木走日記

場末の時事評論

コンプガチャ問題で浮上するRMT業界と中国ゴールドファーミングの関係

 『ドラゴンクエスト』シリーズのゴールド、『ファイナルファンタジー』シリーズのギル、『モンスターハンター』などカプコンのゲーム内で幅広く使用されているゼニーなど、ゲームの世界の通貨は、モンスターを倒したりミッションをクリアするともらえ、武器やアイテムを購入するのに使用します。

 オンラインではなくゲームがスタンドアロンの時代には、これらの通貨は自分のゲーム機やPCの中だけのバーチャルな「資産」であり、ゲームの世界だけで使えるものだったわけです。

 このバーチャルマネーがリアルエコノミーにリンクし出したのは、ゲームがインターネットを通じてオンラインで結ばれ、複数のプレイヤーが参加可能となってからです。

 スタンドアロンゲームとは違いオンラインゲームではプレイヤーがたくさんいるために、連携して戦う、アイテムを物々交換する、など他のプレイヤーとコミュニケーションできることが最大の魅力な訳です。

 しかし、これが同時に時間のないプレイヤーが経験値や所持金が伸び悩み、よい武器やアイテムを他の人のように装備できない、といった他者との比較において劣等感を持つようになり、ゲーム上のバーチャルな通貨やアイテムを現実のマネーで売買するという市場が生まれました。

 インターネット上で、リアル・マネー・トレーディング、RMT業者の誕生です。

RMT(リアル・マネー・トレーディング)

リアルマネートレーディング(Real Money Trading、以下RMT)とは、オンラインゲーム上のキャラクター、アイテム、ゲーム内仮想通貨等を、現実の通貨で売買する経済行為を指す。擬似的な経済システムが成立するMMORPGMORPG、レアアイテムをプレイヤー間で取引できるソーシャルゲームなどで定着しているが、大半のオンラインゲームではRMT利用規約違反に該当する。[1]。
一部ではリアルマネートレード(Real Money Trade)と表記される場合もあるが、英文法上問題なく、同義である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0

 バーチャル世界で生まれたこのリアルエコノミーは、現実社会の経済発展と同じように、ただし段違いに速いスピードで発展してまいります。

 90年代に個人のオンライン売買を可能にした米ベンチャー企業イーベイの登場などではずみがつきました。

 日本国内にもRMT業者はたくさんあります(RMTで検索すれば何十社とヒットすることでしょう)。

 原則として彼らのビジネスは売主からはゲーム通貨やレアアイテムをその人気度(の相場)で現金で買取ります。

 またアイテムなどをほしい買主に対しては仕入れ値にマージンをのせて売るわけです。

 少々こっけいなのはアイテムの受け渡しの方法でして、日時を決めてゲーム内のある場所(例えばXXX村の東の入り口)で待ち合わせてRMT業者(の操るゲーム内人物)を待つことになります。

 いくつかのRMT業者ではトラブル回避を兼ねてポイント制を導入しています。

 売主はアイテムの相場に相当するポイントを業者からもらい、買主は同額のポイントを業者に払います。

 売買はすべてポイントで行われ、詐欺行為(例えば買主がお金を払ったのに売主が待ち合わせ場所に来ないなど)の抑制をしています。

 このポイントは大抵1ポイント1円で購入、換金ができます。

 この場合はRMT業者はポイントを売買するときにマージンを得ます。

 ここまでは表面上の解説です。

 問題なのは、レアアイテムなどの需要と供給のアンバランスにあります。

 手放す人よりほしい人の数が圧倒的多数の場合、そこにビジネスの商機が生まれます。

 外国人ブローカーなどを通じて不正入手したアイテムなどが日本の国内のRMT業者にも流通していると言われています。

 アイテム入手の手段としては、アカウント窃盗を目的としたコンピュータウィルスを用いて他人のアイテムや通貨を盗む方法やBot(ロボットの略称)と呼ばれるAIプレイヤーを大量に使用して経験値や通貨を稼ぐ方法、ゴールドファーミングと呼ばれる労働単価の安い人間を動員してゲームプレイさせ続け、人海戦術で経験値や通貨を稼ぐ方法があります。

