木走日記

場末の時事評論

金正日死去:米韓軍事介入「作戦計画5029」発動の危機

 北朝鮮金正日総書記が死去いたしました。

 民主党政権で大丈夫なのか、心もとない輿石東幹事長の談話です。

輿石幹事長「北にどう対応するか急がれる」
2011.12.19 13:24

 民主党輿石東幹事長は19日午後、北朝鮮金正日総書記の死去について「非常に驚いている。亡くなられたという現実を踏まえて、これから北朝鮮とどう対応していくのかということが急がれる」と語った。

 拉致問題への影響については「簡単にコメントできることではない」とした。国会内で記者団に答えた。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/111219/plc11121913240020-n1.htm

 今さら「非常に驚いている。亡くなられたという現実を踏まえて、これから北朝鮮とどう対応していくのかということが急がれる」などと優雅なことを発言なさっていましたが、このXデーがいつか来ることは昨年来予想されていたことです。

 当然民主党政権として危機対応シナリオを用意していてしかるべきでしょう。

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 朝日新聞電子版速報記事から。

米韓首脳が緊急電話会談 緊密な協力を確認

 北朝鮮金正日キム・ジョンイル)総書記の死去を受け、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は19日午後2時ごろから、オバマ米大統領と緊急電話会談を行った。韓国大統領府が明らかにした。両首脳は今後、米韓両国が共に状況を鋭意注視しつつ、緊密に協力していくことを確認した。

 米韓両国は金総書記の死亡に伴う緊急事態に備えた共同作戦計画「5029」を策定中のほか、北朝鮮核問題を巡る6者協議再開に向け、北朝鮮にウラン濃縮活動の即時中断を求めてきた。会談では、こうした問題について意見交換したとみられる。(ソウル=牧野愛博)

http://www.asahi.com/international/update/1219/TKY201112190230.html

 うむ、金正日死亡の報を受け、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領とオバマ米大統領と緊急電話会談を行ったそうであります。

 記事にあります共同作戦計画「5029」ですが、北朝鮮におけるクーデター、革命、大規模亡命・大量脱北、大量破壊兵器流出、大規模自然災害、その他「体制を動揺させる急激な変化」が発生した場合に備えてアメリカ合衆国大韓民国が策定した軍事作戦計画であります。

 作戦計画の細部の不明確さ、北朝鮮への介入に至るであろう状況、広い範囲に渡る関係者にとって取り得る選択肢、これらの存在により、北朝鮮崩壊の結果起こり得る推測が非常に多く挙げられています。

 概要としては、韓国軍が難民を救助するのと同時に米軍が北朝鮮の旧体制から大量破壊兵器の管理権を奪取することを想定しています。

 米軍は、核兵器関連施設、物資等の確保に率先して努め、韓国軍は核・化学・生物兵器関連事項において米軍をサポートすることを想定しています。

 これは事実上の米韓による北朝鮮に対する軍事介入であり、私は今後の展開によってはこの作戦計画5029が発動される可能性があることを恐れています。

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 昨年2月の韓国・東亜日報記事によれば李明博政権下で両国は作戦計画5029を数回に渡りすでに図上演習を行っている模様です。

作戦計画5029、李明博政権下で韓米が数回図上演習
http://japan.donga.com/srv/service.php3?biid=2010020917828

 同記事によれば作戦計画5029を発動する条件は3つ。

同関係者によれば、当時、両国の国防長官はこの約定で、北朝鮮地域に軍事介入できる条件に合意した。△韓国と北朝鮮が軍事介入に合意した時、△韓米両国が軍事介入に合意した時、△国連の軍事介入要請や決議があった時の3つに限定された。

 1:韓国と北朝鮮が軍事介入に同意したとき、2:韓国と米国が軍事介入に同意したとき、3:国連の要請や決議があったとき、となっていますが、問題は北朝鮮の同意や国連の同意を前提としない2:のケースです。

 事実上の北朝鮮への軍事介入を意味する作戦計画5029が米韓2カ国の同意のみで発動可能としている点です。

 この点で、韓国と米国が北朝鮮の急変事態発生に備え軍の「作戦計画5029」を完成したと伝えられた2年前には、北朝鮮週刊紙「統一新報」が、「北侵戦争を宣言したもの」だと強く反発しています。

韓米「作戦計画5029」は北侵戦争宣言、北朝鮮紙

【ソウル8日聯合ニュース】韓国と米国が北朝鮮の急変事態発生に備え軍の「作戦計画5029」を完成したと伝えられたことを受け、北朝鮮週刊紙「統一新報」が、「北侵戦争を宣言したもの」だと反発した。

 北朝鮮ウェブサイトの「わが民族同士」が8日に伝えたところによると、同紙は7日付で「極めて無謀な先制攻撃企図」と題した文を掲載し、作戦計画5029の完成は「わが共和国最高の尊厳と自主権を侵害する許しがたい厳重な挑発であり、対決と戦争を鼓吹する反民族的犯罪行為」だと強調している。急変事態というものは、「領導者と人民と軍隊が1つの思想意志、崇高な道徳義理で固く団結しているわが共和国にとって、想像もできないこと」だと主張している。

 米航空母艦ジョージ・ワシントン」が参加した韓米海軍の合同演習や、韓米安保協議会(SCM)での「拡張抑止力提供」明文化などについても言及し、「こうした軍事的対決騒動により、朝鮮半島情勢は一触即発の先鋭な状態に向かっている」と指摘。軍事的対決で得るものは恥ずべき破滅以外にないということを肝に銘じ、無謀な反共和国対決騒動を直ちに中止すべきだと主張した。

http://www.wowkorea.jp/news/Korea/2009/1108/10064171.html

 北朝鮮だけではなく、作戦計画5029の発動は中国をいたく刺激するだろうことも懸念されています。

 最悪の場合、中国の軍事介入を招くかもしれません。

 作戦計画5029自体が中国の対応ひとつとってもかなりのリスクを伴う軍事オペレーションなのであります。

 現在、韓国では国家安全保障会議(NSC)を緊急招集、韓国軍合同参謀本部も非常警戒態勢を強化するよう全軍に指示をして、北朝鮮情勢が流動化する可能性を注視しています。

 大量の難民発生など「体制を動揺させる急激な変化」が発生した場合、作戦計画5029が発動される恐れがあります。

 世襲3代により独裁政権が延命を繰り返すのも困りますが、北朝鮮の政権が急崩壊し作戦計画5029が発動され米韓の軍事介入を招くことは、そのような事態を看過できない中国の対応も含めて、極東情勢が極度に緊張する最悪の事態です。

 私は緊急の事態に陥り作戦計画5029が発動されないことを願っています。



(木走まさみず)

<追記>金正日総書記死去のニュースが入りましたので、本日は久しぶりの2エントリーとなりました。