木走日記

場末の時事評論

コンビニオーナーらの記者会見の場所が外国特派員協会である理由〜チキンな日本のマスメディアはこの問題を絶対報道できない

 コンビニチェーンの本部と「フランチャイズ契約」を結んでコンビニを経営するオーナーらが7月30日、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見を開き、その「労働環境」の厳しさを訴えたそうです。

 会見の内容はBLOGOSが報じています。

BLOGOS編集部2014年08月18日 11:02
「労働条件はアルバイトのほうがいい」コンビニ店主たちが訴える過酷な「労働環境」
http://blogos.com/article/92642/

 この訴えに対しコメント欄では厳しい意見が多いようです、加盟店のオーナーは、立派な起業家であり経営者であるわけで、契約内容をしっかり確認して契約すべき、自己責任でしょ、というわけです。

 それはそうなのですが、この問題、メディア分析をテーマとしている当ブログとしては、違う切り口で考察したいのであります。

 自殺者まで出ているこの社会問題、すなわちコンビニチェーンオーナーを酷使しつつ、一人売上利益を伸ばし続けているコンビニチェーン本部のアコギな経営戦略について、今回は取り上げたいです。

 ・・・



セブンイレブン創業以来の売上と店舗数の推移を押さえる〜眉唾だった加盟店との共存共栄

 会見したオーナーもセブンイレブンフランチャイズのようですから、業界トップのセブンイレブンで、ホームページの公開資料に基づき、創業以来の売上と店舗数の推移を押さえておきましょう。

 昭和49年創業時の7店舗から平成25年には1万6319店舗と、まさに右肩上がりで店舗数を増やしているわけです。

■図1:店舗数推移(国内)

http://www.sej.co.jp/company/suii.html

 総売上高も昭和49年創業時の15億円から平成25年には3兆7812億円とこちらも右肩上がりであります。

■図2:チェーン全店売上高推移(国内)
http://www.sej.co.jp/company/suii.html

 規模拡大路線が功を奏しセブンイレブン本部はここ数年過去最高益を連続更新中であります。

 参考までに日経記事をご紹介。

東証セブン&アイ3%高 3〜5月最高益、「駅ナカ攻勢」報道も
2014/7/4 9:41日本経済新聞 電子版
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL040IY_U4A700C1000000/

 さて、ここまではあくまで「本部」視点で見たセブンイレブンの躍進ぶりであります。

 店舗側の視点で売上推移を検証致しましょう。

 セブンイレブンの公開資料に基づき1店舗当たり売上高推移を計算してみました。

■表1:セブンイレブン売上推移と1店舗当たり売上高推移(国内)

年度 総売り上げ 総店舗数 店舗当たり売上高
昭和49年度 7 15 0.466666667
昭和50年度 48 69 0.695652174
昭和51年度 174 199 0.874371859
昭和52年度 398 375 1.061333333
昭和53年度 725 591 1.226734349
昭和54年度 1098 801 1.370786517
昭和55年度 1536 1040 1.476923077
昭和56年度 2021 1306 1.547473201
昭和57年度 2565 1643 1.561168594
昭和58年度 3190 2001 1.594202899
昭和59年度 3867 2299 1.682035668
昭和60年度 4536 2651 1.711052433
昭和61年度 5219 2964 1.760796221
昭和62年度 5991 3304 1.813256659
昭和63年度 6863 3653 1.878729811
平成元年度 7803 3954 1.973444613
平成2年度 9319 4270 2.182435597
平成3年度 10818 4629 2.337005833
平成4年度 11949 5058 2.362396204
平成5年度 12819 5475 2.341369863
平成6年度 13923 5905 2.357832345
平成7年度 14771 6373 2.317746744
平成8年度 16090 6875 2.340363636
平成9年度 17409 7314 2.380229696
平成10年度 18481 7732 2.390196586
平成11年度 19639 8153 2.408806574
平成12年度 20466 8602 2.379214136
平成13年度 21140 9060 2.333333333
平成14年度 22132 9690 2.284004128
平成15年度 23431 10303 2.274191983
平成16年度 24408 10826 2.254572326
平成17年度 24987 11310 2.20928382
平成18年度 25335 11735 2.158926289
平成19年度 25743 12034 2.139188965
平成20年度 27625 12298 2.246300211
平成21年度 27849 12753 2.183721477
平成22年度 29476 13232 2.227629988
平成23年 32805 14005 2.342377722
平成24年 35084 15072 2.327760085
平成25年度 37812 16319 2.317053741

