木走日記

場末の時事評論

落日のフジテレビに象徴されるこの国のテレビメディアの腐敗〜「放送外収入」を増やすという私利私欲行為の宣伝に電波が安価に利用されているという事実


 さてもう四年も前のことです、「フジは韓流偏向報道やめろ!」とネットが大炎上、お台場でも、フジ主催の屋外イベント「お台場合衆国2011」に大勢の人々がデモ行進したのでありました。
 
 当時のスポーツニッポン記事から。

「フジは韓流偏向報道やめろ!」台場で4000人がデモ

 フジテレビが韓流ブームに偏向していると抗議しようと、インターネット上で呼びかけあって集まった約4000人が21日、東京・台場でデモ行進を行った。台場ではフジ主催の屋外イベント「お台場合衆国2011」が開催中。家族連れでにぎわった会場は、100人以上の警察官が警備にあたった。列は日の丸を掲げ、フジ社屋前で「偏向報道をやめろ!」「日本を返せ!」などと絶叫。代表者が抗議文を局側に渡そうとする際、警備員ともみ合いになる場面もあった。

 小学4年の長女を連れてきていた春日部市の主婦(44)は「子供は怖がるし、身の危険も感じた。せっかく楽しみにしてきたのに残念」と話した。
[ 2011年8月22日 06:00 ]

http://www.sponichi.co.jp/society/news/2011/08/22/kiji/K20110822001460780.html

 興味深いことに、テレビでもTBS系ワイドショー番組など一部を例外としてこのお台場デモの報道は全くされていませんでしたし、大新聞でも、朝日、読売、毎日、産経、日経の5大紙は一切沈黙し、スポニチのようにせいぜい系列スポーツ紙の社会面での小記事扱いなのでありました。

 しかしこのデモがきっかけとなり、ネットでは単にフジテレビの「韓流ブーム偏向」批判に留まることなく、この国のマスメディアの抱える本質的病理であるクロスオーナーシップの悪弊や電波利権の独占状態にまで批判の矛先は伸びていきました。

 当時のネット報道などを見ますとこのデモでは右翼の街宣車や一部組織の宣伝活動に利用されてしまった負の側面があったようですが、日本のテレビ局に始めてこの規模でデモが発生した事実は、当時当ブログは重く受け止とめていました。

 そしてこれらのフジテレビ批判を通じて、ネット上で実に多くの人々が日本のマスメディアのゆがんだ構造に気付いていきました。
 
 フジテレビの凋落はすであの頃からその兆しが見えていました。

・・・

 さて今期、創業以来初となりました、そのフジテレビが赤字転落であります。
 
 フジテレビの単体業績は、売上高が前年同期比6.6%減の1466億円、営業益は10億円の赤字(前年同期は40億円の黒字)に終わりました。
 
 視聴率の低迷から、放送収入は計画を約90億円下回りました。
 
 番組制作費を含む経費削減を進めましたたが、バレボール・ワールドカップ放送の不発や、「お台場夢大陸」(7〜8月に開催された本社屋周辺の夏祭りイベント)のコスト負担増加もあり、大幅な減収減益となったわけです。

 フジテレビOBの長谷川豊氏はそれでも大丈夫と指摘しています。

 失礼して当該部分を抜粋してご紹介。

フジテレビはテレビ事業をしていることは確かですが、フジはそもそも「フジメディアホールディングス」というメディア事業を中心とするホールディングスでしかありません。今回の決算、メディアホールディングスとしては、実は黒字なのです。不動産事業が実に好調だからです。
私はフリーになって何人ものエコノミストの方と飲んだり取材させていただいたりしましたが、彼らが揃って口をそろえるのが…
「10年後、20年後、最も経営の安定しているテレビ局は?」
という話題です。
日テレだと思いますか?
いやいや、好調のテレ朝?
違いますね。エコノミストたちは全員同じで、「TBSがダントツで優秀」と答えます。もし知り合いの方にエコノミストの方がいたら聞いてみてください。絶対にそう答えますから。答えは簡単。TBSが持っている赤坂中心の不動産業が、超、絶好調だからです。

