「日本の核武装避けられない」米WSJ紙社説〜韓国メディアで高まる日本再武装論に警鐘を鳴らす
●韓国メディアで高まる日本再武装論
ここ数日韓国メディアでは日本再武装論が急浮上しており、まるで北朝鮮のミサイル実射よりも日本の動向のほうが脅威であるかのような論調が目立ってきております。
11日の韓国・中央日報の記事では「北ミサイル発射、軍事大国化のきっかけを日本に提供」というタイトルで「日本はミサイル発射の最大受恵国に浮上した」としています。
北ミサイル発射、軍事大国化のきっかけを日本に提供
(前略)
一方、日本はミサイル発射の最大受恵国に浮上した。
◆軍事大国化加速化する日本=日本政府はミサイル発射を北東アジアで軍事、外交的影響力を拡大する絶好の機会にしている。日本はミサイル発射直後に準備していたプログラムを稼働させた。
米国の支援のもと、独自的に対北経済制裁を断行するかと思えば、中国とロシアを寄せつけて国連安保理の対北制裁決議案採択を主導している。麻生太郎日本外相は8日、冗談ながらも「金正日に感謝しなければならないようだ」と言った。ミサイル発射に対する日本の本音を表したのだ。
日本は「先制攻撃論」まで持ち出した。安倍晋三官房長官と麻生太郎外相、額賀福志郎防衛庁長官は10日と9日、記者会見で「敵の基地を攻撃することも自衛権範囲内で可能だ」とし「日本国民と国家を守るために何をしなければならないかという観点で研究、検討する必要がある」と強調した。
(後略)
2006.07.11 12:33:46
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=77710&servcode=500§code=500
記事は、専門家の発言を引用した後に、日本の軍事力はすでに「独島(トクト、日本名竹島)はもちろん、韓半島のどこにもその力を発揮することができる水準まで発展」していると、以下のように警鐘を鳴らします。
キム・ホソプ(中央大学国際関係学科、現代日本学会長)教授は「日本の軍事力増強は韓半島の利益に反し、ミサイル発射は日本軍事大国化のきっかけを提供した」と「そういった意味で金正日は反民族的」と述べた。すでに日本の軍事力は独島(トクト、日本名竹島)はもちろん、韓半島のどこにもその力を発揮することができる水準まで発展したと情報当局は分析している。
さらに、韓半島有事の際は日本も介入してくる可能性があるとしています。
キム・ヒョンギ(京畿大政治専門大学院)教授は「すでに韓国と比べることができないほどに軍事強国である日本は、韓半島有事の際、自国の安保とかかわる状況が発生すれば日米安保条約をもとに韓国と協議しなくても十分に介入が可能だといえる」と説明した。
一方12日の韓国・朝鮮日報の記事では「日本のミサイル能力は大国レベル」というタイトルで、アジア各国のミサイル能力を比較しながら、記事結語で以下のように日本のロケット技術はすでに大陸弾道弾ミサイルを開発できるレベルまでに達しているとしています。
【ミサイル発射】「日本のミサイル能力は大国レベル」
【特集】アジアのミサイル開発競争(前略)
◆韓国と日本のミサイル能力は?
尹光雄(ユン・グァンウン)国防長官は国会答弁で「韓国も射程距離300キロ以上のクルーズミサイルを開発している。(北朝鮮ミサイルに比べ)精度では韓国のほうがはるかに進んでいる」と答えている。北朝鮮は長距離ミサイルを保有しているが、韓国も北朝鮮と同等のミサイル開発能力は持っているということだ。その一方で「日本のミサイル能力はすでに大国レベル」と専門家は説明する。日本は、北朝鮮の核施設や交通道路網まで監視できる人工衛星を独自開発、打ち上げた。クォン・ジェサン教授は「日本のロケット技術はいつでも軍事用に転換可能で、ICBMを開発できる能力もすでに持ち合わせていると考えるべきだ」としている。
朝鮮日報
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/07/12/20060712000049.html
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14付けの韓国・東亜日報では「日本、もはや「戦争できない国」ではない」というタイトルで「いつでも核兵器が生産でき、先端電子技術を基盤にした電子兵器を考え合わせれば、日本の戦力は世界で3、4位に入る」と日本がその気になれば核兵器を生産できると次のような記事の書き出しです。
日本、もはや「戦争できない国」ではない
日本は、北朝鮮がミサイルを発射する度に危機を誇張し、戦力を強化してきた。すでに日本の軍事力は、装備や予算面では西欧世界でもトップ・レベルだ。一部では、自衛隊が将校だけで構成されており、手足がないうえ、実戦経験がないという点を挙げて、「唐の軍隊に過ぎない(機能しない軍隊の意)」という否定的な評価もある。しかし専門家たちは、いつでも核兵器が生産でき、先端電子技術を基盤にした電子兵器を考え合わせれば、日本の戦力は世界で3、4位に入るとみている。