 これらの手段で入手したアイテム等が国内のRMT市場に外国人ブローカーを通じて流通しているのです。

 中国を中心に、特定ゲームのスペシャリストを大勢雇用して組織的にバーチャル通貨を稼ぐゴールドファーミング企業が急成長しています。

 ゴールドファーミング企業の労働条件は,欧米先進国から見ると搾取的ですが,現地の工場労働者にくらべれば悪くないのです。

 経済発展の原動力になるとの期待もあり,地方政府がゴールドファーミング企業を支援していることも多いのです。

 例えばの事例ですが、昨年の英ガーディアン誌の以下の記事は、中国の強制労働収容所で、ネットゲームのアイテムを収集して換金する「ゴールドファーミング」が行われていたと伝えています。

China used prisoners in lucrative internet gaming work

Labour camp detainees endure hard labour by day, online 'gold farming' by night
guardian.co.uk, Wednesday 25 May 2011 19.49 BST
http://www.guardian.co.uk/world/2011/may/25/china-prisoners-internet-gaming-scam

 ガーディアン誌の記事によれば、中国の強制労働収容所は収容者にオンラインゲームをプレイさせ、看守が仮想アイテムを現金と交換していたと元収容者の話として報じています。

 同紙の取材に応えた元収容者は、汚職について政府に陳情したために、2004年から3年間、黒竜江省の収容所に入れられたところ、収容所では300人の収容者が12時間シフトでゲームをプレイさせられ、1日に5000〜6000元(470〜570ポンド)の収益があったと話しています。

 古い記事でリンクが切れていますが、3億円余りの収益を中国に送金していたブローカーの中国人が逮捕されたこともあります。

留学生装いネット事業 容疑の中国人逮捕

 留学資格のまま会社を経営し、利益を得ていたとして、富士署と県警外国人犯罪対策課は20日、入管難民法違反(資格外活動)の疑いで中国国籍富士市厚原、会社役員(24)を逮捕した。容疑者は中国企業の日本ブローカーとして、オンラインゲーム上の仮想通貨などを現実世界で売買する「RMT」を繰り返し、これまでに得た3億円余りの収益を中国に送金していたとみて、同署などは送金先などを追及する。
 調べでは、容疑者は留学の在留資格を取得して来日したにもかかわらず、法務大臣の許可を得ないで、今年3月19日から10月12日までの間、同市厚原のRMT会社の代表取締役として事業を行っていた疑い。
 日本国内の数10社の業者に仮想通貨などを販売し、数千万円の取引を行っていたという。容疑者は昨年4月ごろから、RMTを繰り返し、収益を得ていたとみられている。

http://www.shizushin.com/local_social/20061120000000000065.htm

 個人で短期間に3億の収益とはブローカーのボロ儲け振りがわかります。

 多くのゲーム会社が利用規約でRMTを禁止しています。

 従ってRMTという業態そのものが、画像や各種データを無断使用しているという点で不正行為にあたり、また運営企業の売上に影響を与える点を考慮すると信用毀損罪・業務妨害罪や著作権法に抵当し、逮捕等の刑事罰や損害賠償の請求に至る可能性があると、言われています。

 私はRMTの本当の問題は、150億とも言われるその国内市場(実態はそれ以上と言われていますが確固たる資料はまったくなく、詳細は判りません)を通じて、日本の円がブローカーを通じで海外に大量に持ち出されていることだと考えます。

 またそのヤミの商流に日本の反社会組織が一枚かんでいるとも言われています。

 なんでも規制強化すればよいわけではありませんが、日本のオンラインゲーム利用者のお金がRMT業者を通じて不正に中国などに流出している現実は直視すべきだと思われます。



(木走まさみず)