木走日記

場末の時事評論

「もし60歳以上が投票できないとしたら」という思考実験

 謹賀新年、本年もよろしくお願いいたします。

 さて、2012年はどのような年になるのでしょうか。

 今日はお正月でもありますので、実現性は無視してある思考実験をしてみたいと思います。

 実験のきっかけはお二人の著名な先生の発言がきっかけです。

 ひとつは昨年12月14日にブログ「S氏の相場観」でS氏が最近の政治のひどさを嘆かれてこのようなことを発言されていました、失礼して該当箇所を抜粋してご紹介。

(前略)

どう考えてもあり得ない判断であるはずなのですが、これもまた一枚岩ではない寄せ集め集団の民主党ならではの結果でしょう。日々こうしたあり得ない話を目にする度、どうしてこんな政党に政治を託してしまったのかと、反省しきりなのですが、あの当時は本当に自民党が酷かったですし、仕方が無いとも言うしか無いでしょう。

ただ、今なら自民党に任せられるかと言えば、決してそうではありませんが、一体何をどうすればこの悲惨な政治が終わるのかと言えば、やはり若い世代が政治に関心を持たなくてはならないと言う点ではないでしょうか。

思い切って選挙権は60歳ぐらいまでとし、政治家も責任を問える年齢と言う事で、60歳ぐらいまでを限度とすべきでしょう。70歳以上の政治家が何を決めたところで、その結果が出る頃にはこの世の者ではなくなっている可能性が高いのですし、判断能力もまた危うい者になっている事でしょう。

(後略)

http://ssoubakan.blog102.fc2.com/blog-entry-1173.html

※:太字は木走が付けました。

 うむ、「思い切って選挙権は60歳ぐらいまでとし、政治家も責任を問える年齢と言う事で、60歳ぐらいまでを限度とすべきでしょう」と提案されています。

 二つ目は元旦のブロゴス記事である書評を池田信夫先生が書かれているのですが、その中でのこの記述です。

(前略)

 だから真の問題は、増税ではなく歳出の削減、特に社会保障の削減なのだ。これは経済学者のコンセンサスだが、政治家は与野党ともにまったくふれない。それは有権者の年齢のメディアンが51歳だからである。投票率や1票の格差を勘案すると、実質的には60歳以上が有権者過半数を占めるので、すべての政策は老人によって老人のために決められるのだ。

(後略)

http://blogos.com/article/28204/

※:太字は木走が付けました。

 うむ、「すべての政策は老人によって老人のために決められる」のだと。

 「有権者の年齢のメディアンが51歳だから」なのであり、「投票率や1票の格差を勘案すると、実質的には60歳以上が有権者過半数を占める」からだと説明されています。

 「有権者の年齢のメディアンが51歳」とは本当なのでしょうか、また「実質的には60歳以上が有権者過半数を占める」のは本当でしょうか。

 今日は日本の過去の選挙における有権者(投票者)の平均年齢について徹底的に検証して、なおかつS氏の提案(?)を思考実験として実現してみましょう。

 「もし60歳以上の人々に投票をご遠慮いただくとすると日本の有権者の平均年齢はどうなるのか?」、この興味深いテーマについて検証していきましょう。

 ・・・

 統計数字も正確に有り直近の選挙ということで、ここでは平成21年に行われた民主党が圧勝して政権交代を実現した第45回総選挙を取り上げます(いまとなっては私を含め多くの国民にとってトラウマになってしまったあの選挙ですよ(苦笑))。

 総務省・統計局・政策統括官(統計基準担当)・統計研修所のこちらのサイトから平成21年時の年齢各歳別人口がエクセルファイルで入手可能です。

2- 4 年齢各歳別人口(エクセル:24KB)<関連するグラフ>
http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.htm

 で、このデータから取りあえず年齢別のグラフを作成いたしました。
■図1:年齢各歳別人口(平成21年)

 ご覧のとおり団塊の世代4年間に200万人を超えたピークがあり、あと団塊ジュニア世代でも200万近くのピークがあり、フタコブラクダのようなグラフになっていますが、最近は100万すれすれの少子化が進んでいることが見て取れます。

