木走日記

場末の時事評論

「もし未成年者の投票権をその親に与えたとしたら」という思考実験PART2


 前回のエントリの追記的なコネタということで。

 前回(元旦)の当ブログエントリーはちょっとネットで反響をいただきました。

2012-01-01 「もし60歳以上が投票できないとしたら」という思考実験
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120101

 メディアン(中央値)を平均と誤用したりつたないエントリーでしたが、コメント欄やブックマーク・ツイッター、あるいは提携しているブロゴスを通じてこれだけ多数の賛否各論をいただいたことは、この問題に関するみなさんの関心がそうとう高かったと解釈したいです。

 「思考実験」と強調したのは、特定の層の権利をオミットすることは、完全な憲法違反でありその実現性はゼロであることも「言い訳」としてふれておりました。

 もっとも、これはあくまで頭の中だけでの実験であり、憲法で保障されている国民の基本的権利を大きく侵害しますので、現在のところ実現性はゼロでしょう。

 具体的には憲法15条の第三項、第四項に思い切り触れますよね。

第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

 さて、今回はコメント欄でhihi01様が紹介してくれた興味深い提案について取り上げたいのです。

hihi01 2012/01/02 02:01
子どもたちにも投票権を与えるというのは、どうでしょうか?
http://d.hatena.ne.jp/hihi01/20100121/1264086101

 うむ、「親権者に子供の数だけ投票権を与える」という、ドメイン投票方式(デーメニ投票方式)のことですね。

 人口統計学者のポール・ドメイン(Paul Demeny)によって1986年に考案された投票方式で、ドイツやニュジーランドでは国会を通じて真剣に議論されてきた経緯があります。

 子供を持つ投票権者の声が政治により大きく反映されるようになり、子供を産み、育てやすい社会になることで先進諸国で低下している出生率が高まることが期待できるほか、若年層が望む政策にシフトすることが期待されるわけです。

 現在は投票権を有しない未成年者(0歳以上20歳未満)の投票権を認め、親権者が代理としてその投票権を行使できる、この方式は確かに、私が前回提案した60歳以上の投票権をなくすという「排除の論理」よりは受け入れられる可能性は高いかもしれません。

 もっともやはり憲法15条に抵触するので憲法改正の必要はあるでしょうし、現実問題としてはどの国もこの方式の採用にまでは踏み込めてはいません。

 「もし60歳以上が投票できないとしたら」という思考実験に続いて今回は思考実験第二段として、

 「もし未成年者(0歳以上20歳未満)の投票権をその親に与えたとしたら」、日本の有権者の平均年齢にどのような影響を与えるか、数値で検証していきましょう。

 基礎データとしては、前回も使用した総務省・統計局・政策統括官(統計基準担当)・統計研修所のこちらのサイトから入手可能、平成21年時の年齢各歳別人口エクセルファイルを用います。

2- 4 年齢各歳別人口(エクセル:24KB)<関連するグラフ>
http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.htm

 で、年齢別のグラフ。
■図1:年齢各歳別人口(平成21年)

 前回はここから20歳未満を除外しましたが、今回はそれも取り込んで、世代別の有権者数の表と図を作成します。
■表1:年代別有権者数(平成21年)

年齢 人数(単位:千人)
0-9 11060
10-19 12008
20-29 14417
30-39 18306
40-49 16407
50-59 16872
60-69 17798
70-79 12722
80- 7899
総数 127489

■図2:「もし未成年者の投票権をその親に与えたとしたら」年代別有権者数(平成21年)

 全世代が有権者となりますから当然ながらその総数は1億2748万と当時の日本の総人口に等しくなります。

 さて未成年(0歳〜19歳)の2306万票ですが、実際には親権者が投票を行使しますからおそらく40代を中心に30代、50代あたりに親権者の割合によって按分されるわけですが、彼らはあくまで未成年者の権利の代行者ですから、まずは単純に未成年者の年齢そのもので有権者の平均年齢を算出してみます。

■図3:「もし未成年者の投票権をその親に与えたとしたら」年代別有権者数と平均年齢(平成21年)

 うむ、平均年齢44.09歳、これまさに平成21年当時の日本人の平均年齢であるわけですが、ここまでまとめてきてすこし考えてしまいました。

 はたして未成年者の親権者達は本当に子供達のための投票行為を行うのだろうか、0歳から19歳の親といってもその年齢はかなりの分布幅を有するでしょう、上は70代、60代から下は20代、中には結婚が早ければお父さん、お母さんも十代なんてレアケースも当然法的にはあり得るでしょうし。

 読者のみなさまの考えるきっかけになればと、2回に渡って思考実験と称して日本の有権者の平均年齢を抑制することを想定してみましたが、くどいですがこれらは実現可能性は無視して「実験」してみたものです。

 若年世代の投票率をいかに向上させるか、地方と都市部の一票の格差を徹底的に是正して結果として若年世代の影響力を高める、これら合法的な努力が現実的なのでしょう。

 2回に渡りお付き合いいただきありがとうございます。



(木走まさみず)