フジテレビが開局以来の営業赤字になった、というニュースに対して思うことを2点 
http://blogos.com/article/143476/

 そうですね、ご指摘の通りTBSはじめテレビ局はどこも、本業以外で利益を貪っています、「放送外収入」ってやつです。
 
 「電波利権を有した不動産業」、実はこれは極めて不公平な無敵産業なのであります。
 
クロスオーナーシップがなぜ生まれてしまったのか〜ライバルのいない独占「事業」TV放送に群がる魑魅魍魎達(読売、毎日、産経、出遅れた朝日、日経)

 欧米の先進国の多くでは、言論の多様性やメディアの相互チェックを確保するために、新聞社と放送局が系列化する「クロスオーナーシップ」を制限・禁止する制度や法律が設けられていますが、日本ではこれが抑制できませんでした。

 その結果、読売新聞と日本テレビ朝日新聞テレビ朝日産経新聞とフジテレビ、毎日新聞とTBSといった新聞とテレビ・ラジオの系列化が進み、テレビが新聞の再販問題を一切報じないことなどに見られるようにメディア相互のチェック機能がまったく働かず、新聞もテレビも同じようなニュースを流し、ある事象には今回のように同じように沈黙するという弊害が生じているのです。

 なぜ日本ではクロスオーナーシップの悪弊がはびこってしまったのか、それはTV放送の創生期にまで遡ると見えてくるのです。

 日本最初の民放である日本テレビ放送網が本放送を開始するのは、昭和28年(1953年)8月、今から60年前のことであります。

 この新しいメディアであるテレビにもっとも執心していたのが当時の読売新聞社社長である正力松太郎であり、当時の正力は読売新聞社長という枠を越えてたいへん精力的に活動しています、TV放送にもいち早く法整備の段階から参画し日本初の民放である日本テレビの初代社長にも本放送開始前の昭和27年(1952年)就任しています。

 TVに限らず電波は有限であり限られた公共財でありますから、民間放送枠も限られています、したがってTV放送は多くの国々で国による認可制(免許制)を取っているのですが、日本で最初の民間免許を取得したのが読売新聞グループだったわけです。

 あわてた他の新聞社が読売に追随してTV放送免許を取得していきます。

 2011年7月に地デジ化されましたが、それまでの東京キー局のチャンネルの順番がそのまま、免許取得の順番を時系列で表しています、4チャン(日テレ・読売新聞G)、6チャン(TBS・毎日新聞G)、8チャン(フジ・産経新聞G)、10チャン(NET(後のTV朝日)・朝日新聞G)、最後に12チャン(東京12チャンネル(後のTV東京)・日経新聞G)と相次いでクロスオーナーの系列が完成していきます。

 当時発行部数日本一だった朝日新聞が後に読売新聞に抜かれるわけですが、このTV放送進出に読売に大きく後れを取ったことも敗因のひとつに上げてよろしいでしょう。

 さてテレビ局は民間会社とはいえ、限られた電波を独占しているわけですから、営利追求に走ることなく、当然ながら公共の利益をしっかり守ることが第一に求められています。

 放送法第四条にも明確に放送番組の編集に縛りを与えています。

第四条  放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一  公安及び善良な風俗を害しないこと。
二  政治的に公平であること。
三  報道は事実をまげないですること。
四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
<データソース>
放送法(昭和二十五年五月二日法律第百三十二号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO132.html

 TV局の電波使用料はその「公共性」をかんがみきわめて安く抑えられてきたのです。

 これにより彼らは「例えば、日本テレビが支払う電波利用料は年間わずか3億7600万円なのに対して、売上高はその738倍の2777億円。TBS、テレビ朝日、フジテレビなど他のキー局も電波を格安で仕入れ、その数百倍の収益をあげている。まさに「濡れ手で粟」の商売」(週間ポスト10年11月2日記事)という、独占事業をいいことに荒稼ぎをしてきたのです。

