木走日記

場末の時事評論

コンプガチャ問題〜表層的報道だけで問題の本質には沈黙するマスメディア

 当ブログでは2回に渡ってコンプガチャ問題を取り上げてきました。

■2012-05-14 コンプガチャ問題で浮上するRMT業界と中国ゴールドファーミングの関係
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120514
■2012-05-12 泥沼のような勝算無き懸賞ゲームコンプガチャを科学する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120512

 そうしたところBLOGOSのコメント欄などで「いまさら感」が強いとのご意見もいただきました。

オンラインゲームやソーシャルゲームに接点のある人や
これらの諸問題を積極的に追っている人間からすれば、
何を今更というぐらい、特に目新しい内容ではありませんが
知らない人には適切な解説だと思います。

 そうなんですよね、この「無料」ゲームにおける「有償」アイテムの問題は何年も前から深刻な問題としてユーザーからは問題提起されていたんですが、世間一般はこれを事実上無視してきたいきさつがあります。

 今回は一応業界側のコンプガチャ自主規制という落としどころになりましたが、この問題、ここまで社会が放置してきたひとつの要因として、私はマスメディアの沈黙を挙げておきたいです。

 当ブログとして一年半前から、この問題に対するマスメディアのチキン(臆病)ぶりを批判してきました。

■2010-12-21「無料」携帯ゲーム業界の深刻な問題を積極的に報道できないマスメディア
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20101221

 現在グリーやディーエヌエーなど携帯ゲーム業者はTVの最大のスポンサーであります。

 昨年11月度における関東民放5放送局(いわゆるキー局)のテレビCMオンラインランキングによれば、商品別オンエアランキングなどを見ると、携帯コンテンツ関連会社の躍進が目立っています。

■表1:商品別オンエアランキング(2011年11月関東民放キー5放送局)

順位 企業名 商品 放送回数 日本テレビ TBSテレビ フジテレビ テレビ朝日 テレビ東京
1 グリー グリー 3004 565 411 527 1071 430
2 ソフトバンクモバイル 企業CM 1315 332 177 436 191 179
3 ディー・エヌ・エー モバゲー 1128 282 167 80 374 225
4 エヌ・ティ・ティ・ドコモ ドコモ スマートフォン 1023 136 194 236 291 166
5 興和 アノンプラスコーワ 809 81 281 225 189 33
6 チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー ・リミテッド 自動車保険 675 0 0 0 675 0
7 ハウス食品 ウコンの力 640 140 84 239 49 128
8 サントリー ザ・プレミアム・モルツ 558 128 99 123 82 126
9 ダイハツ工業 ミライース 553 164 115 101 67 106
10 スズキ自動車 低燃費ならスズキのエコカー 540 124 100 132 66 118

■図1:商品別オンエアランキング(2011年11月関東民放キー5放送局)

データソース
2011年11月度CMランキング
http://www.zeta-bridge.com/cmdata/ranking/201111cm_ranking.pdf

 上位4社は、グリー、ソフトバンクモバイルディー・エヌ・エーエヌ・ティ・ティ・ドコモと、携帯ゲーム会社と携帯電話会社で独占されています。

 民放TV番組でもここ一週間、コンプガチャ問題などが盛んに取り上げられてはいますが、ゲーム会社のビジネスモデルの本質を深く分析する報道は皆無なわけですが、それもそのはずコンプガチャ問題を取り上げた番組の直後のスポットで、グリーのガチャゲーム「探検ドリランド」の「新TOKIOカードでイノキングを倒せ」などとガチャゲームCMがバンバン流れている(苦笑)わけです。

 TVのワイドショーがこの問題で最大スポンサーの顔色をうかがって深く突っ込むことができないのはある意味で当然なのです。
 コンプガチャで何万、何十万とお金を浪費してしまったユーザーを「無料」ゲームに誘っていたのが他ならぬTVメディアなんですもの、しかも携帯ゲームのCM自体は今現在も進行中なのです。
 
