木走日記

場末の時事評論

たばこ増税するなら「たばこ事業法」を廃止し、たばこ新法を作るべき〜日本のたばこ行政徹底検証

 7日付け読売新聞電子版記事から。

財務相「小宮山先生はたばこ嫌いなんですよね」

 小宮山厚生労働相が5日の記者会見で、たばこ税を増税し、1箱あたり700円程度とすべきだとの考えを表明したことが波紋を広げている。

 藤村官房長官は6日の記者会見で「個人的な思いを述べられたものだ」と述べ、政府方針ではないとの見解を強調。安住財務相も「ご高説は承っておく。(たばこ税の)所管は私だ。小宮山先生はたばこ嫌いなんですよね」とけん制した。

 小宮山氏は6日の記者会見で「(厚労省は)700円に上げると決める省ではない」とトーンダウンしたものの、「個人的意見というよりは厚労省を代表して申し述べた意見だ」とこだわりをにじませた。

 新政権発足早々の「閣内不一致」ぶりに、野党からは「閣僚の言葉が軽い民主党政権の未熟さが早くも露呈した」(自民党幹部)との指摘も出ている。

(2011年9月7日08時47分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110907-OYT1T00033.htm?from=top

 うむ安住財務相の発言どおり、たしかに日本においては「たばこ行政」は財務省の所管なのであります。 

 今回は物議をかもしている小宮山厚労相のこの「たばこ税を増税し、1箱あたり700円程度とすべき」発言を取り上げたいと思います。

 この国の「たばこ行政」の現状を正確に検証しておきましょう。

 日本の代表的な紙巻きたばこマイルドセブンは、現在1箱20本入で410円の売価ですが、その内訳は以下のとおり。

■表1:たばこ一箱(410円)当りの内訳

内訳
税抜価格 145.4 35.5
税額計 264.6 64.5
(国たばこ税) (106.04) (25.9)
地方たばこ税 (122.04) (29.9)
たばこ特別税 (16.4) (4.0)
(消費税) (19.52) (4.8)
合計 410.00 100.0

■図1:たばこ一箱(410円)当りの内訳

 ご覧のとおり、410円のうち264.6円(64.5%)と約2/3が税金で占められています。

 で、このたばこ諸税による税収ですが総務省によれば2兆1千億円ほど(平成20年度)であります。

■表2:たばこ税収(平成20年度決算額

区分 税収(億円)
税収計 21,195
道府県たばこ税 2,632
市町村たばこ税 8,084
国たばこ税 8,509億円
たばこ特別税 1,970

<情報ソース:総務省資料>
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/pdf/ichiran01_11.pdf

 前回の民主党政権によるたばこ増税を含めてここ数年、たばこ税収は2兆円前後で推移しています、増税する分喫煙者減少を招いている結果でしょう、小宮山厚労相が毎年100円づつ、売価が700円当りまで増税しても税収は減らないと発言したのも統計数値に基づいてのものだと思われます。

 まあ総額2兆円とあれば赤字財政に苦しむわが国政府や地方自治体にとり無視できない貴重な財源とはいえそうです。

 ・・・

 「たばこ事業法」という法律があります。

 その第一条。

第一条  この法律は、たばこ専売制度の廃止に伴い、製造たばこに係る租税が財政収入において占める地位等にかんがみ、製造たばこの原料用としての国内産の葉たばこの生産及び買入れ並びに製造たばこの製造及び販売の事業等に関し所要の調整を行うことにより、我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もつて財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S59/S59HO068.html

 ここに、財務省所管のこの法律は「我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もつて財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする」と明確にうたわれています。

 さらに「製造たばこの原料用としての国内産の葉たばこの生産及び買入れ」に「所要の調整を行う」ことも明記されています。

 つまり「たばこ事業法」は「我が国たばこ産業の健全な発展」と「財政収入の安定的確保」が目的であり、それがために国内産の葉たばこの買い入れをJTに義務化しているわけです。

 (財)日本葉たばこ技術開発協会の資料によれば、葉たばこに関わる人員、面積、生産量、生産高は以下のとおり。

■表3:国内の葉たばこ生産量(平成22年産)

