木走日記

場末の時事評論

英BBCお笑い番組に激怒する日経社説


 21日付け朝日新聞記事から。

英BBCお笑い番組二重被爆者を「世界一運が悪い男」

 【ロンドン=伊東和貴】広島と長崎で二重被爆し、昨年93歳で亡くなった山口彊(つとむ)さんについて、英BBCが昨年12月に放映したテレビのお笑いクイズ番組で、「世界一運が悪い男」などと紹介していたことが20日、分かった。在英日本大使館はBBC側に書面で抗議し、番組プロデューサーは謝罪した。

 問題となったのは、昨年12月17日に放映された人気の番組「QI」。司会者が、長崎出身の山口さんが広島に出張して原爆で大やけどを負った後に鉄道で長崎に戻ったことに触れ、「英国なら電車は止まっている」と英鉄道の不備を自虐的にとらえる内容だった。だが、ゲストのコメディアンが「長崎で入院したのか」とつっこむと、スタジオから笑いが漏れる一幕があった。

 さらに、司会者が「山口さんが長崎に戻ると、また原爆が投下された」と述べると、観衆は爆笑。司会者は「二重被爆をして生き残ったのは、最も幸運か最も不運か」などと締めくくった。スタジオにはきのこ雲や山口さんの顔写真が掲げられた。

 在英邦人から指摘を受けた大使館は、今月7日、BBCと番組制作会社に「山口さんの経験をこういう形で取り上げるのは、不適切で無神経だ」と広報文化担当の公使名で書簡を送った。

 番組プロデューサーは今月17日、大使館への手紙で「(山口さんを)バカにする趣旨の番組ではなく、驚くべき経験を正確に伝えようとしたつもりだ。日本人の強さを真に称賛している」などと釈明しつつ、「(日本人)視聴者の気分を害してしまったことを非常に遺憾に思う」と謝罪の意を示した。抗議をした在英邦人にも非を認める内容のメールを送ったという。

http://www.asahi.com/international/update/0121/TKY201101210499.html

 二重被爆者を「世界一運が悪い男」ですか、まったくBBCと来たらあいかわらず無神経な低俗番組を垂れ流していますな、しょうもない。

 問題の番組の動画はこちらで見ることができます。

The Unluckiest Man in the World - QI Series 8 Ep 13 Holidays Preview - BBC One
http://www.youtube.com/watch?v=5dgzszWlG6c

 なんだかなあ、参加者全員がアロハを着て会話の中身も軽く、ウィットに富む発言もなく馬鹿笑いだけが印象に残るアホ番組ですね、おそらく彼らには人種差別的な考えも原爆の悲惨さに対する知識もなにもないでしょうね、ただ二重被爆者を浅い話だけで嘲笑してるだけ。

 在英邦人から指摘を受けた日本大使館が広報文化担当の公使名で抗議の書簡を送ったところ、「(山口さんを)バカにする趣旨の番組ではなく、驚くべき経験を正確に伝えようとしたつもりだ。日本人の強さを真に称賛している」などと番組プロデューサーは釈明、
「(日本人)視聴者の気分を害してしまったことを非常に遺憾に思う」と謝罪の意を示したそうですが、彼らが本気で反省して謝罪しているなどと間違っても勘違いしてはいけません。

 イギリスのコメディ番組の過激さを知っている者からすれば、この番組はまだ無神経レベルの低いほうだと思います。

 BBCのコメディが過激になったのは「モンティ・パイソン」がきっかけ。

 モンティ・パイソンでは、ナチスからBBC自身までタブー無き過激な風刺が売りになりました。

 以降、イギリスのコメディ番組は過激化し、有名なのが「スピッティング・イメージ」で、有名人そっくりの人形を使った過激なコメディで、女王陛下から首相まで、あらゆる人をケチョンケチョンに風刺していました。

 イギリス人の笑いは自虐的で、自分が笑われた時に一緒に笑えないとお前は「野暮」と言われるほどです。

 ときに陰湿でときに差別的なこのイギリス独特の笑いは「悪しきジョンブル魂」としてフランス人や他国から嘲笑の種にされているのであります。

 抗議は抗議としてしっかり謝罪させましょう、あんな反省の弁じゃなくてBBCをして遺族の方に正しく謝罪をさせたほうがいいです、てこずらせてやらないと必ず同じ過ちを彼らはしますから。

 で、真面目な日本の人々にご注進申し上げたいのは、きちっと落とし前を付けさせた上でですが、こんなBBCの低俗番組にマジメに怒っても時間と思考の無駄というモノです、無視いたしましょう。

 彼らはビョーキなのですよ。 

 ・・・

 と思ったら、意外なメディアがマジに反応しちゃっています。

 22日付け日経新聞社説。

英BBC放送の被爆者愚弄は許し難い
http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE0E0E2E5EAE6E2E2E0E0E2E3E0E2E3E38297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8D8D8D8D

 社説は冒頭からお怒りモード全開であります。

 これは原爆被爆者を愚弄するだけでなく、核廃絶を願うすべての人々の気持ちを踏みにじる、実に許し難い行為である。

 BBCは猛省し、山口氏の遺族や、ほかの被爆者はじめ日本人に正式に謝罪せよとせまります。

 BBCは猛省し、昨年死去した山口氏の遺族や、ほかの被爆者はじめ日本人に正式に謝罪すべきである。それは最低限、必要なことだ。

 被爆者を笑いものにするような番組を平然と放映したこと自体、英国民の認識に問題があるのだと指摘します。

 被爆者を笑いものにするような番組を平然と放映したこと自体が、英国民の間に原爆の残忍さが浸透していない現実をはしなくも露呈したのではないか。

 こんなことでは核廃絶運動の将来も暗いだろうと嘆きます。

 西側主要国である英国の国民が核兵器の残忍さを十分に理解していなければ、オバマ氏が進める核廃絶運動の将来も暗い。

 社説は唯一の被爆国日本原爆の悲惨さをめぐる情報発信が足らないのだと結んでいます。

 一方で、こんな心ない番組が先進国で放映された事実を考えると、唯一の被爆国である日本からの、原爆の悲惨さをめぐる情報発信がまだまだ足りないと思わざるをえない。

 いつも経済のことばかり取り上げている日経が、他紙が社説に取り上げるほどではないと無視している中で唯一この低俗番組を社説で取り上げていること自体が興味深いです、しかも論調は、日経社説としては珍しいといえます、そうとうのお怒りモードであります。

 ・・・

 うーん、英BBCお笑い番組に激怒する日経社説なのであります。

 なんというか、いろいろと思うところがありますが、批判は批判としてけっこうなことですが、まあメディアとして冷静さは必要ではないかとか思います。

 が、しかし、他ならぬお堅い日経社説が激怒されているところが、なんとも親近感が沸いてきて不肖・木走としては、おお日経社説子もたまには「大和魂」を見せるのね、日本人の血が通っているじゃん、と微笑ましくも思えたのでした。

 同じアングロサクソンでもアメリカには、経済のことも原爆のこともなんにも言えないのにね。



(木走まさみず)