木走日記

場末の時事評論

クラウド化の波の中でソフト業の目指すべき方向性を考える

 業界歴26年の不肖・木走としては、率直にいって個人的に言えば大局観として、この記事に異存はありません。

もしもIT業界の下請け構造が崩壊したら
http://news.livedoor.com/article/detail/5263270/

 昔某社の下請けとしてある自治体の納税システムの開発に参加していたとき、本当に痛切に感じたのは「全国の何千もある自治体がそれぞれ別の納税システムをいちいち開発している現状は実に非効率なことだよなあ」と思いました。

 だって考えても見て下さい、納税システムなんてものは自治体ごとにそんなに替わるモノじゃそもそもないのに、当時は自治体ごとに高い予算でもってIT業者に入札させてシステムをオーダーメイドしていたわけです。

 そりゃ当時も各社は「パッケージ」商品化してはいましたが、各自治体の細かい仕様要求を満足させるにはパラメータの初期値の変更などの生やさしいものじゃなくシステムの少なからずの変更や仕様追加がつきものでした。

 結果、高額な税金が自治体ごとにシステム開発に投入されてきたのです。

 もし全国自治体ネットワークを構築してそのサーバーにたったひとつの素晴らしい「納税システム」を全国の自治体連合で予算を出し合い、それをすべての自治体が共有して運用(もちろんシステムは共有するけど、データは自治体ごとにしっかり個別管理が実現できなければなりませんが)すれば、おそらく自治体のシステム開発費およびシステム運用管理費は、おそらく10分の1とか100分の1、いや当時の自治体の数を考えれば、おそらくそれ以上の費用圧縮が可能だったかも知れません。

 私はこれは壮大な税金の無駄遣いだと気づいていましたが、SI分野(受託開発を生業としているソフト屋)の一技術者として、もちろんそんなことは気づいていてもおくびにも出しませんでしたが(苦笑)。

 この自治体ごとに高額な開発費で納税システムを事実上オーダーメイドしていた時代ですが、今日的視点・技術でもって当時のIT業者の姿勢を責めるのは誤った見方であるのも事実です。

 当時は自治体側も他の自治体と違うサービスを競い合うような側面があり、その要求を満足させなければ入札に生き残れませんから、ユーザー側つまり自治体側にも責任のいくつかはあったのです、なおかつ、当たり前ですが当時の技術では「全国自治体ネットワークを構築」によるソフトウエアの一元管理は、実現性の面では夢の発想でもありました。

 現在は違います。

 自治クラウド構想も開発計画が現実化しています。

 多くのユーザーが自分独自の仕様をある程度我慢して共通のソフトウエアを共有し、システム開発費・管理費を大幅に圧縮する、これ実はまさに今のクラウドの発想であります。

 旧来のソフト屋は開発案件の大幅な縮小の危機に直面しています。

 上記記事にもありますが、クラウドの流れは、高い予算を掛けてオーダーメイドのシステム開発する時代の終焉を意味する側面が確かにあるとおもうからです。

 では、SI屋は将来がないのでしょうか、IT業界の下請け構造が崩壊するのは本当でしょうか。

 年数だけ26年と長くこの業界に技術屋として後半は零細経営者として関わり、現在も経営コンサルやITコンサルで数多くのクライアント企業の実態に触れている私の立場でいえば、そうは簡単な結論ではないと思っています。

 SI屋の将来は激動するでしょうが下請け構造がいきなり崩壊することはないでしょう。

 クラウドの時代に受託開発案件が減り続けるのは事実ですが、多くのユーザー企業では高いお金を掛けてオーダーメイドで作ったシステムが現役で稼働しています。

 運用費が節約できるからといって、長い年月を掛けて構築してきたオーダーメイドのシステム(その善し悪しはともかく自社の運用にフィットしている独自仕様がちりばめられてることでしょう)を、仕様は単純化するのに目をつむり、クラウドシステムに乗り換えるインセンティブ・動機付けが、日本企業には今だ十分には与えられていないと判断できるからです。(私がここで言うクラウドシステムとは社内クラウドのことではなく、多くのユーザー企業とソフトを共有するSaaS型を指しています、念のため)

 日本においては、当面、既存システムの拡張やメンテナンスの仕事は需要は途絶えないでしょうし、社内メーリングシステムやスケジュール管理などのグループウエアなどの分野で、クラウド化することに明らかにインセンティブのある業務からクラウド化されていく、基幹システムのクラウド化はある程度の年数を掛けて進行していくことになるでしょう。

 上記記事はこうまとめられています。

で、あるならば何をしなくてはいけないのか。個人レベルではひがさんのいうように、ハイブリッドを指向するのが良いと思います。アメリカではMBAだけどプログラマってのはゴロゴロいますから。

 うむ、私は今SI系でがんばっているであろう中堅企業・零細企業やそこで働く技術屋さんを励ます意味で次のアドバイスをしたいと思います。

 「ハイブリッドを指向する」のは技術者個人もそうですが、企業もSI屋(あるいはその下請け)として生き残ることを目指すならハイブリッドを指向するべきでしょう。

 例えば生産管理システムに特化した他社が持っていない技術力を備えた企業は生き残っていけるでしょう、そこには当面、受託開発形態の案件の十分な需要があるからです。

 また、システムのクラウド化は全分野で圧倒的なスピードで起こるとは、上記の日本のユーザー企業の現状から想定しづらいです。

 企業にしろ技術者個人にしろ、クラウド時代へと対応する時間はまだあると考えています。

 その決断は早いほうがいいことは言うまでもありませんが、IT業界の下請け構造がいきなり崩壊するような激変がすぐに起こることは考えづらいと言うのが私の予想です。

 現在、多くのIT企業が今、クラウド化の波を感じていて、成長分野である、アンドロイドなどのスマートフォンタブレット端末のアプリ開発に活路を見出そうとしています。

 今まではゲームアプリなどが主流だったこの分野にビジネスアプリの需要が見込まれるのは事実です。

 が、最新の技術分野での開発ノウハウを有することは重要ですが、それをお金に換えるマネタイズするコアなもの、それはある業界に特化したハイブリッドな知識でもいいと思います、芯になる技術力を持たなければアイディアだけでは弱いだろうと、個人的には考えています。



(木走まさみず)