テレビ局の「電波使用料」は売上高のわずか0.14%しかない
2010.11.02 10:00

本誌は総務省への情報公開請求によって、テレビ局が「公共の電波」を独占することでどれだけ荒稼ぎしているかを示す資料を入手した。
テレビ局は国(総務省)から電波の割り当て(放送免許)を受け、毎年、電波利用料を支払っている。下表はNHKや民放各社が国に支払っている「電波利用料」と売り上げを比較したものだ。
例えば、日本テレビが支払う電波利用料は年間わずか3億7600万円なのに対して、売上高はその738倍の2777億円。TBS、テレビ朝日、フジテレビなど他のキー局も電波を格安で仕入れ、その数百倍の収益をあげている。まさに「濡れ手で粟」の商売である。
NHK
電波利用料(A):14億8700万円
事業収入(B):6644億円
Bに占めるAの割合:0.22%
日本テレビ
電波利用料(A):3億7600万円
事業収入(B):2777億円
Bに占めるAの割合:0.14%
テレビ朝日
電波利用料(A):3億7000万円
事業収入(B):2209億円
Bに占めるAの割合:0.17%
【TBS】
電波利用料(A):3億8500万円
事業収入(B):2727億円
Bに占めるAの割合:0.14%
テレビ東京
電波利用料(A):3億6000万円
事業収入(B):1075億円
Bに占めるAの割合:0.33%
【フジテレビ】
電波利用料(A):3億5400万円
事業収入(B):1717億円
Bに占めるAの割合:0.21%
【その他、地方局計】
電波利用料(A):9億1251万円
事業収入(B):1兆2525億円
Bに占めるAの割合:0.07%
【全国128局計】
電波利用料(A):42億4641万円
事業収入(B):2兆9676億円
Bに占めるAの割合:0.14%
週刊ポスト2010年11月12日号
http://www.news-postseven.com/archives/20101102_4829.html

 この記事によれば、全国のテレビ局の総計でわずか42億4641万円しか電波使用料を払っていません、それに対して彼らの売り上げは2兆9676億円にも登っているわけです。

 この42億という数字、これがいかに安価なのか、例えば平成19年度におけるこの国の電波利用料収入は653.2億円ですが、なんとそのうち80%は我々国民が使用する携帯電話会社が負担しています、携帯電話会社が負担これすなわち通話代金を通じて私たち国民が負担しているわけです。

 この国のマスメディアは、テレビ局の電波使用料の値上げ案に関しては「公共の電波」を理由に反対し、都合よく自分達の「報道の自由」を前面に押し出し「国民の知る権利を守るため」といいつつ、実際に新規参入が認められないその独占市場である電波を安く使って「殿様商売」をしてきたわけです。

 このTV局の電波利権の問題は、クロスオーナシップの弊害によりラジオ局も大新聞も誰も報道できないこの国のマスメディアのタブーとなっていったのであります。

 暴利をむさぼった結果どうなったか、在京キー局の社員平均年収は国民平均年収の3倍となる異常な状況になっているのです。

■テレビ局社員平均年収(2011年1月時点)(※単位:万円)

局名 年収
フジ 1457
TBS 1357
日テレ 1262
TV朝日 1213
TV東京 1050

<データソース>
テレビ局の年収をグラフ化してみる(2011年1月版)
http://blog.livedoor.jp/booq/archives/1379335.html

 ・・・



■ネットの台頭にもがくマスメディアのあがき

 しかし今、バブル崩壊とインターネットの台頭により、テレビ局の“安過ぎる電波利用料”を背景とした濡れ手でアワの商売にもすっかり陰りが見えてきています。

 ここに2月23日にプレスリリースされた広告代理店のレポートがあります、そこのデータから、新聞・テレビ・ラジオ・の4大メディアとインターネットにおける広告費の推移を表にしてみました。

■媒体別広告費の推移(2002年〜2010年)(※単位:億円)

媒体 2002年 2010年 増減率
総広告費 57,032 58,427 △2.45%
新聞 10,707 6,396 ▼40.26%
雑誌 4,051 2,733 ▼32.54%
ラジオ 1,837 1,299 ▼29.29%
テレビ 19,351 17,321 ▼10.49%
インターネット 845 7,747 △916.80%

<データソース>
平成23年2月23日
2010年の日本の広告費は5兆8,427億円、前年比1.3%減
― テレビは微増、インターネット・衛星メディア関連は大幅増 ―
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2011/pdf/2011019-0223.pdf

