木走日記

場末の時事評論

M7超級の大地震が五ヶ月に1回発生する国に原発は稼動可能なのか?

 先月、マグニチュード(M)7級の首都直下地震が今後4年以内に約70%の確率で発生するという試算を、東京大学地震研究所の研究チームがまとめました。

M7級首都直下地震、4年内70%…東大地震
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20120122-OYT1T00800.htm

 同研究所の平田直(なおし)教授らは、マグニチュードが1上がるごとに、地震の発生頻度が10分の1になるという地震学の経験則である「グーテンベルク=リヒターの法則」を活用し、今後起こりうるM7の発生確率を計算しました。

 大地震の発生メカニズムは我々のなじみのある正規分布には従いません。

 正規分布は自然界で起こる現象の多くがその分布に当てはまること,特に平均値に関する分布が当てはまることから,統計学では最も重要な分布となっています.

 たとえば大学入試の学力分布は典型的な正規分布の例であり学力偏差値などでお馴染みであります。

 自然界で起こる現象の多くが正規分布に当てはまる中で、地震の発生はそれに従わないことが地震学者によって発見されています。

 米カリフォルニア工科大学地震学者、ビーノ・グーテンベルクとチャールズ・リヒターが世界中の地震を調べた結果、マグニチュードが1大きくなると地震発生数は10分の1になり、2大きくなると100分の1に減る関係が発見されます。

 このように、片方につれてもう片方が指数的に減る場合、「ベキ分布」に従っていると言いますが、この「グーテンベルク=リヒターの法則」は地震発生回数とマグニチュードとの間にもこのベキ分布が成り立つことを意味しています。

 「ベキ分布」では上図のように「ロングテール」(長い尾)状の分布となり、地震であれば大地震ほど発生確率がどんどん小さくなっていくことになりますが、もちろんこれは大地震が発生しないことを意味してはいません。

 べき分布に従う現象は、株式市場の崩壊や大規模な自然災害のような極端にまれな頻度だと考えられる極値理論と強いつながりがあります。

 「正規分布ベキ分布」という話題は、経済物理学 の分野で話題になったことがあります、金融工学で用いられるブラック=ショールズ式は、正規分布を前提としたモデルに従っているが、現実の分布はべき分布なので、ブラック=ショールズ式はもともと当てにならない、というような話題です。

 初期の金融工学では、原資産の価格変化率の分布が対数正規分布に従い、裁定機会が存在しないなどの仮定の上で、オプションの理論価格を導くことができた(ブラック・ショールズ方程式)のですが、あくまで、数学的に扱いやすいから正規分布としていましたが、実際の価格変化率の分布はパレート分布(ベキ分布)に従うため、現実的なモデルとは言えないのです。

 このたびの東日本大震災の規模を東電は「想定外」との表現していますが、はたしてべき分布に従う大地震の発生確率に対して、科学的に真摯に対峙した表現といえるのでしょうか。

 ・・・

 それはさておき「グーテンベルク=リヒターの法則」に基き、M7級の大地震が4年内に70%の確率で首都直下で起こると算出した東大地震研の予測ですが、2000年1月以降日本列島近傍で発生したM7超級の大地震は29回あります。

 時系列に列挙します。

2000年1月28日 根室半島南東沖-M 7.0
2000年3月28日 硫黄島近海 - M 7.9
2000年8月6日 小笠原諸島西方沖 - M 7.2
2000年10月6日 鳥取県西部 - M 7.3
2001年12月18日 与那国島近海 - M 7.3
2003年5月26日 宮城県北部沖 - M 7.0
2003年9月26日 十勝沖 - M 8.0
十勝沖 - M 7.1
2004年9月5日 紀伊半島南東沖 - M 7.4
2004年11月29日 釧路沖 - M 7.1
2005年3月20日 福岡県西方沖 - M 7.0
2005年8月16日 宮城県沖 - M 7.2
2005年11月15日 三陸沖 - M 7.1
2008年5月8日 茨城県沖 - M 7.0
2008年6月14日 岩手・宮城内陸 - M 7.2
2008年9月11日 十勝沖 - M 7.1
2010年2月27日 沖縄本島近海 - M 7.2
2010年11月30日 小笠原諸島西方沖 - M 7.1
2010年12月22日 父島近海 - M 7.8
2011年3月9日 三陸沖 - M 7.3
2011年3月11日 東日本大震災 - M 9.0
    岩手県沖 - M 7.4
    茨城県沖 - M 7.4
    三陸沖 - M 7.5
2011年4月7日 宮城県沖 - M 7.1
2011年4月11日 福島県浜通り - M 7.0
2011年7月10日 三陸沖 - M 7.3
2011年11月8日 沖縄本島北西沖 - M 7.0
2012年1月1日 鳥島近海 - M 7.0

