ある種の保守政策に不思議な実行力を示す民主党政権の体質
17日付け日経新聞記事から。
海江田経財相、税制改正「できるだけのことはやった」
2010/12/17 11:20海江田万里経済財政相は17日の閣議後記者会見で、法人税減税などを盛り込んだ2011年度税制改正大綱に関し「できるだけのことはやった。消費税に手が付けられない状況で、大きな目的であるデフレ克服のための経済の成長と雇用拡大、格差是正という大きな目的があったので、それに対してきちっとした手当てができた税制改正だった」との感想を述べた。
減税や歳出増には恒久財源を確保する「ペイアズユーゴー原則」が守られていない、との指摘がある点については「法人税の減税ということになると、景気の良しあしによって税収減にもかなりの幅がある。非常に厳格にというか、何十億円まで帳尻合わせをしなければいけないということにはならない」との見方を示した。〔日経QUICKニュース〕
うむ、「デフレ克服のための経済の成長と雇用拡大、格差是正という大きな目的があったので、それに対してきちっとした手当てができた税制改正だった」と満足感を示す海江田万里経済財政相なのであります。
この税制改正大綱の是非は色々と議論されるべきだと思いますが、私が個人的に注目したいのは理念無き政権が意外と実行力を示していることです、しかもある意味マニフェストとは真逆な方向で。
菅民主党政権が16日に決めた来年度の税制改正大綱ですが、一兆五千億の法人減税と、所得税や相続税などの5500億円の増税、この2つがその柱なのであります。
個人向けの増税では所得が比較的多い層の負担増が目立ちます、つまり税の役割としての「富の再分配」を意識した「大きな政府」指向、リベラル的政策といえましょう。
一方、その3倍規模の法人税減税を同時に行っています、こちらは税金・財政を縮小してでも民間部門の活力をより重視する典型的な「小さな政府」指向の政策であり、保守的・新自由主義的な発想であります。
「大きな政府」か「小さな政府」かどちらを目指すのか、民主党政権の税制改革の基本理念が問われるのですが、理念無き民主党は、「とりやすいところからとる」という場当たり的な発想でこのようなわかりづらい税制改正大綱になったと思われます。
わかりづらいことはわかりずらいですが、結果としては減税規模から法人税減税のほうがが目だつ保守的・新自由主義的な税制改正という印象を与えていると言えましょう。
そうなのです、ここで注目に値するのはこの12年ぶりの法人減税です、これは自民党政権が手も出せなかった重要な改正であります。
それを民主党政権は「怖い者知らずの子ども」のようにスパンと出してきたわけです。
結果論ですが自民党政権より保守政策にだけ不思議な実行力を示している民主党政権なのであります。
この傾向は税制改正大綱だけではありません。
17日付け朝日新聞記事から。
中国念頭、南西諸島の防衛力強化へ 新大綱を閣議決定
2010年12月17日12時25分
菅内閣は17日の閣議で、2011年度以降の10年間の防衛力のあり方を示す防衛計画の大綱(防衛大綱)を決定した。中国の軍事的台頭について「地域・国際社会の懸念事項」と指摘。中国の海洋進出を念頭に南西諸島の防衛力強化を打ち出した。冷戦時代に部隊を全国に均等配備する根拠としていた「基盤的防衛力構想」に代え、機動力や即応性を重視する「動的防衛力」を基本方針とした。民主党政権初の防衛大綱で、大綱改定は2004年以来6年ぶり。内閣は11年度から5年間の防衛装備の数量を示す中期防衛力整備計画(中期防)もあわせて閣議決定し、5年間の予算総額を23兆4900億円程度とした。10年度予算と比較した平均伸び率はプラス0.1%で、平均伸び率がマイナスだった前回中期防(05〜09年度)の抑制傾向を転換した。
(後略)
http://www.asahi.com/politics/update/1217/TKY201012170219.html
うむ、自民党政権時代の平均伸び率がマイナスだった前回中期防(05〜09年度)の抑制傾向を転換した民主党政権初の防衛計画大綱なのであります。
