木走日記

場末の時事評論

朝日新聞社説が讃える『川崎ヘイト条例』の問題点を検証〜この条例自身が日本人差別を内在していないか

さて、ヘイトスピーチなど差別的な言動を禁止するため、全国で初めて刑事罰を盛り込んだ条例案が12月12日、川崎市議会で可決、成立しました。市の勧告や命令に従わず、差別的な言動を3度繰り返した場合、最大50万円の罰金を科すことになるとしています。

早速、13日付け朝日新聞社説は『川崎ヘイト条例 差別許さぬ策を着実に』とのタイトルで、ヘイト条例を全面支持しています。

(社説)川崎ヘイト条例 差別許さぬ策を着実に
2019年12月13日05時00分
https://www.asahi.com/articles/DA3S14292509.html?iref=editorial_backnumber

社説は、「在日コリアンが多く住」む川崎において「根絶に向けた新たな一歩が踏み出された意義は大きい」と条例成立を称えます。

 差別や排除をあおるヘイトスピーチ刑事罰を科す全国初の条例が、川崎市議会で全会一致で可決・成立した。

 16年にヘイト対策法が施行され、極端に過激な言葉を使うデモの件数は減った。一方で、手口が巧妙・陰湿化した、一部で揺り戻しがあるといった声も強く、罰則規定のない法の限界が指摘されていた。

 そんななか、在日コリアンが多く住み、そこでの反ヘイトの取り組みが3年前の対策法制定の原動力にもなった川崎市で、根絶に向けた新たな一歩が踏み出された意義は大きい。

続いて「最高で50万円の罰金が科される仕組み」を説明します。

 条例によると、公共の場所で拡声機やプラカードなどを使った差別的言動が刑事罰の対象となる。市長は有識者でつくる審査会の意見を聞いたうえで、勧告、命令を順に出し、それでも繰り返した者を刑事告発する。さらに検察と裁判所が相当と判断して初めて、最高で50万円の罰金が科される仕組みだ。

社説は、「ネット上の言動は刑事罰の対象から外されたが、この匿名性の高い空間への対処は、今後の重要な課題」と、ネット言動が対象外になってことに「重要な課題」と警鐘を鳴らします。

 川崎市の条例についても、実際に運用してみて、実効性はあるか、過度な制約が生じていないかなどを検証することが求められる。その営みが、他の自治体の条例づくりや法改正の論議に反映されるのを期待したい。今回まさに表現の自由とのかねあいから、ネット上の言動は刑事罰の対象から外されたが、この匿名性の高い空間への対処は、今後の重要な課題だ。

社説は最後に「ヘイトは、同じ社会で現に暮らす人々を日々深く傷つける」とし、「撲滅への歩みを着実に重ねていかねば」と結ばれています。

 ヘイトは、同じ社会で現に暮らす人々を日々深く傷つける。それを胸に、撲滅への歩みを着実に重ねていかねばならない。

さてこの朝日社説では一切触れられていない重要な事実が、この川崎ヘイト条例には存在しています。

この川崎ヘイト条例ですが、正式には『川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例』といい、川崎市により以下PDFファイルで公開されています。

議案第157号
川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例の制定について
http://www.city.kawasaki.jp/980/cmsfiles/contents/0000112/112486/gian_157.pdf

さて朝日新聞社説は一言も触れていませんが、この条例において50万円の罰金の対象となりうる差別的行動は第12条で3つ定義されています。

第12条 何人も、市の区域内の道路、公園、広場その他の公共の場所において、拡声機(携帯用のものを含む。)を使用し、看板、プラカードその他これらに類する物を掲示し、又はビラ、パンフレットその他これらに類する物を配布することにより、本邦の域外にある国又は地域を特定し、当該国又は地域の出身であることを理由として、次に掲げる本邦外出身者に対する不当な差別的言動を行い、又は行わせてはならない。
⑴ 本邦外出身者(法第2条に規定する本邦外出身者をいう。以下同じ。)をその居住する地域から退去させることを煽せん動し、又は告知するもの
⑵ 本邦外出身者の生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えることを煽動し、又は告知するもの
⑶ 本邦外出身者を人以外のものにたとえるなど、著しく侮辱するもの

その3つの差別的行動はご覧のとおり「本邦外出身者」に対する行為に限定されています。

⑴ 本邦外出身者(法第2条に規定する本邦外出身者をいう。以下同じ。)をその居住する地域から退去させることを煽せん動し、又は告知するもの
⑵ 本邦外出身者の生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えることを煽動し、又は告知するもの
⑶ 本邦外出身者を人以外のものにたとえるなど、著しく侮辱するもの

このしばりではこの条例は事実上日本人のみをターゲットにしたものであり、逆に日本に対するヘイト行為に対して何びとの行為であろうと無罪放免野放しになるわけです。

この朝日新聞が讃える川崎ヘイト条例はそれ自身が日本人差別を内在していると考えられませんか。

刑事罰対象は、なぜ「本邦外出身者」を差別した行為に絞られる必要があるのでしょうか。

なぜ国籍でくくる必要があるのでしょうか?

偏向した条例であるといわざるを得ません。



(木走まさみず)