地震の年表 (日本)より
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E9%9C%87%E3%81%AE%E5%B9%B4%E8%A1%A8_(%E6%97%A5%E6%9C%AC)

 12年2ヶ月で29回ですから、2000年以降、平均して5ヶ月に1回日本列島近傍でM7超級の大地震が発生していることになります。

 10万以上の犠牲者を出した1923年(大正12年)の関東大震災がM7.9、1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災がM 7.3ですからM7超級の大地震が都市部の直下に近く発生すると大変な被害をもたらすことになりますが、もちろん震源が離れていてあるいは十分深ければM7超級の大地震であっても被害はほとんど発生しませんケースも多々あります。

 逆に平成16年に発生した新潟県中越大震災(M 6.8)のように、震源が浅く直下だとM7を超えなくとも最大震度 7を記録して68人の犠牲者を出してしまうこともあります。

 その意味でM7はあくまでも地震の規模的な目安に過ぎませんが、問題なのはべき分布に従い平均して5ヶ月に1回発生するその規模の大地震が、次にいつごろ、日本列島のどこで、そしてどの規模で発生するのか、まったく予測が立たないことです。

 ・・・

 地震の揺れの強さを示す単位として「震度」が使われますが、最近の地震計ではより科学的にガル( 記号:Gal)という単位を用いられることが多くなっています。

 1ガルは、1秒(s)に1センチメートル毎秒(cm/s)の加速度の大きさと定義されています。

 ちなみに地球表面における重力加速度(1G)はおよそ981ガルとなります。

 実はガルによる正確な地震の揺れの計測は最近はじまったばかりで歴史が浅く、過去の地震に対するデータの蓄積はほとんどありません。

 実は最近の地震の揺れの正確な計測でわかってきたことは、従来の想定よりも日本列島はガル単位で大きく揺れてしまっているという事実です。

 このたびの大震災でも福島第1原発ではその耐震基準を超えた加速度を計測し、津波到来前に配管施設等の損傷が発生しました。

福島第1原発:揺れの加速度、耐震基準超す

 東京電力は1日、東日本大震災で被災した福島第1、第2原発(計10基)の各号機別の揺れの観測結果を公表した。揺れの最大加速度は、第1原発の2号機で550ガル(ガルは加速度の単位)。耐震性の基準値(438ガル)をやや上回った。3号機も507ガル(基準値441ガル)、5号機も548ガル(同452ガル)といずれも東西方向の揺れで想定を超えていた。中央制御室の電源回復で初めて全号機の確認ができたという。【山田大輔

http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/archive/news/2011/04/01/20110402k0000m040122000c.html

 これまでの既存の原発の耐震基準は福島原発と同様500ガル前後(見直しにより1000ガルまで高める原発もあります)ですが、先ほども指摘しましたが最近の計測機器の充実による正確なデータから実際には従来の想定を超える大きな揺れが発生していることがわかってきました。

 今回の大震災における計測最大値は宮城県栗原市で観測された2933ガルになります。

 実は世界最大の地震による加速度は近年、日本で数年おきに更新されてきており、平成16年の中越地震のとき川口町の地震計で当時世界最高の2,516ガルを記録され、現在の世界最大の地震による加速度は、岩手・宮城内陸地震(2008年6月14日)の際に岩手県一関市厳美町祭畤で観測した4022ガルであります。

 これはもちろん最近の日本の地震が揺れが強くなる傾向にあることを示しているのではなく、計測機器の充実によりガル計測が多地点で正確に行われるようになったために観測された最大加速度が更新されているに過ぎませんが、岩手県一関市厳美町祭畤で観測した4022ガルでありますが、この揺れの強さは従来の想定を超えたものでありました。
 
 4022ガルといえば重力加速度であらわせば4.1Gという、F1レースのコーナリングで発生する加速度に匹敵するものです。

 もし原子力発電所施設にこのような強大な加速度が加わるとしたらたとえ耐震強度を1000ガルに高めたとしても、被害は免れないでしょう。

 平均して5ヶ月に一度のペースでM7超級の大地震が発生している日本列島は、環太平洋火山帯に属する世界でも有数の地震国であります。

マグニチュード4.0以上、震源の深さ100km以下、理科年表2002国立天文台より

 関西電力配下の原発がすべて止まり、原発再稼動か否かの議論が盛んですが、あくまで科学的な立場で最近のデータに基き各原発の予想されうる発生加速度とそれに対する耐震強度の見直し、ここをないがしろにしたせわしい対応はするべきではないと考えます。

 原発近傍直下でM7級地震が発生する、その最悪のシナリオに耐え得る既存原発は残念ながら一基もないことを、我々は直視するべきだと考えます。



(木走まさみず)