原簿を破棄せよというおバカな命令を下したのは社会保険庁自身
5月26日付けの当ブログのエントリー。
■[社会]不明年金問題は社会保険庁による「人災」〜5000万件というとほうもない数の「名寄せ」の失敗を放置してきた社会保険庁
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070526/1180137911
私はシステム屋としていくつかの自治体の納税システムや年金システムを手がけてきましたので、その知りうる話としてこれは社会保険庁による「人災」じゃないのかと言い切りました。
ポイント部分を抜粋。
で、野党もメディアも政府の「申請主義」の原則を批判してますが、これですね、あまり報道されていないようなんで、私の知る範囲ではっきりお話しておきますが、社会保険庁や政府は認めてないようなんですが、実は深刻なことには「申請主義」以外対応は無理なんだから仕方ないんですね。
もっとはっきり言うと、全てとはいいませんが多くのデータが今となっては復元は不可能なんですよ。
つまりこういうことです。
10年前まで自治体が管理していた情報はデータ統合により、社会保険庁に移管され統合管理されましたよね。
ですからそのときに自治体によっては不要な過去の情報は破棄してしまっている可能性があるのです。
つまりいまさら政府が照合しようにも自治体によっては照合すべき当時の原簿がない可能性があるわけです。
で、今になって政府は裏で各自治体に原簿が管理されているかおおあわてで問い合わせているのですが、そんなものとうに破棄してしまっている自治体も多いのでしょうね。
私の関わった東京都下の自治体もきれいに破棄してしまっています。
原簿がないんだから一部データでは照合なんかできないわけで、政府としては「申請」を待つしか打つ手がないんですよ、早い話。
で、この内容が地味にですがネット上で話題になっているようでありますね。
みなさん、この件では情報に敏感なようですね。
ということで今日は「不明年金問題は社会保険庁による「人災」PARTⅡ」として、前回お話していない情報を開示いたしましょう。
●本当に中川秀直幹事長はなんと勇気のある政治家なんでしょう(苦笑。
今日(1日)未明、社会保険庁改革関連法案と年金時効撤廃特例法案は衆院本会議で、与党の賛成で可決され、参院に送付されました。
今国会で成立する見通しだそうです。
ずいぶん急いだもんですねえ、安倍さんも。
ところで報道によれば、
「5000万件を2010年までの社会保険庁の残務整理としてゼロにする。国の責任として行うことを原則としたい」
自民党の中川秀直幹事長は29日、5000万件の宙に浮いた年金記録の持ち主の確定作業を積極的に進める姿勢を強調したそうであります。
5000万件を2010年までに国の責任としてゼロにするなんて、絶対にできもしない不可能なことを堂々と宣言しちゃって、本当に中川秀直幹事長はなんと勇気のある政治家なんでしょう(苦笑。
そんなことできっこないのであります。
照合すべき原簿がもはやこの世にないんだもの(苦笑
前回私は10年前のデータ統合により、自治体によっては不要な過去の情報は破棄してしまっている可能性を指摘いたしました。
私の関わった東京都下の自治体もきれいに破棄してしまっている事実も示しました。
でですね、私はいくつかの自治体関係者に確認したんですが、この原簿破棄ですが、なんとデータ統合の97年じゃなくて、それよりもさらに12年前の85年に遡る時点で、原簿破棄命令が自治体に下っているのであります、実は。
誰が原簿破棄などというおばかな命令を自治体に出したのでしょうか?