(後略)
http://japan.donga.com/srv/service.php3?bicode=060000&biid=2006071437908
日本の海上自衛隊のイージス艦は「撃沈するには、戦闘機50機が一度に飛びかからなければならない」ほどの無敵戦艦だとしまた航空自衛隊も「世界第2位を誇る」と、以下のように続きます。
海上自衛隊は、米国に続き世界で2番目に多いイージス艦4隻を保有しており、今後4隻をさらに導入する予定だ。1隻1兆ウォンもするというイージス艦は、日本の海上自衛隊幹部の言葉によれば、「撃沈するには、戦闘機50機が一度に飛びかからなければならない」ほどの無敵戦艦だ。この他に、海上自衛隊の約100機にのぼる潜水艦攻撃型哨戒機P3Cは、空対地ミサイルの発射能力を備えている。航空自衛隊が保有するF15J戦闘機約200機は、米国に続いて世界第2位を誇る。
さらに防衛庁は防衛省に格上げされるなど「自衛隊を縛っていた禁制が一つ一つ解けている」と次のように続きます。
▲解かれる自衛隊の足かせ〓自衛隊が防衛だけのために存在する時代が、終末を告げている。自衛隊を縛っていた禁制が一つ一つ解けているのだ。
日本はこれまで、北朝鮮の脅威を掲げ、戦争に備える「有事3法」を作ったのに続き、陸海空自衛隊の統合運営、ミサイル防衛(MD)システムの構築を通じて、軍事力の増強を図ってきた。兵器輸出の3原則を一部解除し、国際平和を掲げて自衛隊の海外派遣も拡大してきた。
6月9日には、日本保守派の宿願であった防衛庁の省昇格法案が閣議で決定し、国会に提出された。現在、内閣府の外庁である防衛庁を独立させて省に昇格し、防衛庁長官を防衛相に変更するという内容だ。日本の政府与党は今秋、臨時国会で関連法案を可決させる方針だ。この場合、平和憲法改正にも影響が及ぼす可能性がある。政権自民党は05年、軍隊保有を明文化した憲法改正案の草案を発表している。
日本はこれと別途に、自衛隊をいつでも海外に派兵できる「恒久法」の制定も検討中だ。
記事の結語はこうです。
さらに日本がその気になれば、核兵器を製造できる技術を保有しているということも常識になっている。日本は核保有国ではないが、世界第4位のプルトニウム保有国(40トン)だ。さらに、3月31日に試験稼動に入った青森県六ヶ所村の再処理工場で、来年8月から毎年4トンを上回るプルトニウムを確保する見通しだ。プルトニウム5トンが、核兵器約1000個を製造できる量だという。
最近の日本の右傾化ムードを見ると、このプルトニウムと核技術は、いつでも核兵器に転用される可能性があるというのが専門家の見解だ。防衛省を持ち、軍隊を保有した「戦争できる国」日本が「先制攻撃」に出る日が、いつ渡来するかわからない。
日本は「世界第4位のプルトニウム保有国」であり「最近の日本の右傾化ムードを見ると、このプルトニウムと核技術は、いつでも核兵器に転用される可能性がある」というのが韓国の専門家の見解なのだそうです。
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韓国の過剰とも言える日本再軍備論でありますが、ついに日本の核武装の可能性まで触れてくるとは、日本の憲法や国内法をまったく無視した乱暴な議論ではありますが、彼の国では教科書から大統領談話(苦笑)まで好戦国家日本のイメージで固められているわけでありまして致し方ないのかも知れません。
●「日本の核武装避けられない」〜米紙ウォールストリートジャーナル紙社説
昨日(14日)の韓国・中央日報記事から。
WSJ「日本の次の措置、核武装になることも」
米紙ウォールストリートジャーナルは13日(現地時間)、北朝鮮が国際社会に挑戦しつづけているにもかかわらず、国際社会が何もしなければ、軍事的にはるかに断固とした、おそらく核で武装した日本の登場が避けられなくなるだろう、との見方を示した。
同紙は、この日「核を保有した日本?」という見出しの社説で「この60年間、日本は核の保有を自制してきたが、北朝鮮の独裁者・金正日(キム・ジョンイル)氏の軍事的脅威を中国・韓国が支持することによって、昨日とは異なる日がのぼるかも知れなくなった」とし、こうした認識を伝えた。社説は「数日から数週間という推定があるが、日本の核武装にどれだけの時間がかかるかは誰も知らない」とし「米国は同地域の現状維持を願っているが、北朝鮮の挑発が脅迫的な新しい不安を引き起こしている」と指摘。
社説は、続いて「東京はこれまで、賢く米国の核の傘に留まることの利益を理解してきた」とし「だが、国内の政治的かつ民族主義的な衝動が刺激されはじめれば、そのまま留まりにくくなるかもしれない」と見込んだ。
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=77846&servcode=200§code=200
