木走日記

場末の時事評論

徹底検証:日本の原発稼働状況と予測

 普段は2本掲げる社説を一本に絞っての力の込めた13日付け産経新聞社説でありました。

原子力発電 首相は再稼働を命じよ 電力不足は経済の活力を奪う
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110513/plc11051303210005-n1.htm

 社説は冒頭で「エネルギー政策の根幹が揺らぎかねない国家レベルの危機」だと始まります。

 いま日本は、エネルギー政策の根幹が揺らぎかねない国家レベルの危機に陥っている。

 東京電力福島第1原子力発電所の事故に加え、菅直人首相の唐突すぎる要請によって中部電力浜岡原子力発電所が運転停止を余儀なくされ、原発がある地元の動揺が収まらないためだ。

 不安感を背景に、運転上の安全を確保する定期検査が終わっても再稼働への地元の同意が得られず、停止したままの原発が増える状況になりかねない。

 定期検査の終えた原発も再開できずこのままでは原発が次々に停止してしまうと危惧しています。

 しかし、現在は日本のエネルギーの供給に「黄信号」がともっている。菅首相海江田万里経済産業相は自ら各原発の地元に足を運び、原子力による電力の必要性についても説明に意を尽くさなければならない。

 何しろ、大津波によって国内54基の原発中、15基の原発が壊れたり止まったりしている。東電柏崎刈羽原発の3基も新潟県中越沖地震以来、停止している。浜岡原発の3基も止まる。

 これに加え、地元の同意が得られずに再稼働が遅れ続けるとどうなるか。菅首相らは事態を深刻に受け止めるべきだ。

 社説は日本が国際公約している温室効果ガス25%削減はどうなると結ばれています。

 また、民主党政権が世界に公約した温室効果ガスの25%削減はどうするのか。年限は2020年だ。景気を低迷させ経済を失速させれば達成できるだろうが、それは日本の「不幸」である。

 うむ、確かに原発抜きで10年後の温室効果ガス25%削減は極めて困難であると思います、と言いますか正直な所10年というタイムサイクルで結論を付けるならば原発抜きではまず不可能と言えるでしょう。

 また、全体の論調である「電力不足は経済の活力を奪う」という点でも異論ありません、経済活動が萎縮するような電力不足を政府が人為的に作ることはあってはならないでしょう。

 ただ、一点、私は冷静に数値で議論したいのは産経社説の次の指摘です。

 何しろ、大津波によって国内54基の原発中、15基の原発が壊れたり止まったりしている。東電柏崎刈羽原発の3基も新潟県中越沖地震以来、停止している。浜岡原発の3基も止まる。

 これに加え、地元の同意が得られずに再稼働が遅れ続けるとどうなるか。菅首相らは事態を深刻に受け止めるべきだ。

 国内54基の原発中、いったい何基停止すると「事態を深刻に受け止めるべき」なのか、具体的な数値が一切示されていないのは残念なことであります。

 国内54基の原発はいったい何基稼働していないと「経済が萎縮」するのでしょうか、一番肝心の数値がこの社説では示されていません。

 そもそも日本の原発は震災前に何kw(キロワット)出力していて、それが震災でいくら減じてしまい、またこのままだと今夏にはいくらの発電量になってしまうのか、それは日本の電力の総需要にどのくらい影響あるのか、いっさい数値が示されていません。

 やみくもに「原子力発電 首相は再稼働を命じよ」とする産経社説なのでありますが、冷静にここは数字を押さえてみたいと思いました。

 今回は日本の原子力発電の実状とこの国のエネルギー供給の実状をできうる限り具体的数値で検証してみたいと思います。

 ・・・

 現在、日本では商業用の原子力発電所は54機、合計出力4896万kW(キロワット)が運転しています。

■表1:事業者別原発数と発電電力量

会社名 発電所 電気出力
日本原電 3 261.7 5.35
北海道電力 3 207.0 4.23
東北電力 4 327.4 6.69
東京電力 17 1730.8 35.35
中部電力 3 361.7 7.39
北陸電力 2 174.6 3.57
関西電力 11 976.8 19.95
中国電力 2 128.0 2.61
四国電力 3 202.2 4.13
九州電力 6 525.8 10.74
小計 54基 4896.0 100.00

