫して税収が下がってきているのが理解できます。

 平成2年の60兆1059億をピークに、増税した平成9年には53兆9415億に、そして今年度は42兆3460億まで落ち込んでいます。

 特に消費税を増税した平成9年度以降本年度まで、一度も平成9年度の税収を越えることはできていません。

 まとめると下図のとおりです。

 上図で赤線で示しましたが、少なくとも過去において、長期デフレ経済のもとで消費税を増税しても税収は減り続けていることがわかります。

 過去の数値で検証する限り、消費税増税は増収には繋がっていないことがわかります。

 税収増どころか税収減が止まらなかったわけです。

 それにしても平成時代にピークの60兆から40兆台と税収が三分の二近くにまで落ち込んでしまったのは、いくらデフレ経済とはいえいかなる理由が考えられるのでしょうか。

 その答えは単純です。

 まず、本年度の予算フレームを見てみましょう。

 予算規模90兆3339億、歳入を見ていると税収は半分に満たない42兆3460億であり、税収を上回る公債金すなわち国債つまり借金で成り立っていることが分かります。また、歳出でも21兆9442億が国債費、すなわち借金返済に回っています。

 単年度の赤字(プライマリーバランス)は歳入・歳出からそれぞれ借金関係を取り除けば、その姿を現します。

 単年度でも22兆2998億の赤字なわけです。

 単年度22兆3000億の赤字が垂れ流されていることを着目して置いてください、後でこの数値が意味を持ちます。

 さて、消費税を1%UPすると2兆ほど税収が増えると言われていますが、政府が目指す3%や5%の消費税増税では、単年度の赤字ですらまったく解消されないことがわかります、消費税増税分は政府案では社会保障費の財源だと庶民受けを狙っていますが、この程度の増税では単年度の赤字解消にすらまったく足りないのは自明です。

 角度を変えて 平成時代にピークの60兆から40兆台と税収が三分の二近くにまで落ち込んでしまった理由をさぐります、税収と名目GDPの動きと対比してみましょう。

■表:平成時代の税収と名目GDPの推移

年度 税収計(億) GDP(10億)
平成元年 549,218 410,122.20
平成2年 601,059 442,781.00
平成3年 598,204 469,421.90
平成4年 544,453 480,782.80
平成5年 541,262 483,711.80
平成6年 510,300 488,450.30
平成7年 519,308 495,165.50
平成8年 520,601 505,011.80
平成9年 539,415 515,644.20
平成10年 494,319 504,905.40
平成11年 472,345 497,628.50
平成12年 507,125 502,989.90
平成13年 479,481 497,719.70
平成14年 438,332 491,312.20
平成15年 432,824 490,294.00
平成16年 455,890 498,328.40
平成17年 490,654 501,734.50
平成18年 490,691 507,364.70
平成19年 510,182 515,520.40
平成20年 442,673 504,377.60
平成21年 387,331 470,936.60
平成22年 414,868 479,172.50
平成23年 409,270 469,545.27
平成24年 423,460 478,936.18

 グラフ化いたしましょう。

 税収はほぼ右肩下がりなのに、名目GDPは500兆前後で安定的に推移していることがわかります。

 そこで税収を名目GDPで割った「GDP比税収率」をグラフ化してみましょう。

 上記の「GDP比税収率」(棒グラフ)に注目してください。

 平成元年に13.4%だった「GDP比税収率」は平成24年には8.8%にまで落ち込んでいます。

 マスメディアやTVに出てくる評論家は誰も指摘しませんが、実に奇妙なことに、例えば平成元年ではGDPは410兆1222億で54兆9218億の税収があるのに、今年度では478兆9362億と元年より70兆近くGDPは伸びていることが予測されているのに、税収は逆に42兆3460億と、12兆5758億も減収になっているのです。

 つまりこの平成23年間、この国はほぼ一貫して「減税」されてきたのです。

 何の税目が減税されてきたのでしょうか。所得税法人税であることは明らかです。
 あらためて税収の推移に注目してみます。

 平成23年間で、所得税はピークの平成3年の26兆7494億から本年度の13兆4910億までほぼ半減しています。

 法人税はピークの平成元年の18兆9933億から本年度の8兆8080億までこちらは半減以上の減り方です。

 2税で約23兆3000億です、偶然でしょうか本年の単年度赤字22兆2998億を帳消しにできる数値です。

 ・・・

 平成23年間でこの国は、所得税最高税率を引き下げ、高額所得者を中心に減税を行いました。

 また国際競争力を高めるため(経団連主張)法人税も減税を行ってきました。

 それを補うように消費税を設立、増税してきました。

 しかし今検証したとおり、所得税法人税の減税が大きすぎて消費税では補えず、毎年度のプライマリーバランスに壊滅的な赤字をもたらしました。

 これは当然のことです、世界で類を見ない長期のデフレ経済の下で国民の所得は下がり続けている日本で、間接税をいくら増税しても、直接税の減税を補うことはまったくできなかったのです。

 過去のデータは今検証したようにデフレ経済下でいくら消費税を増税しても税収増にはいたらないことを示しています。

 そしてこの国の財政は取り返しがつかないぐらい傷ついてしまっています。

 OECD諸国における租税負担率(対国民所得比・国税)(2009年)に着目いたします。

 デフレ経済のもとで、無理に直接税を減税し間接税を増税した結果がこの表に端的に現れています。

 デフレ経済を脱却することなく間接税を増税してもこの国のプライマリーバランスを回復することはまったくできません。

 過去のデータを検証する限り、消費税を増税しても経済を冷やしさらなる税収減を加速させるだけです。

 民主党政権がデフレ経済下で間接税増税を再度繰り返すことは、この国の経済の将来にとって致命的な失政となることでしょう。


(木走まさみず)


※本エントリー中のデータソースは以下の国税庁及び総務省の統計データを洗い出し、再編集したものです。
 平成元〜22年度は確定ベースの、平成23と24年度は概算ベースの値を使用しています。

http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei_pdf/H01/T_H01.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei_pdf/H02/T_H02.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei_pdf/H03/T_H03.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei_pdf/H04/T_H04.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei_pdf/H05/T_H05.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei_pdf/H06/T_H06.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei_pdf/H07/T_H07.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei_pdf/H08/T_H08.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei_pdf/H09/T_H09.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei_pdf/H10/T_H10.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/gaiyo1999/menu/01.htm
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/gaiyo2000/menu/01.htm
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/gaiyo2001/01.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/gaiyo2002/01.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/gaiyo2003/01.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/gaiyo2004/01.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/gaiyo2005/01.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/gaiyo2006/gaiyo.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/gaiyo2007/pdf/gaiyo.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/gaiyo2008/pdf/gaiyo.pdf
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/gaiyo2009/pdf/gaiyou.pdf
http://www.mof.go.jp/tax_policy/reference/account/h22.htm
http://www.mof.go.jp/tax_policy/reference/budget_explanation/008a23a.pdf
http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2012/seifuan24/yosan016.pdf