木走日記

場末の時事評論

「無料」携帯ゲーム業界の深刻な問題を積極的に報道できないマスメディア

 最近BLOGOSで話題になっている記事から2題。

消滅へのカウントダウンが始まったコンビニ
http://news.livedoor.com/article/detail/5219523/

なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか
http://news.livedoor.com/article/detail/5220271/

 前者は、コンビニ業界全体を死に至らしめるエゴ剥き出しの大手コンビニのやりかたを痛烈に批判しています。

現在の総店舗数は4万6千店超。毎年3千店舗以上が出店するが、閉店する店舗も50%を超える。チェーンストア協会の資料によれば、1平方米当たりの年間売上高は1997年以降10年で約4割も減少。それをカバーしたのが多店舗化であった。

 コンビニはフランチャイズ制なので本部は加盟店が増えさえすれば利益が上がる仕組みなので既存の加盟店の売り上げを減らし続けても大手コンビニ本部は過剰出店を止めません。

 オーナーの中には自殺者まで出ているにもかかわらず、この深刻な問題をマスメディアが積極的に取り上げようとはしません。

 後者は、多くのギャンブル依存症に支えられ、生活破綻者ややはり自殺者まで出ているパチンコ業界の暗部を、お隣の国韓国がパチンコ全廃に成功した事例を絡めて取り上げた本の書評であります。

 それに比べると、日本のそれは劇症度が低いかわりに慢性度が高く、問題は一段と深刻だと言える。法による規制が規制という名の保護になり、取り締まるはずの警察にとっては貴重な天下り先であり、マスメディアにとっては上客であり、そして今や漫画家やアニメーターにとっては欠かせないパトロンである。

 日本では警察利権も絡み自動車産業にも比肩する売り上げを持つこの巨大産業でありますが、この多くの深刻な問題を抱えるパチンコ業界の暗部を、やはりマスメディアが積極的に取り上げようとは決してしません。

 「セブン−イレブン」などのコンビニ大手や「京楽産業」などのパチンコ大手が、マスメディアの重要な広告主であり、TVスポットCMなどで上位を占めている上得意であることが、日本のマスメディアがこれらの問題をタブー視している主因であることは言うまでもありません。

 商業メディアがスポンサーに甘いのは万国共通の情けない問題ではありますが、特に日本のメディアがたちが悪いのは、日本のTVは事実上新聞社が支配している「クロスオーナーシップ」の悪弊のために、コンビニ業界の問題もパチンコ業界の問題も、TV局だけでなく親会社の大新聞も積極的には取り上げないというマスメディア全体がチキン(臆病)になってしまっている点です。

 欧米の先進国の多くでは、言論の多様性やメディアの相互チェックを確保するため、新聞社が放送局を系列化する「クロスオーナーシップ」を制限・禁止する制度や法律が設けられていますが、日本でも、総務省令(放送局に係る表現の自由享有基準)にクロスオーナーシップを制限する規定があるにはあるのですが、これは一つの地域でテレビ・ラジオ・新聞のすべてを独占的に保有するという「実際にはありえないケース」(岩崎貞明・メディア総合研究所事務局長)を禁止しているにすぎません。

その結果、読売新聞と日本テレビ朝日新聞テレビ朝日産経新聞とフジテレビ、毎日新聞とTBSといった新聞とテレビの系列化が進み、テレビが新聞の再販問題を一切報じないことなどに見られるようにメディア相互のチェック機能がまったく働かず、新聞もテレビも同じようなニュースを流すという弊害が生じているのです。

