木走日記

場末の時事評論

太陽光発電は「積分値」ではなく「微分値」で見ると有益性が見えてくる

 菅直人首相は25日午後(日本時間26日未明)に経済開発協力機構(OECD)で行った演説で、「家屋への太陽光パネル設置1000万戸」という具体的な目標を掲げました。

 例によって根回しもなく唐突に発表したようですが、その内容について、あえて肯定的に批評したいと思います。

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 現在の家庭用太陽光発電システムの発電力は3kw(キロワット)〜5kwという能力ですので、例えば平均4kwだとして、設置1000万戸ならば4000万kwの発電能力になります。

 1時間に4kwh(キロワット時)の電力を作れる太陽光発電ですが、ご存知の通り太陽光発電は夜間や天候の悪いときには稼働できませんので1年は365日*24時間=8760時間なわけですが、実際には稼働率が12%程度ですので、

 4kwh × 8760時間 × 0.12 = 4204.8kwh

 1基当たり年間発電能力が4204.8kwhですので1000万基として420.48億kwhとなります。

 電気事業連合会によれば日本の1年間の総消費電力はここ数年では1兆kwh前後で推移しています。

 

 ですので、菅首相が掲げた「家屋への太陽光パネル設置1000万戸」という具体的な目標ですが、これが達成できたとしても総電力量の約4%ぐらいしか補えないことになります。

 「脱原発」反対の立場の評論家はこれらの数字を踏まえて、太陽光発電のkw当たりの発電コストの高さなどからこの目標の達成には助成金や電力買い取りなどの政府補助を年間何兆円も続けなければならないと、結果として国民負担になると、批判を強めています。

 年間消費電力という電力の「積分値」で太陽光発電を語れば、その稼働率からいって経済性に分が悪いのは当然だとして、このような指標も重要ですが、太陽光発電の優れた特性は「積分値」ではなく「微分値」にあることを、これらの評論家は意図的に無視しているようです。

 確かに年間消費電力も重要な指標ですが、日本の発電所の総電力供給力は過去において年間消費電力を十分に満たしてきましたし余裕もありました、震災のあった本年でさえまずもって電力供給は可能でしょう。

 日本の発電所の総電力供給力は、年間消費電力ではなく、1年のうち最大の電気が消費される瞬間、すなわちピーク電力に備えて発電能力を高めてきたからです。

 電力は備蓄がききません、したがって一年の中で最大のピーク電力時に対応して各発電所の発電能力を備える必要があるわけです。

 つまり、日本の発電所の総発電能力は、年間消費電力という電力の「積分値」ではなく、ピーク時その瞬間の発電能力いわば電力の「微分値」、これに備えてきたわけです。


http://www.fepc.or.jp/present/jigyou/japan/sw_index_06/index.html

 ご覧いただければ一目瞭然ですが、日本の場合過去電力ピークは7月、8月の夏場に集中しております。

 過去最大のピークを記録した2001年度でみますと、7月に1日当たり182百万kwを記録していますが、同年1月には121百万kwとピーク時の2/3程度に留まっています。

 1月を基準にすれば実に日本全体で60百万kw以上の余剰発電能力を有しているわけです。

 7月、8月のピーク時ですが、時間帯では午後15時前後に最大となります。


http://www.fepc.or.jp/present/jigyou/japan/sw_index_05/index.html

 この表が示している過去の年間ピーク電力記録日は、すべて7月から8月に掛けて列島全体が猛暑日になった平日の午後15時に集中しています。

 家庭やオフィスなどでエアコン稼働などが集中したためと推測されています。

 ここに太陽光発電の普及が有れば、このピーク電力を抑制可能になり、結果的に日本の発電コスト総体に対してピーク電力を下げることによる供給電力能力そのものの抑制効果が期待できます。

 夏の列島全体が猛暑日になる日、これこそ太陽光発電もその能力をピークに押し上げて稼働が可能だからです。

 菅首相の構想とおり、1000万戸に太陽光発電を普及させたとして平均発電電力が4kwとした場合、4000万kwhの発電がピークの瞬間に太陽光発電から供給可能です。

 この数値は、過去最大のピークを記録した2001年7月14日午後3時の182百万kwにあてはめても、その21.98%を太陽光発電が供給可能であることを示しています。

 このように太陽光発電のメリットは年間消費電力という「積分値」では4%程度ですが、ピーク時の「微分値」すなわち瞬間値に約22%とその効力があらわれるのあります。

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 コスト面の問題は確かにありますが、そのメリットも見逃すことなく総合的に議論する問題だと考えます。

 今日現在、日本の原子力発電はその供給能力を1/3に落としています。

2011-05-16 徹底検証:日本の原発稼働状況と予測
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20110516/1305511953

 5月10日現在で、稼働20基、停止34基、出力ベースでは稼働1883.6万kw、停止3012.4万kw、稼働率38.47%にまで下げておりました。

 その後さらに政府の要請を受け中部電力浜岡4号機と5号機が停止になりましたので、現在では稼働18基、停止36基、出力ベースでは稼働1631.9万kw、停止3264.1.4万kw、稼働率33.33%にまで落ちていることになります。

 つまり原発総出力の1/3になっているのが現状であります。

 それでも現在の所、電力は不足していません。

 日本の電力需要のピークである夏場に備えていますから、発電能力に余力があるからです。

 ここに東大地震研が作成した過去に世界で地震震源になった地点の分布図があります。


http://item.rakuten.co.jp/tcgmap/10000007/

 ほとんどのプレート地震がプレート境界地域で群生していることが見て取れます。

 環太平洋火山帯に属する日本列島付近を見て下さい。

 赤いプロットが集中していて日本列島の輪郭すら見ることができません、震源で覆われているのです。

 原発大国のフランスでは地震はありません、100余りの原発を有する米国でも地震の発生する太平洋側には原発は一機もありません。

 地震発生地帯の真上に54基もの原発を林立させている国など日本以外にはないのです。

 今回の原発事故で、日本の原子力発電は結果的に極めて高く付くことが判明しました。

 この機会にこそエネルギー政策を根本的に転換する好機としなければなりません。



(木走まさみず)