木走日記

場末の時事評論

「安倍政権は速やかに脱石炭へと方針を転換せよ」(朝日新聞社説)だと?~原発反対の朝日に反論する、この国が世界最悪の化石燃料比率に陥ったのはなぜだ?

COP25における日本の対応に風当たりが強いです。

国際NGOは「弱腰」と批判しています。

COP25「政府の対応、弱腰過ぎた」、国際NGOが批判
オルタナS編集部(若者の社会変革を応援)
https://blogos.com/outline/424022/

例によって朝日新聞社説が日本政府の対応を批判しています。

(前略)

 石炭火力に固執する日本への風当たりも強い。

 G7のなかで日本だけが石炭火力の新設にこだわっている。会場で演説した小泉環境相が脱石炭を表明しなかったため、温暖化対策に後ろ向きな国に環境NGOから贈られる「化石賞」を受賞したのは当然といえよう。梶山経産相の国内会見で出た石炭温存発言とあわせ、計2回の不名誉な受賞である。

 どんなに省エネや再エネの拡大に努めても、石炭火力を使い続ける限り、温暖化対策を真剣に考えていないとみられてしまう。それが世界の潮流であることを、小泉氏だけでなく安倍首相らも認識する必要がある。

 海外のシンクタンクの分析では、昨年、日本は世界で最も気象災害の影響が大きかったという。気候変動対策は日本にとっても待ったなしである。安倍政権は速やかに脱石炭へと方針を転換し、本気でCO2削減に踏み出さねばならない。

(社説)気候変動会議 これでは未来が危ない より抜粋
https://www.asahi.com/articles/DA3S14297072.html?iref=editorial_backnumber

この朝日新聞の社説の結語に注目してください、「安倍政権は速やかに脱石炭へと方針を転換し、本気でCO2削減に踏み出さねばならない」と高らかに唱えています。

なんたる偽善。

あれだけ原発再稼働に反対しておいて「速やかに脱石炭へと方針を転換」と綺麗ごとを具体策の例示もなく主張するとは、なんと無責任なことか、原発再稼働なくしてどうやって「本気でCO2削減」を実現できるというのでしょうか。

そもそも、原発の再稼働が長期にわたって進まない状況下では、石炭火力を使わざるを得ません。エネルギー源の多様性確保は、日本国民の暮らしに欠かせない要件であります。

また日本が輸出する石炭火力発電所は環境性能に優れた設備で、途上国では人が生きていくための電気を必要としています。日本の石炭火力技術は安価で安定した電力を供給する能力を備えているのです。

さらに、各国が提出する自主目標として日本は2030年度までにGHG排出の26%減(13年度比)を表明済みです。

今回その上積みをCOPで求められたが、小泉氏はスルーしました。

理由は明確で、世界に先駆けて省エネを進めてきた日本にとって減らせる余地は少なく、26%削減は非常に高い目標なのです。

感情論ではなく信頼できる統計数値をもとに科学的検証に耐えうる議論をいたしましょう。

まず、『EDMC/エネルギー・経済統計要覧2019年版』)より世界の二酸化炭素排出量を押さえておきます。

■表1:世界の二酸化炭素排出量(2016年)

順位 国名 排出量※ 割合(%)
1 中国 9,057 28.0
2 アメリ 4,833 15.0
3 インド 2,077 6.4
4 ロシア 1,439 4.5
5 日本 1,147 3.5
6 ドイツ 732 2.3
7 韓国 589 1.8
8 カナダ 541 1.7
9 インドネシア 455 1.4
10 メキシコ 446 1.4
11 ブラジル 417 1.3
12 オーストラリア 392 1.2
13 イギリス 371 1.0
14 イタリア 326 1.0
15 フランス 293 0.9
その他 9,199 28.5
各国の排出量の合計
(世界の排出量) 32,314 100.0

■図1:世界の二酸化炭素排出量(2016年)
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※排出量の単位は[百万トン-エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)]
出典)EDMC/エネルギー・経済統計要覧2019年版
https://www.jccca.org/chart/chart03_01.html
出典より『木走日記』が図表再作成

ご覧の通り、中国、アメリカ、インド、ロシアの上位4カ国で50%を超える排出量です。
日本も5位で3.5%ですが、例えば25%削減しても、日本のシェアでは0.875%の削減効果しかありません、上位4カ国が25%削減をなしえたならば13.475%の削減効果になります、日本の15.4倍の効果です。

そもそも論になりますが、GDP上位3カ国のアメリカ・中国・日本では、世界に先駆けて省エネを進めてきた日本の省エネ技術は突出しています。

では、人口1人当たりCO2排出量を確認しておきましょう。

一般社団法人海外電力調査会のデータ集では、人口1人当たりCO2排出量と発電量1kWh当たりCO2排出量が並列で検証できます。

■図2:人口1人当たりCO2排出量(2015年)
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■図3:発電量1kWh当たりCO2排出量(2015年)
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出典)一般社団法人海外電力調査会 データ集
https://www.jepic.or.jp/data/g08.html
出典より『木走日記』が図表再作成