●原簿を破棄せよというおバカな命令を下したのは社会保険庁自身
年金記録の原簿、いわゆる手書きの「年金台帳」の破棄を命じたのは、自治体関係者からの情報によれば、なんと信じられないことに社会保険庁なのであります。
社会保険庁は85年9月に課長名で都道府県の年金担当者に通知を出して、入力済みの原簿(手書き年金台帳)は全て破棄せよ、と命じていたのであります。
このおバカな指示を出した当時の社保庁長官は週刊新潮によれば正木馨氏(76)なのであります。
ちょっと今週発売の週刊新潮の記事の当該部分を抜粋。
当時、台帳の破棄を命じ、今日の年金不振の大きな原因を作ったバカ長官は、正木馨氏(76)。東大法学部を卒業し、厚生省に入省。薬務局長時代に、血友病の患者団体が「HIV感染の危険のない加熱製剤の早期供給」を要望したが、同省のエイズ研究班血液問題小委員会は非加熱製剤の輸入継続を認め、薬害エイズの拡大を招いたとの批判を受けた人物である。社保庁長官を退官した後は、社会保険診療報酬支払基金、医薬品副作用被害救済・研究振興基金、社会保険健康事業財団などでいずれも理事長を務め、華麗なる天下り人生を送っている。
週刊新潮6月7日号 52ページより抜粋
しかし、「年金不振の大きな原因を作ったバカ長官」だなんて、週刊新潮も過激ですねえ描写が(苦笑
・・・
つまりです。
自治体関係者から私が収拾した原簿破棄の情報を時系列に整理するとこういうことです。
60年代後半から全国の「年金台帳」は機械化(←古い言い方ですがお役所は好むんですよ、いわゆる電子化ですね)を計り、まず全ての台帳のマイクロフィルム化をしていきました。
ついで社保庁、各地社会保険事務所、各自治体は台帳管理のシステム化を順次行い80年代中くらいまでに大体達成していきます。
この段階で氏名や生年月日の入力ミスが続発するわけですね。
で、まだ漢字が扱えないシステムではカナ情報で管理したり大変だったようですが、一応は電子化が進んでいきます。
そして、後々墓穴を掘ってしまうわけですが、85年9月に課長名で都道府県の年金担当者に通知を出して、「入力済みの原簿(手書き年金台帳)は全て破棄せよ」というおバカな指示を出しちゃったんですね。
この時点で相当多数の自治体が原簿を破棄したでしょう。
で、時が流れて97年、データ統合により、すべての年金データを自治体から社会保険庁に移管するときに、5000万件を超える名寄せ失敗の「宙に浮いたデータ」を発生させてしまいます。
この段階で社会保険庁がことの重大さに気付き善後策をとっていたらまだ今日の悲惨な事態は避けることができたでしょう。
しかし社会保険庁はまったく対策を講じませんでしたので、この時点でまだ原簿を持っていた良心的な多くの自治体も、今となっては大切な原簿なのですが、破棄してしまった可能性が高いのです。
社会保険庁にもはや移管されたし、社会保険庁からは保管命令どころか85年にいち早く破棄命令が下っていたんだから、これは自治体には何も責任はないですよね。
そして、我等が社会保険庁は、5000万件を超える名寄せ失敗をその後10年放置してきたのであります。
・・・
5000万件を超える名寄せ失敗ですが、それでも原簿さえあれば時間が解決してくれましょう。
電算化された記録に不備や欠陥があったら、どんなに面倒であっても原本である手書きの台帳と突き合わせ、照合作業をすればよいのです。
しかし、読者のみなさん、上記のとおり、この貴重な原簿は、社会保険庁のおバカな原簿を破棄せよという命令もあって、少なからずの原簿がこの世にはもうないのであります。
・・・
これを「人災」といわないでなんと言えばいいのでしょう?
5000万件を国の責任としてゼロにするなんて中川秀直幹事長は啖呵きっちゃってますが、ゼロ件になんて永遠にできませんから(苦笑
くどいですが、原簿がないんだもの(苦笑
そして、原簿を破棄せよというおバカな命令を下したのは社会保険庁自身なのです。
マスメディアはどうして取り上げないのかな?
(木走まさみず)
<関連テキスト>
■[社会]不明年金問題は社会保険庁による「人災」〜5000万件というとほうもない数の「名寄せ」の失敗を放置してきた社会保険庁
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070526/1180137911
■[社会]原簿を完全にきれいに破棄した自治体数は284〜社保庁自体の民間では考えられない杜撰な体質
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070604/1180924449
■[社会]政府に代わって「宙に浮いた年金記録5000万件」不払い金額総額の試算をしてみる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070606/1181100250
■[社会]年金不明問題:「自爆」発言で労組も政府もだめだこりゃ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070608/1181276510
■[社会]社会保険庁とNTTデータとの「特別の事情」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070611/1181541308
■[社会]不明年金問題:問われるシステム開発主幹会社NTTデータの責任
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070615/1181876332