 でね、ここから日本のマスメディアのクロスオーナーシップという悪弊の弊害がもろに出ましてね、系列TVの大スポンサー企業である携帯ゲーム会社の問題で、系列大新聞も表層的な報道しかできなくなり、本質的なゲームビジネスの問題点を分析するような記事をいっさい書かないという、実に奇妙な現象がこの国のメディアでは発生するのであります。

 論より証拠、今現在(5月15日)、これほどの社会問題になっているコンプガチャ問題を朝日新聞、読売新聞、毎日新聞産経新聞の大新聞4社は一回も社説に取り上げません、沈黙を守っているわけです。

 日本の5大マスメディアグループの売上構成を図表で確認してきましょう。

■表2:日本のメディアグループのTV/新聞売上実績

グループ TV売上高 新聞売上高
日テレ/読売新聞 2978億9400万 4553億4900万
TBS/毎日新聞 3427億5400万 2483億6100万
フジ/産経新聞 5896億7100万 1334億1900万
TV朝日/朝日新聞 2353億9800万 4665億3400万
TV東京/日経新聞 1073億2700万 3035億7400万

■図2:日本のメディアグループのTV/新聞売上実績

 ご覧いただければよくわかりますが、売上総計では日テレ・読売グループが7500億でトップ、続いてフジ・産経が続いているわけですが、注目いただきたいのは、TVと新聞の広告収入の割合です。

 各メディアグループの売上におけるTVの比率を百分率で示します。

■図3:日本のメディアグループのTV/新聞売上比率

 売上におけるTVの比率は、日テレ/読売39.5%、TBS/毎日58.0%、フジ/産経81.5%、TV朝日/朝日33.5%、TV東京/日経26.1%となっており、売上ベースでは読売、朝日、日経が新聞主導、毎日、産経がTV主導でこれがそのまま各グループの主導権をTVと新聞どちらが握っているかを示しているといっていいでしょう。

 フジ産経グループなどTVの売上比率が81.5%ですので、産経新聞コンプガチャ問題を扱えないのはクロスオーナーシップのもとでは実に忠実(苦笑)な現象だといえましょう。
 この分析あながち穿ちすぎではないことに、全新聞社説が沈黙する中で、実は売上におけるTV比率の最も少ないTV東京/日経グループ(26.1%)の日経新聞だけが14日付けで社説に取り上げているのです。

ゲーム市場の健全な発展を
http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE6E3E1E5E2E2EBE2E3E6E2E7E0E2E3E08297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8D8D8D8D

 内容は何とも無難で自主規制したゲーム業界を評価しつつエールを送っています。

 当局が動く前に、企業自らが早めに手を打つのが望ましくはあるが、遅ればせながらも中止を決めたのは評価したい。目先の利益を優先し、社会問題を放置すれば、産業全体が前に進めなくなることを関係者は銘記してほしい。

 その上で業界は警察と連携して不正行為を排除しろというのがこの社説の結論です。

 ゲーム業界は警察などとも連携し、不正や賭博に類した行為の排除に全力をあげるべきだ。

 他の沈黙する大新聞に比較すれば社説で取り上げるだけまだ日経はマシともいえますが、問題が発生したら警察に頼んで規制しろとは安直で表層的ないかにも硬直した発想で賛同できません。

 こんな上辺だけの規制や対応では、パチンコ業界と同様で警察利権天下り規制団体が誕生して利権の温床を作るだけで、犯罪体質は温存され被害者は取り残されるだけです、業界は萎縮し「ゲーム市場の健全な発展」という社説タイトルとは真逆な結果を見るだけでしょう。

 マスメディアは表面的な報道ではなく、ゲーム業界の現状を正しく分析し真正面からこれを国民に問題点も含めて報道すべきです。

 しかし日本のマスメディアはこの問題で表層的報道に終始し問題の本質には沈黙をし続けることでしょう。



(木走まさみず)