 この基礎データから20歳未満を切り捨て、年代別の有権者数を押さえて、表と図にしてみました。
■表1:年代別有権者数(平成21年)

年齢 人数(単位:千人)
20-29 14417
30-39 18306
40-49 16407
50-59 16872
60-69 17798
70-79 12722
80- 7899

■図2:年代別有権者数(平成21年)

 作成して見て意外でしたが、この平成21年時点で年代別では60代より30代の1830万6千人がピークをなしているのですね。

 さて最初の検証ですが、この45回総選挙時において有権者の平均年齢は何歳なのでしょうか。

 メディアンを視覚的に押さえるのは円グラフが便利です、若い世代順に上から時計回りに円グラフを描けば、平均は真下に現れるからです。

■図3:年代別有権者数とメディアン(平成21年)

 うむ、51.69歳となりました、池田先生の「51歳」が統計的に裏づけができました。

 さてここで第二の検証をしてまいりましょう、実際には若い世代ほど投票率が低いので実際の投票者の平均年齢はさらに高めになるはずです。

 財団法人「明るい選挙推進協会」のこちらのサイトで第45回総選挙における年齢階層別の投票率の数値を押さえておきます。

第45回総選挙における年齢別投票率
http://www.akaruisenkyo.or.jp/070various/071various/379

 これらのデータから実際の年代別の投票者数を割り出しました。

■表2:第45回総選挙における年齢別投票者数

年代 有権者 投票率 投票者数(千人)
20-29 14417 0.494 7122
30-39 18306 0.6372 11665
40-49 16407 0.7270 11928
50-59 16872 0.7963 13435
60-69 17798 0.8420 14986
70-79 12722 0.8051 10242
80- 7899 0.5610 4431

■図4:第45回総選挙における年齢別投票者数

 うむ、実際に若い世代ほど投票率が低いのが見て取れますが、80歳代以上の投票率もかなり低いのが見て取れます。

 この実際の投票者数を元にもう一度円グラフを描いてメディアンを求めてみました。
■図5:年代別投票者数とメディアン(平成21年)

 53.44歳と2歳ほど上がりましたが、さすがに60歳を超えるということはありませんでした。

 しかし投票者の平均年齢が53歳を越えているというのは、いかにも高いですね。

 これから平成世代がどんどん有権者になるわけですが、図1でも確認したとおり、彼らは母数として団塊世代の半分もありませんから、投票者(有権者も)の平均年齢がこの先さらにどんどん上がっていくことは必定であります。

 ・・・

 さて、検証は終わりましたのでこれらのデータを元に思考実験をしましょう。

 60歳以上の人々に選挙をご遠慮いただくとした場合、日本の有権者は何人となりその平均年齢はどうなるのか。

■表3:「もし60歳以上が投票できないとしたら」年齢別投票者数

年代 有権者
20-29 14417
30-39 18306
40-49 16407
50-59 16872
総数 66002

■図6:「もし60歳以上が投票できないとしたら」年代別投票者数とメディアン(平成21年)

 うむ、「もし60歳以上が投票できないとしたら」、日本の有権者総数は6600万人になり、そのメディアンは40.36歳にまで若返ります。

 ・・・

 いかがだったでしょうか。

 「もし60歳以上が投票できないとしたら」、有権者の平均年齢は40歳にまで、つまり現状から一回り下がることになります。

 そうしたら政治家ももっと現役世代や若い世代の意向を政策に反映するようになることでしょう。

 もっとも、これはあくまで頭の中だけでの実験であり、憲法で保障されている国民の基本的権利を大きく侵害しますので、現在のところ実現性はゼロでしょう。

 このような実現性のない乱暴な思考実験にご不快に思われた読者がいたら、不肖・木走の不徳のいたすところであり、お詫び申し上げます。

 ただ、若い世代や将来の世代のための政策が今の政治でまったくなされていない、膨大な財政赤字を垂れ流しながら社会保障は守られて老人向けの政策ばかりが実現しているのもまた事実なのであります。



(木走まさみず)