 電気事業連合会によれば、2009年における我が国の発電電力量は9565億kwh(キロワット時)であり、内原子力は29%を占めています。

■図1:電源別発電電力量の実績および見通し

 9565億kwhの29%、2773億8500万kwhを365日で割れば1日当たりの原発の発電電力量は7億5996万kwhであったことがわかります。

 さらにこの数値を24時間で割れば、2009年、日本の原発は平均して1時間当たり3166.5万kwの発電を行ったことがわかります。

 合計出力4896万kWである原子力発電所54機は、2009年に平均1時間当たり3166.5万kwの発電を行ったということは、稼働率原発関係者は施設利用率と表現します)は64.68%と概算できます。

 当然ながらすべての原発が100%稼働できて合計出力4896万kWとなるのであって、実際には定期検査等で稼働していない原発が一定の数あることをこの数値は示しています。

 産経社説にもありますが、日本の原発は13カ月運転すると、必ず部品交換や整備などのため原子炉を止め約2〜3カ月間、定期検査を行うことが法律で定められています。

 時間軸で単純に考えても定期検査をがんばって2ヶ月に短縮しても13ヶ月稼働して2ヶ月の休み、すなわち13ヶ月/15ヶ月、86.67%、この当たりが日本の原発稼働率の上限となります。

 ちなみに2009年の日本の原発稼働率64.68%ですが、外国と比較すると米国が90%、ドイツで85%、フランス77%とあり、やはり日本の稼働率は一番低いようです、新潟のように地震による停止も要因のひとつなのでありましょう。

 さて、今回の震災が起こる直前の原発の発電電力量・稼働率を押さえておきましょう。

■表2:3月11日(震災直前)の原発稼働状況

会社名 発電所 電気出力 稼働状況
日本原電 東海第 2 110.0
日本原電 敦賀 1 35.7 ×
日本原電 敦賀 2 116.0
北海道電力 泊 1 57.9
北海道電力 泊 2 57.9
北海道電力 泊 3 91.2 ×
東北電力 女川 1 52.4
東北電力 女川 2 82.5 ×
東北電力 女川 3 82.5
東北電力 東通 1 110.0 ×
東京電力 福島第 1-1 46.0
東京電力 福島第 1-2 78.4
東京電力 福島第 1-3 78.4
東京電力 福島第 1-4 78.4 ×
東京電力 福島第 1-5 78.4 ×
東京電力 福島第 1-6 110.0 ×
東京電力 福島第 2-1 110.0
東京電力 福島第 2-2 110.0
東京電力 福島第 2-3 110.0
東京電力 福島第 2-4 110.0
東京電力 柏崎刈羽 1 110.0
東京電力 柏崎刈羽 2 110.0 ×
東京電力 柏崎刈羽 3 110.0 ×
東京電力 柏崎刈羽 4 110.0 ×
東京電力 柏崎刈羽 5 110.0
東京電力 柏崎刈羽 6 135.6
東京電力 柏崎刈羽 7 135.6
中部電力 浜岡 3 110.0 ×
中部電力 浜岡 4 113.7
中部電力 浜岡 5 138.0
北陸電力 志賀 1 54.0 ×
北陸電力 志賀 2 120.6 ×
関西電力 美浜 1 34.0 ×
関西電力 美浜 2 50.0
関西電力 美浜 3 82.6
関西電力 高浜 1 82.6 ×
関西電力 高浜 2 82.6
関西電力 高浜 3 87.0
関西電力 高浜 4 87.0
関西電力 大飯 1 117.5 ×
関西電力 大飯 2 117.5
関西電力 大飯 3 118.0
関西電力 大飯 4 118.0
中国電力 島根 1 46.0 ×
中国電力 島根 2 82.0
四国電力 伊方 1 56.6
四国電力 伊方 2 56.6
四国電力 伊方 3 89.0
九州電力 玄海 1 55.9
九州電力 玄海 2 55.9 ×
九州電力 玄海 3 118.0 ×
九州電力 玄海 4 118.0
九州電力 川内 1 89.0
九州電力 川内 2 89.0
小計 計54基 4896.0 稼働35基

 稼働35基、停止19基、出力ベースでは稼働3241.2万kw、停止1654.8万kw、稼働率66.20%と2009年の64.68%とあまりかわっていなかったことがわかります。