うーん、ウォールストリートジャーナルが13日付け社説で「北朝鮮が国際社会に挑戦しつづけているにもかかわらず、国際社会が何もしなければ、軍事的にはるかに断固とした、おそらく核で武装した日本の登場が避けられなくなるだろう」との見方を示したそうであります。
「この60年間、日本は核の保有を自制してきた」が、「北朝鮮の独裁者・金正日(キム・ジョンイル)氏の軍事的脅威を中国・韓国が支持すること」により、核武装した日本の登場が不可避になるとしています。
ウォールストリートジャーナルはこちら。
で、問題の社説が掲載されているのはこちら。
Opinion Journal from THE WALL STREET JOURNAL Editorial Page
http://www.opinionjournal.com/
"A nuclear Japan?"と題した13日社説ですが、うーん、 ウォールストリートジャーナルも商売がうまい(苦笑)のでして残念ながら有料記事であり、閲覧は会員専用になっていますので、ここに転載できません。
私が読んでみての感想ですが、全体的にはアメリカ保守系論説の代表のような社説でありましたが、印象的だったのは、「日本がその気になれば数週間で核弾頭も長距離ミサイルも生産できる」可能性を言及した上で、中国や韓国の動きを強く牽制している点でした。
日本のメディアでは本日付けの産経が取り上げています。
北の挑発行為続けば、日本が核武装? 米紙社説
【ワシントン 有元隆志】北朝鮮が核や弾道ミサイルの開発をやめず、国際社会も手をこまぬくようだと、核武装も含め日本の軍事力増強は避けられない−。13日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルがこんな社説を掲げた。
社説は、国連安全保障理事会に提出された日本などによる北朝鮮制裁決議案に中国が拒否権行使を明言したり、韓国が日本国内の敵基地攻撃論を非難したりするのは、「日本に軍事力増強の必要性を認識させるだけだ」と警告した。さらに「われわれは現状維持を望むが、北朝鮮の挑発的な行為は不安定な状況をつくりだしている」と指摘。「日本は米の核の傘の下にいる利益を理解している」と分析しながらも、「国家主義的な感情が高まれば、(核保有の)抑制は難しいこともありうる」との見方を示した。
(07/14 20:58)
http://www.sankei.co.jp/news/060714/kok075.htm
またTV動画付きでTBSがネット配信しています。
「日本の核武装避けられない」米紙社説
北朝鮮のミサイル発射に関連し、アメリカの経済紙ウォールストリートジャーナルは13日付けの紙面で「日本の核武装は避けられない」とする社説を掲載しました。
ウォールストリートジャーナルは13日付けの紙面で「日本の核」と題する社説を掲載し、「北朝鮮のミサイル基地への攻撃は、自衛権の範囲かどうかという議論を深めるべき」という安倍官房長官の見解を紹介。
憲法9条という制約はあるものの、韓国がこうした見解に北朝鮮のミサイル発射よりも“強い怒り”を表明したことや、中国が国連での北朝鮮・制裁決議案に“拒否権行使”の姿勢をみせたことは、日本の軍事力強化を促すと指摘しました。
そして一連のミサイル問題が日本のナショナリストを目覚めさせれば、彼らを封じ込めることは難しいとし、仮に北朝鮮が世界の声を無視し続け、国際社会が何も対応できなければ“日本は軍事力を強化し核武装は避けられなくなる“と結んでいます。(14日20:34)
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●この米有力紙社説を警鐘とし、韓国メディアは事実に基づき冷静に判断してほしい
しかしなあ、日本以外の国で「日本の核武装避けられない」論が出始めてきたのには、日本人として当惑するばかりなのですが、アメリカ有力紙が取り上げたことで、韓国メディアはさらに「日本脅威論」がエスカレートしていくのでしょうか。
それともウォールストリートジャーナル社説の「韓国が日本国内の敵基地攻撃論を非難したりするのは、日本に軍事力増強の必要性を認識させるだけだ」という警告に従い、韓国内の日本脅威論は抑制的に控えられるのでしょうか。
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このままでは日本の核武装は避けられないとは、ウォールストリートジャーナル社説もセンセーショナルな見方をしたものですが、日本政府側もいたずらに他国を刺激するような言説はこのタイミングでは控える方が賢明であろうと考えます。
ただ、韓国側も実際に国際世論を無視してミサイル実験を強行した北朝鮮と、そのミサイル連続実射を受けて危機感を募らせての日本政府の現時点では言葉だけの「検討」発言を、事実に基づき冷静に判断してもらいたいです。
日本政府の言葉尻ばかり捉えて北朝鮮の脅威という本質的な議論がなされていないと思える、ここ数日の韓国メディアの「日本脅威論」記事に、この米有力紙の社説が警鐘になればと願っています。
(木走まさみず)