 そして最悪な現象として、決して報道できないタブーな業界も新聞もテレビもシンクロしてしまって共有することになるわけです。

 ・・・

 これから大きな社会問題となるであろう問題として「無料」携帯ゲーム業界があります。

 21日付けの産経新聞記事から。

携帯ゲームGREE「無料」CM取りやめ 消費者団体「アイテム有料で法抵触」申し入れで

2010.12.21 08:26

 一律に「無料」の音声が流れていた携帯電話向けゲームサイト「GREE(グリー)」のテレビCMについて、運営会社の「グリー」(東京都)が一部のCMで、「無料」音声を取りやめていたことが20日、分かった。GREEのCMをめぐっては「無料で利用できる範囲は限定されており、景品表示法に抵触する」として消費者団体「消費者支援機構関西」(大阪市)が10月、「無料」音声の停止を申し入れていた。
 CM総合研究所によると、10月までの1年間でGREEのCM回数(関東地域)は、全業種中最多の約2万4600回。一方、ライバルサイトの「モバゲータウン」も3位(約1万回)につけ、業界内のCM合戦が過熱している。
 グリーによると、全国的にテレビCMを変更したのは今月に入ってから。プレー開始時には利用料がかからないが、進めていくうちに有料の道具(アイテム)などが登場するゲームについて順次、「無料です」という音声をなくしている。それ以外のゲームのCMでは、これまで通り「無料」音声を流している。
 従来のCMでも「一部コンテンツは有料」という表示をしていることなどから、グリーは「違法性があったとは考えていない」(広報担当者)としながら、消費者に、より適切な理解を促す必要があると判断した。今回の変更については「社内検証の結果」で、消費者団体の指摘とは「関係ない」としている。
 急成長する携帯向けゲーム市場をめぐっては、GREEとモバゲーがシェアをほぼ二分する一方で、モバゲー運営会社の「ディー・エヌ・エー(DeNA)」が今月8日、ゲームソフト開発業者の「囲い込み」をした独占禁止法違反の疑いで、公正取引委員会の立ち入り検査を受けるなど、熾烈(しれつ)なシェア争いの弊害が問題視されている。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/101221/crm1012210829002-n1.htm

 「無料」とは名ばかりで、そのビジネスモデルの悪質さは明快であります。

 確かに会員になるのは無料ですが、無料会員のままでは有料のレアアイテム(貴重な道具)を購入できません。

 レアアイテムを入手すれば、例えばRPGゲームなら必殺の攻撃魔法の修得が本来の経験値を経ずに可能ですし、釣りゲームならレアな釣り竿を入手できれば超大物をつり上げることができる、つまりゲームを進めるにつれこれらのレアアイテムが欲しくなる巧妙な仕組みができています。

 アクションゲームの一部では序盤は無料でも難易度の高いステージは有料となるものもあります。

 結局、多くのユーザーは「無料」ゲームにカネを払うことになります。

 携帯ゲームにはまってしまった小学生や中学生が月額何万円もの請求を受け支払いに窮する例が続出しています。

 そもそも公正に考えてこのような仕組みのゲームを全面的に「無料」と広告することに問題はないのか、事態が深刻化する前にマスメディアが警鐘を鳴らすべき社会問題なのですが、マスメディアはこの携帯「無料」ゲームの問題でも沈黙を守っています。

 上記のような地味な事実報道に徹しています。

 コンビニ業界やパチンコ業界の暗部をタブー視するように、マスメディアはこの問題を積極的に取り上げることはできないのです。

 なぜか。

 テレビCM、特にスポット広告(番組の間に流される短いコマーシャル)の出稿が好調なのをモバイルゲーム各社のCMが支えているからです。

 電通が発表している月次単体売上高(前年同月比)の08年4月以降の推移をみると前半は低調な状況が続いており、特に08年11月から10年1月まで15カ月連続で前年同月を下回っていました。

 しかし、10年2月からは月次単体売上高の約50%を占めるテレビが前年同月比8.2%増となり、全体もプラスに転じました。

 10年3月のテレビは0.6%減と前年同月をやや下回ったものの、その後は4月が前年同月比4.4%増、5月が8.1%増、6月が9.6%増、7月が8.6%増と、コンスタントにプラスが続き、全体も回復傾向が続きます。

 テレビCMスポット広告が好調を取り戻したのは、実は大量の「無料」携帯ゲームの広告です

 下記のダイアモンド記事でも明らかなように、10年10月単月の関東地域でのテレビコマーシャル(CM)回数はGREEが約2800で1位、モバゲーが約2000で2位であり、600〜700回のセブン−イレブン(4位)、マクドナルド(6位)の3倍以上のCMが、洪水のように流れているのです。

公取立ち入り検査で露呈した無料ゲームの危うい収益構造
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)
http://diamond.jp/articles/-/10513

 「無料」ゲームで高利潤を生んでいる携帯ゲーム業界が大金を惜しみなく広告費に投入、新規会員をかき集めているのです、「無料」ゲームのTVスポットがTVから洪水のように流れているのです。

 これではマスメディアが自分たちの利益のために、新たな被害者を作ることに片棒を担いでいるようなものです。

 コンビニ業界の問題もパチンコ業界の問題もマスメディアは決して報道しないことと同じ構造があると言えます。

 「無料」携帯ゲーム業界の深刻な問題をマスメディアは積極的に報道できないのです。



(木走まさみず)