 3月11日の震災直前まで、日本の原発は35基稼働で3241.2万kwの発電電力量でありました。

 これが震災後、5月10日には、緊急停止した基とその後の定期検査のため停止した基もあわせ15基が新たに停止しました。

■表3:5月10日現在の原発稼働状況

会社名 発電所 電気出力 3.11直前 5.10現在
日本原電 東海第 2 110.0 ×
日本原電 敦賀 1 35.7 × ×
日本原電 敦賀 2 116.0 ×
北海道電力 泊 1 57.9 ×
北海道電力 泊 2 57.9
北海道電力 泊 3 91.2 × ×
東北電力 女川 1 52.4 ×
東北電力 女川 2 82.5 × ×
東北電力 女川 3 82.5 ×
東北電力 東通 1 110.0 × ×
東京電力 福島第 1-1 46.0 ×
東京電力 福島第 1-2 78.4 ×
東京電力 福島第 1-3 78.4 ×
東京電力 福島第 1-4 78.4 × ×
東京電力 福島第 1-5 78.4 × ×
東京電力 福島第 1-6 110.0 × ×
東京電力 福島第 2-1 110.0 ×
東京電力 福島第 2-2 110.0 ×
東京電力 福島第 2-3 110.0 ×
東京電力 福島第 2-4 110.0 ×
東京電力 柏崎刈羽 1 110.0
東京電力 柏崎刈羽 2 110.0 × ×
東京電力 柏崎刈羽 3 110.0 × ×
東京電力 柏崎刈羽 4 110.0 × ×
東京電力 柏崎刈羽 5 110.0
東京電力 柏崎刈羽 6 135.6
東京電力 柏崎刈羽 7 135.6
中部電力 浜岡 3 110.0 × ×
中部電力 浜岡 4 113.7
中部電力 浜岡 5 138.0
北陸電力 志賀 1 54.0 × ×
北陸電力 志賀 2 120.6 × ×
関西電力 美浜 1 34.0 × ×
関西電力 美浜 2 50.0
関西電力 美浜 3 82.6
関西電力 高浜 1 82.6 × ×
関西電力 高浜 2 82.6
関西電力 高浜 3 87.0
関西電力 高浜 4 87.0
関西電力 大飯 1 117.5 × ×
関西電力 大飯 2 117.5
関西電力 大飯 3 118.0 ×
関西電力 大飯 4 118.0
中国電力 島根 1 46.0 × ×
中国電力 島根 2 82.0
四国電力 伊方 1 56.6
四国電力 伊方 2 56.6
四国電力 伊方 3 89.0 ×
九州電力 玄海 1 55.9
九州電力 玄海 2 55.9 × ×
九州電力 玄海 3 118.0 × ×
九州電力 玄海 4 118.0
九州電力 川内 1 89.0 ×
九州電力 川内 2 89.0
小計 計54基 4896.0 稼働35基 稼働20基

 5月10日現在で、稼働20基、停止34基、出力ベースでは稼働1883.6万kw、停止3012.4万kw、稼働率38.47%にまで下げております。
 その後さらに政府の要請を受け中部電力浜岡4号機と5号機が停止になりましたので、現在では稼働18基、停止36基、出力ベースでは稼働1631.9万kw、停止3264.1.4万kw、稼働率33.33%にまで落ちていることになります。

 原発総出力の1/3になっているのが現状であります。

 ここまでの検証結果を踏まえて、産経社説が危惧している今夏の状況を予測してみましょう。

 この夏に定期検査に入る原発は停止する前提で、現在定期検査完了しつつも再開できていない原発、また定期検査中あるいはこれから定期検査にはいるが夏までに定期検査が終わる原発、これらを地元自治体の反対などで全て停止のままというシナリオが予測1、逆にこれらを全て稼働すると仮定したのが予測2であります。