一人当たりCO2排出量は、主要国では、米国、カナダ、韓国、ロシア、日本、ドイツと続いています、またインド、中国といった人口の過多の国は当然ながら低い数値となっております。
また発電量1kWh当たりCO2排出量ですが、これは如何に効率的に発電するかの目安でありますが、効率のいい3か国ですが、カナダ、スウェーデン水力発電、フランスは原子力発電が主流なのでCO2排出を抑えることが実現できているのです。

日本の一人当たりのCO2排出量がそれほど抑えられていないのは、もちろん原子力発電がほぼ止まっており、火力発電にたよっているからです。

では、主要国の発電電力量の電源構成を比較してみましょう。

■表2:主要国の発電電力量の電源構成(2015年)

国名 石油 石炭 ガス 原子力 水力 その他
カナダ 1.2 9.8 10 15.1 56.7 7.1
米国 0.9 34.2 31.9 19.3 5.8 7.8
フランス 0.4 2.2 3.5 77.6 9.7 6.7
ドイツ 1 44.3 9.8 14.3 3 27.7
イタリア 4.8 16.1 39.4 0 16.2 23.6
英国 0.6 22.8 29.7 20.9 1.9 24
スペイン 6.2 19 18.9 20.6 10.1 25.2
スウェーデン 0.2 0.8 0.3 34.8 46.5 17.5
ロシア 0.9 14.9 49.7 18.3 15.8 0.4
インド 1.7 75.3 4.9 2.7 10 5.4
中国 0.2 70.3 2.5 2.9 19.1 5
韓国 2.3 43.1 22.4 30 0.4 1.9
日本 9 33.2 39.6 0.9 8.2 8.2

■図4:主要国の発電電力量の電源構成(2015年)
f:id:kibashiri:20191217083923p:plain
出典)一般社団法人海外電力調査会 データ集
https://www.jepic.or.jp/data/g08.html
出典より『木走日記』が図表作成

表とグラフから、石炭・石油・ガスの化石燃料と、原子力・水力・その他の化石燃料以外に各国の電源構成をまとめ直してみましょう。

■表3:主要国の発電電力量の電源構成(化石燃料比重)(2015年)

国名 化石燃料 化石以外
カナダ 21 78.9
米国 67 32.9
フランス 6.1 94
ドイツ 55.1 45
イタリア 60.3 39.8
英国 53.1 46.8
スペイン 44.1 55.9
スウェーデン 1.3 98.8
ロシア 65.5 34.5
インド 81.9 18.1
中国 73 27
韓国 67.8 32.3
日本 81.8 17.3

■図5:主要国の発電電力量の電源構成(化石燃料比重)(2015年)
f:id:kibashiri:20191217094711p:plain
出典)一般社団法人海外電力調査会 データ集
https://www.jepic.or.jp/data/g08.html
出典より『木走日記』が図表作成

御覧ください、化石燃料の比重が80%を超えているのはインドと日本だけです、突出しているのです。

震災以来原子力発電がほぼ再稼働できずにいる日本は、エネルギー効率で最後進国といわれるインドと同程度まで現状は化石燃料に頼っています、インド81.9%、日本81.8%です。

そしていま一度、図3:発電量1kWh当たりCO2排出量(2015年)をご覧にいただければ日本(540)はインド(771)に比べて
30%も発電効率が高いことがわかります。

世界シェア3.5%の日本は、原発停止の中で、インドと同じ世界最悪の化石燃料比率80%水準を超えてしまっています。

しかしその最悪の電源構成ベースの中で、発電量1kWh当たりCO2排出量の効率化を懸命に図ってきたのです。

今一度朝日新聞社説より。

 どんなに省エネや再エネの拡大に努めても、石炭火力を使い続ける限り、温暖化対策を真剣に考えていないとみられてしまう。それが世界の潮流であることを、小泉氏だけでなく安倍首相らも認識する必要がある。

まとめます。

「石炭火力を使い続ける限り、温暖化対策を真剣に考えていないとみられてしまう」(朝日社説)と批判します。

ならば、朝日新聞に逆に問う。

原発再稼働なくしてどうやって化石燃料依存率を下げることができるのか。

あれだけ原発再稼働に反対しておいて「速やかに脱石炭へと方針を転換」と綺麗ごとを具体策の例示もなく主張するとは、なんと無責任なことか、原発再稼働なくしてどうやって「本気でCO2削減」を実現できるというのでしょうか。

CO2削減を求めるならば原発再稼働を認めるべきです。

原発再稼働を認めないならば、当面C02削減は二の次に考えるべきです。

感情論ではなく信頼できる数値をもとに科学的検証に耐えうる議論をしていただきたいです。


(木走まさみず)