 21世紀に入り、02年から10年までの総広告費は5兆7,032億から5兆8,427億と2.45%微増していますが、4大メディアはすべて激減していることがわかります、新聞など40.26%も減じています、その中でテレビも10.49%と1割以上も広告収入を落としているわけです。

 変わって台頭してきたのがインターネットであり現在ではすでに広告費では新聞を抜いていることがわかります。

 インターネットの台頭により、TVや新聞の広告収入が急減するこの現象は、なにも日本だけでなく世界中のメディアで起こっている現象ですが、日本の場合、上述した異常に高い給与を維持するために、TV局は手段を選ばず「放送外収入」に傾斜していきます。

(前略)

例えば、テレビ通販だけで、日本テレビ108億円、TBS96億円、テレビ朝日85億円、フジテレビ82億円を売り上げる。キー局各局は連結で2000億円以上の総売り上げを誇るとはいえ、これは小さくない金額である。
不動産事業の稼ぎ頭はTBSで163億円。日テレも、汐留・麹町のテナント料収入が72億円にのぼる。
土地を提供して名前を貸すだけでカネが転がり込む「ドル箱商売」(ローカル局幹部)である住宅展示場などのハウジング事業は主に地方局が展開しているが、キー局で手掛ける日テレの関連子会社の売り上げは26億円である。
他にも、文化事業と銘打って、各局が競って開く美術展も儲かる。ヒット作「大哺乳類展」「ゴッホ展」などを主催したTBSに転がり込んだ催事事業収入は32億円だ。
もっとラクに儲けるなら、社屋敷地内で催すテーマパークのイベントが最適だ。フジテレビの「お台場合衆国2010」は、来場者数と入場料から計算すれば、53億円を売り上げたことになる(※数字はすべて平成22年度のもの)。
「民間企業なのだからどんな商売をしても勝手だろう」とはいわせない。どの事業も、公共の電波に「タダ乗り」する形で宣伝され、集客が図られているからである。
出資映画や主催イベントの告知が自局の番組で繰り返し放送される。また自局番組のDVD発売を知らせる番組内宣伝や、社屋や自前の住宅展示場からの中継など、電波がテレビ局によって“私的流用”されている実態は目に余る。繰り返しになるが、その電波はほとんどタダで彼らが使い放題なのだ。
テレビ通販に至っては、朝から深夜まで絶え間なく放送され、最近では情報番組内にわざわざコーナーを新設してまで、視聴者を誘導する。

(後略)
週刊ポスト2011年8月19・26日号
http://www.news-postseven.com/archives/20110811_28066.html

 ・・・



■「放送外収入」を増やすという私利私欲行為の宣伝に電波が安価に利用されているという事実

 貴重な公共財である「電波」を独占しているTV局が、本来の使命を忘れて、不動産業、通販業、テーマパーク、あげくは子会社を通じて芸能事務所や音楽出版業にまで進出しているのです。

 ここで一番の問題は、彼らの身分を保身するために「放送外収入」を増やすという私利私欲行為の宣伝に、貴重な電波がしかも安価に利用されているという事実です。

 5年前のフジテレビ「韓流押し」もそうですが、その底流にはメディアとしての公共性ある使命を放棄して、手段を選ばず私利私欲に走るその体質があるのであります。

 TV局自身の既得権益が侵害されるような自己批判報道をTV局に求めても仕方が無いのですが、ならばラジオや大新聞がそれを監視すればよいのですが、この国のマスメディアはどれも同じ穴の狢(むじな)であり、誰もフジテレビを批判することはできないのです。

 ・・・

 TV放送事業が赤字でもビクともしないその体質は、一般企業ならば賞賛に値しますでしょうが、国(総務省)から電波の割り当て(放送免許)を受け、ライバルもいない体制で守られている放送事業者としては決して褒められたことではありません。

 「放送外収入」を増やすという私利私欲行為の宣伝に電波が安価に悪用されているという事実は、麻薬のようなものです。

 彼らはその法的「不当性」には目をつぶり、電波利権の悪用に躍起なのです。

 落日のフジテレビに象徴されるこの国のテレビメディアの腐敗は、実は根は深刻です。



(木走まさみず)


<関連テキスト>
2011-08-03 ネット上のフジテレビ批判をマスメディアがまったく報道できない理由
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20110803/1312360869