■図3:1店舗当たり売上推移

 大変興味深いグラフです。

 セブンイレブンフランチャイズオーナーとの「共存共栄」を謳い文句に店舗拡大路線を邁進しているのですが、1店舗あたりの売上高が順調に伸びていたのは平成3年までです。

 平成4年以降は2億3千万前後で1店舗当たりの売上高は20年以上停滞しています。

 つまり儲けているのは本部だけ、店舗側は店舗数拡大路線によりコンビニが乱立し過酷な生存競争の中にいることが数字で理解できます。

 ノンフィクション作家の加藤鉱氏は、「コンビニ本部だけが肥り、加盟店を細らせるのみの過剰出店は、既存の加盟店の売り上げを減らし続け、廃業に追い込む結果を招くものでしかない」と批判しています。

【眉唾だった加盟店との共存共栄】

しかし、市場が臨界点に達すると、加盟店が抱える不満のマグマが噴出してきた。

これは明らかにコンビニ本部側に非がある。2000年に成長が限界を迎え、1店舗当たりの売り上げが下落に転じていったにもかかわらず、コンビニ本部は加盟店との契約関係を改善せず、しかも多店舗化戦略を変更しようとはしなかった。それどころか自らの利益を確保するために多店舗化に拍車をかける始末であった。
ここに加盟店に示してきた「共存共栄」の関係が眉唾であったことを露呈してしまったわけである。

現在の総店舗数は4万6千店超。毎年3千店舗以上が出店するが、閉店する店舗も50%を超える。チェーンストア協会の資料によれば、1平方米当たりの年間売上高は1997年以降10年で約4割も減少。それをカバーしたのが多店舗化であった。

これはFCビジネスはオーナーのなり手さえ確保できれば旨味が大きいことを証明したようなものではないか。コンビニ本部だけが肥り、加盟店を細らせるのみの過剰出店は、既存の加盟店の売り上げを減らし続け、廃業に追い込む結果を招くものでしかない。

だが、こうしたエゴ剥き出しのやりかたはやがてコンビニ本部をも蝕み、コンビニ業界全体を死に至らしめるはずである。えげつないなと思うのは、最近、大手コンビニを傘下にもつ小売業が、小型スーパーの出店攻勢をかけていることだ。見にいくと、系列コンビニとかなりの商品が重複しており、完全に競合状態にある。

価格決定権をFC本部に握られているコンビニ加盟店と低価格を売り物にする小型スーパーが隣接していたら、結果は明白だ。せっかく加盟店が生鮮を扱ったり、申し訳程度ではあるものの店内調理を始めたりして、懸命に生き残りを図るのを嘲笑うかのような蛮行と言わざるを得ない。

コンビニを傘下に置く小売業は加盟店をそこまで苦しめてどうするのか。すでにコンビニ消滅へのカウントダウンが始まっているのかもしれない。

消滅へのカウントダウンが始まったコンビニ より抜粋引用
http://blogos.com/article/10798/

 ・・・

  

●今回の会見も、新聞やTVなどのマスメディアは絶対に報道されない〜この国のマスメディアが報じることができないタブーのひとつだから

 さて、今回の会見が東京・有楽町の外国特派員協会で行われたことは実に象徴的であります。

 日本のジャーナリズムには悪名高い日本記者クラブがあるわけです。

日本記者クラブ
http://www.jnpc.or.jp/

 そこには日本のほとんど全ての新聞社とTV局が加盟しています。

日本記者クラブ 会員社リスト

■新聞社

朝日新聞社
毎日新聞社
読売新聞社
日本経済新聞社
産経新聞
ジャパンタイムズ
報知新聞社
日刊工業新聞社
日刊スポーツ新聞社
日本工業新聞社
スポーツニッポン新聞社
東京スポーツ新聞社
電波新聞社
日本海事新聞社
水産経済新聞社
日本農業新聞
北海道新聞
東奥日報社
陸奥新報
デーリー東北新聞社
岩手日報社
河北新報社
秋田魁新報社
山形新聞社
福島民報社
福島民友新聞社
茨城新聞社
下野新聞社
上毛新聞社
埼玉新聞社
神奈川新聞社
千葉日報社
山梨日日新聞社
静岡新聞社
信濃毎日新聞社
長野日報社
中日新聞社
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新潟日報社
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北國新聞社
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京都新聞社
熊野新聞社
神戸新聞社
奈良新聞
山陽新聞社
中国新聞
山陰中央新報
島根日日新聞社
徳島新聞
四国新聞
愛媛新聞社
高知新聞社
西日本新聞社
佐賀新聞社
長崎新聞社
熊本日日新聞社
大分合同新聞社
宮崎日日新聞社
南日本新聞
沖縄タイムス
琉球新報社
日本新聞協会
日本プレスセンター

