木走日記

場末の時事評論

稼働させればさせるほど、再処理すればするほど最終処分費用は膨らむ〜核燃料サイクル技術等検討小委員会レポート徹底検証

 16日、政府の原子力委員会の小委員会が政策の選択肢と評価をまとめました。

 原子力発電による使用済み核燃料の最終処理方法の政策の選択肢と評価(費用)をまとめたものです。

 大変興味深い内容なのですが、なぜかマスメディアで詳細の報道がほとんどなされていません。

 今回はこの評価レポートについて検証いたします。

 原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会の今回の資料はここで公開されています。

原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会(第15回)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo15/index.htm

 で主な資料はこちらです。

資料第1−1号
ステップ3の評価:2030年まで(原子力比率?のケース)(改訂版)(PDF:0.98 MB)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo15/siryo1-1.pdf
資料第1−2号
ステップ3の評価:2030年まで(原子力比率?のケース)(改訂版)(PDF:0.99 MB)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo15/siryo1-2.pdf
資料第1−3号
ステップ3の評価:2030年まで(原子力比率?のケース)(改訂版)(PDF:1.93 MB)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo15/siryo1-3.pdf
資料第1−4号
ステップ3の評価:2030年まで(原子力比率?のケース)(改訂版)(PDF:1.03 MB)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo15/siryo1-4.pdf
資料第1−5号
使用済燃料の返送リスクについて(改訂版)(PDF:1.77 MB)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo15/siryo1-5.pdf
資料第2号
核燃料サイクル政策の「留保」の評価(案)(PDF:190 KB)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo15/siryo2.pdf
資料第3−1号
核燃料サイクル政策の政策選択肢の評価について:まとめ(案)(改訂版)(PDF:468 KB)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo15/siryo3-1.pdf
資料第3−2号
代表シナリオの評価を踏まえた政策選択肢の総合評価(案)(改訂版)(PDF:280 KB)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo15/siryo3-2.pdf

 うむ、本題とはちがいますが、各PDFファイルを読み終えて一言苦言を申してよいでしょうか。

 さすがお役所作成レポートです、大変まとまりが悪いです、そして読み難く、数値を整理し直すのに大変でした。

 これほど読みづらいレポートも久しぶりでした、メディアが報道しないのもこれが理由かしらん(苦笑)。

 まあ読みづらく数値が複数ファイルに分散しているのも無理からぬものがあります、評価する前提やシナリオが複雑に多岐に枝分かれしているわけです。

 まず今後の原子力発電のあり方ですが2030年に総電力の中で原発の占める割合により、1(35%)、2(20%)、3(15%)、4(0%)と4つのケースを想定しています。

原子力比率1
総需要: 約1兆kWh
原子力比率: 35%
設備利用率: 約80%
(1兆kWh×35%)/(365日×24時間×80%)=約50GW
原子力比率2
総需要: 約1兆kWh
原子力比率: 20%
設備利用率: 約80%
(1兆kWh×20%)/(365日×24時間×80%)=約30GW
原子力比率3
総需要: 約1兆kWh
原子力比率: 15%
設備利用率: 約80%
(1兆kWh×15%)/(365日×24時間×80%)=約20GW
原子力比率4
総需要: 約1兆kWh
原子力比率: 0%

 少し解説しますと、ケース1ですが、30年に35%ということは震災前が33%くらいでしたから、これは福島第一の4基や30年までに廃炉になる老朽炉を考えると新規増設を前提とした原発推進策といっていいでしょう。
 ケース2とケース3は新規増設はせず耐用年数の来た炉から廃炉し徐々に原発比率を下げていくことを前提にしています。
 廃炉のペースが異なるだけです。
 で、ケース4ですが30年までに全炉停止を前提にしています。
 余談になりますが、このケース分け自体、3ケースまでが事実上原発維持、脱原発シナリオがケース4だけだという点で、私は不満があります(資料によればケース4は20までに原発を暫時停止していく前提です、即全面停止などの他のシナリオはありません)が、その議論は横に置いておきます。

 で、上記4つのケースでそれぞれ使用済み核燃料の最終処理の評価を行っているのですが、その処分の仕方でそれぞれ3つのシナリオが用意されています。

シナリオ1(全量再処理)
シナリオ2(再処理/処分併存)
シナリオ3(全量直接処分)

 シナリオ1では各原発でプールされている使用済み核燃料を全て六ヶ所村の再処理工場で再処理をしMOX燃料などで再利用するというシナリオです。
 シナリオ2では再処理をすべてではなく半分位にとどめてあとは直接最終処分するというシナリオです。
 シナリオ3は核燃料サイクルを放棄して全部直接最終処分するというシナリオです。

 シナリオ1ですが、もしケース1ですと六ヶ所村再処理工場の年間の処理能力を使用済み核燃料の年間発生量が越えてしまい、ありえないんですが、それは置いといて、ここまでで4ケース×3シナリオと12通りの枝分かれになります(実際にはケース4つまり原発稼動ゼロにおいては核燃サイクルも停止しますからシナリオ3だけですので、10通りとなっています)

 ケースとシナリオを表でまとめておきます。

 で、この10通りの想定でそれぞれ経済性(1)と経済性(2)の二つの費用を算出・評価しています。

■経済性(1)の評価方法
使用済燃料を再処理し、最終処分するとともに、再処理施設の
廃止措置等に必要な費用から、2011年以前に支出した費用、
六ヶ所再処理工場の初期建設費の減価償却費を引いた総額を算出
■経済性(2)の評価方法
使用済燃料を再処理し、最終処分するとともに、再処理施設の廃止措置等に必要な
費用のうち、2010年から2030年までの間に積立ておくべき費用を算出

 説明にあるとおり(1)は最終処分総費用、(2)は(1)の中でこれから30年までに確保すべき費用となります。
 それぞれの資料から数値を洗い出しまとめてみました。

 まず経済性(1)を表でまとめます。

 続いて経済性(2)。

 いかがでしょうか、いずれのケースでも原発比率を下げれば下げるほど、また核燃料の再処理に依存しなければしないほど、使用済み核燃料の最終処理費用は低く抑えられることが評価されています。

 経済性(1)でも経済性(2)においても、原発をゼロ基にして核燃料サイクルをまわさない(再処理をしない)4−3が最も最終処理費用が抑えられると算出されています。

 これから新たに使用済み核燃料を生成する量が一番少ないのですからまあ当然といえば当然なのですね。 

 この費用算出の計算結果の信頼性など当然議論はあるでしょうが、このレポートの意味するところは歴然です。

 原発を稼働させればさせるほど、また使用済み燃料を再処理すればするほど最終処分費用は膨らむという事実です。

 このエントリーが読者のみなさんの参考になれば幸いです。



(木走まさみず)