この防衛計画大綱ですが、保守産経も絶賛する内容が含まれている模様です。
18日付け産経社説はタイトルから新防衛大綱を評価しています。
【主張】新防衛大綱 日本版NSCを評価する
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101218/plc1012180306002-n1.htm
社説冒頭から。
民主党政権下で初の防衛力整備の基本方針となる「防衛計画の大綱」と、来年度から5年間の「中期防衛力整備計画」が閣議決定された。
改定作業の過程で起きた尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件は、急速な軍事力増強を背景として中国が力ずくで日本の領土主権を認めない姿勢を鮮明にした。
中国への懸念を打ち出し、沖縄県・南西諸島に沿岸監視隊を置くなど島嶼(とうしょ)防衛を明確に位置付けたのは当然だ。「日本版NSC(国家安全保障会議)」を念頭に、首相への助言を行う組織の設置を明記した点も評価できる。自民党政権でもできなかった、防衛省からの首相秘書官も登用した。
うむ、「「日本版NSC(国家安全保障会議)」を念頭に、首相への助言を行う組織の設置」を評価、さらに「自民党政権でもできなかった、防衛省からの首相秘書官も登用」であります。
法人税減税を12年ぶりに断行する税制改正大綱に続いて、防衛計画大綱においても、国家安全保障会議的組織の設置や防衛省からの首相秘書官登用という、自民党政権も実現できなかった重大な「保守的」改革が含まれているのであります。
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「税制改正大綱」と「防衛計画大綱」、日本の将来を決める重大な基本方針において、「保守的」な政策にスパンスパンと不思議な実行力を示している民主党政権なのであります。
「防衛省からの首相秘書官登用」など一部は自民党政権ですら踏み込めなかった「保守的」領域に躊躇無く踏み込んでいます。
この傾向はいったいいかなる理屈・理念から起こっているのか、これを考察することは重要だと思われます。
私見ですが、私はこの現象、つまり「ある種の保守政策にだけ不思議な実行力を示す民主党政権」は民主党政権の持つ危険な本性であると思います。
民主党内にはリベラルから保守まで様々な議員がおります、社民党に近い「大きな政府」重視派から自民党に近い「小さな政府」重視派までごちゃまぜで存在しているわけです。
税制改革の基本理念ひとつとっても党としての政権としてのまとまりがない。
党内で「熟議」もできずましてや党内の意思統一ができないから野党相手に国会で論戦ができない、必然的に国会軽視となり、今回の法人税の減税率「5%」決定もそうですが、最終的に菅首相が「政治主導」とは真逆の「官僚主導」の政策を「独裁」的に決定することになります、スパンスパンとです。
官僚案の内容を深く政権内でチェックしたり煮詰めたりできていませんから、自民党政権時代に手も出せなかったような「保守的政策」もその中に混ざっているのです。
自民党政権時代は今の民主党政権よりも曲がりなりに国会で野党と議論していました。
そこでは野党・民主党が自民党の保守的な政策には強力に反対していましたので、自民党が保守的な政策を採用することのストッパーに国会がなっていました。
理念無き民主党政権が「官僚主導」の保守的政策を「恐れ知らず」に提出しても、それに反対する野党民主党がいないわけです。
結果として民主党政権は「保守的」な政策にスパンスパンと不思議な実行力を示すのです。
私は今回の「防衛計画大綱」の内容を評価する者の一人ですが、それとは別にこの民主党政権のある種の保守政策に不思議な実行力を示す体質に恐ろしさを感じています。
彼らは自ら唱える「政治主導」とは裏腹に、「官僚主導」の政策を恐れを知らずに採用します。
そして自ら唱える「熟議」とは裏腹に、党内でも国会でも議論をできていません。
民主党政権には政策チェッカーが不在なのです。
(木走まさみず)