木走日記

場末の時事評論

ひどくアンフェアな朝日新聞社説〜伊藤氏によりそう「角度」を持って報道する一部メディアの偏向性について

2018年7月28日夜、「日本の秘められた恥」と題する伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送いたしました。

英国BBC公式サイトより。


https://www.bbc.co.uk/programmes/b0b8cfcj

このBBCの放送は世界中のネットで大きく取り上げられていました。


http://www.bbc.co.uk/programmes/articles/3z44Njyr5wzm3wbVMGZ7tFr/shiori-ito-japan-s-attitudes-to-allegations-of-sexual-violence-are-locked-in-the-past

そもそも本件は、刑事事件としては二度の不起訴処分となり、特に2017年9月21日(公表は22日)、市民からなる東京第六検察審査会が「慎重に審査したが、検察官がした不起訴処分の裁定を覆すに足りる事由がなかった」とし、不起訴相当と議決しています。

刑事事件として不起訴が確定したのを受けて、2017年9月28日、望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして、伊藤氏が山口氏を相手に1100万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こしました。

2017年12月5日、民事訴訟第一回口頭弁論が行われています。

当時は本件は訴訟中であり、また伊藤氏と山口氏の主張には大きな隔たりがある中で、このBBCの番組は、率直に言って公平性が担保されていない印象を強く持ちました。

当ブログは「ひどくアンフェアなBBCドキュメンタリー」と批判、当時の一部メディアの報道姿勢の偏向性をエントリーで取り上げています。

2018-07-02
ひどくアンフェアなBBCドキュメンタリー「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」〜本件は現在法廷で争われている最中、真実はいまだ確定していない
https://kibashiri.hatenablog.com/entry/20180702/1530514266

エントリーより抜粋。

 番組の構成は双方の主張を公平に取り上げてはいますが、一時間近くのそのドキュメンタリーの切り口は、あくまでも伊藤氏によりそうように密着して進行していきます。

 その映像は美しくかつときに涙する伊藤氏のその横顔は健気であり、視聴者は間違いなく伊藤氏の心情に同調してしまうような番組構成となっています。

 民事訴訟が現在進行中でいまだ結論が出ていない本件において、このようなドキュメンタリー番組が英国BBCで放映されたことは極めて遺憾です。

 BBCの影響力は無視しがたく、例えば英紙ガーディアンのレビューなど、「女性への暴力や構造的な不平等、差別といった大きな話題を、もっと小規模で個人的な物語に焦点を当てて描いている」と、本件ではすでに伊藤氏の言い分が正しい、女性への暴力があったとの前提で評されています。

 真実はどちらにあるのか。

 法的な決定がいまだ下されていない段階で一方的に片側に寄り添い密着してドキュメンタリー放映する・・・

 残念ながらこのBBCドキュメンタリーはひどくアンフェアであるといわざるを得ません。

 「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」タイトルからして理不尽な決め付けを含んでいます。

 繰り返しますが本件は現在法廷で争われている最中なのです。

 真実はいまだ確定していません。

さて、ジャーナリストの伊藤詩織氏が元TBS記者山口敬之氏を訴えた民事裁判で、東京地裁は「酒を飲んで意識を失った伊藤氏に対し、合意のないまま性行為に及んだ」と認め、330万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。

山口敬之氏は判決を不服として即時控訴を表明しています。

会見の山口氏の以下の発言が批判を呼んでいます。

「伊藤さんは性犯罪被害者ではありません」

「私の所にも性犯罪を受けたといってご連絡をくださる方が複数。お目にかかった方もおります」

「本当に性被害に遭った方は『伊藤さんが本当のことを言ってない。こういう記者会見の場で笑ったり上を見たり、テレビに出演して、あのような表情をすることは絶対ない』と証言して下さったんです」

「性被害に遭った方が『嘘つきだと言われる』といって出られなくなっているのだとすれば、非常に残念なことだと思います」

(関連記事)

女性自身
2019年12月19日 20:04
山口敬之氏の発言が偏見と物議「腹が立つ」「呆然とした」
https://blogos.com/article/424722/

伊藤氏勝訴を受けて朝日新聞は全国紙で唯一この「民事訴訟」を社説で取り上げます。そして「社会の病理も問われた」のだと畳み掛けます。

(社説)伊藤氏の勝訴 社会の病理も問われた
https://www.asahi.com/articles/DA3S14301062.html?iref=editorial_backnumber

朝日社説は「見過ごせない発言」「こうしたゆがんだ認識」と早速批判を展開しています。

 山口氏は控訴を表明したが、判決後の記者会見で見過ごせない発言があった。自らが話を聞いたとする「本当の(性犯罪)被害者は会見で笑ったりしない」という女性の声を紹介し、身の潔白を訴えたのだ。

 苦しみを抱え込み、下を向いて生きていくのが被害者の正しい姿だ、と言うに等しい。こうしたゆがんだ認識が、過酷な傷を負いながらも生きていこうとする人々を、追い詰めてきたのではないか。

朝日社説は「安倍首相を取材した著作のある山口氏」と安倍政権との関わりにふれ、「右派系雑誌には、伊藤氏の人格をおとしめる記事が掲載された」と指摘しています。

 この間(かん)、伊藤氏にはネット上などで異常な攻撃が加えられた。政権寄りの論者らが、安倍首相を取材した著作のある山口氏の応援にまわり、右派系雑誌には、伊藤氏の人格をおとしめる記事が掲載された。

社説は、「性犯罪に向けられる目は厳しさを増している」とし、「被害者の尊厳を守る。私たちの社会が背負う重要な課題」であると結ばれています。

 曲折を経ながらも性犯罪に向けられる目は厳しさを増している。罰則を強化する改正刑法がおととし成立し、さらなる見直しの議論が進む。相談・支援態勢も強化されてきている。この歩みをより確かなものにし、被害者の尊厳を守る。私たちの社会が背負う重要な課題である。

まるで本件で「性犯罪」が認められたかのようなこの朝日社説の結論は、偏向していると言わざるを得ません。

本件ではいまだ一度も法廷で「性犯罪」は認められてはいません。

そもそも朝日新聞は、東京地裁が2016年7月に嫌疑不十分で刑事不起訴にした際も、東京第6検察審査会が2017年9月、不起訴を覆すだけの理由がないとして「刑事不起訴相当」と議決したときも、社説では取り上げていません、沈黙しています。

「性犯罪」が否定された2つのトピック、2016年7月の伊藤氏の刑事敗訴、さらに2017年9月の伊藤氏が訴えた検察審査会でも刑事不起訴相当と刑事敗訴、この2回のタイミングでは一切沈黙していたのです。

しかしながら、伊藤氏が民事勝訴したこのタイミングで初めて社説に取りあげる、報道機関としてのその報道姿勢は明らかにある「角度」を持って報道している、偏向しているといわざるを得ません。

本件はいまだ決着を見ていません。

それなのに一部メディアの露骨な伊藤氏によりそう報道姿勢には、真実を伝えるメディアの持つ本来の使命に著しく抵触していると考えます、その報道姿勢に疑問を持たざるを得ません。



(木走まさみず)