人員(人) 11,437
面積(ha) 14,980
生産量(t) 29,297
生産高(百万円) 54,171

<情報ソース:日本葉たばこ技術開発協会の資料>
http://www.hatabakotda.or.jp/

 日本の葉たばこ生産量は年々減少傾向にありますが、平成22(2010)年においては2万9千トン余り生産されており生産高は541億7千万円、これをすべて「たばこ事業法」に基づきJTが買い入れています。

 生産高54,171(百万円)を生産量で29,297(t)で割れば、JTによる1KG当りの買い入れ金額が1849円であることが求まります。

 さてこのキロ当たり1849円というJTによる国産葉たばこ買入価格ですが、これはもちろん「たばこ事業法」により生産者を守るための価格であり、国際価格ではありません。

 実際には国内産の葉たばこだけでは全生産量の原料供給はまったく不足していますから、JTは相当量の海外産の葉たばこを輸入しています。

 JT広報部の公式見解では「日本製のたばこは、国産と海外産の葉タバコを使用しています。国産葉タバコの買い入れ実績は毎年公表していますが、海外産の葉タバコに関しては輸入国、量とも一般には公表していません」とのことです。

 JTは公表していませんが、財務省貿易統計資料で税関を通った葉たばこの資料が公開されていますので、ここから容易に国別葉たばこ輸入量等の数値を押さえることができます。

■図2:2011年1月〜12月の年間税関別国別比率

<情報ソース:財務省統計情報サービス資料>
http://toukei-is.com/h/?p=10301&f=00

 ご覧のとおり、葉たばこはブラジル、アメリカ、中国などから輸入されています。

 次に年間の輸入量はどれくらいかを押えておきます。

■図3:葉たばこ月別輸入量の推移(単位:KG)

 グラフから平成22(2010)年1月から12月までの輸入量を目算で積分しますと、概算ですが約6万3千トンほどがこの1年間で輸入されていることがわかります。

 この年の国内生産量が2万9千297トンであったことから、平成22年度の日本のタバコの原料の海外・国産比率が求まります。

■図4:葉たばこ海外・国産比率(平成22年)

 日本のタバコに使われる葉タバコの比率は、国産32%、輸入68%(平成22年)と推測されます。

 さらに、輸入葉タバコのキロ当たりの価格を財務省統計資料から押さえます。

■図5:葉たばこ月別輸入価格の推移 (単位:円/KG)

<情報ソース:財務省統計情報サービス資料>
http://toukei-is.com/h/?p=10301&f=00

 図でご覧のとおり、ここ五年ほどキロ600円前後で推移していることがわかります。

 さきほど求めたキロ当たり1849円というJTによる国産葉たばこ買入価格は国際価格の3倍であることがわかります。

 ・・・

 まとめます。

 国際価格の3倍もの高値で日本たばこ産業(JT)が国産葉たばこを買い入れているのは「たばこ事業法」により義務付けられているからです。

 日本政府のJTの出資比率は50・01%で、半分以上の保有義務をぎりぎり満たす水準ですが、これも政府のにらみを利かせるために法律で定められています。

 ところが復興財源捻出のため8月3日に民主党の岡田幹事長(当時)は、保有義務を「3分の1以上」に引き下げるようJT法改正などを検討する考えを示します、実現すれば、6000億円近い財源を調達できるからです。

 しかし政府がJTの出資比率を減少すれば、JTがより経営効率を重視し国産買入価格を下げ、東北地方に集中する葉タバコ農家が打撃を受ける可能性があります。

 またたばこ税を増税し1箱あたり700円程度とした場合、その場合、一歩譲って小宮山厚労相の発言どおりたばこ税収は余り影響を受けないとしても、タバコ販売量は急減することでしょう、やはり葉タバコ農家が打撃を受けるのは避けられないでしょう。

 「たばこ事業法」は「我が国たばこ産業の健全な発展」と「財政収入の安定的確保」が目的であり、それがために国内産の葉たばこの買い入れをJTに義務化しているわけですが、民主党政権の「たばこ行政」は明らかにこの法律に矛盾しています。

 復興財源捻出のため政府によるJTの出資比率を減少したり、過激なタバコ税増税をしたいなら、現行の「たばこ事業法」の主旨「我が国たばこ産業の健全な発展」とは明らかに矛盾する政策となりますから、まずは「たばこ事業法」を廃止し、たばこ新法を作るべきです。



(木走まさみず)