■放送など

日本放送協会
TBSテレビ
文化放送
日本テレビ放送網
ニッポン放送
テレビ朝日
フジテレビジョン
テレビ東京
エフエム東京
J−WAVE
東京メトロポリタンテレビジョン
ジェイ・スポーツ
WOWOW
BS日本
ビーエスフジ
BSジャパン
毎日放送
朝日放送
大阪放送
読売テレビ放送
関西テレビ放送
テレビ大阪
北海道放送
札幌テレビ放送
北海道テレビ放送
北海道文化放送
東日本放送
テレビ神奈川
静岡放送
静岡朝日テレビ
北陸放送
中部日本放送
東海テレビ放送
名古屋テレビ放送
中京テレビ放送
テレビ愛知
日本海テレビジョン
テレビせとうち
中国放送
広島テレビ放送
広島ホームテレビ
テレビ新広島
高知放送 RKB毎日放送
九州朝日放送
テレビ西日本
福岡放送
TVQ九州放送
テレビ熊本
熊本朝日放送
大分放送
CNN
テレビ朝日映像
日経映像
NHKエンタープライズ
NHKグローバルメディアサービス
日経CNBC
日本BS放送
日本民間放送連盟

http://www.jnpc.or.jp/outline/membersystem/clubmemberlist/

 今回の会見もこの国のマスメディアは完全に無視です、「コンビニ ニュース」をキーワードで検索してもBLOGOSのエントリー以外はまったくこの会見は取り上げられていません。

 ニュースバリューがないからでしょうか?

 報道価値がないからだけではないのです。

 コンビニエンスストアーのフランチャイズ制度の社会問題は、この国のマスメディアが報じることができないタブーのひとつだからです。

(前略)

 「セブン−イレブン」などのコンビニ大手や「京楽産業」などのパチンコ大手が、マスメディアの重要な広告主であり、TVスポットCMなどで上位を占めている上得意であることが、日本のマスメディアがこれらの問題をタブー視している主因であることは言うまでもありません。

 商業メディアがスポンサーに甘いのは万国共通の情けない問題ではありますが、特に日本のメディアがたちが悪いのは、日本のTVは事実上新聞社が支配している「クロスオーナーシップ」の悪弊のために、コンビニ業界の問題もパチンコ業界の問題も、TV局だけでなく親会社の大新聞も積極的には取り上げないというマスメディア全体がチキン(臆病)になってしまっている点です。

 欧米の先進国の多くでは、言論の多様性やメディアの相互チェックを確保するため、新聞社が放送局を系列化する「クロスオーナーシップ」を制限・禁止する制度や法律が設けられていますが、日本でも、総務省令(放送局に係る表現の自由享有基準)にクロスオーナーシップを制限する規定があるにはあるのですが、これは一つの地域でテレビ・ラジオ・新聞のすべてを独占的に保有するという「実際にはありえないケース」(岩崎貞明・メディア総合研究所事務局長)を禁止しているにすぎません。

その結果、読売新聞と日本テレビ朝日新聞テレビ朝日産経新聞とフジテレビ、毎日新聞とTBSといった新聞とテレビの系列化が進み、テレビが新聞の再販問題を一切報じないことなどに見られるようにメディア相互のチェック機能がまったく働かず、新聞もテレビも同じようなニュースを流すという弊害が生じているのです。

 そして最悪な現象として、決して報道できないタブーな業界も新聞もテレビもシンクロしてしまって共有することになるわけです。

(後略)

2010-12-21 「無料」携帯ゲーム業界の問題を報道できないマスメディア より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20101221

 ・・・

 まとめます。

 今回の会見も、新聞やTVなどのマスメディアは絶対に報道されないでしょう。

 マスメディアの重要な広告主であるコンビニの問題点は、絶対報道できないのです。

 BLOGOSの報道はその点、大変評価されて良いと考えます。

 ネットは第二の公共圏とも言えます。

 ネットの普及により、チキンな日本のマスメディアに頼ることなく、タブーなく議論することが可能な言論空間が用意されていることは幸いです。



(木走まさみず)