木走日記

場末の時事評論

ひどくアンフェアなBBCドキュメンタリー「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」〜本件は現在法廷で争われている最中、真実はいまだ確定していない

 28日夜、「日本の秘められた恥」と題する伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送いたしました。

 英国BBC公式サイトより。


https://www.bbc.co.uk/programmes/b0b8cfcj

 ネット上でも大きく取り上げられていますのは、反響の大きさからなのでしょうか。


http://www.bbc.co.uk/programmes/articles/3z44Njyr5wzm3wbVMGZ7tFr/shiori-ito-japan-s-attitudes-to-allegations-of-sexual-violence-are-locked-in-the-past

 BBCニュースJAPANでは、放送後の反響が大きく取り上げられています。

「日本の秘められた恥」  伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-44638987

 番組を見た一般視聴者からの反響。

番組が放送されると、ツイッター上ではハッシュタグ「#japanssecretshame」を使った感想が次々と書き込まれた。

英ウスタシャー在住のローナ・ハントさんは、「女性として、そして引退した警官として、ショックで呆然としている。詩織、あなたは本当の英雄 #JapansSecretShame」とツイートした。

ロンドン在住の「paulusthewoodgnome」さんは、「強姦に対する日本社会の態度は本当に気がかりだ。伊藤詩織のような人がほかにどれだけいるのか。自分と自分を襲った人間にしか知られていない状態で。ほぼ全方面から見下されながら、詩織は実に勇敢で品位にあふれている。素晴らしい」と書いた。

アイルランド・ダブリン在住のルーシー・ホワイトさんは、「私の『ぜったい行きたい』リストから、日本はいきなり外れてしまった。#JapansSecretShameを見ているけど、性的暴行を軽くあしらう態度にぞっとしている。警察に女性は8%しかいなくて、強姦被害者が訴え出ると、等身大の人形で事件を再現しなくてはならない」と書いた。

アイルランド在住のシネイド・スミスさんは、「#JapansSecretShameを見ている。ショックだし、ものすごく心が痛い。何がいやだって、女性が女性を攻撃してること。被害者を支えるんじゃなくて、女性が彼女を責めてる……。犯罪を犯した男を責めなさいよ!」と書いた。

 ガーディアンなど英国メディアの反応。

英無料夕刊紙イブニング・スタンダードも番組を取り上げ、「自分たちの居場所から、#MeTooは世界の先進国ならどこでも同じようなインパクトがあったと思い込むのは簡単だ。とんでもない。この番組によると日本では、昨年10月に暴露されたハービー・ワインスティーンの件への反応は『ひっそりとした』ものだった」と書いた。記事はさらに、無実を主張する山口氏が「詩織さんは酔っ払っていたと言う。まるでそれで十分、正当化されるとでもいうように」と書き、「負担も大きいが、声を上げることは沈黙させられるよりも良かったと(番組で伊藤氏は)結論する。彼女に耳を傾けよう」と結んでいる。

英紙ガーディアンも番組のレビューを掲載。「Japan's Secret Shameは、見るのがとても大変なドキュメンタリーだ。痛ましく、不愉快で、動揺させられる。このドキュメンタリーはそれに加えて、勇敢で必要な、極めて重要な作品だ。プロデューサー兼監督のエリカ・ジェンキン氏が、細心の注意と静かな怒りを込めて作ったもので、女性への暴力や構造的な不平等、差別といった大きな話題を、もっと小規模で個人的な物語に焦点を当てて描いている」と紹介した。

 ・・・

 当ブログとしてのこの番組についての所感を述べます。

 そもそも本件は、刑事事件としては二度の不起訴処分となり、特に2017年9月21日(公表は22日)、市民からなる東京第六検察審査会が「慎重に審査したが、検察官がした不起訴処分の裁定を覆すに足りる事由がなかった」とし、不起訴相当と議決しています。

 刑事事件として不起訴が確定したのを受けて、2017年9月28日、望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして、伊藤氏が山口氏を相手に1100万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こしました。
 2017年12月5日、民事訴訟第一回口頭弁論が行われています。

 本件は現在訴訟中であり、また伊藤氏と山口氏の主張には大きな隔たりがある中でのこのBBCの番組ですが、率直に言って公平性が担保されていない印象を強く持ちました。

 番組の構成は双方の主張を公平に取り上げてはいますが、一時間近くのそのドキュメンタリーの切り口は、あくまでも伊藤氏によりそうように密着して進行していきます。

 その映像は美しくかつときに涙する伊藤氏のその横顔は健気であり、視聴者は間違いなく伊藤氏の心情に同調してしまうような番組構成となっています。

 民事訴訟が現在進行中でいまだ結論が出ていない本件において、このようなドキュメンタリー番組が英国BBCで放映されたことは極めて遺憾です。

 BBCの影響力は無視しがたく、例えば英紙ガーディアンのレビューなど、「女性への暴力や構造的な不平等、差別といった大きな話題を、もっと小規模で個人的な物語に焦点を当てて描いている」と、本件ではすでに伊藤氏の言い分が正しい、女性への暴力があったとの前提で評されています。

 真実はどちらにあるのか。

 法的な決定がいまだ下されていない段階で一方的に片側に寄り添い密着してドキュメンタリー放映する・・・

 残念ながらこのBBCドキュメンタリーはひどくアンフェアであるといわざるを得ません。

 「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」タイトルからして理不尽な決め付けを含んでいます。

 繰り返しますが本件は現在法廷で争われている最中なのです。

 真実はいまだ確定していません。



(木走まさみず)