■表4:今夏の原発稼働状況予測

会社名 発電所 電気出力 3.11直前 5.10現在 今夏予測1 今夏予測2
日本原電 東海第 2 110.0 × × ×
日本原電 敦賀 1 35.7 × × ×
日本原電 敦賀 2 116.0 × ×
北海道電力 泊 1 57.9 × ×
北海道電力 泊 2 57.9 × ×
北海道電力 泊 3 91.2 × × ×
東北電力 女川 1 52.4 × × ×
東北電力 女川 2 82.5 × × × ×
東北電力 女川 3 82.5 × × ×
東北電力 東通 1 110.0 × × ×
東京電力 福島第 1-1 46.0 × × ×
東京電力 福島第 1-2 78.4 × × ×
東京電力 福島第 1-3 78.4 × × ×
東京電力 福島第 1-4 78.4 × × × ×
東京電力 福島第 1-5 78.4 × × × ×
東京電力 福島第 1-6 110.0 × × × ×
東京電力 福島第 2-1 110.0 × × ×
東京電力 福島第 2-2 110.0 × × ×
東京電力 福島第 2-3 110.0 × × ×
東京電力 福島第 2-4 110.0 × × ×
東京電力 柏崎刈羽 1 110.0 × ×
東京電力 柏崎刈羽 2 110.0 × × × ×
東京電力 柏崎刈羽 3 110.0 × × × ×
東京電力 柏崎刈羽 4 110.0 × × × ×
東京電力 柏崎刈羽 5 110.0
東京電力 柏崎刈羽 6 135.6
東京電力 柏崎刈羽 7 135.6 × ×
中部電力 浜岡 3 110.0 × × × ×
中部電力 浜岡 4 113.7 × ×
中部電力 浜岡 5 138.0 × ×
北陸電力 志賀 1 54.0 × × ×
北陸電力 志賀 2 120.6 × × ×
関西電力 美浜 1 34.0 × × ×
関西電力 美浜 2 50.0
関西電力 美浜 3 82.6 × ×
関西電力 高浜 1 82.6 × × ×
関西電力 高浜 2 82.6
関西電力 高浜 3 87.0
関西電力 高浜 4 87.0 × ×
関西電力 大飯 1 117.5 × × ×
関西電力 大飯 2 117.5 ×
関西電力 大飯 3 118.0 × ×
関西電力 大飯 4 118.0 × ×
中国電力 島根 1 46.0 × × ×
中国電力 島根 2 82.0
四国電力 伊方 1 56.6
四国電力 伊方 2 56.6
四国電力 伊方 3 89.0 × ×
九州電力 玄海 1 55.9
九州電力 玄海 2 55.9 × × ×
九州電力 玄海 3 118.0 × × ×
九州電力 玄海 4 118.0
九州電力 川内 1 89.0 × ×
九州電力 川内 2 89.0
小計 計54基 4896.0 稼働35基 稼働20基 稼働12基 稼働28基

 予測1では稼働12基、予測2では稼働28基、その差は表上で★印を付けた再開可能原発16基であります。

 ここまでの検証をまとめましょう。

■表5:震災後の原発稼働状況推移

3.11直前 5.10 今夏予測1 今夏予測2
稼働基数 35 20 12 28
停止基数 19 34 42 26
稼働電力 3241.2 1883.6 1040.8 2376.2
停止電力 1654.8 3012.4 3855.2 2519.8
稼働率 66.20% 38.47% 21.26% 48.53%

 まとめます。54基の日本の原発は、震災直前には3241.2万kwの出力で稼働率66.20%であったものが、現在出力1631.9万kw、停止3264.1万kw、稼働率33.33%(浜岡原発停止含む)にまで落ちています。

 今夏定期検査完了の原発を再開しないとする(予測1)とさらに出力は1040.8万kw、稼働率は21.26%まで落ち込み、検査完了の原発を再開可能(予測2)ならば逆に2376.2万kw、稼働率48.53%まで回復いたします。

 震災直前の3241.2万kwを基準にしますと、予測1では2223.3kwの電力量減、予測2では865.0kwの電力減、で今夏を迎えることになります。

 これらの不足する電力量を休止していた火力発電など他の発電でどこまで補えることが可能か、また国民や企業の15%節電努力の効果も考えて、やはり数値によりしっかり検証しておきましょう。

 最初に押さえたとおり原子力はこの国の電力の29%を供給していました。

 その原子力が今回の震災で3241.2万kwから、予測1のシナリオでは今夏には1040.8万kwと、32.11%に出力が下がるとした場合、29%から9.3%となり、国の総電力の80.3%までしか届きません、他の手段の電力が4.7%(概算で470億kwhとして536.5万kwの発電能力分)増加しないと15%節電努力では電力が不足する計算になります。

 予測2のシナリオでは3241.2万kwから2376.2万kwと73.31%と減少が少なくなりますので、その割合では29%から21.3%と7.7%の減少に留まりますから、計算上国の総電力92.3%になりますので、15%の節電が実現すれば十分に電力は賄えると計算上は判断できます。

 まとめ。

 ここまでの数字の上での検証で、すべての定期検査完了の原発をこの夏に再開できないとすると、企業・国民の15%節電が実現したとしても、他の発電手段が増えなければ計算上は536.5万kwの発電能力が不足することになります。

 逆にすべての定期検査完了原発を再開すれば企業国民の節電があれば十分に電力は足りることになります。

 ・・・

 個人的には日本は脱原発を目指すべきだと思っていますが、今回のこの検証では、この夏までに原発の不足分を充当できる代換エネルギーの発電が可能かどうかまでは踏み込みませんでした(根拠となる資料あつめと時間の関係)。

 この検証考察が読者のみなさまの思索の少しでもお役に立てたらば幸いです。



(木走まさみず)



<参考資料>
日本の原子力発電所(福島事故前後の運転状況)
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2011/jp-npps-operation110510.pdf